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第6章. 絵露井家の崩壊
069. 終末の日のすっぽん鍋
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栗花は〈終末の日の機内食を味わえるレストラン〉でネット注文をした場合に届くまで2時間以上かかると知った。そして40秒だけ迷った挙げ句の果てに、絵露井家がしばしば利用している〈極上・出前迅速3角館の恐怖〉に電話をかける。
味に間違いがないことに加えて、すぐ近所に最寄り店があるので注文してから30分以内に配達してもらえるスピーディーさを重要視してのことだ。これはお世辞でも頭脳明晰とは云えない栗花にしてみると、珍しく頭を働かせた結果である。
「もしもし、絵露井だけど」
『あぁはい、絵露井様ですね。いつもご利用、ありがとぉござまっす!』
「極上・すっぽん鍋の材料セットを、5人前で頼むわ」
『はいはい、毎度どうもって、あれっ、今夜は5人前でよろしいんかしら?』
「そうよ、今日は1人留守だし」
助夫と吾郎が1.5人前を食べるから、いつもは6人前で頼んでいるが、親戚の不幸があったために四穂がそちらへ出向いて不在だから1人前を減らした。
それはそうと、鍋料理を選んだのは理由がある。吾郎から「家族とは認めないのだな」と聞かれて、つい勢いに任せて「当たり前田さんの陰核超特大勃起よ」と云って話を逸らしてしまったものの、すぐ後に考え直して家族4人が久しぶりに鍋を囲むのも悪くないと思ったのだ。
『承知しました。材料をそろえるだけなので、ものの10分でお届けに上がることができると思います』
「それなら助かるわ」
この注文通話を終えたとき、特超の我流真が街亜を引き連れて、土足のまま踏み込んできた。
「ちょっと、ちょっとちょっと! あんたたち、どこの誰よ!」
「ジャパン特別超警察の我流真1佐と街亜1尉だ。お前に尋ねたいことがある」
「だからって、勝手に入ってこないでよね!」
「おい街亜1尉、この女に、卑怯的手段行使容疑者の顔を見せてやれ」
「了解です。さあ女、これをよく見ろ!」
街亜がスマホのディスプレイを向けた。それには、吾郎のアホ顔がアップで写っていたので、栗花は思わず吹き出しそうなったものの、我流真が威圧的な視線を浴びせるので、ここで笑っている場合ではなかった。
「アタシの弟よ、義理のね。けど、それがなにか?」
「この家の庭で殺人未遂事件が発生した。その男を捕らえて連行した」
「は?」
「街亜1尉、被害者も見せろ」
「はい!」
街亜が次に見せたのは、地面に埋まっている裸の満子だ。
「えっ、なによこれ!?」
「犯人は、自分の母親と云ったが、本当か?」
「そうよ、この人は、吾郎の実のお母さんなの」
「よし判った。これで捜索終了だな。帰るぞ」
「了解です!」
男たちの立ち去る姿を見送った栗花は、そのまま思考停止を続けた。
けたたましく響く救急車のサイレンを聞いて正気に戻ったとき、家政婦がカセットコンロやら予備のカセットガス缶やらを運んできた。それから、土鍋やら食器類やら電気ポットやらが順番に持ち込まれた。
その最後は、仕上げとばかりに豪華な〈極上・すっぽん鍋〉の材料がテーブルの上に並べられる。
「せっかく持ってきてくれて悪いけど、これは半分を冷蔵庫に入れておいて」
「かしこまりました」
家政婦は指示に従って淡々と動く。
この半年近くの毎日を、栗花は吾郎・満子・四穂を交えて騒がしくすごしてきたのだが、今夜また助夫と2人だけの侘しい食事になってしまう。
母親も兄弟姉妹もいなかった頃は、それが当たり前で気にもせずに生きていたが、ここへきて家族のなんたるかを知ってしまった栗花は、股間にもう1つぱっくり穴が開いたように感じる。
「チンコチンコ!」
「あっパパ、ちょっと待ってね。今から極上・すっぽん鍋を作るから」
土鍋に電気ポットの湯を張ったり、材料をその中に並べたりして準備してから、カセットコンロに火を点ける。
ほどよく煮えてきたところで食べ始める。
「美味しいわね?」
「チンコチンコ!」
「すっぽんよ」
「すっぽんぽん」
会話はまったく噛み合わないが、すっぽん肉の味は噛み締める2人だ。
半分を食べたくらいで栗花は尿意を催したので、黙って席を外す。その用を終えて居間に戻ったとき、栗花は目を疑った。助夫が予備のカセットガス缶に缶切りで穴を開けていたのだ。
