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第6章. 絵露井家の崩壊

060. 金珠華瑠奈の告知

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 お立ち台の上で金珠は5分くらいどうでもよい話を続けた。このオバさんは前置きに時間をかけすぎて内容も冗長なことで身内・他人を問わずに広く知られているが、今夜は普段にも増していっそうの拍車がかかっている。

「えー、さて皆さん、アタクシが今日この場へ参上しましたのには、重大な告知をする大切な目的のためでもあります。それを発表します。よく聞いてくださいよ」

 金珠がマイクを口元から遠ざけて、スタジアムが静まるのを待った。
 超満員の観客は静粛にして、金珠からの発表に耳を傾ける。お立ち台の横にいる筋好も息を飲む。

「えー、皆さん心の準備はよろしいでしょうか? 云いますよ? しっかり聞いてくださいね。ワリメは、えー、そのワリメと云う生物は確かに。存在していますことに、ようやくアタクシも知ることができました。それを教えてくれたのは、こちらにおられます自由共生党、あー、今日からはワリメ共生党なのですが、その総裁・筋好総理、この人です!」

 スタジアムの大迫力32Kエキシビション大画面に「ワリメは存在しています!」と云う金珠の言葉が大写しされて、観客席で割れんばかりの大喝采が発生した。
 またテレビ各局が「ジャパニーズ主権党、党首・金珠華瑠奈がワリメの存在を認めました」などの内容でニュース速報を流した。
 金珠はスタジアムが静まるのを待ってから再度マイクを口元へ近づける。

「実はもう1つ重大な発表があります。アタクシたちジャパニーズ主権党は、ワリメ共生党に合流することを決めました。調整は最終段階に入っています」

 この内容についてもニュース速報で全国的に伝わり、また新聞各紙が久しぶりに号外を出す。
 ネット界隈でもリアルタイムで大きな反響がある。たとえば「新自由オナニー党に対抗するためにそこまでやるか?」やら「野合すぎて超ウケる~」やら「ジャパン史上超無節操な政党爆誕!」など批難する声が非常に多い。
 告知を終えた金珠がお立ち台から降りた。大人しく待っていた筋好が「次はワシの出番だ!」と云わんばかりのドヤ顔でマイクを受け取る。
 だがしかし、突然にして金珠が苦しそうに悲痛な呻き声を発するのだ。

「ぐうぅぅ、産まれるぅ~」
「な、なんだと、産まれるのか!!」
「びゃええええーん!」

 この超絶的な絶叫と同時に、金珠のスカートの中から物体が落下した。ジャパニーズが普段よく食べる通常の鶏卵の3倍は大きいそれは、マウンドに落ちたものの、割れるどころかヒビが入ることもなかった。
 この奇妙な光景が大迫力32Kエキシビション大画面に大写しされているので、観客たちが手に汗を握りながら見守っている。
 筋好が近づき、白手袋を嵌めて落ちている物体を拾った。

「ポロりと産まれまたのはワリメの卵だった!」

 マイクを通して筋好が観客に説明した。
 エキシビション大画面にも電光石火で「ポロり、金珠華瑠奈が生産卵!」と表示された。これによってスタジアムが再びどよめく。
 ネット界隈も超お祭りモードで、たとえば「ポロりもあるってそれかよ!」や「期待で勃起しながら見てたオレの勃起エナジーを返せ!」と云うブーイングが非常に多いものの、中には「金珠華さん、ワリメ産卵おめでとう!」など祝福のメッセージも少なくはない。
 告知の通り後日、ジャパニーズ主権党議員のうち大多数が、筋好の総裁するワリメ共生党に入党する。これによってワリメ共生党は、前日まで最大の国会議員数を誇っていた新自由オナニー党の議員数を大きく上回って、衆参の両議院で第1党にのし上がった。それから晴明党と連立する第2次・筋好改造内閣を発足させて、新しく作った〈ワリメ庁〉の大臣に金珠華を起用した。
 これを受けてインタビューに応じた新自由オナニー党の党首・四里之しりの香織かおりは「私たち新自由オナニー党は、政権交代のために今まで通り臥薪嘗胆・換骨奪胎・誠心誠意で邁進するのみです」とコメントした。ワリメ共生党入りを拒否したジャパニーズ主権党議員の全員が新自由オナニー党に加わったこともあり、各党の動きは今後も注目されるところだ。
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