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*ウィルフレイ視点 12

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「父上、お疲れ様でした。」

 父は予定より少し遅くにルード卿を連れて帰宅した。到着が深夜になったため、今の邸の中は静まり返っている。

「ああ、遅くなった。報告は明日聞くから、お前ももう休みなさい。」

「父上、残念ですが多分....」


「あなた!」
やっぱりな。
深夜のエントランスホールに母の声が響き渡る。
母は父を引きずるように自室へと連れ去っていった。




 早朝の執務室には、ぐったりとソファにもたれた父がいた。

「おはようございます、父上。大丈夫ですか?」

「ああ。おはよう、ウィル。」

侍従が父の前に真っ黒なコーヒーを置いた。

「ウィル、婚約の件は本気なんだな?」

「はい、父上。」

「はあ、アルト子爵が応じてくれるかが問題だな。彼女はアルト家にとって秘宝だ。」

「大丈夫ですよ、父上。彼女を近くで守る存在が必要なことは子爵も分かっているはずですから。」

「はあ、純粋なお嬢さんの相手がお前とは。」
父上、さっきから溜息が多いです。

「早めに手続きを進めてくださいね。」

「彼女の意思を確認してからだ。」
父上も往生際が悪い。結果は同じなのに。



「父上、マリード家の処分は決まりましたか?」

「ああ。ルード卿との話し合いが終わり次第、処分を伝えに行く。」

「いえ、それは僕が今から行きます。」

「なぜだ?」

「父上、母上がこれ以上待てると思いますか?話し合いが終われば突撃してきますよ。」
父が遠い目で窓の外を見ている。自分の妻ぐらいちゃんと抑えてほしい。

「分かった。今から命令書を書く。」
執務机に戻る父の背中は、どことなく小さく見えた。本当に大丈夫だろうか。





「ウィルフレイ様。」
数日ぶりに会うケイルは少しやつれて見えた。体格の良い体を丸めるようにして椅子に座っている。

「ケイル、父上からの処分を伝えに来た。」

「子爵は?」

「父上はここには来ない。」

ケイルは更に肩を落として黙り込む。

「ウィルフレイ様!どうか娘だけでもお側に置いていただけませんか?器量も頭も良い子です。きっとお役に立てるはずです。」
夫人はリリーを抱き寄せて縋るように僕を見る。
この人はまだ諦めてないのか。

「夫人、いい加減にして下さい。それは絶対にあり得ません。」


「ケイル・マリード!本来ならば、横領分を全額返済後、領地から追放となるが、今までの献身を考慮し、他の薬草園の下級使用人としてやり直すことを命じる。」

ケイルが顔を上げて、驚愕の表情でこちらを見ている。

「もう、父を裏切らないでくれ。」

「はい。」
噛み締めるように頷いたケイルはもう大丈夫だろう。

「下級使用人なんて。そんなのイヤ。ウィルフレイ様、私、お嬢様とも仲良くしますから。だから...」
絶望的な表情を浮かべて、リリーが僕に手を伸ばす。

「向こうでも頑張ってね。」

僕は3人に背を向けてドアへ向かった。 


ルード卿との話し合いが終われば、母がすぐに僕達の婚約に向けて動き出すだろう。
1番の難関はアルト子爵だ。でも今の子爵に僕は拒めないはず。

ああ、楽しみだな。

帰りは護衛を無視して最速で帰宅した。








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