「パパ、やめてーっ!!」
「すっぽんぽん」
手遅れだ。缶から大量のガスが噴き出して、大爆発が起こる。激しい炎が一気に超拡散して、絵露井家の大炎上が始まった。
味に間違いがないことに加えて、すぐ近所に最寄り店があるので注文してから30分以内に配達してもらえるスピーディーさを重要視してのことだ。これはお世辞でも頭脳明晰とは云えない栗花にしてみると、珍しく頭を働かせた結果である。
「もしもし、絵露井だけど」
『あぁはい、絵露井様ですね。いつもご利用、ありがとぉござまっす!』
「極上・すっぽん鍋の材料セットを、5人前で頼むわ」
『はいはい、毎度どうもって、あれっ、今夜は5人前でよろしいんかしら?』
「そうよ、今日は1人留守だし」
助夫と吾郎が1.5人前を食べるから、いつもは6人前で頼んでいるが、親戚の不幸があったために四穂がそちらへ出向いて不在だから1人前を減らした。
それはそうと、鍋料理を選んだのは理由がある。吾郎から「家族とは認めないのだな」と聞かれて、つい勢いに任せて「当たり前田さんの陰核超特大勃起よ」と云って話を逸らしてしまったものの、すぐ後に考え直して家族4人が久しぶりに鍋を囲むのも悪くないと思ったのだ。
『承知しました。材料をそろえるだけなので、ものの10分でお届けに上がることができると思います』
「それなら助かるわ」
この注文通話を終えたとき、特超の我流真が街亜を引き連れて、土足のまま踏み込んできた。
「ちょっと、ちょっとちょっと! あんたたち、どこの誰よ!」
「ジャパン特別超警察の我流真1佐と街亜1尉だ。お前に尋ねたいことがある」
「だからって、勝手に入ってこないでよね!」
「おい街亜1尉、この女に、卑怯的手段行使容疑者の顔を見せてやれ」
「了解です。さあ女、これをよく見ろ!」
街亜がスマホのディスプレイを向けた。それには、吾郎のアホ顔がアップで写っていたので、栗花は思わず吹き出しそうなったものの、我流真が威圧的な視線を浴びせるので、ここで笑っている場合ではなかった。
「アタシの弟よ、義理のね。けど、それがなにか?」
「この家の庭で殺人未遂事件が発生した。その男を捕らえて連行した」
「は?」
「街亜1尉、被害者も見せろ」
「はい!」
街亜が次に見せたのは、地面に埋まっている裸の満子だ。
「えっ、なによこれ!?」
「犯人は、自分の母親と云ったが、本当か?」
「そうよ、この人は、吾郎の実のお母さんなの」
「よし判った。これで捜索終了だな。帰るぞ」
「了解です!」
男たちの立ち去る姿を見送った栗花は、そのまま思考停止を続けた。
けたたましく響く救急車のサイレンを聞いて正気に戻ったとき、家政婦がカセットコンロやら予備のカセットガス缶やらを運んできた。それから、土鍋やら食器類やら電気ポットやらが順番に持ち込まれた。
その最後は、仕上げとばかりに豪華な〈極上・すっぽん鍋〉の材料がテーブルの上に並べられる。
「せっかく持ってきてくれて悪いけど、これは半分を冷蔵庫に入れておいて」
「かしこまりました」
家政婦は指示に従って淡々と動く。
この半年近くの毎日を、栗花は吾郎・満子・四穂を交えて騒がしくすごしてきたのだが、今夜また助夫と2人だけの侘しい食事になってしまう。
母親も兄弟姉妹もいなかった頃は、それが当たり前で気にもせずに生きていたが、ここへきて家族のなんたるかを知ってしまった栗花は、股間にもう1つぱっくり穴が開いたように感じる。
「チンコチンコ!」
「あっパパ、ちょっと待ってね。今から極上・すっぽん鍋を作るから」
土鍋に電気ポットの湯を張ったり、材料をその中に並べたりして準備してから、カセットコンロに火を点ける。
ほどよく煮えてきたところで食べ始める。
「美味しいわね?」
「チンコチンコ!」
「すっぽんよ」
「すっぽんぽん」
会話はまったく噛み合わないが、すっぽん肉の味は噛み締める2人だ。
半分を食べたくらいで栗花は尿意を催したので、黙って席を外す。その用を終えて居間に戻ったとき、栗花は目を疑った。助夫が予備のカセットガス缶に缶切りで穴を開けていたのだ。
「パパ、やめてーっ!!」
「すっぽんぽん」
手遅れだ。缶から大量のガスが噴き出して、大爆発が起こる。激しい炎が一気に超拡散して、絵露井家の大炎上が始まった。
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