上 下
78 / 308

2-52

しおりを挟む
「ウィルフレイ様も皆さんも騙されないで下さい!あの悪魔のような薬草を見たでしょ?この薬草園にまたあの薬草が生えてきたらどうするんですか?ここがめちゃくちゃになっちゃうんですよ!」
怒りに震えたリリーさんが私を睨みつけながら叫んだ。今までの庇護欲を誘う可愛らしさはどこかにいってしまったようだ。

「そうだ!この女は今すぐ追い出すべきなんだ。貴族だろうと関係ない。私はここを守る義務があるんだ。」


「いい加減に...」
今にも腰の剣を抜いてしまいそうなウィルの腕を抑えて、私はマリード所長とリリーさんに向かい合った。

「お二人とも色々誤解されています。確かにあの薬草は私が魔法で育てたものですが...」

「ほら、やっぱり!ウィルフレイ様も聞きましたよね?」
私を押し退けてリリーさんがウィルに近付く。

「きゃっ!」
リリーさんに押された拍子に、私は地面に倒れかける。すると、私の周りに風が舞った。
気付くと私の下には急に成長した草花がクッションのようになってくれていた。


「いじめたー。僕たちの大切な子をいじめた。」

「許せないね。」

「許せない!やり返しちゃう?」

「追い出しちゃおうか?」

「いいねー。ここは僕たちが嫌いなヤツはいらない。」

「いらないねー。」

私の周りに無数の妖精が飛んでいる。
ここにいる人達が驚愕の目で妖精達を見ていた。
私の目の前にいるリリーさんと所長は、妖精達の無邪気な狂気にあてられて顔を青くしていた。

「待って!私は大丈夫だから。」

私は立ち上がると、皆んなが見える位置に移動する。

「見ていて下さいね。」
掌に種を置き、育成魔法を発動する。
手の中の種はみるみるうちに成長し、白い大輪の花を咲かせた。

「わあー、可愛い子が咲いたね。」

「きれー。」

「今の魔法好き。」

「もう一回やって!」

「やってー。もっと見たい。」

所長とリリーさんに迫っていた妖精達が一斉に私の下へと飛んできた。



「光の愛子様」
誰かがぽつりと呟いた声が私の耳に届く。

「これで分かったでしょう?リルは妖精に愛されているんだよ。確かに光の愛子だね。今のリルの姿にぴったりだ。」

ウィルの言葉に私は自分の姿を確認する。
私の周りに妖精達が集まっているおかげで、白銀の髪は光輝きながら舞い、私自身が淡い光を放っているようだった。

「リル、天使みたいだよ。すごく可愛い。」

「ふふ、本当?」
恥ずかしいけど、嬉しい。

私は所長に向かって花を掲げた。

「私は、主席宮廷魔法士ルイセント・グランディスの弟子です。この育成魔法で回復薬に使う薬草を育てました。回復薬は新しく生み出された薬です。これから多くの人の命を救うでしょう。あなたもこの薬草園を担う一人なら邪魔をしないで。」
私の怒りが籠った眼差しに所長は黙ったまま下を向いてしまった。

「ウィルフレイ様!どうしてですか?私達ずっと一緒に育ってきたのに。これからだって一緒でしょう?私はずっと貴方のために頑張ってきたんですよ!」
リリーさんがウィルに駆け寄って抱きついた。泣きながら訴えるリリーさんの姿は、傍から見れば必死に愛を乞う恋人のように見える。
2人が寄り添う姿に私の胸が針で刺されたように痛んだ。
そんな私とウィルの目が合う。目を見開いたウィルはリリーさんを引き離すとすぐに私を抱きしめた。

「リル、もうバカだな。そんな顔しないで。」
私は人の目も気にせず、ウィルに抱きついた。








しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

旦那様は大変忙しいお方なのです

あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。 しかし、その当人が結婚式に現れません。 侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」 呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。 相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。 我慢の限界が――来ました。 そちらがその気ならこちらにも考えがあります。 さあ。腕が鳴りますよ! ※視点がころころ変わります。 ※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

前世持ち公爵令嬢のワクワク領地改革! 私、イイ事思いついちゃったぁ~!

