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第6章. 絵露井家の崩壊
061. ワリメ超コンピューター説
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まだまだ暑い日が続くが、世間でもホットな話題は絶えない。
株式会社・吹潮社が発行する週刊誌・週刊吹潮、略称〈吹潮〉の9月2日号(8月26日発売)に掲載された特集記事〈ワリメ超コンピューター説〉が今日現在のジャパンでNo.1級に超熱い。
ワリメ超コンピューター説を理解するには、少なくともコンピューターに関する知識が2つ必要である。
まず1つは、昔から考えられている理論〈模擬世界説〉だ。この世界のありとあらゆる事象が超高性能なコンピューターで実行されているプログラム内の事象、コンピューター用語で云うなら〈オブジェクト〉に該当していると考えたものが模擬世界である。その理論によると、この世界の人々が見ているものは、風景であれ悪夢であれ、はたまた道端に落ちている犬の糞であれ、それらはすべてがプログラムによって扱われるデータに該当している。そして人々の存在自体にしても、たとえるならスマホアプリのゲーム内で動くキャラクターのようなもので、犬の糞と同じくデータにすぎない。
そして2つ目に必要な知識は〈グリッドコンピューティング〉と呼ばれる技術で、たとえば800台のパソコンをネットワークを介して結合することによりスーパーコンピューター級にまで計算能力を高め、パソコン1台では莫大な時間を要する複雑なプログラムでも実行できるようにしたものだ。
以上の知識2つを前提として説明すると、1人のワリメが1つの模擬世界を実行している1つのコンピューターであり、彼女たち全員がグリッドコンピューティングの技術に基づき超ネットワークでつながっていて、超絶的に大きく高性能なスーパーコンピューターになっていると云うのが、ワリメ超コンピューター説である。
このような説明では、まだまだ腑に落ちない人もいるだろう。たとえば、この世界自体が模擬世界なのだとしたら、その模擬世界を実行しているはずのワリメが、どうして模擬世界の中に登場しているのか? ――こう云う疑問が頭の中に浮かぶことだろう。それを理解するには、もう1つの概念〈アバター〉を知る必要がある。仮想世界と呼ばれるサービスを利用する人の分身が、キャラクターとして創られて仮想世界の中で動くようにできる。それがアバターと云う概念である。つまり、この世界の人々が見ているワリメは、模擬世界の外に実在しているリアルなワリメのアバターに該当しているのだ。
旬の季節ではないものの、絵露井家の居間では男女5人が極上・ワカメ丼を食べつつ、大画面256型テレビスクリーンで〈WEB版・吹潮〉の特集記事を閲覧して、それに続いて関連するJHKの特別番組『ワリメ超コンピューター説はどこまで真実か!』を見ている。
以前〈第5の相互作用〉で世間に名を広めた若い理論物理学者・早漏苔司が生出演して、ワリメ超コンピューター説の解説を終えたところで、司会の旭弐入造が質問をする場面だ。
『早漏博士は、ワリメ超コンピューター説が、どこまで真実と思いますか?』
『ワリメ超コンピューター説は、どこまでも真実だと思っています』
『そうですか。ではワリメ超コンピューターで実行しているプログラムの模擬世界に、どうしてワリメがアバターとして登場するようになったのですか?』
『いい質問ですよ。それを知るには、もう1つの知識〈コンピューターウイルス〉を知る必要があります。コンピューターで実行されているプログラム内に予期しない形で、別の悪意のあるプログラムが、たとえばネットワークを介して混入することで、とても悪い影響を及ぼすことが昔から会社や個人の間で問題となっていて、ここ最近では〈ランサムウェア〉と呼ばれる、身代金を要求するタイプのウイルスも全世界に広まって深刻な事態を招いています。まあたとえるなら、ワリメのアバターは模擬世界に紛れ込んだバグ、つまり〈超コンピューターウイルス〉に該当しているのです』
『そうですか。今夜はとても詳しい解説を、ありがとうございました』
『はいはい、こちらこそどうも、ありがとうございました』
これで番組は終わった。詳しい解説だったとは云え、専門的な用語と難解な概念が多いため、栗花の弱い頭脳では0.1%も理解できなかった。
「コンピューターウイルスってなに!? アタシにはそれが意味ワカメだわ!!」
「おいおい姉さん、今どき幼稚園児でも知っているぞ」
「バカ吾郎、アタシだってコンピューターウイルスくらい知ってるわよ! なんでワリメがコンピューターウイルスなのかがさっぱりワカメって云う意味よ!!」
「なんだそうか、いつもながら紛らわしいなあ」
「おいこら吾郎、コンピューターウイルスの話はやめろ、ワカメ丼がまずくなる!」
「判ったよ」
助夫に怒鳴られたせいで気分を害した吾郎はワカメを噛み締める。
