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「もう、リルと久しぶりに会えたのに。王都でお買い物をしようと思ってたのよ。グレアムってば酷いわ。」
「ごめんね、セラフィ。買い物なら私としようか。この前欲しいものがあるって言ってなかったかい?久しぶりに2人でゆっくり出かけよう。」
「もう仕方がないわね。仕事ばっかりはダメよ。」
社交のため王都にやって来たお母様から開口一番に小言を言われたお父様は、上手く矛先をかわせたようだ。
恋愛結婚の2人は今でも本当に仲が良い。
「お母様、私頑張って来ますね。」
「リルももう立派なレディね。帰ってきたらお母様と一緒に過ごしましょうね。それと、後で可愛い恋人を紹介してね。」
最後の一言を耳元で囁かれた。
「お、お母様!」
私の胸元に輝くペンダントをお母様は笑顔で見ている。思わず私は両手で胸元を隠してしまった。
「ふふ。リルのお話楽しみだわ。早く帰ってきてね。」
楽しそうにしているお母様とは対照的に、お父様はなぜか無言だった。
長期休暇に入って5日後、私はリングドン家の領地に向けて王都を出発した。
お茶会を約束していたティーナは、私が王都を離れることを残念がっていた。でも帰ってきたら3人でお茶会をしようと笑顔で送り出してくれた。
ロイドは私とウィルが休暇を一緒に過ごすことを揶揄ってきたけれど、ウィルが無言の圧力で黙らせていた。
もうロイドにはお土産はあげない。
「もうすぐ領地に入りますよ。夕方までにはリングドン家のお邸に着きそうです。」
今回の旅は侍女のラナとネル、お父様の秘書官のヘンリー、そしてアルト商会所属の護衛が着いて来てくれた。
心配性のお父様が付けてくれた護衛が思った以上に多い。
「お嬢様、このまま早めにお邸まで行きましょう。」
旅の行程はヘンリーと護衛のリーダーのロバートが立ててくれた。
ここまで危ないことはなく、余裕のある移動が出来た。さすがお父様の選んだ人選だ。
私は胸元のペンダントを確かめるように、優しく触れた。
「リル、いらっしゃい。疲れてない?」
リングドン邸に馬車が着くとすぐにウィルが出迎えてくれた。
私はウィルの手を借りて馬車を降りる。
リングドン家のお邸は、綺麗に剪定された並木道を抜けた先にあり、沢山の花に囲まれた庭園の中にあった。
「綺麗。まるで妖精の国にいるみたい。」
「まあ、ありがとう、リルメリア嬢。ゆっくりしていってね。」
振り向くと可愛らしい小柄な夫人が花を抱えて立っていた。
「アンネ、ウィル。まずはお客様を邸の中にお招きしなさい。」
邸の入口に立つ長身の男性が、私達を中へと促した。
「家族が失礼したね。私はリングドン子爵家当主ベルム・リングドンだ。こちらが妻のアンネ。話は君の父上から聞いている。こちらも協力は惜しまないつもりだ。薬草園もゆっくり見て回ると良い。」
子爵はあまり表情を表に出さない方のようだ。けれど、ウィルと同じ色の瞳はどこか温かみがあった。
「ありがとうございます、リングドン子爵様。これからお世話になります。どうぞ私のことはリルメリアとお呼びください。」
「私もよろしくね、リルメリアさん。まずはお部屋に案内するわね。」
「母上、僕が案内します。リル、行こう。」
「あらあら。リルメリアさん、良ければ晩餐を一緒に取りましょうね。」
「はい、ぜひ。」
私はウィルの手を取ってエントランスの階段を登った。
「ごめんね、セラフィ。買い物なら私としようか。この前欲しいものがあるって言ってなかったかい?久しぶりに2人でゆっくり出かけよう。」
「もう仕方がないわね。仕事ばっかりはダメよ。」
社交のため王都にやって来たお母様から開口一番に小言を言われたお父様は、上手く矛先をかわせたようだ。
恋愛結婚の2人は今でも本当に仲が良い。
「お母様、私頑張って来ますね。」
「リルももう立派なレディね。帰ってきたらお母様と一緒に過ごしましょうね。それと、後で可愛い恋人を紹介してね。」
最後の一言を耳元で囁かれた。
「お、お母様!」
私の胸元に輝くペンダントをお母様は笑顔で見ている。思わず私は両手で胸元を隠してしまった。
「ふふ。リルのお話楽しみだわ。早く帰ってきてね。」
楽しそうにしているお母様とは対照的に、お父様はなぜか無言だった。
長期休暇に入って5日後、私はリングドン家の領地に向けて王都を出発した。
お茶会を約束していたティーナは、私が王都を離れることを残念がっていた。でも帰ってきたら3人でお茶会をしようと笑顔で送り出してくれた。
ロイドは私とウィルが休暇を一緒に過ごすことを揶揄ってきたけれど、ウィルが無言の圧力で黙らせていた。
もうロイドにはお土産はあげない。
「もうすぐ領地に入りますよ。夕方までにはリングドン家のお邸に着きそうです。」
今回の旅は侍女のラナとネル、お父様の秘書官のヘンリー、そしてアルト商会所属の護衛が着いて来てくれた。
心配性のお父様が付けてくれた護衛が思った以上に多い。
「お嬢様、このまま早めにお邸まで行きましょう。」
旅の行程はヘンリーと護衛のリーダーのロバートが立ててくれた。
ここまで危ないことはなく、余裕のある移動が出来た。さすがお父様の選んだ人選だ。
私は胸元のペンダントを確かめるように、優しく触れた。
「リル、いらっしゃい。疲れてない?」
リングドン邸に馬車が着くとすぐにウィルが出迎えてくれた。
私はウィルの手を借りて馬車を降りる。
リングドン家のお邸は、綺麗に剪定された並木道を抜けた先にあり、沢山の花に囲まれた庭園の中にあった。
「綺麗。まるで妖精の国にいるみたい。」
「まあ、ありがとう、リルメリア嬢。ゆっくりしていってね。」
振り向くと可愛らしい小柄な夫人が花を抱えて立っていた。
「アンネ、ウィル。まずはお客様を邸の中にお招きしなさい。」
邸の入口に立つ長身の男性が、私達を中へと促した。
「家族が失礼したね。私はリングドン子爵家当主ベルム・リングドンだ。こちらが妻のアンネ。話は君の父上から聞いている。こちらも協力は惜しまないつもりだ。薬草園もゆっくり見て回ると良い。」
子爵はあまり表情を表に出さない方のようだ。けれど、ウィルと同じ色の瞳はどこか温かみがあった。
「ありがとうございます、リングドン子爵様。これからお世話になります。どうぞ私のことはリルメリアとお呼びください。」
「私もよろしくね、リルメリアさん。まずはお部屋に案内するわね。」
「母上、僕が案内します。リル、行こう。」
「あらあら。リルメリアさん、良ければ晩餐を一緒に取りましょうね。」
「はい、ぜひ。」
私はウィルの手を取ってエントランスの階段を登った。
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