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2章 ヒロゾフへの険しい道のり
本日二度目のレッド・カード
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唐突にセブルから謝罪を受けたミルティの方は、少し頬を染めながら無言のままでいる。
「それじゃあ、これからはハイデッガと呼べばいいのか?」
「ダメよぉ、ハイデッガ先輩って呼ばなきゃ!!」
ミルティの表情に再び意地悪そうな笑みが戻った。
「おいおい、この学問所じゃ先輩になるかもしれないけど、どう見てもそっちが年下だろう、何歳だよ?」
「ピッ、ピッピィ、ピピィ――――ッ!」
フッゼルがセブルの耳元に顔を寄せて、いきなり笛を鳴らした。いや正しくは笛の鳴るような音を声で出したのだ。とても甲高い声音だった。
急いで耳を押さえたが間に合わず、セブルの頭の中には残響が続く。
「痛っ、つつつぅ、いきなり何ですかぁ!」
「本日二度目だ、レッド・カード!」
「何それ!?」
「ゲルマーヌ国では、女の子が親しくもない男から年齢を尋ねられることは、下着を引きずり降ろされて局部を舐めるように凝視されるのと同じくらい屈辱的なことなのだ」
「へ?」
セブルとリルカは先程と同じような反応を見せる。
「えっ、えっ、えっええええぇぇ~~~ぇ! うわああ~セブルぅ、またまたそんなエッチなこと、したんだあ~」
「またか、リルカ落ち着け。劇物はなしだからな、ダメだぞ!」
セブルはリルカを制止して、またすぐミルティの正面へ向かう。
「重ね重ね失礼しました。僕が悪かった。うっかり歳を聞いて済まないっ!」
セブルは先程よりも深く頭を下げた。フッゼルとカントゥがまた意味ありげに頷き合った。
一方、ミルティからはセブルの頭の上へ一言だけ。
「気をつけなさいよねっ」
「は、判りました。ハイデッガ先輩!」
相手が先輩であることには変わりないし、知らずとはいえ二度も失礼なことをしてしまったという負い目もある――そう自分を納得させたセブルは、ミルティを敬称で呼ぶことにしたのだ。
そして、次はリルカへ向けてだ。
「それで、そっちはどうなんだ? 確かに下の名前で呼ぶ許可は貰ってないしな」
「う~ん、そうだねえ。下の名前で呼ぶのを許してあげれば、下着に手を突っ込まれたことには、ならないのかなあ~」
「あのなあ、実際に下着に手ぇ突っ込んだ訳じゃないんだぞ。フッゼルさんは、あくまで、たとえ話として、そう表現しただけだ。それは判るよな?」
「うん。判ったセブル、わたしのこと、リルカって呼んでいいよ。特別だよ、許してあげるよお~」
やけに上からの立場での云い方ではあるが、それでも天使のような笑顔を向けてだと、なかなか文句も云えない。
「やれやれ……」
この時も、フッゼルとカントゥはセブルとリルカの様子を見守りながら、互いに頷き合っていた。
「あっ、それとね、今まで何回もわたしの下着に手を突っ込んだことについては、大目に見たげるよお。塩水で流してあげるから」
「それをいうなら、水に流す、だろ。それから下着からは、もう離れろって」
「それもそうだねえ。手を突っ込んだりしたら、セブルが劇物で溶かされてしまうんだよねえ」
リルカにかかると、破廉恥な男は皆溶かされることになるらしい。
「…………」
これ以上返す言葉が見つからないセブル。
「何よぉ……あんたたち、仲いいわねぇ」
しばらく二人のやりとりを眺めていたミルティが、遠慮がちに小声で呟いた。
「どしたの、ミルティ?」
「何でしょうか、ハイデッガ先輩?」
「えにゃ、べ、別に……」
「ぬ?」
「む?」
リルカとセブルにとっては、ミルティの変な様子といい、彼女の発した言葉といい、ほとんど理解不能だったのだ。
続いてフッゼルが口を開く。
「では、次にミルティの誤りを指摘するぞ」
「えっ師匠、何て?」
ミルティは聞き違いをしたのかと思った。
「ミルティは、足し算と掛け算とを取り違えているぞ」
ミルティは聞き違いをしたのではなかった。
「えっ、うっそぉ!」
「嘘なものか。0で存在をなくすのは掛け算の性質だ。つまり1掛ける0、あるいは2掛ける0などの場合には、ミルティの主張が正しい。一方、足し算での0は、元の存在を変化させないだけなのだ」
「!」
ミルティはようやく自分の論法の誤りに気づいた。
「じゃあじゃあ、1足す0って、1になるのが正しいんだ!」
「そうだ。だからセブルの解答は間違いではない。むしろ正解だ」
ミルティは両の瞼を目いっぱい広げ、セブルの方に向き直った。
「あんた、なかなかやるわねえ。うん、そうねいいわ。セブルにも下の名前で呼ばせてあげる。特別だからね、許してあげるのよ。せいぜい感謝することね」
(しっかし、どういう気の変わりようなんだ、こいつ……)
あからさまに上の立場での云い方であり、しかも小悪魔的な意地悪い笑顔を向けてだと、それはそれで文句も返せない。
「ほら、あたしのこと、ミルティって呼びなさいよ!」
「はい、はい、はい。ミルティさん」
「はいは三回もいらないっての! それから、さんも、い・ら・な・いっ!」
