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第1章 パワーショベルウィザード
1.〈 08 〉
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朝を迎えたアタシは、いつものように食事の仕度をせねばならぬ。
今日のメニューはまだ決まっていない。前日にお買い物しなかった場合って、特にそうなりがちなのよね~。
我が家の冷蔵庫はちょっと大きめなんだけど、アタシの頭の中に入ってます。といっても「庫内になにが揃ってるか」という情報がだよ。
絶世美女の頭をカチ割ってみたら、大型冷蔵庫が飛び出した! なんてのはB級ホラーだもんね。いや、C級コメディだな。あはは。
今朝は焼き鮭に、大根と油揚げとワカメのお味噌汁。あと納豆と生卵と海苔と梅干しは、いつものようにほしい人が自分でチョイスすればいいだろう。
もちろん「やだあ、炊飯器のスイッチ忘れてる!」なんてヘマはしませんよ。既に過去3回やっちゃってるもんね~。
しっかし、大森家の男たちもなんだな、もっと正子様に感謝すべきだと思うよ。なのにアタシを除け者にして焼肉とカラオケってか? もうマサコちゃんプンプン!
準備がすっかり整った頃、それら2匹が少しの時間差でノソノソとやってきて、6時40分に3人で「頂きます」となる。これは我が家の朝のしきたりであり、かれこれ10年継続している。
食べ終えて、食器洗いもアタシだ。アタシが命令してほとんどを食洗機君がやる。
洗濯機君も同じ。アタシが命令しなければ、こやつらは働かないわけだから、つまりアタシが全部やってることになる。大阪城を建てた功績が命令した人に与えられるのと同じ道理よ。だからマサコちゃん偉い偉い!
やがてお父さんが「行ってくる」で、その次は天気予報と交通機関情報と運勢のチェックをすませた正男が「姉ちゃん、オレも行くな」と、ちょっと可愛げにいって予備校へと向かう。今日は「射手座の人、ごめんなさ~い!」なんだから、くれぐれも道に気をつけなよ、航空宇宙浪人のマサオちゃん。
テレビのやかましい女の声も消えて、リビングがすこぶる静かになる。アタシはもちろんスマホで、ブックマークしてあるWEB小説をチェックして、更新されてるやつを読む。それから居眠りもする。
目を開けると10時15分になっている。今日も天気がいいことだし〈ブックハンターマサコ〉になって、ちょいと出かけるとしよう。それから帰り道のスーパーに寄って〈食材補完計画〉を発動だな。
よっし、それで決まり!
今朝は休刊日だったので、昨日の新聞に入ってた大量のチラシから、今日〈月曜特売〉をやってるお店を選んで丹念に調べる。
「食パンを買っといて、明日の朝はトーストでいいか。アタシだって毎朝フルスペックで作るのは体が持たないもんね~。まあ目玉焼きと生野菜はつけてやるわよ。それで不服のあるやつは食わんでよろしい。あやつらは文句いうことないけどね、ここ最近は。おお、ブタばら肉だって安いじゃん。あ!」
ブタで思い出した。やろうとしてたことがアタシにはあるのよ!
スマホでトンコを着信拒否にするのさ。でもちょっとだけ考えて、やっぱりやめておくことにした。
あやつが連絡してきやがったら「トンコのブタ、バカッ! 今度こそ絶交よ!!」と叫んでから切って、そして設定すればいいのよ。その方が効果的だと思う。
家を出て駅前までテクテクと歩いてきた。近隣では1番大きいらしい本屋さんに入る。どれほど大きいかというと「駅近7階建てビルの1階がまるごと本棚で埋まっております」と話すだけで近隣人なら誰もが納得するはず。そりゃあもっと巨大なお店だってあるけど、そこへは電車に乗って近隣を抜けねばならぬ。
で、昨日の今日でありながら、しかもこんな場所でこんな時間帯におりながら、アタシは思いもかけない男と遭遇する!
