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第5章. ジャパン経済の復活

054. ワリメノミクス

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 四里之香織の産んだ卵から孵ったワリメ風クリーチャー〈栗取り栗鼠クリトリリス〉のデオキシリボ核酸、略称〈DNA〉が調べられた。
 その結果は超驚くべきことだが、ジャパニーズのDNAと99.5%以上一致していることが判明した。云うまでもなくネット界隈は大騒ぎしていて、特に「ドクターくすえの〈ワリメ宇宙人説〉はデタラメだったのか!」とか「香織ちゃんの赤ちゃん・クリトリリス万歳!」とかの声が多い。
 だがしかし、それは取りあえずどうでもよい。なぜなら今まさに内閣総理大臣・筋好すじすき太郎たろうが臨時の記者会見を行っていることが、ジャスト・ナウのリアルタイムで大きな話題になっているからだ。

「ジャパン経済の復活を果たすため、ワシは3本の矢を示す。よく聞け! まずはエネルギー政策だ。資源に対する考え方、そして運用を大きく変えるときが既に、目の前にきている。電力について、これまでは石炭や液化天然ガスに頼ってきたが、今後は新妖怪ワリメに委託する形での〈ワリメ超子力発電〉を中心の柱とする。この新しい発電なら只同然に電気をえられるし、しかもクリーンで安全だからだ。したがって石炭、液化天然ガス、さらに石油、原子力は、もはや電気を作るために使う必要はまったくなくなった。また風力、水力、それから太陽熱による発電は念のため残しておくことに決めた。ガソリンカーを5年以内に1台残らず廃止して、すべてをエレキカーにできる。ゆくゆくは、各国に電気を輸出して外貨を荒稼ぎする。次に原油についてだが、もはや輸入の必要がない。なぜなら、ワリメの排出する糞や尿は良質な原油そのものだからだ。ワリメの人口が増えれば、原油の輸出も可能になるだろう。天然ガスについては、メタンやエタンと云った炭化水素ガスの混合気体をワリメの放屁でまかなえるので、もはや海外に頼る気は河童の屁ほどもない。それとシーオーツー排出問題についても、1言だけ云っておく。ワリメはシーオーツーを大量に吸収して天然ガスを出すことが判っている。ワリメ1人による放屁と呼吸で1年に800万立方メートルえられる。これは標準的な家庭における年間の都市ガス消費量の3万倍を優に超えている。そして3本目の矢は国防戦略だ。ワリメ反超子力爆弾を各地に配備して有事に備える。これは専守防衛にのみ使用する。なにか文句あるか?」
「はいっ!!」

 最前列にいる若い記者が我先とばかりに挙手した。

「なんだ?」
「えー、朝毎あさまい新聞社・記者の聞屋ぶんや筆下志ふでおろしです。ワリメ反超子力爆弾とは、どのようなものですか。それは非核3原則に違反しませんか? また爆弾のスイッチは、誰が押すことを判断するのですか?」
「おいお前、1度に3つも質問するな!」
「すみません。でも、どうかお答えください。ジャパニーズの誰もが、それを知りたがっているはずです」
「ふん、まあよい、教えてやる。ワリメ反超子力爆弾は、どんなミサイルでも爆弾でも糞でもなんでもジャパンの領海・領土へ落とされる前に空中で消滅させる。詳しいことは知らんが、反粒子による対消滅と云う奴だ。次に非核3原則のことだが、ワリメ反超子力爆弾は核兵器ではないから、違反も糞もない。爆弾のスイッチは誰も押さない。スイッチはないのだ。ワリメが爆弾を発射する。判ったか!」
「はい。あでも、爆弾の発射を決めるのは誰ですか?」
「お前はバカだ! 発射はワリメが決めるに決まっとる」
「あ、そうでしたか。ありがとうございます」

 聞屋が座り、その近くの男が手を挙げる。

「はい!」
「次はお前、なんだ」
「JHKの旭弐きょくに入造いるぞうです。総理は、経済政策として3本の矢をお示しになりましたが、3つ目が国防戦略なのは、どう云うことでしょうか?」
「ワリメ反超子力爆弾があれば、戦闘機も戦車も迎撃ミサイルもありとあらゆる既存の戦力は不要となる。国防軍人も大幅に減らせる。その分の費用を福祉、教育費、国会議員のボーナスやらなんやらに回せるのだ。そうすれば税金が減らせるし、ジャパニーズは収入が増えてジャパン経済が潤う。これくらい、判るだろ?」
「はい判ります、すみません」
「さっさと座れ! 他にないか?」

 2列目の席にいる女性が手を挙げる。テレ帝のエロ度No.1美人アナとして知られている陳湖田ちんこだ萌絵もええ、通称〈チンパン〉だ。

「はーい!」
「あっ、お前はテレビ帝京のポンコツだな」
「褒め言葉ありがとーござ。えへっ♪」
「アホだろお前! 質問がないなら座れ!」
「質問ありまーす。その経済政策は、どう云う名称にしますか?」
「ワリメノミクスだ」
「ありきたりぃ~」
「黙れアバズレ女め! 他に文句あるバカはいるか? いないな、終わりだ!」

 筋好は、苦虫を噛み潰したような顔をして退場する。
 この翌日にJHKが世論調査を行った。その結果は、超驚いたことに第2次・筋好内閣の支持率が前回の42%から92%まで大幅にアップした。
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