魔鬼祓いのグラディウス

紅灯空呼

文字の大きさ
上 下
18 / 55
2章 ヒロゾフへの険しい道のり

本日二度目のレッド・カード

しおりを挟む
 唐突にセブルから謝罪を受けたミルティの方は、少し頬を染めながら無言のままでいる。

「それじゃあ、これからはハイデッガと呼べばいいのか?」
「ダメよぉ、ハイデッガ先輩って呼ばなきゃ!!」

 ミルティの表情に再び意地悪そうな笑みが戻った。

「おいおい、この学問所じゃ先輩になるかもしれないけど、どう見てもそっちが年下だろう、何歳だよ?」
「ピッ、ピッピィ、ピピィ――――ッ!」

 フッゼルがセブルの耳元に顔を寄せて、いきなり笛を鳴らした。いや正しくは笛の鳴るような音を声で出したのだ。とても甲高い声音だった。
 急いで耳を押さえたが間に合わず、セブルの頭の中には残響が続く。

「痛っ、つつつぅ、いきなり何ですかぁ!」
「本日二度目だ、レッド・カード!」
「何それ!?」
「ゲルマーヌ国では、女の子が親しくもない男から年齢を尋ねられることは、下着を引きずり降ろされて局部を舐めるように凝視されるのと同じくらい屈辱的なことなのだ」
「へ?」

 セブルとリルカは先程と同じような反応を見せる。

「えっ、えっ、えっええええぇぇ~~~ぇ! うわああ~セブルぅ、またまたそんなエッチなこと、したんだあ~」
「またか、リルカ落ち着け。劇物はなしだからな、ダメだぞ!」

 セブルはリルカを制止して、またすぐミルティの正面へ向かう。

「重ね重ね失礼しました。僕が悪かった。うっかり歳を聞いて済まないっ!」

 セブルは先程よりも深く頭を下げた。フッゼルとカントゥがまた意味ありげに頷き合った。
 一方、ミルティからはセブルの頭の上へ一言だけ。

「気をつけなさいよねっ」
「は、判りました。ハイデッガ先輩!」

 相手が先輩であることには変わりないし、知らずとはいえ二度も失礼なことをしてしまったという負い目もある――そう自分を納得させたセブルは、ミルティを敬称で呼ぶことにしたのだ。
 そして、次はリルカへ向けてだ。

「それで、そっちはどうなんだ? 確かに下の名前で呼ぶ許可は貰ってないしな」
「う~ん、そうだねえ。下の名前で呼ぶのを許してあげれば、下着に手を突っ込まれたことには、ならないのかなあ~」
「あのなあ、実際に下着に手ぇ突っ込んだ訳じゃないんだぞ。フッゼルさんは、あくまで、たとえ話として、そう表現しただけだ。それは判るよな?」
「うん。判ったセブル、わたしのこと、リルカって呼んでいいよ。特別だよ、許してあげるよお~」

 やけに上からの立場での云い方ではあるが、それでも天使のような笑顔を向けてだと、なかなか文句も云えない。

「やれやれ……」

 この時も、フッゼルとカントゥはセブルとリルカの様子を見守りながら、互いに頷き合っていた。

「あっ、それとね、今まで何回もわたしの下着に手を突っ込んだことについては、大目に見たげるよお。塩水で流してあげるから」
「それをいうなら、水に流す、だろ。それから下着からは、もう離れろって」
「それもそうだねえ。手を突っ込んだりしたら、セブルが劇物で溶かされてしまうんだよねえ」

 リルカにかかると、破廉恥な男は皆溶かされることになるらしい。

「…………」

 これ以上返す言葉が見つからないセブル。

「何よぉ……あんたたち、仲いいわねぇ」

 しばらく二人のやりとりを眺めていたミルティが、遠慮がちに小声で呟いた。

「どしたの、ミルティ?」
「何でしょうか、ハイデッガ先輩?」
「えにゃ、べ、別に……」
「ぬ?」
「む?」

 リルカとセブルにとっては、ミルティの変な様子といい、彼女の発した言葉といい、ほとんど理解不能だったのだ。
 続いてフッゼルが口を開く。

「では、次にミルティの誤りを指摘するぞ」
「えっ師匠、何て?」

 ミルティは聞き違いをしたのかと思った。

「ミルティは、足し算と掛け算とを取り違えているぞ」

 ミルティは聞き違いをしたのではなかった。

「えっ、うっそぉ!」
「嘘なものか。0で存在をなくすのは掛け算の性質だ。つまり1掛ける0、あるいは2掛ける0などの場合には、ミルティの主張が正しい。一方、足し算での0は、元の存在を変化させないだけなのだ」
「!」

 ミルティはようやく自分の論法の誤りに気づいた。

「じゃあじゃあ、1足す0って、1になるのが正しいんだ!」
「そうだ。だからセブルの解答は間違いではない。むしろ正解だ」

 ミルティは両の瞼を目いっぱい広げ、セブルの方に向き直った。

「あんた、なかなかやるわねえ。うん、そうねいいわ。セブルにも下の名前で呼ばせてあげる。特別だからね、許してあげるのよ。せいぜい感謝することね」
(しっかし、どういう気の変わりようなんだ、こいつ……)

 あからさまに上の立場での云い方であり、しかも小悪魔的な意地悪い笑顔を向けてだと、それはそれで文句も返せない。

「ほら、あたしのこと、ミルティって呼びなさいよ!」
「はい、はい、はい。ミルティさん」
は三回もいらないっての! それから、も、い・ら・な・いっ!」
「判ったよ、ミルティ」
「ま、いいわ。それとあたし十四歳よ」
(やっぱり年下じゃないか)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

泥々の川

フロイライン
恋愛
昭和四十九年大阪 中学三年の友谷袮留は、劣悪な家庭環境の中にありながら前向きに生きていた。 しかし、ろくでなしの父親誠の犠牲となり、ささやかな幸せさえも奪われてしまう。

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

13歳女子は男友達のためヌードモデルになる

矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。

処理中です...