34 / 56
2-16
しおりを挟む
大海を越えた先にある東洋の大陸。
我が国とは異なる文化圏を持つその地には、独自に発展した高い技術と学術があった。その中で、近年特に注目されているのが、東洋大陸でしか育たない植物や生物を用いた東洋医学と呼ばれる医術だ。
なんでも、日々口にする食物から体の免疫力を高めて、病気になりにくい丈夫な体を作るという考えを元にした医学なのだとか。
そこから生まれた様々な種類のサプリメントが、今、我が国の貴族の間で流行の兆しを見せている。
そんな高度な文化を持つ大陸にある大国、青真国と貿易が始まるという情報は、商会を持つ私の下にも届いていた。私も密かに楽しみにしていたのだ。
だから、その一端に触れられる機会を得られて、私は、とても浮かれていた。気付くと私の目は、青真国の船を求めて海へ向いてしまうほどに。
そんな私を、リセがどんな心情で見ていたかは、最後まで分からなかった。
それから程なくして、青真国の大型船が、大量の品を乗せてシグネル港へとやってきた。隣国フレイヤ王国の護衛艦と共に。
今後、青真国との貿易は、フレイヤ王国と協力して行うことになる。
我が国が、青真国の船にシグネル港を開放し、フレイヤ王国が、海路の警備を担うのだ。
そして、シグネル港で受け取った貿易品は、関所のあるイオリア領を通ってフレイヤ王国へ渡っていく。
そう。私が報奨で受け取ったイオリア領で。
それを知った時、自分がイオリア領のことをすっかり忘れていたことに気が付いた。
最近は、ずっとバタバタしていて、他のことを考えている時間がなかったのだ。精神的にも、リセのことで余裕がなかったし。
とはいえ、自分の領地に顔を出さない領主なんて非常に印象が悪い。現在のイオリア領は、皇帝陛下が派遣してくれた財務官によって管理されている状態だから余計に。
出来るだけ早急に、様子を見に行かなければいけない。
そう頭に刻んだ時、皇帝陛下から私宛に一通の許可証が届いた。
そこには、青真国から届いた全ての薬品の研究を、皇帝陛下の御名で許可する旨が書かれてあった。
しかも、専用の研究施設まで用意したと。
正直、あの口約束で、ここまでしてもらえるとは思っていなかった。けれど、これは私にとって渡りに船だった。
既に、薬草からサプリメントまで多種多様な青真国製の薬品が運び込まれているというその施設は、奇しくも、イオリア領に建てられていたから。
私は、心待ちにしていた薬の研究をしながら、イオリア領の領主としての仕事が出来るのだ。これで、私の対面も保たれる。
それに、今少し、リセから離れて自分を落ち着かせる時間を作れる。
そう思うと、私の心に俄然やる気が湧いて来た。
早くイオリアの研究施設に行きたいと思った私は、すぐさまリセに直談判に行った。絶対に反対されると思ったから、その対策も考えた上で。
けれど、思いの外、リセはあっさりと私のイオリア行きを許してくれた。
あんなに私と離れたくないと言っていたのは何だったのだろうかと、拍子抜けしてしまうほど簡単に。
もしかしたら、リセは私の研究を応援してくれているのかもしれない。彼は猫派だから。
私は、さっさと必要最低限の荷物だけまとめて、シグネル家の本邸を後にした。そして、意気揚々とイオリア領へ向かった。
それからの私は、研究にどっぷりと浸かった。それこそ、寝食を忘れて。
以前から考えていた動物用の経口麻酔薬が、青真国から入って来た薬草のお陰で、完成しそうなのだ。
今現在、動物の治療に使われている麻酔薬や鎮痛薬は、人間用のものを代用しているため、合わない子も少なくない。最悪、眠りから醒めず死んでしまう子もいる。
だから、なるべく早くこの薬を作りたかった。その目標達成まであと少し。
それに、可愛い我が家の猫達のために、普段の食事だけでは補いきれない補完食の研究もしたいと考えていた。上手くいけば、健康寿命を延ばして、且つ、最高に美しい毛並みを生み出せそうだ。
そんな研究漬けの毎日は、充実しているけれど、ふとした瞬間に寂しさを感じた。
猫達とこんなに離れていることがなかったからだろうか。あの温もりが恋しい。
私は、寂しさを埋めるように、更に研究にのめり込んでいった。
