上 下
51 / 308

2-37

しおりを挟む
「もう目を開けて大丈夫だよ。」
ウィルの声に、こわばっていた体から力が抜ける。
先程感じた浮遊感はもう感じられなかった。

「無事で良かった。これがリルの居場所を教えてくれたんだよ。」
ウィルが私の胸元のペンダントを指差した。

「助けに来てくれてありがとう、ウィル。」

「心配したよ。見つけられて良かった。」
ウィルは私をもう一度強く抱きしめた。
ウィルの背に手を回して、ふと我に帰る。

あれ?ちょっと待って、私今何してるの?
私の体が一気に真っ赤に染まる。

「ウィ、ウィル!?」

「リル?どうかした?具合悪い?」

「大丈夫!大丈夫なんだけどね。ちょっとね。あのね。」
なんて言ったらいいのか分からないけれど、とにかく恥ずかしい。

挙動不審な私を見て、ウィルは声を出して笑いはじめた。

「ちょっと、ウィル酷い!」

「だって、リルすごい表情変わるんだもん。フフ。ごめんちょっと待って。」
ウィルは私を抱きしめたまま、横を向いて笑い続けている。
すごい腹正しい。私はウィルを睨みつけた。

「ごめんね、リル。そんなに怒らないで。最近のリル、僕によそよそしかったでしょ。だからいつものリルに戻ってくれて嬉しいんだよ。」
最近の私の態度がウィルを困らせていたんだろうか。私の怒りの感情が急激に萎んでいく。

「ごめんなさい、ウィル。私ね、リリーさんと仲良くしてるウィルを見ていたら嫌な気持ちになっちゃって。自分でもよく分からないんだけど、ウィルの顔を見て話せなくなっちゃったの。」
私は今までの態度をウィルに謝罪する。

「本当に!?」
ウィルは私の両肩を掴むと、顔を覗き込んできた。
さっきまで笑っていたウィルの豹変に私はビックリして何も出来ない。

「やっと僕を意識してくれたのか?でもリルだからあんまり期待も出来ないし、」
ウィルが下を向いてぶつぶつ言っている。
本当にウィルの行動が分からない。


「あの、ここってどこなのかな?さっきまでいた所と違うよね?」
私は、変な行動をとっているウィルに恐る恐る声を掛けた。

「ここは、本邸の裏庭。さっきまでリルがいた所は薬草園の隣の森の中だよ。」

「え?さっき感じたのってやっぱり転移魔法?ウィルって転移魔法使えたの?」

「ああ、あれはルーイ先生の転移魔法だよ。リルに何かあった時のためにって、これを渡されたんだ。」
ウィルの手には色を失った魔鉱石があった。

「この魔鉱石で転移魔法を使えるようにしてくれたんだ。まだ近距離しか飛べないのと、予め運べる人が限定されるって制限があるらしいけど。」

 私は魔鉱石を受取り、月に翳してまじまじと観察する。けれど、夜だから暗くてよく見えない。あとで魔法の痕跡を探ってみよう。
それにしてもさすがは、主席宮廷魔法士様。帰ったらちゃんとお礼を言わないと。

「リルは人だけじゃなくて、妖精も惹きつけちゃったね。」

「やっぱりあの光の玉は妖精なの?」

「僕も初めて見たけど、妖精で間違いないと思うよ。ラフィールの花畑にいたしね。」

「あの白く光ってた花がラフィール?」

「そうだよ。昼間に太陽の光を吸収して夜に光るんだ。浄化の作用があるんだよ。」

「じゃあ私は妖精に誘われたのね。でもどうしてあそこにいたのか、よく覚えていないの。」
あの時は夢を見ていたような不思議な感覚だった。でも記憶は曖昧でどうやってあの場に行ったのか自分でも分からない。


「大丈夫だよ。また攫われても僕が助けに行くから。」

「ありがとう、ウィル。」

「帰ろう。みんなも心配してる。」
私は差し出されたウィルの手を取って、邸へと歩き出した。
この手の温もりが帰って来たのだと安心させてくれた。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

モブに転生したので前世の好みで選んだモブに求婚しても良いよね?

狗沙萌稚
恋愛
乙女ゲーム大好き!漫画大好き!な普通の平凡の女子大生、水野幸子はなんと大好きだった乙女ゲームの世界に転生?! 悪役令嬢だったらどうしよう〜!! ……あっ、ただのモブですか。 いや、良いんですけどね…婚約破棄とか断罪されたりとか嫌だから……。 じゃあヒロインでも悪役令嬢でもないなら 乙女ゲームのキャラとは関係無いモブ君にアタックしても良いですよね?

