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 ここの空気はいつもどこか違う。優しく見守られているような。厳しく監視されているような。そんな二律背反な空気が入り混じる。
私は教会のステンドグラスから溢れる光を浴びるように見上げていた。


「結婚式はこの教会でする?」

「え?」

「リル、ここ好きでしょ?いつもこのステンドグラス見てるし。」

「そうかな?つい見ちゃうんだよね。なんだかいつも不思議な存在を感じられるの。」



「ありがとうございます。あのステンドグラスは大昔に神殿にあったものを巡礼者達がここまで移送したそうです。」

神官長がゆっくりとした足取りでこちらに向かってきた。


「ご機嫌よう、神官長様。」


 我が国を含めたこの大陸は、創世の神アランティウスを祀った教会が信仰の中心となっている。教会の総本山がある、ティリウス聖王国にはアランティウスの涙が落ちたという場所が存在し、聖水が湧き出ているという。
その神聖な場所に入ることが出来るのは神の使徒たる聖女か聖人のみ。
100年ほど前に聖人が亡くなって以来、まだ次の使徒は見つかっていない。



「あのステンドグラスは不思議な絵でございましょう?」

確かに何か具体的に描かれた絵というよりは、色とりどりの光が飛び交うような抽象的なものだった。


「あれは、神が眷属を生み出した様が描かれているそうです。」

「眷属とは?」

「天使、精霊、妖精、そして魔。」

私とウィルが同時に息を呑む。


「秘密ですぞ。なぜだか、あなた方には話すべきだと思ったのでございます。」
ふふっと笑って神官長は奥の部屋へと消えていった。




「お姉さん!」
元気なアリアがこちらに向かって走ってきた。

「こんにちは、アリア。元気だった?」

「はい!」
元気いっぱいの可愛らしい少女は、今はこの教会で薬師見習いとして働いている。
アリアももうすっかり自立したレディだ。


「薬草茶を作ったんです。ぜひ飲んでいってください!」


この教会にはリングドン家と共に定期的に魔法薬を寄付してきた。
孤児達にも教育と職業の斡旋を行っている。アリアは薬師になりたいとリングドン家の専属薬師に弟子入りした。勤勉で優秀なアリアは、このままあっという間に薬師になれそうだ。ぜひ我が商会にスカウトしたい。


「そう言えば、ライは?」

「はい、お兄ちゃんも騎士団で頑張ってますよ。夢を叶えられそうだってこの前報告に来ました。」

驚く事に、ライはアルト家の騎士団に入った。

本来、専属の騎士団を持つことが許されるのは、辺境の領地を持つ領主のみだった。
しかし、アルト商会は大陸随一の大商会になったことで、他国との交渉に安全性を考慮しなければならなくなった。
その為、特別にアルト家は騎士団の保有を認められたのだ。


「そっか、ライも頑張っているのね。次に会えるのを楽しみにしているわね。」


「リル、納品終わったよ。そろそろ帰ろうか。」

「ええ、そうね。また来るわね、アリア。」

私はアリアにお別れの挨拶をすると、ウィルと共に部屋を出る。
すると直ぐに、ウィルが私の腰を引き寄せ、アリアに向かって振り向いた。


「ライに私のものだからって伝えておいてね、アリア。」

「はい、伝えます。どうなるかは分かりませんが。」

にっこり微笑み合う2人を不思議に思いながらも、私はウィルに押されて出口へと歩いて行った。





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