我が国とは異なる文化圏を持つその地には、独自に発展した高い技術と学術があった。その中で、近年特に注目されているのが、東洋大陸でしか育たない植物や生物を用いた東洋医学と呼ばれる医術だ。
なんでも、日々口にする食物から体の免疫力を高めて、病気になりにくい丈夫な体を作るという考えを元にした医学なのだとか。
そこから生まれた様々な種類のサプリメントが、今、我が国の貴族の間で流行の兆しを見せている。
そんな高度な文化を持つ大陸にある大国、青真国と貿易が始まるという情報は、商会を持つ私の下にも届いていた。私も密かに楽しみにしていたのだ。
だから、その一端に触れられる機会を得られて、私は、とても浮かれていた。気付くと私の目は、青真国の船を求めて海へ向いてしまうほどに。
そんな私を、リセがどんな心情で見ていたかは、最後まで分からなかった。
それから程なくして、青真国の大型船が、大量の品を乗せてシグネル港へとやってきた。隣国フレイヤ王国の護衛艦と共に。
今後、青真国との貿易は、フレイヤ王国と協力して行うことになる。
我が国が、青真国の船にシグネル港を開放し、フレイヤ王国が、海路の警備を担うのだ。
そして、シグネル港で受け取った貿易品は、関所のあるイオリア領を通ってフレイヤ王国へ渡っていく。
そう。私が報奨で受け取ったイオリア領で。
それを知った時、自分がイオリア領のことをすっかり忘れていたことに気が付いた。
最近は、ずっとバタバタしていて、他のことを考えている時間がなかったのだ。精神的にも、リセのことで余裕がなかったし。
とはいえ、自分の領地に顔を出さない領主なんて非常に印象が悪い。現在のイオリア領は、皇帝陛下が派遣してくれた財務官によって管理されている状態だから余計に。
出来るだけ早急に、様子を見に行かなければいけない。
そう頭に刻んだ時、皇帝陛下から私宛に一通の許可証が届いた。
そこには、青真国から届いた全ての薬品の研究を、皇帝陛下の御名で許可する旨が書かれてあった。
しかも、専用の研究施設まで用意したと。
正直、あの口約束で、ここまでしてもらえるとは思っていなかった。けれど、これは私にとって渡りに船だった。
既に、薬草からサプリメントまで多種多様な青真国製の薬品が運び込まれているというその施設は、奇しくも、イオリア領に建てられていたから。
私は、心待ちにしていた薬の研究をしながら、イオリア領の領主としての仕事が出来るのだ。これで、私の対面も保たれる。
それに、今少し、リセから離れて自分を落ち着かせる時間を作れる。
そう思うと、私の心に俄然やる気が湧いて来た。
早くイオリアの研究施設に行きたいと思った私は、すぐさまリセに直談判に行った。絶対に反対されると思ったから、その対策も考えた上で。
けれど、思いの外、リセはあっさりと私のイオリア行きを許してくれた。
あんなに私と離れたくないと言っていたのは何だったのだろうかと、拍子抜けしてしまうほど簡単に。
もしかしたら、リセは私の研究を応援してくれているのかもしれない。彼は猫派だから。
私は、さっさと必要最低限の荷物だけまとめて、シグネル家の本邸を後にした。そして、意気揚々とイオリア領へ向かった。
それからの私は、研究にどっぷりと浸かった。それこそ、寝食を忘れて。
以前から考えていた動物用の経口麻酔薬が、青真国から入って来た薬草のお陰で、完成しそうなのだ。
今現在、動物の治療に使われている麻酔薬や鎮痛薬は、人間用のものを代用しているため、合わない子も少なくない。最悪、眠りから醒めず死んでしまう子もいる。
だから、なるべく早くこの薬を作りたかった。その目標達成まであと少し。
それに、可愛い我が家の猫達のために、普段の食事だけでは補いきれない補完食の研究もしたいと考えていた。上手くいけば、健康寿命を延ばして、且つ、最高に美しい毛並みを生み出せそうだ。
そんな研究漬けの毎日は、充実しているけれど、ふとした瞬間に寂しさを感じた。
猫達とこんなに離れていることがなかったからだろうか。あの温もりが恋しい。
私は、寂しさを埋めるように、更に研究にのめり込んでいった。
99
あなたにおすすめの小説
