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「体調は大丈夫なのか?今日ぐらい休んでもいいんだぞ。」
デルはいつもより遅れて実験室に来た私の側へ心配そうに駆け寄ってきた。

 妖精に攫われ半日以上行方不明だった私を、沢山の人が探してくれていた。リングドン子爵も仕事を投げ打って捜索に加わってくれていたらしい。
邸に帰ると、夫人は泣きながら私の無事を喜んでくれた。
アルト家から着いて来てくれたヘンリー達には沢山の小言を言われてしまったが、私を心配してくれた気持ちがすごく伝わってきた。でもお父様への報告が怖い。
今回、私は沢山の人に迷惑を掛けてしまった。反省しつつも、みんなの優しさに心は温かかった。



「ありがとう、デル。心配掛けてごめんね。」

「いや、本当に無事で良かった。ウィルフレイ様が見つけてくれたのか?」

「うん。」
昨日のウィルを思い出し、そわそわし出した感情を必死で押し止める。

「今度は俺もちゃんとリルメリアを見つけるから。」

「ありがとう、デル。」




「大丈夫だよ。僕が近くにいるから。僕の戻り石もあるしね。」
デルとの会話の途中で、後ろからウィルの声が聞こえた。

「ウィル、どうしたの?」

「僕もこれからはリルを手伝おうと思って。父上に頼まれていた薬の製作も一段落したからね。だからよろしくね、デル。」

「そうですか、よろしくお願いします。ウィルフレイ様。」
何だかウィルとデルが睨み合っているように見えるのは気の所為?



「リル、回復薬の精製はどこまでいってるの?」

「えっとね、薬の効果促進は光と水の融合魔法で可能になったの。でも効果が現れるのが、想定してた時間より遅くて。だから高濃度の魔力を込めれば成功するかなって思ってるんだけど、上手くいかないの。」

「デル、薬草は何を使ってる?」

「これです。今回はここにある薬草を使って作りました。」
ウィルはデルが持って来た薬草を手に取って観察している。
いつもデルが用意してくれている薬草は、私が見ても状態の良いものばかりだった。

「リル、薬草も生き物だから受け入れられる魔力量や濃度に限界があるんじゃないかな。」
確かにウィルが言ったことは正しいかもしれない。
回復薬精製過程で魔力を混ぜると、ある一定量を超えたところで急に手応えが無くなる。
でも、それならどうしたらいいんだろう。

「リルメリア、最初から魔力を使って作ればいいんじゃないか?」

「最初から?それってどういうこと?」

「薬草の育成段階から魔力を注いでいくんだ。」
私が頭を抱えて悩んでいると、デルが新たな方法を提案してくれた。

 デルは少し前から自分が担当している薬草に、魔力を込めた水をあげていたそうだ。
その方法で成長した薬草は、他のものよりも効能が高かった。
落ち着いたらリーン先生とこの栽培方法のデータを集める予定だったらしい。

「この方法なら薬草自身が多くの魔力を受け入れられるんじゃないか?」

「そうかも!」
私は早速始めようと、気合いを入れて席を立つ。

「リル、まずは落ち着いて。デルはリーン先生を呼んで、早速準備を。」

「分かりました。」
ウィルの指示で、デルは直ぐに部屋を出て行った。

「リルも侍女を呼んで準備をした方がいいんじゃないかな?今日の外は日差しがきついからね。」

たしかに。ウィルの適切な指摘に、私の勢いがやり場を無くす。

「そ、そうだね。ちょっと着替えてくるね。」

「そうだ、リル。」
部屋を出て行こうとドアに近づいた私の下に、ウィルが笑顔で近寄ってきた。
でもその笑顔が少し怖い。

「どうして、デルにリルメリアって呼ばれているの?」

「えっと、ダメだった?」

「どうだろうね。」

 ウィルの笑顔の威圧に耐えられなかった私は、走ってドアから逃げ出した。
走りながら条件反射で言った謝罪の言葉はウィルに届いただろうか。


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