悪役令嬢に転生したら病気で寝たきりだった⁉︎完治したあとは、婚約者と一緒に村を復興します!

Y.Itoda
恋愛
目を覚ましたら、悪役令嬢だった。 転生前も寝たきりだったのに。 次から次へと聞かされる、かつての自分が犯した数々の悪事。受け止めきれなかった。 でも、そんなセリーナを見捨てなかった婚約者ライオネル。 何でも治癒できるという、魔法を探しに海底遺跡へと。 病気を克服した後は、二人で街の復興に尽力する。 過去を克服し、二人の行く末は? ハッピーエンド、結婚へ!

チート過ぎるご令嬢、国外追放される

舘野寧依
恋愛
わたしはルーシエ・ローゼス公爵令嬢。 舞踏会の場で、男爵令嬢を虐めた罪とかで王太子様に婚約破棄、国外追放を命じられました。 国外追放されても別に困りませんし、この方と今後関わらなくてもいいのは嬉しい限りです! 喜んで国外追放されましょう。 ……ですが、わたしの周りの方達はそうは取らなかったようで……。どうか皆様穏便にお願い致します。

さようなら、わたくしの騎士様

夜桜
恋愛
騎士様からの突然の『さようなら』(婚約破棄)に辺境伯令嬢クリスは微笑んだ。 その時を待っていたのだ。 クリスは知っていた。 騎士ローウェルは裏切ると。 だから逆に『さようなら』を言い渡した。倍返しで。

悪役令嬢に転生したおばさんは憧れの辺境伯と結ばれたい

ゆうゆう
恋愛
王子の婚約者だった侯爵令嬢はある時前世の記憶がよみがえる。 よみがえった記憶の中に今の自分が出てくる物語があったことを思い出す。 その中の自分はまさかの悪役令嬢?!

【完結】名ばかりの妻を押しつけられた公女は、人生のやり直しを求めます。2度目は絶対に飼殺し妃ルートの回避に全力をつくします。

yukiwa (旧PN 雪花)
恋愛
*タイトル変更しました。(旧題 黄金竜の花嫁~飼殺し妃は遡る~) パウラ・ヘルムダールは、竜の血を継ぐ名門大公家の跡継ぎ公女。 この世を支配する黄金竜オーディに望まれて側室にされるが、その実態は正室の仕事を丸投げされてこなすだけの、名のみの妻だった。 しかもその名のみの妻、側室なのに選抜試験などと御大層なものがあって。生真面目パウラは手を抜くことを知らず、ついつい頑張ってなりたくもなかった側室に見事当選。 もう一人の側室候補エリーヌは、イケメン試験官と恋をしてさっさと選抜試験から引き揚げていた。 「やられた!」と後悔しても、後の祭り。仕方ないからパウラは丸投げされた仕事をこなし、こなして一生を終える。そしてご褒美にやり直しの転生を願った。 「二度と絶対、飼殺しの妃はごめんです」 そうして始まった2度目の人生、なんだか周りが騒がしい。 竜の血を継ぐ4人の青年(後に試験官になる)たちは、なぜだかみんなパウラに甘い。 後半、シリアス風味のハピエン。 3章からルート分岐します。 小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。 表紙画像はwaifulabsで作成していただきました。 https://waifulabs.com/

婚約者は私を愛していると言いますが、別の女のところに足しげく通うので、私は本当の愛を探します

早乙女 純
恋愛
 私の婚約者であるアルベルトは、私に愛しているといつも言いますが、私以外の女の元に足しげく通います。そんな男なんて信用出来るはずもないので婚約を破棄して、私は新しいヒトを探します。

失格令嬢は冷徹陛下のお気に入り

猫子猫
恋愛
男爵家令嬢セリーヌは、若き皇帝ジェイラスの夜伽相手として、彼の閨に送り込まれることになった。本来なら数多の美姫を侍らせていておかしくない男だが、ちっとも女性を傍に寄せつけないのだという。貴族令嬢としての学びを一部放棄し、田舎でタヌキと戯れていた女など、お呼びではないはずだ。皇帝が自分を求めるはずなどないと思ったし、彼も次々に言い放つ。 『ありえない』『趣味じゃない』 だから、セリーヌは翌日に心から思った。陛下はうそつきだ、と。 ※全16話となります。

処理中です...