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4章 フランセ国の平和のために
反動魔力やエポケーについて
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セブルとリルカに対し、次に与えられた演習内容は立ち合いだ。
リルカの得物は哲杖。セブルはもちろん哲刀を使う。先に得物を手から離した方が負けという規則で行った。
しかし、この二人はまるで勝負にならない。百二十三勝無敗でリルカが圧倒的な強さを見せたのだ。その次の戦いでセブルは七度目の気絶。
「うーん。リルカには、やはり力の制御が先か」
少し考えたフッゼルは、演習内容を変えるべきだと認識して、方針を改めることにした。
再びセブルが目覚めた時、ちょうどミルティが走り終わり、それから少ししてプエルラも戻ってきた。
続いてフッゼルが四人に指示したのは、林に入って木の枝に強化ガラスを吊すという作業。全部で二百枚もある。
「よいか。一本の木には一枚だけ。それとなるべく分散させること」
木に登って、紐で縛られたガラスを枝に吊してから下に降りるという、比較的単調な動作ではあるが、これを数十回も繰り返すと全身にくる。
(足・腰・腕を鍛えると同時に平衡感覚をも養う修練か。よく考えたものだ)
一番はりきったセブルは、七十八枚も吊した。ミルティの五十九枚、リルカの三十六枚に対して、プエルラは二十七枚と成果に開きが出た。
「ご苦労。これで準備はできた」
(準備? それじゃあ、これからが本番なのか?)
セブルは内心、今からどんな凄い修練が始まるのかと想像を膨らませ、興味半分と覚悟半分でドキドキしていた。
だが、フッゼルは黙って林の外へと向かう。四人も後に続いた。
岩山前の広場に戻ると、フッゼルは、リルカに命じて哲杖を現出させた。
「木々に吊された二百枚のうち一枚だけが曇りガラスだ。さあリルカ、曇りガラスだけを割ってみろ」
「へっ?」
「力を押さえて、その一枚に集中させるのだ」
「はっはい……うぅん、ほいっ」
リルカは慎重に哲杖を振るったのだが、バリバリバリッ!! ガララッ! ガシャガシャン!! ――と凄まじい大音響が発生した。
続いて、ばさ・ばさばさ・ばさっ、がさがさ・がさがさっ! ――と葉擦れによる騒々しい音。鳥たちが飛び去り、リスたちも逃げ惑っているのだ。
「あぁー、鳥さぁん、リスさんも、ごめんなさ~い」
「確かめに行くまでもないな。あれは全部割った音だ……」
☆ ☆ ☆
「ううむ……やはり、全てを割ったか」
「はい」
「うぅむ……」
昼の休憩が終わる頃に姿を見せたカントゥが、先程から唸っている。
「どういたしましょう?」
フッゼルが真剣な表情で尋ねた。
「うむ。まあ仕方あるまいて。あの策は、きっぱりと捨て去るべきじゃ」
「は、はい。と、なりますと……」
あまりにも深刻な表情で話す二人を前にして、セブルたちは何事かと気になっている。
そんな彼らの気持ちを察して、フッゼルが説明を始める。
「魔鬼の女王Gを一撃で倒す方法は、人間でいえば心の臓、つまり魔の源を撃つことだ」
(魔の源を撃つ!?)
セブルは思わず体を乗り出した。
魔鬼はただ祓えばよいものとしか考えていなかったし、〈魔の源〉という言葉を聞くのも初めてのことだ。
「今のリルカなら、哲杖を振るえば、魔鬼の女王をも祓うことはできよう。だが反動魔力を受けて……」
フッゼルは、その先までは話さなかった。
反動魔力というのは、魔鬼の女王を祓った者だけが受ける呪いのようなもので、リルカの母親がそれで命を落としたのだ。
「ナチュラの時は、金剛石の葉っぱじゃったなあ」
カントゥが言葉を繋いだ。
「百枚出してやって、枝にぶら下げて稽古させたものじゃ。一年続けても最後まで全部割っておった。一枚も残さず木っ端みじん。リルカも母親に似たのじゃな」
「えへへへぇ」
リルカが笑ったので、この場の重い雰囲気が少し和らいだ。
「あのフッゼル先輩。僕、反動魔力のこともエポケーのことも、よくは判ってないけど、反動魔力ってエポケーできないのですか?」
「できない」
即答だった。
肩を落としたセブルを横目で見ながらフッゼルが続ける。
「よい機会だから、反動魔力やエポケーについて詳しく説明しておこう。まず反動魔力だが、これは遡及魔力とも呼ばれるもので、時間を遡って効く。通常の時間の流れに沿った現象なら、たとえば水の入った水瓶を割ると水は広がる。魔の源を水に、魔鬼の女王を水瓶に喩えてみると、魔鬼の女王を祓うことは、水瓶を割ることに相当する。この場合、割る瞬間にもう水は広がってしまっているということだ。そして時間の経過とともに水は次第に集まって、あたかも水瓶の中にあるかのように、一か所に纏まる。水瓶自体は壊れてしまっているのにだ。このため、魔鬼の女王を祓う瞬間に反動魔力を浴びてしまったことになる」
「ふ~ん」
「そういうことか」
「まあ」
「?」
一人を除いて、大旨は理解できているようだ。
フッゼルの説明は続く。
「そしてエポケーは、現在起こりつつある特定の現象を括弧に入れて捨象することだ。当然時間の流れに従う。割る瞬間に水が広がってしまっていることをエポケーするには、水瓶を割ること自体をエポケーしなければならない。つまり反動魔力を避けるには、魔鬼の女王を祓うことをエポケーしなければならないのだ」
「そうだよねっ!」
「そうだなあ」
「そうですわね」
「そうなの?」
やはりリルカだけは理解できていないようだ。
リルカの得物は哲杖。セブルはもちろん哲刀を使う。先に得物を手から離した方が負けという規則で行った。
しかし、この二人はまるで勝負にならない。百二十三勝無敗でリルカが圧倒的な強さを見せたのだ。その次の戦いでセブルは七度目の気絶。
「うーん。リルカには、やはり力の制御が先か」
少し考えたフッゼルは、演習内容を変えるべきだと認識して、方針を改めることにした。
再びセブルが目覚めた時、ちょうどミルティが走り終わり、それから少ししてプエルラも戻ってきた。
続いてフッゼルが四人に指示したのは、林に入って木の枝に強化ガラスを吊すという作業。全部で二百枚もある。
「よいか。一本の木には一枚だけ。それとなるべく分散させること」
木に登って、紐で縛られたガラスを枝に吊してから下に降りるという、比較的単調な動作ではあるが、これを数十回も繰り返すと全身にくる。
(足・腰・腕を鍛えると同時に平衡感覚をも養う修練か。よく考えたものだ)
一番はりきったセブルは、七十八枚も吊した。ミルティの五十九枚、リルカの三十六枚に対して、プエルラは二十七枚と成果に開きが出た。
「ご苦労。これで準備はできた」
(準備? それじゃあ、これからが本番なのか?)
