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第5章. ジャパン経済の復活
051. ダブリュー資金
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いつの時代であっても儲け話は、次から次へと虫のように沸いて出ては弾けて消える泡のようなものだが、ここ最近のジャパンでは、山師から真面目にコツコツと給料を稼ぐサラリーマン、さらにはまだ尻の青い包茎の中学生坊やに至るまで、多くのジャパニーズを興奮させている「ワリメの死体はパラジウムに変化する」と云う噂がある。大勢において「そんなうまい話あるものか」とか「錬金術なんて時代遅れの発想だ」と云う冷静沈着な意見が圧倒的に多い。
どう考えても眉唾としか思えないような〈ワリメの死体=パラジウム説〉なのだが、どうやら信憑性がなきにしもあらずと云ったところの学術的理論であり、この話の出所は判然としている。それは北米連邦サイエンス協会が毎週木曜日に発行している総合科学雑誌『mature』に掲載された第1ジャパン帝国大学工学部マテリアル工学科準教授・銭轡歪朗(35歳)の論文「W funds really exist!(ジャパニーズ訳:ダブリュー資金は本当にあった!)」だ。
その論文によると、1千万年前からこのジャパンの大地に生息していたワリメは、己の死期を悟ると誰もが北海道を目指して旅立ち、ナメッコ大湿原(またはオメッコ大湿原)と呼ばれる湿地帯に辿り着き、そこで最期のときを迎えてきた。そのため大湿原の沼底には大量のパラジウムが埋まっていると云う。
パラジウムは今も高騰が続いていて金(ゴールド)やプラチナなどよりも高価な貴金属である。では北海道にどれくらいの埋蔵量があるのかと云うと、もしナメッコ大湿原でワリメの死体をすべて掘り起こすことができれば、北米連邦が管理する金塊貯蔵庫・チンポノックスおよびジースポットにある金塊と、そしてロサンゼルス連邦準備銀行、略称〈ロス連銀〉の地下に眠る金塊をすべて掻き集めた額の800万倍にも及ぶ天文学的超巨額をえて間違いなく太陽系でNo.1の大富豪になれるそうだ。
だがしかし、ナメッコ大湿原がどこにあるのかを正確に知る者がいないのも疑いようのない事実である。実は〈パシフィック大戦〉でジャパンに勝った北米連邦が、戦後のジャパンを一時的に占領していたのだが、その際に北海道で大量のパラジウムを採掘して、その蓄えが秘密資金になっていると云う噂は、ずっと以前から囁かれているが、残念ながら真相は深い闇に包まれてきた。それだけに今回の銭轡による論文発表がジャパンは元よりワールドに大きな波紋を広げ、ネット界隈でも〈ダブリュー資金〉がトレンド入りしている。
絵露井家の居間では男女5人が極上刺身のアワビ・赤貝・ウニ・鯛・ヒラメ・本マグロの大トロやらなんやらを食べつつ、大画面256型テレビスクリーンでJHKの特別番組「ダブリュー資金は本当にあるのか?」を見ている。
銭轡が生出演して、彼の学術的理論を詳しく解説しているところだ。
『北米連邦の占領軍が北海道で掘り当てたパラジウムは全体の8万分の1%にも満たない量です。だからまだまだものすごい量の埋蔵量が残っています。そもそもナメッコ大湿原と云うのは、ある意味において北海道の全体なのですよ』
『とてつもない広さですねえ』
『そうです』
『でもどうして、北米連邦はもっと多くのパラジウムを掘り出すことができなかったのでしょうか?』
『やはりそれはワリメの祟りによるものだと思います』
『は?』
『ワリメの死体を掘り起こそうとすると、ワリメ渇望症やワリメ露出症と云った奇病に罹ってしまいます。それが怖くて北米連邦の占領軍は早期に撤退したのです』
『そうですか。今日はありがとうございました』
『あ、はい、ありがとうございました』
番組が終わり、間髪を容れずに栗花が意見を述べる。
「パラジウムってなに?」
「いや姉さん、今の説明を聞いてなかったのかよ。貴金属だよ、原子番号46、元素記号Pdのな」
「だからなに?」
「あいや、まあだからってどうってこともないけどな」