投資の天才”を名乗る臣民たちよ。 その全財産、確かに受け取った。 我が民のために活かそう』 〜虚飾を砕く女王の経済鉄槌〜
しおしお
恋愛
バブルに沸くアルビオン王国。
「エルドラド株」を持たぬ者は時代遅れ――
そう嘲笑いながら、実体のない海外権益へ全財産を注ぎ込む貴族たち。
自らを“投資の天才”と称し、増税に苦しむ民を見下す日々。
若き女王リリアーナは、その狂騒を静かに見つめていた。
やがて始まる王室監査。
暴かれる虚偽契約。
崩れ落ちる担保。
連鎖する破綻。
昨日まで「時代の勝者」を気取っていた特権階級は、一夜にして無一文へ。
泣きつく彼らに、女王はただ微笑む。
――“皆様の尊いご投資、確かに受け取りましたわ”
没収された富は国庫へ。
再配分された資源は民へ。
虚飾を砕き、制度を再設計し、王国を立て直す。
これは復讐譚ではない。
清算と再建の物語。
泡沫の王国に、女王の鉄槌が下される。
勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました
鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」
そう言ったのは、王太子アレス。
そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。
外交も財政も軍備も――
すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。
けれど功績はすべて王太子のもの。
感謝も敬意も、ただの一度もない。
そして迎えた舞踏会の夜。
「便利だったが、飾りには向かん」
公開婚約破棄。
それならば、とレイナは微笑む。
「では業務も終了でよろしいですね?」
王太子が望んだ通り、
彼女は“確認”をやめた。
保証を外し、責任を返し、
そして最後に――
「ご確認を」と差し出した書類に、
彼は何も読まずに署名した。
国は契約で成り立っている。
確認しない者に、王の資格はない。
働きたくない公爵令嬢と、
責任を理解しなかった王太子。
静かな契約ざまぁ劇、開幕。
---
初恋を諦めたあなたが、幸せでありますように
ぽんちゃん
恋愛
『あなたのヒーローをお返しします。末永くお幸せに』
運命の日。
ルキナは婚約者候補のロミオに、早く帰ってきてほしいとお願いしていた。
(私がどんなに足掻いても、この先の未来はわかってる。でも……)
今頃、ロミオは思い出の小屋で、初恋の人と偶然の再会を果たしているだろう。
ロミオが夕刻までに帰ってくれば、サプライズでルキナとの婚約発表をする。
もし帰ってこなければ、ある程度のお金と文を渡し、お別れするつもりだ。
そしてルキナは、両親が決めた相手と婚姻することになる。
ただ、ルキナとロミオは、友人以上、恋人未満のような関係。
ルキナは、ロミオの言葉を信じて帰りを待っていた。
でも、帰ってきたのは護衛のみ。
その後に知らされたのは、ロミオは初恋の相手であるブリトニーと、一夜を共にしたという報告だった――。
《登場人物》
☆ルキナ(16) 公爵令嬢。
☆ジークレイン(24) ルキナの兄。
☆ロミオ(18) 男爵子息、公爵家で保護中。
★ブリトニー(18) パン屋の娘。
王宮に薬を届けに行ったなら
佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。
カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。
この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。
慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。
弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。
「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」
驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。