「大森さん」
「あ、パワーショベルウィザード! いや違う、この詐欺師め!!」
「え……?」
周囲のお客さんたちから注目されてしまった。
いくらなんでも、いきなり大声で〈詐欺師〉はまずかったね。
「えっと、どうしよ……、でも、猪野さんのプログラムのせいで!」
「僕のプログラムのせい?」
「そうですよ! あれのせいで、小説メチャクチャになったんだから!」
詐欺師呼ばわりされたり怒鳴られたりしても、この男は逃げず慌てず、また逆ギレすることもなく穏やかな口調で「詳しくお聞かせ願えませんか?」ですって。
そして「書店内での立ち話もなんですから」ということで、近くの適当な喫茶店として、ここがチョイスされたの。
まずアタシが昨夜の大惨事を手短に説明した。
すると猪野さんは「それは、いわゆる〈文字化け〉という現象です」という判断をくだし、続けて「しかし、あのプログラムはデモ版で、そのまま大森さんの手に渡るとは思いもしませんでしたよ。京極さんはどういうつもりだったのでしょう?」と首を傾げる。――いやあ売る気満々でしたよ、あの営業人。
ともかく猪野さんの話によると、どうやら猪野さんとトンコの間でなんらかの行き違いがあったようだ。
昨日のあの場所であのとき、緊急呼び出しを受けた猪野さんは、トンコから「このUSBメモリにプログラムを入れてください」といわれて、理由とか聞く時間も惜しいため「誰か別のプログラマーに見せるのだろうか?」くらいに思って、いわれた通りに例のファイル〈combine.wps〉をコピーしてすぐ現場へ走ったとのこと。
アタシは、男のウソを見破ることにかけては〈神的〉といっても過言ではないレベルに達している、つもりだ。そんな女神のようなアタシの公平かつ厳正なる審判によると、今の猪野さんの言葉に偽りは微塵も含まれていない。
この油性サラリーマン仮面が、神をも越えるポーカーフェースであるなら話は別だけど、でもその可能性は0.5%未満だと思われる。――となると、まずは謝罪が必要だよマサコちゃん。
「あの、さっきはすみませんでした。あんな大声で、詐欺師だなんて……」
「いえいえ。大森さんの誤解が解けたのなら、それで構いませんよ。僕もしっかり確認した上で渡すべきでした。それにしても、僕は詐欺師と呼ばれるのは生まれて初めてのことです。わっははは~」
この男、それが嬉しかったのか……、マゾ?
よくわからないけど、さも愉快そうに例のイケメン僧侶みたいな横顔で笑っている。正面からではちょっと見えにくいね。あー残念!
今日のメニューはまだ決まっていない。前日にお買い物しなかった場合って、特にそうなりがちなのよね~。
我が家の冷蔵庫はちょっと大きめなんだけど、アタシの頭の中に入ってます。といっても「庫内になにが揃ってるか」という情報がだよ。
絶世美女の頭をカチ割ってみたら、大型冷蔵庫が飛び出した! なんてのはB級ホラーだもんね。いや、C級コメディだな。あはは。
今朝は焼き鮭に、大根と油揚げとワカメのお味噌汁。あと納豆と生卵と海苔と梅干しは、いつものようにほしい人が自分でチョイスすればいいだろう。
もちろん「やだあ、炊飯器のスイッチ忘れてる!」なんてヘマはしませんよ。既に過去3回やっちゃってるもんね~。
しっかし、大森家の男たちもなんだな、もっと正子様に感謝すべきだと思うよ。なのにアタシを除け者にして焼肉とカラオケってか? もうマサコちゃんプンプン!
準備がすっかり整った頃、それら2匹が少しの時間差でノソノソとやってきて、6時40分に3人で「頂きます」となる。これは我が家の朝のしきたりであり、かれこれ10年継続している。
食べ終えて、食器洗いもアタシだ。アタシが命令してほとんどを食洗機君がやる。
洗濯機君も同じ。アタシが命令しなければ、こやつらは働かないわけだから、つまりアタシが全部やってることになる。大阪城を建てた功績が命令した人に与えられるのと同じ道理よ。だからマサコちゃん偉い偉い!
やがてお父さんが「行ってくる」で、その次は天気予報と交通機関情報と運勢のチェックをすませた正男が「姉ちゃん、オレも行くな」と、ちょっと可愛げにいって予備校へと向かう。今日は「射手座の人、ごめんなさ~い!」なんだから、くれぐれも道に気をつけなよ、航空宇宙浪人のマサオちゃん。
テレビのやかましい女の声も消えて、リビングがすこぶる静かになる。アタシはもちろんスマホで、ブックマークしてあるWEB小説をチェックして、更新されてるやつを読む。それから居眠りもする。
目を開けると10時15分になっている。今日も天気がいいことだし〈ブックハンターマサコ〉になって、ちょいと出かけるとしよう。それから帰り道のスーパーに寄って〈食材補完計画〉を発動だな。
よっし、それで決まり!
