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第1章. 絵露井家の騒動

012. 正真正銘のジャパニーズ

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 吾郎の話が事実ならば、彼が遭遇した奇妙奇天烈な生物は、このジャパンの大地に1千万年以上も大昔から生きている正真正銘のジャパニーズなのだ。
 だがしかし、老境に差しかかり既にふにゃふにゃになったチンポコリンをぶら下げている助夫ではあっても、頭の中身だけは骨格標本のガイコツ以上に固いものだから、吾郎の言葉を信じる術がなかった。

「やはりバカげたお伽話にすぎなかったか。春眠暁を覚えぬワシの貴重な睡眠時間を奪い取ったことについては、いずれ示しをつけることにしよう。今のワシは、ひたすら屁をこいて3秒後に眠りに就くことでしか救われない。さあそこをどけ!」
「待ってくれ父さん!」

 吾郎は叫び、立ち去ろうとしている助夫の進路を妨害した。
 それからもう1人が、この頑固老人の右腕をつかんで動きをとめる。

「また逃げる気なの?」
「おいおい栗花まで! まさかお前は、このチンポコ野郎にてられたのか?」
「そんなのじゃないわ。アタシはピンクと白の縞々パンツを穿いていると云う、その小さなキャラクターに興味津々なの。ええ興味ばかりか小陰唇も陰核も充血しているの。勃起したままじゃ眠れないわ」
「なに勃起しただと! 処女のお前をそこまで奮い立たせるような話なら、嘘偽りだとしても最後まで聞いてスッキリするしかないなあ、今回に限っては」
「よく判らない理屈だけどまあいい。だけどこれだけは云っておく。オレの話す体験談はお伽話でも作り話でもない。本当にあったことだから、そのつもりで聞けよ」
「ご託はそのくらいで、さっさと話せ!」

 10歳だった吾郎が夏の日の夜に体験したことのすべてを18歳の吾郎が語った。
 部屋に入ってきた謎の生物は、現代ジャパンに偏在しているどの現生ジャパニーズよりも流暢なジャパニーズを話して、自らがどう云う存在であるかを説明したのだ。
 およそ4千万年前、ジャパンがユーラシア大陸の一部分であった太古のことであるが、ジャパンは神域であったために強い結界で守られていた。そのため他の猿どもと違って、ジャパンの猿は毛並みが美しかったし脳も洗練されていて独自の進化を遂げるようになった。
 そうして今から1千万年前にジャパニーズが完成した。身長30センチメートルくらいの女性的な丸みを帯びた女体で、ピンク色に近い肌色をしていて、大きな頭、ペチャンコな胸、丸見え状態の小さい臍、そしてピンクと白の縞々パンツを穿いている。これこそ正真正銘のジャパニーズである。

「それは女ってこと? 男はどんな姿なの?」

 栗花の疑問はもっともだ。
 だがしかし、吾郎は否定するしかなかった。

「そのジャパニーズが云うには、正真正銘のジャパニーズには雌雄の区別がない」
「え、それじゃつまり、雌雄同体ふたなりってこと?」
「いや違う。あえて云うなら雌唯一体しゆいつたいなんだよ」
「と云うことは、メスだけで子を作れるの?」
「そうじゃない。さすがに雌唯一完全体しゆいつかんぜんたいとはいかなかった。それはDNAの仕組み上どうしても無理だったんだよ」
「だったらどうやって子孫を残すのよ? 交尾とかしないの? オナニーは?」

 やはり今度も栗花の疑問はもっともだ。
 だがしかし、吾郎は再び否定的な返答をするしかなかった。

「こんな言葉を使っても姉さんが理解できる保証はないけど、正真正銘のジャパニーズは1世10万歳系いっせいじゅうまんさいけいなんだよ。要するにジャパニーズはジャパニーズの神が産む存在で全員が1世代限りで平均寿命が10万歳。だから基本的に交尾はしない。オナニーはする1柱もあればしない1柱もある」
「もうわけ判んないわ……」

 話についてこられない栗花を放置して吾郎は説明を続けた。
 現代のアース上空はオゾン層が大きく破壊されてしまい、ジャパニーズの神は現在では、もうジャパニーズを産めなくなっている。これは正真正銘のジャパニーズが絶滅する危機的状況であり、それを回避するために苦肉の策が採られた。
 それが、似非えせジャパニーズのオスを真ジャパニーズに換えるジャパナイズと云う超法規的神憑り措置であり、最初の対象者が吾郎だったのだ。

「やっぱ無理、ついて行けない……」

 栗花にはどうしても理解できなかった。
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