Akila
ファンタジー
旧題:前世持ち貧乏公爵令嬢のワクワク領地改革!私、イイ事思いついちゃったぁ〜! 【第2章スタート】【第1章完結約30万字】 王都から馬車で約10日かかる、東北の超田舎街「ロンテーヌ公爵領」。 主人公の公爵令嬢ジェシカ(14歳)は両親の死をきっかけに『異なる世界の記憶』が頭に流れ込む。 それは、54歳主婦の記憶だった。 その前世?の記憶を頼りに、自分の生活をより便利にするため、みんなを巻き込んであーでもないこーでもないと思いつきを次々と形にしていく。はずが。。。 異なる世界の記憶=前世の知識はどこまで通じるのか?知識チート?なのか、はたまたただの雑学なのか。 領地改革とちょっとラブと、友情と、涙と。。。『脱☆貧乏』をスローガンに奮闘する貧乏公爵令嬢のお話です。             1章「ロンテーヌ兄妹」 妹のジェシカが前世あるある知識チートをして領地経営に奮闘します! 2章「魔法使いとストッカー」 ジェシカは貴族学校へ。癖のある?仲間と学校生活を満喫します。乞うご期待。←イマココ  恐らく長編作になるかと思いますが、最後までよろしくお願いします。  <<おいおい、何番煎じだよ!ってごもっとも。しかし、暖かく見守って下さると嬉しいです。>>

〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です

hanakuro
恋愛
物語の始まりは、ガイアール帝国の皇太子と隣国カラマノ王国の王女との結婚式が行われためでたい日。 夫婦となった皇太子マリオンと皇太子妃エルメが初夜を迎えた時、エルメは前世を思い出す。 自著小説『悪役皇太子妃はただ皇太子の愛が欲しかっただけ・・』の悪役皇太子妃エルメに転生していることに気付く。何とか初夜から逃げ出し、混乱する頭を整理するエルメ。 すると皇太子の愛をいずれ現れる癒やしの乙女に奪われた自分が乙女に嫌がらせをして、それを知った皇太子に離婚され、追放されるというバッドエンドが待ち受けていることに気付く。 訪れる自分の未来を悟ったエルメの中にある想いが芽生える。 円満離婚して、示談金いっぱい貰って、市井でのんびり悠々自適に暮らそうと・・ しかし、エルメの思惑とは違い皇太子からは溺愛され、やがて現れた癒やしの乙女からは・・・ はたしてエルメは円満離婚して、のんびりハッピースローライフを送ることができるのか!?

突然決められた婚約者は人気者だそうです。押し付けられたに違いないので断ってもらおうと思います。

橘ハルシ
恋愛
 ごくごく普通の伯爵令嬢リーディアに、突然、降って湧いた婚約話。相手は、騎士団長の叔父の部下。侍女に聞くと、どうやら社交界で超人気の男性らしい。こんな釣り合わない相手、絶対に叔父が権力を使って、無理強いしたに違いない!  リーディアは相手に遠慮なく断ってくれるよう頼みに騎士団へ乗り込むが、両親も叔父も相手のことを教えてくれなかったため、全く知らない相手を一人で探す羽目になる。  怪しい変装をして、騎士団内をうろついていたリーディアは一人の青年と出会い、そのまま一緒に婚約者候補を探すことに。  しかしその青年といるうちに、リーディアは彼に好意を抱いてしまう。 全21話(本編20話+番外編1話)です。

宝石精霊に溺愛されていますが、主の命令を聞いてくれません

真風月花
恋愛
嘘でしょう? 王女であるわたくしが婚約を破棄されるだなんて。身分違いの婚約者から、あろうことか慰謝料代わりに宝石を投げつけられたアフタル。だがその宝石には精霊が宿っていて、アフタルに「俺を選べ」と主従関係を命じる。ちゃんと命令を聞いてくれない、強引な精霊にふりまわされるアフタルが、腐敗した王家を立て直す。

継母と妹に家を乗っ取られたので、魔法都市で新しい人生始めます!

桜あげは
恋愛
父の後妻と腹違いの妹のせいで、肩身の狭い生活を強いられているアメリー。 美人の妹に惚れている婚約者からも、早々に婚約破棄を宣言されてしまう。 そんな中、国で一番の魔法学校から妹にスカウトが来た。彼女には特別な魔法の才能があるのだとか。 妹を心配した周囲の命令で、魔法に無縁のアメリーまで学校へ裏口入学させられる。 後ろめたい、お金がない、才能もない三重苦。 だが、学校の魔力測定で、アメリーの中に眠っていた膨大な量の魔力が目覚め……!?   不思議な魔法都市で、新しい仲間と新しい人生を始めます! チートな力を持て余しつつ、マイペースな魔法都市スローライフ♪ 書籍になりました。好評発売中です♪

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。 しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。 フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。 クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。 ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。 番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。 ご感想ありがとうございます!! 誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。 小説家になろう様に掲載済みです。

婚約して半年、私の幸せは終わりを告げました。

ララ
恋愛
婚約して半年、私の幸せは終わりを告げました。 愛する彼は他の女性を選んで、彼女との理想を私に語りました。 結果慰謝料を取り婚約破棄するも、私の心は晴れないまま。

処理中です...