「おいこら吾郎、お前は教科書に載っていることしか知らないくせに、そんな偉そうにするな!」
助夫が怒鳴りつけるが、吾郎の実の母親である満子がかばう。
「教科書に載っていることを覚えている吾郎は偉いわよ」
「そうか、判った。だがそれより、ワシは性交したくなった」
「ワタシもよ」
いい歳の助夫と満子は手をつないで居間から出て行った。
残った吾郎はあきれ果てて、残されている極上刺身を爆食いする。
どう考えても眉唾としか思えないような〈ワリメの死体=パラジウム説〉なのだが、どうやら信憑性がなきにしもあらずと云ったところの学術的理論であり、この話の出所は判然としている。それは北米連邦サイエンス協会が毎週木曜日に発行している総合科学雑誌『mature』に掲載された第1ジャパン帝国大学工学部マテリアル工学科準教授・銭轡歪朗(35歳)の論文「W funds really exist!(ジャパニーズ訳:ダブリュー資金は本当にあった!)」だ。
その論文によると、1千万年前からこのジャパンの大地に生息していたワリメは、己の死期を悟ると誰もが北海道を目指して旅立ち、ナメッコ大湿原(またはオメッコ大湿原)と呼ばれる湿地帯に辿り着き、そこで最期のときを迎えてきた。そのため大湿原の沼底には大量のパラジウムが埋まっていると云う。
パラジウムは今も高騰が続いていて金(ゴールド)やプラチナなどよりも高価な貴金属である。では北海道にどれくらいの埋蔵量があるのかと云うと、もしナメッコ大湿原でワリメの死体をすべて掘り起こすことができれば、北米連邦が管理する金塊貯蔵庫・チンポノックスおよびジースポットにある金塊と、そしてロサンゼルス連邦準備銀行、略称〈ロス連銀〉の地下に眠る金塊をすべて掻き集めた額の800万倍にも及ぶ天文学的超巨額をえて間違いなく太陽系でNo.1の大富豪になれるそうだ。
だがしかし、ナメッコ大湿原がどこにあるのかを正確に知る者がいないのも疑いようのない事実である。実は〈パシフィック大戦〉でジャパンに勝った北米連邦が、戦後のジャパンを一時的に占領していたのだが、その際に北海道で大量のパラジウムを採掘して、その蓄えが秘密資金になっていると云う噂は、ずっと以前から囁かれているが、残念ながら真相は深い闇に包まれてきた。それだけに今回の銭轡による論文発表がジャパンは元よりワールドに大きな波紋を広げ、ネット界隈でも〈ダブリュー資金〉がトレンド入りしている。
絵露井家の居間では男女5人が極上刺身のアワビ・赤貝・ウニ・鯛・ヒラメ・本マグロの大トロやらなんやらを食べつつ、大画面256型テレビスクリーンでJHKの特別番組「ダブリュー資金は本当にあるのか?」を見ている。
銭轡が生出演して、彼の学術的理論を詳しく解説しているところだ。
『北米連邦の占領軍が北海道で掘り当てたパラジウムは全体の8万分の1%にも満たない量です。だからまだまだものすごい量の埋蔵量が残っています。そもそもナメッコ大湿原と云うのは、ある意味において北海道の全体なのですよ』
『とてつもない広さですねえ』
『そうです』
『でもどうして、北米連邦はもっと多くのパラジウムを掘り出すことができなかったのでしょうか?』
『やはりそれはワリメの祟りによるものだと思います』
『は?』
『ワリメの死体を掘り起こそうとすると、ワリメ渇望症やワリメ露出症と云った奇病に罹ってしまいます。それが怖くて北米連邦の占領軍は早期に撤退したのです』
『そうですか。今日はありがとうございました』
『あ、はい、ありがとうございました』
番組が終わり、間髪を容れずに栗花が意見を述べる。
「パラジウムってなに?」
「いや姉さん、今の説明を聞いてなかったのかよ。貴金属だよ、原子番号46、元素記号Pdのな」
「だからなに?」
「あいや、まあだからってどうってこともないけどな」
「おいこら吾郎、お前は教科書に載っていることしか知らないくせに、そんな偉そうにするな!」
助夫が怒鳴りつけるが、吾郎の実の母親である満子がかばう。
「教科書に載っていることを覚えている吾郎は偉いわよ」
「そうか、判った。だがそれより、ワシは性交したくなった」
「ワタシもよ」
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