セブルは内心、今からどんな凄い修練が始まるのかと想像を膨らませ、興味半分と覚悟半分でドキドキしていた。
だが、フッゼルは黙って林の外へと向かう。四人も後に続いた。
岩山前の広場に戻ると、フッゼルは、リルカに命じて哲杖を現出させた。
「木々に吊された二百枚のうち一枚だけが曇りガラスだ。さあリルカ、曇りガラスだけを割ってみろ」
「へっ?」
「力を押さえて、その一枚に集中させるのだ」
「はっはい……うぅん、ほいっ」
リルカは慎重に哲杖を振るったのだが、バリバリバリッ!! ガララッ! ガシャガシャン!! ――と凄まじい大音響が発生した。
続いて、ばさ・ばさばさ・ばさっ、がさがさ・がさがさっ! ――と葉擦れによる騒々しい音。鳥たちが飛び去り、リスたちも逃げ惑っているのだ。
「あぁー、鳥さぁん、リスさんも、ごめんなさ~い」
「確かめに行くまでもないな。あれは全部割った音だ……」
☆ ☆ ☆
「ううむ……やはり、全てを割ったか」
「はい」
「うぅむ……」
昼の休憩が終わる頃に姿を見せたカントゥが、先程から唸っている。
「どういたしましょう?」
フッゼルが真剣な表情で尋ねた。
「うむ。まあ仕方あるまいて。あの策は、きっぱりと捨て去るべきじゃ」
「は、はい。と、なりますと……」
あまりにも深刻な表情で話す二人を前にして、セブルたちは何事かと気になっている。
そんな彼らの気持ちを察して、フッゼルが説明を始める。
「魔鬼の女王Gを一撃で倒す方法は、人間でいえば心の臓、つまり魔の源を撃つことだ」
(魔の源を撃つ!?)
セブルは思わず体を乗り出した。
魔鬼はただ祓えばよいものとしか考えていなかったし、〈魔の源〉という言葉を聞くのも初めてのことだ。
「今のリルカなら、哲杖を振るえば、魔鬼の女王をも祓うことはできよう。だが反動魔力を受けて……」
フッゼルは、その先までは話さなかった。
反動魔力というのは、魔鬼の女王を祓った者だけが受ける呪いのようなもので、リルカの母親がそれで命を落としたのだ。
「ナチュラの時は、金剛石の葉っぱじゃったなあ」
カントゥが言葉を繋いだ。
「百枚出してやって、枝にぶら下げて稽古させたものじゃ。一年続けても最後まで全部割っておった。一枚も残さず木っ端みじん。リルカも母親に似たのじゃな」
「えへへへぇ」
リルカが笑ったので、この場の重い雰囲気が少し和らいだ。
「あのフッゼル先輩。僕、反動魔力のこともエポケーのことも、よくは判ってないけど、反動魔力ってエポケーできないのですか?」
「できない」
即答だった。
肩を落としたセブルを横目で見ながらフッゼルが続ける。
「よい機会だから、反動魔力やエポケーについて詳しく説明しておこう。まず反動魔力だが、これは遡及魔力とも呼ばれるもので、時間を遡って効く。通常の時間の流れに沿った現象なら、たとえば水の入った水瓶を割ると水は広がる。魔の源を水に、魔鬼の女王を水瓶に喩えてみると、魔鬼の女王を祓うことは、水瓶を割ることに相当する。この場合、割る瞬間にもう水は広がってしまっているということだ。そして時間の経過とともに水は次第に集まって、あたかも水瓶の中にあるかのように、一か所に纏まる。水瓶自体は壊れてしまっているのにだ。このため、魔鬼の女王を祓う瞬間に反動魔力を浴びてしまったことになる」
「ふ~ん」
「そういうことか」
「まあ」
「?」
一人を除いて、大旨は理解できているようだ。
フッゼルの説明は続く。
「そしてエポケーは、現在起こりつつある特定の現象を括弧に入れて捨象することだ。当然時間の流れに従う。割る瞬間に水が広がってしまっていることをエポケーするには、水瓶を割ること自体をエポケーしなければならない。つまり反動魔力を避けるには、魔鬼の女王を祓うことをエポケーしなければならないのだ」
「そうだよねっ!」
「そうだなあ」
「そうですわね」
「そうなの?」
やはりリルカだけは理解できていないようだ。
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