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第4章. ワリメ大論戦

039. 波乱の衆議院本会議

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 吾郎が大画面256型テレビスクリーンに映し出されている緊急の情報を踏まえて、ここぞとばかりのドヤ顔で語る。

「自共党総裁の突然死。これでますます首班指名の結果が判らなくなったよ」
「首班指名ってなによ? アタシには、そっちが判らないわよ」
「おいおい姉さん、それでも高校を卒業できたのか??」

 吾郎が蔑むような目で見るので、栗花はムカついた。
 すかさず助夫が云う。

「吾郎こそ、首班指名がなにか知っておるのか?」
「ああ知っているぞ! 内閣総理大臣を指名することだ!」
「吾郎、お前は間違っておる」
「はあ?」
「内閣総理大臣を指名するのなら、ありのままに〈内閣総理大臣指名〉と云えばよいではないか。それなのにどうして〈首班指名〉なのか、ワシは只そのことのみを問うておるのだ」
「えっ!!」
「答えらないのかインポの青2才。見ろ、7つの海を汚染水やらプラスチックゴミやらで汚し続けてきた団子虫どもが、まるで可燃ゴミのようだ。このワシの糞を逃れるために落としてきやがった神もどきがワリメだと! 昆虫にもなれず資源ゴミにもなりきれぬ哀れで醜い、それでいて萌えカワイイ新妖怪だ? お前にジャパンの政治を語れるものか!」
「くっそぉ……」

 どこかで聞いたような長い台詞で助夫が叱責したため、吾郎は悪態を吐いて、しかも地団駄を踏んで悔しがった。
 そんな若造に対して、助夫が勝ち誇ったように解説をつけ加える。

「答えすべては旧〈大ジャパン帝国憲法〉の中だ。総理大臣はと記述してあった。その名残りで現行〈ジャパン国憲法〉下の今なお、その呼称のまま続けて使われておるのだ。判ったか吾郎!」
「ちっ、判ったよ」

 吾郎が云い返せなくなり、絵露井家の居間は静まる。
 またテレビスクリーンに映し出されている特別国会開催中の議事堂・衆議院本会議場では、穴留朕歩の発情・抱きつき行為・桃色射精と云う、えげつない一連の変態行動から心肺停止に至るまでの突発的事態によって蜂の巣を叩き割ったような喧騒に包まれたせいで、衆議院正副議長の選出は一時中断となっていた。
 本会議は30分間の休憩を挟んでから再開することに決し、若干は落ち着きを取り戻しつつある。
 だがしかし、猫の門病院に救急搬送されている穴留総理の訃報が議員たち各個の耳へ飛び込んできたために、国会議事堂の中が再び騒々しくなった。
 特に頭を悩ませるのは自由共生党と晴明党である。首班指名選挙で総理大臣に指名しようとしていた穴留朕歩が死んだため別の誰かに決めなければならない。自共党は党首が不在となったのだから、晴明党の代表・素股手すまたで一発はじめを推す声が上がるものの、今回の衆院選で大きく議席を減らしたことの責任を取り代表を辞任する意向を示している素股手は、自分なんかに務まらないと尻尾を巻いて辞退する。
 そこで「ワシにやらせろ!」と、しゃしゃり出たのが男1匹79歳・筋好すじすき太郎たろうだ。
 自共党と晴明党の衆議院議席数は、死んだ穴留を除いて合計225で過半数割れしている。ワリメ歓迎党の11を上乗せすると過半数だが、ワリメを歓迎する党でも自共党に協力する気はなく、彼らは首班指名で党首の名前〈貧乳推しスペルマン〉を書くと明言して憚らない。
 他の野党は、7党大連立政権の発足を実現しようとして、合計227人がジャパニーズ主権党の党首・金珠華瑠奈を総理に選ぶつもりだ。こちらも過半数割れだが、上位2名の決選投票では過半数を取れなくてもよいので、衆議院で金珠が首班として指名される可能性は大きい。参議院でも金珠が選ばれる見込みになっていて、政権交代の実現とジャパン初の女性総理誕生も夢ではない。
 だがしかし、それでもまだ筋好には勝算がある。実は先の通常国会の会期中に自由共生党を離党して主権党へ走り、4野党による内閣不信決議案を可決に導いた立役者の10人に対して水面下での画策を試みている。具体的には、自共党への復党を餌にして投票用紙に〈筋好太郎〉と書かせようとしている。それで過去のことはすべて水流にチャラしてやろうと云うのだ。この狙い通りに筋書きが進めば、退陣に追い込まれた筋好内閣の復活を果たせる。
 決められていた休憩の時間がすぎて、波乱の衆議院本会議が再開し、まず正・副の議長を選出した。これから首班指名選挙の投票が始まる。
 衆議院本会議場は今まさに風雲急を告げる状況の真っ只中だ。
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