魔鬼祓いのグラディウス

紅灯空呼

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4章 フランセ国の平和のために

ミルティの死と謎の女性

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 一顧エポケーの試験として、まずは動物を使って行うことになった。
 この試験のために、本物の野ウサギを三匹捕まえてきて、五十センチメートル四辺くらいの木の檻に入れられている。
 フッゼルが、ためらうことなく大きな斧を使って檻もろとも叩き壊した。
 野ウサギたちは、大量の血を噴き出して同時に死んだ。

「ひゃあぁぁ~~」

 あまりにも残酷な光景のため、リルカはすぐに両手で目を覆った。
 すかさずセブルが一顧エポケーで生き返らせる。つまり、死を捨象してなかったことにする。

「エッポケーッ!!」

 セブルは声を振り絞った。

《野ウサギ2の死》
《野ウサギ1の死》
《野ウサギ0の死》

「やったねっ!」
「そうですわね」

 ミルティとプエルラが発した感心の言葉を聞いて、リルカが目を開く。

「えっ生き返ったの?」
「うん、まあね」

 何ら問題なく成功したのだ。頭を砕かれたはずの野ウサギが三羽とも今はぴんぴん、いや、ぴょんぴょんしている。

「次は最終試験だ。セブル、よいか?」
「は……はい」

 最終試験とは、つまり人間で試すことだ。
 今のセブルの能力であれば、二人までなら死をエポケーできるはず。
 従って実験台には二人が必要となる。失敗した場合の自己責任として、セブル自身がそのうちの一人だ。

「ミルティもよいな?」
「はーい師匠」

 二人目はミルティだが、臆する様子を全く見せていない。もし失敗したら死ぬことになるのだが、それでも彼女は被験者になろうというのだ。

「ミルティ、平気……なのか?」
「もちろん。あたし、セブルを信じてるもん。ちゃんと生き返られせてくれなかったら、あの世でお嫁さんにして貰うからねっ!」

 ミルティからの突然のお嫁さん発言。

「へっ!?」

 唖然とするセブル。
 対して、プエルラとリルカの口からは、抗議の言葉が飛び出る。

「まあ、何ですのそれ!」
「えええっ、何で何でぇ~」

 この状況下で、一人フッゼルだけが冷静だった。

「さあ二人とも、早くそこに並ぶのだ」

 次の瞬間、斧の刃がセブルの腹を割り裂き、続けてミルティの首をはねた。
 今度もフッゼルには一片のためらいもなかった。

「っ!?」
「……」

 目を覆う暇すらもなく、プエルラとリルカは惨劇をまともに見てしまった。
 セブルは声を振り絞ろうとする。

「エッ、エ、ポ……」
「どうしたセブル。声を出せないか?」
「エ……げほっ、おげえっ!」

 激しくむせて血を吐き出し、そのまま仰向けに倒れた。

「ようし、それならば」

 云うが早いか、血のしたたる斧の刃をセブルの喉元に落とす。

「もう声は出まい。さあ心で念じろ」
「くぅっ」

 首と胴体が離れてしまってピクリとも動かないミルティには既に息がなく、次第に意識が遠のいて行くセブルの裂かれた喉からは微かに空気が抜けるだけだ。
 そのような凄惨な姿の二体が横たわり、赤黒く染まっている地面を、ボツリ・ボツリと大きめの粒が濡らし始めた。

 ☆ ☆ ☆

「今日はこれで終了。明日一日よく休んで、明後日の朝、いよいよ出立だ」

 そう云ってからフッゼルは、四人に優しい笑顔を見せた。

「僕、もう絶対死ぬって覚悟したよ。ミルティなんかは即死状態だったなあ」
「あたしは師匠が絶対生き返らせてくれると思ってたもん」

 セブルもミルティもすっかり元気な姿に戻っている。

「生き返らせるつもりなど、全くなかったぞ」
「えーっ、師匠! そんなぁ、ひどいひどいぃー」
「何だミルティ、僕のこと信じてるんじゃなかったのか?」
「あんなの嘘よ」
「あのなあ……」

 一顧エポケーの最終試験は合格だった。セブルが自力で、自身とミルティを死の淵から蘇らせることに成功したのだ。

「でもでも、セブルが死ななくてよかったよお~」
「わたくしも、もうダメかと思いましてよ」
「僕もだよ。フッゼル先輩ひどいですよ、喉まで切るなんて!」
「何を云っている。実戦で喉をやられることもあり得るではないか。それを想定しての試験だったのだ」
「まあ、そうかもしれませんけど……」

 これで全員が、与えられていた課題を達成できた。あとは明後日の出立の時を迎えるのみ。

 この日、リルカとミルティはプエルラの家に「お泊まり」することにした。
 それにはセブルも誘われたが辞退した。理由は二つある。出立に向けて気持ちを落ち着けたい、という考えと、女の子の家に男一人だけ加わって一夜をともに過ごすなんて恥ずかしい、という男子特有の照れだった。
 フッゼルは「急用がある」とだけ云ってパトリアの街に向かった。カントゥも、昨日から出かけていて、今はいない。
 こうして、セブルは一人で岩山の上にある小屋へと帰ることになった。

 岩山の頂上に登り着いた時、雨が降っているというのに、見たことのない女性が立っていた。質素ではあるが、綺麗な白い衣を身に纏い、長い髪がサラサラと風になびいている。
 何か術式でも使っているのか、雨は彼女を濡らしていない。

(誰だ? 客人か?)
「ズウボ」
「は?」
「ボウズ」
(すぐ云い直すのなら、最初からボウズでいいだろ)
「少し、話があります。こちらへ」

 それだけ云って女性は隣の小屋の扉を開けて中に入った。そこには、あの風変わりなヅラトルト‐ストラという聖哲ソヒストが一人で住んでいるはずなのだが。

「は?」
「さあ早く」

 小屋の外でセブルが呆然として立ったままでいるため、その見知らぬ女性は振り返って手招きをした。

(まあ悪いようには、ならないだろう……)

 どういうことなのか全く判らないものの、セブルはその女性の言葉に従うことにした。
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