今朝は休刊日だったので、昨日の新聞に入ってた大量のチラシから、今日〈月曜特売〉をやってるお店を選んで丹念に調べる。
「食パンを買っといて、明日の朝はトーストでいいか。アタシだって毎朝フルスペックで作るのは体が持たないもんね~。まあ目玉焼きと生野菜はつけてやるわよ。それで不服のあるやつは食わんでよろしい。あやつらは文句いうことないけどね、ここ最近は。おお、ブタばら肉だって安いじゃん。あ!」
ブタで思い出した。やろうとしてたことがアタシにはあるのよ!
スマホでトンコを着信拒否にするのさ。でもちょっとだけ考えて、やっぱりやめておくことにした。
あやつが連絡してきやがったら「トンコのブタ、バカッ! 今度こそ絶交よ!!」と叫んでから切って、そして設定すればいいのよ。その方が効果的だと思う。
家を出て駅前までテクテクと歩いてきた。近隣では1番大きいらしい本屋さんに入る。どれほど大きいかというと「駅近7階建てビルの1階がまるごと本棚で埋まっております」と話すだけで近隣人なら誰もが納得するはず。そりゃあもっと巨大なお店だってあるけど、そこへは電車に乗って近隣を抜けねばならぬ。
で、昨日の今日でありながら、しかもこんな場所でこんな時間帯におりながら、アタシは思いもかけない男と遭遇する!
「大森さん」
「あ、パワーショベルウィザード! いや違う、この詐欺師め!!」
「え……?」
周囲のお客さんたちから注目されてしまった。
いくらなんでも、いきなり大声で〈詐欺師〉はまずかったね。
「えっと、どうしよ……、でも、猪野さんのプログラムのせいで!」
「僕のプログラムのせい?」
「そうですよ! あれのせいで、小説メチャクチャになったんだから!」
詐欺師呼ばわりされたり怒鳴られたりしても、この男は逃げず慌てず、また逆ギレすることもなく穏やかな口調で「詳しくお聞かせ願えませんか?」ですって。
そして「書店内での立ち話もなんですから」ということで、近くの適当な喫茶店として、ここがチョイスされたの。
まずアタシが昨夜の大惨事を手短に説明した。
すると猪野さんは「それは、いわゆる〈文字化け〉という現象です」という判断をくだし、続けて「しかし、あのプログラムはデモ版で、そのまま大森さんの手に渡るとは思いもしませんでしたよ。京極さんはどういうつもりだったのでしょう?」と首を傾げる。――いやあ売る気満々でしたよ、あの営業人。
ともかく猪野さんの話によると、どうやら猪野さんとトンコの間でなんらかの行き違いがあったようだ。
昨日のあの場所であのとき、緊急呼び出しを受けた猪野さんは、トンコから「このUSBメモリにプログラムを入れてください」といわれて、理由とか聞く時間も惜しいため「誰か別のプログラマーに見せるのだろうか?」くらいに思って、いわれた通りに例のファイル〈combine.wps〉をコピーしてすぐ現場へ走ったとのこと。
アタシは、男のウソを見破ることにかけては〈神的〉といっても過言ではないレベルに達している、つもりだ。そんな女神のようなアタシの公平かつ厳正なる審判によると、今の猪野さんの言葉に偽りは微塵も含まれていない。
この油性サラリーマン仮面が、神をも越えるポーカーフェースであるなら話は別だけど、でもその可能性は0.5%未満だと思われる。――となると、まずは謝罪が必要だよマサコちゃん。
「あの、さっきはすみませんでした。あんな大声で、詐欺師だなんて……」
「いえいえ。大森さんの誤解が解けたのなら、それで構いませんよ。僕もしっかり確認した上で渡すべきでした。それにしても、僕は詐欺師と呼ばれるのは生まれて初めてのことです。わっははは~」
この男、それが嬉しかったのか……、マゾ?
よくわからないけど、さも愉快そうに例のイケメン僧侶みたいな横顔で笑っている。正面からではちょっと見えにくいね。あー残念!
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