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「リル!リルメリア!」
誰かが私を呼んでいる。でも誰が?
あれ?私の名前ってこんな名前だったかな?
でもこの声は知ってる。
いつも私の側にある声。
「んっ」
「リル!」
ぼやけた視界の中に人影が写る。
でもまだ眠い。私はふかふかの布団の中に潜り込んだ。
「こらっ!リル、起きて!」
ん?ウィルの声が聞こえたような。
「え!?ウィル?」
どうしてここにいるの?
布団を剥ぎ取られ、ウィルに抱きしめられた。
「ちょっとウィル!ちっ近い。」
何とか腕の中から脱出すると、真剣な表情のウィルと目が合った。
「リル、すごく心配したよ。どうして連絡してくれなかったの?母からの手紙で知った僕の気持ちが分かる?心配で生きた心地がしなかった。」
ウィルは深い息を吐いて、私の肩に顔を埋めてしまった。ウィルの疲弊が私にも伝わってきて、心が痛い。
私はウィルに仕事を押し付けたあげく、ここまで心配させてしまった。
私はウィルの背中をゆっくり撫でる。
「ウィル、ごめん。本当にごめんなさい。」
「ん。」
ウィルの吐息が私の肩に落ちる。私はウィルが落ち着くまで背中を撫で続けた。
「それで?何でこうなったの?」
「それはね。」
私はベッドに座ったまま、今まであった事を詳しく話した。
「はあ、本当に何を考えているんだ。」
ウィルは額に手を当てて怒りを抑えているようだった。
「えっと、ごめんなさい。」
「これはリルに対して怒ってるんじゃないよ。そろそろ入れ替えが必要かなって思っただけ。」
そんな穏やかな怒りじゃなかった気がするけれど、今の私にはこれ以上聞く勇気はない。
「それにしてもまた妖精か。」
「うん。色々手伝ってもらったの。だから大事になっちゃったんだけどね。でもウィル、よくここまで来られたね。」
切っても燃やしても、すぐに元に戻る薬草は魔法士達でもどうする事も出来なかった。
ウィルはどうやってここまで来たんだろう。
「ああ、これで薬草を切りながら進んだんだよ。走り抜けながら進めばなんとかなった。」
ウィルは腰の剣を外して見せてくれた。
私は今までウィルが剣を扱っているところを見たことがない。今のウィルの姿はなんだかすごく新鮮だった。
「そう言えば、ケイル達もいたな。何か言ってたけど、邪魔だから無視してきた。さて、これからどうしてやろうか。リルはどうしたい?」
「うーん。元々は私達の育てた薬草に難癖を付けてきたから、後悔させてやろうと思って始めたのよね。ウィル達が帰って来る前に終わらせるつもりだったのよ。」
「母と口裏を合わせて?」
「ええっと。」
実はアンネ夫人には初めから現状を説明していた。つまり、夫人は私の情報提供者の1人だったのだ。最後の最後にバラされてしまったけれど。
「この部屋も随分居心地が良さそうだね。この家具もリルらしくて素敵だ。リルがこの数日、不自由無く過ごしてくれていたなら良かったよ。」
何だか少し雲行きが怪しくなってきた。
「う、うん。」
「まずはここから出ようか。リルの説教は帰ってからね。」
「あ、はい。」
やっぱり怒られるのね。仕方ないけれど、手加減はしてほしい。
「でもどうやって脱出しようか。リルに危ない事はさせたくないし。」
「あっそれなら頼めば大丈夫よ。」
「頼む?」
「うん。見ててね。」
私は窓から身を乗り出し、お礼の言葉を風に乗せる。
すると、一面を緑に変えていた薬草が弾けるように光に変わる。しばらく空中に漂っていた光は、やがて溶けるように消えていった。
あまりにも幻想的な光景に私とウィルはただ黙って見惚れていた。
誰かが私を呼んでいる。でも誰が?
あれ?私の名前ってこんな名前だったかな?
でもこの声は知ってる。
いつも私の側にある声。
「んっ」
「リル!」
ぼやけた視界の中に人影が写る。
でもまだ眠い。私はふかふかの布団の中に潜り込んだ。
「こらっ!リル、起きて!」
ん?ウィルの声が聞こえたような。
「え!?ウィル?」
どうしてここにいるの?
布団を剥ぎ取られ、ウィルに抱きしめられた。
「ちょっとウィル!ちっ近い。」
何とか腕の中から脱出すると、真剣な表情のウィルと目が合った。
「リル、すごく心配したよ。どうして連絡してくれなかったの?母からの手紙で知った僕の気持ちが分かる?心配で生きた心地がしなかった。」
ウィルは深い息を吐いて、私の肩に顔を埋めてしまった。ウィルの疲弊が私にも伝わってきて、心が痛い。
私はウィルに仕事を押し付けたあげく、ここまで心配させてしまった。
私はウィルの背中をゆっくり撫でる。
「ウィル、ごめん。本当にごめんなさい。」
「ん。」
ウィルの吐息が私の肩に落ちる。私はウィルが落ち着くまで背中を撫で続けた。
「それで?何でこうなったの?」
「それはね。」
私はベッドに座ったまま、今まであった事を詳しく話した。
「はあ、本当に何を考えているんだ。」
ウィルは額に手を当てて怒りを抑えているようだった。
「えっと、ごめんなさい。」
「これはリルに対して怒ってるんじゃないよ。そろそろ入れ替えが必要かなって思っただけ。」
そんな穏やかな怒りじゃなかった気がするけれど、今の私にはこれ以上聞く勇気はない。
「それにしてもまた妖精か。」
「うん。色々手伝ってもらったの。だから大事になっちゃったんだけどね。でもウィル、よくここまで来られたね。」
切っても燃やしても、すぐに元に戻る薬草は魔法士達でもどうする事も出来なかった。
ウィルはどうやってここまで来たんだろう。
「ああ、これで薬草を切りながら進んだんだよ。走り抜けながら進めばなんとかなった。」
ウィルは腰の剣を外して見せてくれた。
私は今までウィルが剣を扱っているところを見たことがない。今のウィルの姿はなんだかすごく新鮮だった。
「そう言えば、ケイル達もいたな。何か言ってたけど、邪魔だから無視してきた。さて、これからどうしてやろうか。リルはどうしたい?」
「うーん。元々は私達の育てた薬草に難癖を付けてきたから、後悔させてやろうと思って始めたのよね。ウィル達が帰って来る前に終わらせるつもりだったのよ。」
「母と口裏を合わせて?」
「ええっと。」
実はアンネ夫人には初めから現状を説明していた。つまり、夫人は私の情報提供者の1人だったのだ。最後の最後にバラされてしまったけれど。
「この部屋も随分居心地が良さそうだね。この家具もリルらしくて素敵だ。リルがこの数日、不自由無く過ごしてくれていたなら良かったよ。」
何だか少し雲行きが怪しくなってきた。
「う、うん。」
「まずはここから出ようか。リルの説教は帰ってからね。」
「あ、はい。」
やっぱり怒られるのね。仕方ないけれど、手加減はしてほしい。
「でもどうやって脱出しようか。リルに危ない事はさせたくないし。」
「あっそれなら頼めば大丈夫よ。」
「頼む?」
「うん。見ててね。」
私は窓から身を乗り出し、お礼の言葉を風に乗せる。
すると、一面を緑に変えていた薬草が弾けるように光に変わる。しばらく空中に漂っていた光は、やがて溶けるように消えていった。
あまりにも幻想的な光景に私とウィルはただ黙って見惚れていた。
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