いくら極上飯を食べるほど食事レベルが高い絵露井家でも、結局のところ会話の内容は、まだまだアソコに毛の生えてこない幼稚園児のレベルにすぎないのだとあらためて浮き彫りにする形になった。
株式会社・吹潮社が発行する週刊誌・週刊吹潮、略称〈吹潮〉の9月2日号(8月26日発売)に掲載された特集記事〈ワリメ超コンピューター説〉が今日現在のジャパンでNo.1級に超熱い。
ワリメ超コンピューター説を理解するには、少なくともコンピューターに関する知識が2つ必要である。
まず1つは、昔から考えられている理論〈模擬世界説〉だ。この世界のありとあらゆる事象が超高性能なコンピューターで実行されているプログラム内の事象、コンピューター用語で云うなら〈オブジェクト〉に該当していると考えたものが模擬世界である。その理論によると、この世界の人々が見ているものは、風景であれ悪夢であれ、はたまた道端に落ちている犬の糞であれ、それらはすべてがプログラムによって扱われるデータに該当している。そして人々の存在自体にしても、たとえるならスマホアプリのゲーム内で動くキャラクターのようなもので、犬の糞と同じくデータにすぎない。
そして2つ目に必要な知識は〈グリッドコンピューティング〉と呼ばれる技術で、たとえば800台のパソコンをネットワークを介して結合することによりスーパーコンピューター級にまで計算能力を高め、パソコン1台では莫大な時間を要する複雑なプログラムでも実行できるようにしたものだ。
以上の知識2つを前提として説明すると、1人のワリメが1つの模擬世界を実行している1つのコンピューターであり、彼女たち全員がグリッドコンピューティングの技術に基づき超ネットワークでつながっていて、超絶的に大きく高性能なスーパーコンピューターになっていると云うのが、ワリメ超コンピューター説である。
このような説明では、まだまだ腑に落ちない人もいるだろう。たとえば、この世界自体が模擬世界なのだとしたら、その模擬世界を実行しているはずのワリメが、どうして模擬世界の中に登場しているのか? ――こう云う疑問が頭の中に浮かぶことだろう。それを理解するには、もう1つの概念〈アバター〉を知る必要がある。仮想世界と呼ばれるサービスを利用する人の分身が、キャラクターとして創られて仮想世界の中で動くようにできる。それがアバターと云う概念である。つまり、この世界の人々が見ているワリメは、模擬世界の外に実在しているリアルなワリメのアバターに該当しているのだ。
旬の季節ではないものの、絵露井家の居間では男女5人が極上・ワカメ丼を食べつつ、大画面256型テレビスクリーンで〈WEB版・吹潮〉の特集記事を閲覧して、それに続いて関連するJHKの特別番組『ワリメ超コンピューター説はどこまで真実か!』を見ている。
以前〈第5の相互作用〉で世間に名を広めた若い理論物理学者・早漏苔司が生出演して、ワリメ超コンピューター説の解説を終えたところで、司会の旭弐入造が質問をする場面だ。
『早漏博士は、ワリメ超コンピューター説が、どこまで真実と思いますか?』
『ワリメ超コンピューター説は、どこまでも真実だと思っています』
『そうですか。ではワリメ超コンピューターで実行しているプログラムの模擬世界に、どうしてワリメがアバターとして登場するようになったのですか?』
『いい質問ですよ。それを知るには、もう1つの知識〈コンピューターウイルス〉を知る必要があります。コンピューターで実行されているプログラム内に予期しない形で、別の悪意のあるプログラムが、たとえばネットワークを介して混入することで、とても悪い影響を及ぼすことが昔から会社や個人の間で問題となっていて、ここ最近では〈ランサムウェア〉と呼ばれる、身代金を要求するタイプのウイルスも全世界に広まって深刻な事態を招いています。まあたとえるなら、ワリメのアバターは模擬世界に紛れ込んだバグ、つまり〈超コンピューターウイルス〉に該当しているのです』
『そうですか。今夜はとても詳しい解説を、ありがとうございました』
『はいはい、こちらこそどうも、ありがとうございました』
これで番組は終わった。詳しい解説だったとは云え、専門的な用語と難解な概念が多いため、栗花の弱い頭脳では0.1%も理解できなかった。
「コンピューターウイルスってなに!? アタシにはそれが意味ワカメだわ!!」
「おいおい姉さん、今どき幼稚園児でも知っているぞ」
「バカ吾郎、アタシだってコンピューターウイルスくらい知ってるわよ! なんでワリメがコンピューターウイルスなのかがさっぱりワカメって云う意味よ!!」
「なんだそうか、いつもながら紛らわしいなあ」
「おいこら吾郎、コンピューターウイルスの話はやめろ、ワカメ丼がまずくなる!」
「判ったよ」
助夫に怒鳴られたせいで気分を害した吾郎はワカメを噛み締める。
いくら極上飯を食べるほど食事レベルが高い絵露井家でも、結局のところ会話の内容は、まだまだアソコに毛の生えてこない幼稚園児のレベルにすぎないのだとあらためて浮き彫りにする形になった。
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