魔鬼祓いのグラディウス

紅灯空呼

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6章 一つの戦いが終わった

新たなる決意と夢

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「あいつも、もう少しすれば目を覚ますだろう」

 少し離れた場所にセブルが横たわっている。レイヌによる外科的治療は、リルカのお願いに助けられて成功した。止めていた血流も戻っている。

「さて、あまり時間がないから手短に話そう。私はこの娘と一緒に海を渡り、エングラン皇国へと向かう。魔鬼の女王E討伐のためにな」

 レイヌは、両の目玉の色が異なる風変わりな少女の頭を幾度か撫でつつ、話を続けた。
 祓い切れていない魔の邪気がセブルに憑こうとしていたのだ。それを察知したレイヌは、止むを得ずセブルの心臓を杭で貫いた。そうしなければ、セブルは魔鬼化してリルカたちを喰い殺したに違いない。
 また、二体目の女王Gを倒してミルティとプエルラを救った少女は、魔の邪気を喰うことで魔鬼を退治する能力を有する、いわゆる魔鬼喰い巫女だ。
 何れにしても、一つの戦いが終わった。二体の魔鬼デモン・デ・女王コニギンGは完全に消滅したのである。
 こうしてセブルたちは辛うじて無事だった。作戦は成功で幕を閉じたのだ。

 レイヌと魔鬼喰い巫女が立ち去って数分後に、セブルが意識を回復した。不思議なことに、胸の傷口は完全にふさがっていて痛みも全くないそうだ。

「そうか、レイヌ伯父さんが……」

 プエルラたちから説明を聞き、セブルは状況を理解した。
 そして、今やるべき最善の行動を考えた。

「とにかくだ。さっさとここから引き上げよう。ゲルマーヌ国軍の連中に見つからないうちにな」
「そうですわね」
「あたし、お腹空いたぁ。ウインナーいっぱい買ってよね、セブル」
「そだね。わたしも、ウインナー食べたいよお」

 お腹をさするミルティとリルカ。せっかくゲルマーヌ国まできたのだから、是非とも本場の美味しいウインナーを食べたいと思っている。
 もちろんセブルもプエルラも空腹だ。

「よおしっ、勝利者ヴィクトワールの僕たちはウインナだな」
「ういんな?」
「ウインナ?」

 聞いていたプエルラが冷笑を浮かべた。

「エングラン語ですわ。あなた方がお食べになりたいものと、勝利者の両方の意味でおっしゃっていてよ。判りませんわね。発音がなってませんもの。おほほほ」
「ん?」
「あははは」
「…………」

 皆で勝利とウィンナーの両方を噛み締めることに決まった。
 四人は急いでダイダロウス・オテルまで戻り、まずプエルラとミルティが熱い湯を浴びた。ミルティの次はリルカだ。そして、遅れてプエルラが終えた頃には、もう湯は出なくなってしまっていた。

「セブルぅ、ごめんねえ」
「わたくしが使い過ぎましたわ」
「おう。大丈……ぶぇ、ぶえっーぐしゅっおおぉん!! ぶぅぅ~」
「あああ、セブル風邪ひいちゃったかもね」

 セブル一人だけは、仕方なく水を浴びることになったのだ。

 セブルたち四人は街の屋台広場にやってきた。
 彼らが囲む円卓の上にはあるのは、鉄板で焼かれたウィンナーが十人前。温野菜の大盛りが一皿。丸いパンが四個。水瓶。コップと小皿が四つずつ。
 各自が既にフォークを握っている。

「ふぅぅ。これでやっと終わったって感じだなあ」

 ここでセブルは念のため声を落とした。

「でも、明日になってゲルマーヌ国軍のやつらが見たら驚くだろうよ」
「みんな壊れてるんだもんね。うぅん、美味しいねっ、リルカ」
「そだね、美味しいよお、ミルティ」
「確かに美味しいですわね」
「おい、野菜食べろって。あとパンも!」

 沢山食べてからオテルに戻り、四人はすぐ眠くなって寝た。
 明日・明後日は、きた道を逆に辿ってひたすら歩くのみだ。肩の荷はずいぶんと軽くなったのだが、村へ無事に帰還するまでの間、まだまだ完全には警戒を解けない。

 翌朝早くに、四人はダイダロウス・オテルを立った。
 日輪が地に隠れる頃には、くる時にも立ち寄った岩場の温泉に到着した。ここでまた一晩を明かして、明日はやっとブルセル村に帰り着く。

「三人で先に入れよ。僕はまた後で入るから」
「ええぇ~、またぁ~。ねえねえ一緒に入ろうよぉぉ~」
「ふんっ、セブルってば。ホントは一緒に入りたいくせにっ!」
「あらまあセブル。やはりそうですのね?」

 前回同様、一緒に入りたがる三人の誘いを、セブルはまた拒絶した。結局今回もぶつぶつ云いながら女の子たちが湯に向かう。
 出立前、フッゼルのエポケーで完全に捨象された「セブルのエッチ妄想」も、今ではとっくに復活している。さすが十六歳の男子だ。
 しかし、誘われたからといって、ほいほい一緒に湯に浸かる訳にいかないのもまた十六歳の男子。ほんの少しだけは残念に思いながらも、セブルは自らの誇りを守るべく、きっぱり断ったのだ。

 セブルたちは、明後日の土曜から水曜まで連続五日間の特別休暇を貰えることになっている。それが過ぎれば通常の講義と演習が再開する。

「ああ~あ、また来週からあいつらとの騒がしい日常だな」

 普通の少年・少女たちから見れば、非日常といえるような特殊な日常。それでもセブルにとっては意義もあり、それなりに楽しい日常である。
 魔鬼の全てを祓いつくす日は、まだずっと先になるだろう。しかし、いつか必ずやり遂げる。その日に向けてセブルには、やるべきことが沢山ある。学問・身体の鍛錬・思考的術式パンセ・メトードの修練。

(僕はやるぞぉ、むにゅにゅ……)
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