「判ったよ、ミルティ」
「ま、いいわ。それとあたし十四歳よ」
(やっぱり年下じゃないか)
「それじゃあ、これからはハイデッガと呼べばいいのか?」
「ダメよぉ、ハイデッガ先輩って呼ばなきゃ!!」
ミルティの表情に再び意地悪そうな笑みが戻った。
「おいおい、この学問所じゃ先輩になるかもしれないけど、どう見てもそっちが年下だろう、何歳だよ?」
「ピッ、ピッピィ、ピピィ――――ッ!」
フッゼルがセブルの耳元に顔を寄せて、いきなり笛を鳴らした。いや正しくは笛の鳴るような音を声で出したのだ。とても甲高い声音だった。
急いで耳を押さえたが間に合わず、セブルの頭の中には残響が続く。
「痛っ、つつつぅ、いきなり何ですかぁ!」
「本日二度目だ、レッド・カード!」
「何それ!?」
「ゲルマーヌ国では、女の子が親しくもない男から年齢を尋ねられることは、下着を引きずり降ろされて局部を舐めるように凝視されるのと同じくらい屈辱的なことなのだ」
「へ?」
セブルとリルカは先程と同じような反応を見せる。
「えっ、えっ、えっええええぇぇ~~~ぇ! うわああ~セブルぅ、またまたそんなエッチなこと、したんだあ~」
「またか、リルカ落ち着け。劇物はなしだからな、ダメだぞ!」
セブルはリルカを制止して、またすぐミルティの正面へ向かう。
「重ね重ね失礼しました。僕が悪かった。うっかり歳を聞いて済まないっ!」
セブルは先程よりも深く頭を下げた。フッゼルとカントゥがまた意味ありげに頷き合った。
一方、ミルティからはセブルの頭の上へ一言だけ。
「気をつけなさいよねっ」
「は、判りました。ハイデッガ先輩!」
相手が先輩であることには変わりないし、知らずとはいえ二度も失礼なことをしてしまったという負い目もある――そう自分を納得させたセブルは、ミルティを敬称で呼ぶことにしたのだ。
そして、次はリルカへ向けてだ。
「それで、そっちはどうなんだ? 確かに下の名前で呼ぶ許可は貰ってないしな」
「う~ん、そうだねえ。下の名前で呼ぶのを許してあげれば、下着に手を突っ込まれたことには、ならないのかなあ~」
「あのなあ、実際に下着に手ぇ突っ込んだ訳じゃないんだぞ。フッゼルさんは、あくまで、たとえ話として、そう表現しただけだ。それは判るよな?」
「うん。判ったセブル、わたしのこと、リルカって呼んでいいよ。特別だよ、許してあげるよお~」
やけに上からの立場での云い方ではあるが、それでも天使のような笑顔を向けてだと、なかなか文句も云えない。
「やれやれ……」
この時も、フッゼルとカントゥはセブルとリルカの様子を見守りながら、互いに頷き合っていた。
「あっ、それとね、今まで何回もわたしの下着に手を突っ込んだことについては、大目に見たげるよお。塩水で流してあげるから」
「それをいうなら、水に流す、だろ。それから下着からは、もう離れろって」
「それもそうだねえ。手を突っ込んだりしたら、セブルが劇物で溶かされてしまうんだよねえ」
リルカにかかると、破廉恥な男は皆溶かされることになるらしい。
「…………」
これ以上返す言葉が見つからないセブル。
「何よぉ……あんたたち、仲いいわねぇ」
しばらく二人のやりとりを眺めていたミルティが、遠慮がちに小声で呟いた。
「どしたの、ミルティ?」
「何でしょうか、ハイデッガ先輩?」
「えにゃ、べ、別に……」
「ぬ?」
「む?」
リルカとセブルにとっては、ミルティの変な様子といい、彼女の発した言葉といい、ほとんど理解不能だったのだ。
続いてフッゼルが口を開く。
「では、次にミルティの誤りを指摘するぞ」
「えっ師匠、何て?」
ミルティは聞き違いをしたのかと思った。
「ミルティは、足し算と掛け算とを取り違えているぞ」
ミルティは聞き違いをしたのではなかった。
「えっ、うっそぉ!」
「嘘なものか。0で存在をなくすのは掛け算の性質だ。つまり1掛ける0、あるいは2掛ける0などの場合には、ミルティの主張が正しい。一方、足し算での0は、元の存在を変化させないだけなのだ」
「!」
ミルティはようやく自分の論法の誤りに気づいた。
「じゃあじゃあ、1足す0って、1になるのが正しいんだ!」
「そうだ。だからセブルの解答は間違いではない。むしろ正解だ」
ミルティは両の瞼を目いっぱい広げ、セブルの方に向き直った。
「あんた、なかなかやるわねえ。うん、そうねいいわ。セブルにも下の名前で呼ばせてあげる。特別だからね、許してあげるのよ。せいぜい感謝することね」
(しっかし、どういう気の変わりようなんだ、こいつ……)
あからさまに上の立場での云い方であり、しかも小悪魔的な意地悪い笑顔を向けてだと、それはそれで文句も返せない。
「ほら、あたしのこと、ミルティって呼びなさいよ!」
「はい、はい、はい。ミルティさん」
「はいは三回もいらないっての! それから、さんも、い・ら・な・いっ!」
「判ったよ、ミルティ」
「ま、いいわ。それとあたし十四歳よ」
(やっぱり年下じゃないか)
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