「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」
※ベリーズカフェにも掲載中です。そちらではラナの設定が変わっています。(貴族→庶民)それにより、内容も少し変更しておりますのであわせてお楽しみください。
婚約者チェンジ? 義理の妹は公爵令嬢の地位もチェンジされました』 ~三日で破談、家ごと褫奪の末路です~
ふわふわ
恋愛
「お姉様の婚約者、私がいただきますわ。だって“公爵令嬢”ですもの」
義理の妹コンキュはそう言って、王太子との婚約を奪いました。
父はそれを容認し、私は静かに受け入れます。
けれど――
公爵令嬢とは“地位”ではなく、“責任”の継承者。
王宮で礼儀も実務も拒み、「未来の王太子妃」を名乗った義妹は、わずか三日で婚約破棄。
さらに王家への不敬と統治能力の欠如が問題視され、父の監督責任が問われます。
そして下されたのは――家ごとの褫奪。
一方で私は、領地を守り、帳簿を整え、静かに家を支え続ける。
欲しがったのは肩書。
継いだのは責任。
正統は叫びません。
ただ、残るだけ。
これは、婚約を奪われた公爵令嬢が
“本当に継がれるべきもの”を証明する物語。
病弱令嬢ですが愛されなくとも生き抜きます〜そう思ってたのに甘い日々?〜
白川
恋愛
病弱に生まれてきたことで数多くのことを諦めてきたアイリスは、無慈悲と噂される騎士イザークの元に政略結婚で嫁ぐこととなる。
たとえ私のことを愛してくださらなくても、この世に生まれたのだから生き抜くのよ────。
そう意気込んで嫁いだが、果たして本当のイザークは…?
傷ついた不器用な二人がすれ違いながらも恋をして、溺愛されるまでのお話。
『婚約破棄ありがとうございます。自由を求めて隣国へ行ったら、有能すぎて溺愛されました』
鷹 綾
恋愛
内容紹介
王太子に「可愛げがない」という理不尽な理由で婚約破棄された公爵令嬢エヴァントラ。
涙を流して見せた彼女だったが──
内心では「これで自由よ!」と小さくガッツポーズ。
実は王国の政務の大半を支えていたのは彼女だった。
エヴァントラが去った途端、王宮は大混乱に陥り、元婚約者とその恋人は国中から総スカンに。
そんな彼女を拾ったのは、隣国の宰相補佐アイオン。
彼はエヴァントラの安全と立場を守るため、
**「恋愛感情を持たない白い結婚」**を提案する。
「干渉しない? 恋愛不要? 最高ですわ」
利害一致の契約婚が始まった……はずが、
有能すぎるエヴァントラは隣国で一気に評価され、
気づけば彼女を庇い、支え、惹かれていく男がひとり。
――白い結婚、どこへ?
「君が笑ってくれるなら、それでいい」
不器用な宰相補佐の溺愛が、静かに始まっていた。
一方、王国では元婚約者が転落し、真実が暴かれていく――。
婚約破棄ざまぁから始まる、
天才令嬢の自由と恋と大逆転のラブストーリー!
---
前世の記憶が蘇ったので、身を引いてのんびり過ごすことにします
柚木ゆず
恋愛
※明日(3月6日)より、もうひとつのエピローグと番外編の投稿を始めさせていただきます。
我が儘で強引で性格が非常に悪い、筆頭侯爵家の嫡男アルノー。そんな彼を伯爵令嬢エレーヌは『ブレずに力強く引っ張ってくださる自信に満ちた方』と狂信的に愛し、アルノーが自ら選んだ5人の婚約者候補の1人として、アルノーに選んでもらえるよう3年間必死に自分を磨き続けていました。
けれどある日無理がたたり、倒れて後頭部を打ったことで前世の記憶が覚醒。それによって冷静に物事を見られるようになり、ようやくアルノーは滅茶苦茶な人間だと気付いたのでした。
「オレの婚約者候補になれと言ってきて、それを光栄に思えだとか……。倒れたのに心配をしてくださらないどころか、異常が残っていたら候補者から脱落させると言い出すとか……。そんな方に夢中になっていただなんて、私はなんて愚かなのかしら」
そのためエレーヌは即座に、候補者を辞退。その出来事が切っ掛けとなって、エレーヌの人生は明るいものへと変化してゆくことになるのでした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる