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1章 学問所の下見
可愛らしいおへそ
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背の高い方の魔鬼――ツノがなければどう見ても普通の若い女性なのだが、そちらの方は少し離れた位置から戦いを傍観しているだけだ。
(何だよぉ、こいつらは……)
しかし、少女魔鬼はセブルに考える余裕など与えてくれない。すぐさまハンマーを振り下ろしてきた。
こうして哲刀とハンマーによる、ほとんど同じような攻守が繰り返され、少女魔鬼のハンマーは合計で四回壊れた。
「現存在!」
この一言でまた新しいハンマーが現出する。戦いが振り出しに戻るのだ。
これで五度目となった攻守の途中、それまで眺めていただけの女性魔鬼が近寄ってきてセブルに蹴りを入れようとした。
身を翻したセブルは、逆に相手の両足を太腿の辺りで斬り飛ばしてやった。
がしかし、あの謎の煙がまた現れる。
[-]
今回は、括弧の中にセブルの振るった哲刀の軌跡がはっきりと映り、そしてぼやけて消えて行く様子をしっかり見ることができた。
「はははは。現象学的魔術だ」
(こっちも魔術か……)
人間に取り憑いた魔鬼の中には高度な術を使って攻撃したり防御したりする者がいる――そんな話をセブルも聞いたことがあった。だが実際にそれを見るのは今が初めてのこと。
ここへきてセブルは焦りと疲れを感じ始めている。
(ここまで手こずるとはなあ……)
一方、二匹の魔鬼はあまり疲れた様子がない。
「フッゼル師匠。そろそろ片づけようってばぁ」
「まあそう焦るなミルティ。評定はこれからだぞ」
(師匠って、この魔鬼たち師弟なのか? それに評定って何のことだ?)
さすがにセブルも、魔鬼が他の魔鬼を弟子にするという珍妙な話はこれまでに聞いたことがない。
(どちらにしても、二匹相手ってのは結構きつい)
セブルはいったん後ろ跳びをして距離を取った。
そして唱える。
「我思考せむ、ゆゑ、我ら在らむ」
詠唱完了と同時にセブルが二人に分かれた。どちらも哲刀を握っている。
「ほほう、やるなあ」
「ぶっ飛びぃ~」
感心する魔鬼たち。
その一方、セブルの云いつけを守ってじっと戦いを観ているリルカ。こちらは感心というより、歓心そして驚愕だ。
「ええっ、えええぇぇ~。ううっわあ~、すっごいセブルが二人だよお。セブルとセブル、しっかりぃぃ~」
向かって左側が少女魔鬼versusセブル0。激しくぶつかる哲刀とハンマー。数回の金属音の後にボッキという音とダーザインという声。
右側は女性魔鬼versusセブル1。鮮やかな大刀筋にぼやけて消える括弧。
何度も繰り返される攻守は、双方互角であるかに見えていたが、次第に疲れを露わにし始めるセブル0とセブル1。
「ええっ、ああっ、あああぁ~どおしよお! このままだと、あのセブルも、その向こう側のセブルも、どっちもやられるよお」
二人のセブルが疲れているのは一目瞭然――それがよく判ったリルカは何を思ったか、いきなり走り出した。
「ようしっ、わたしも。こぎとぉ、えるごぉ!」
駆け足で向かってくるリルカは詠唱を始めていた。
それに気づいたセブル0が慌てて制止する。
「ああっ、リルカよせっ!」
続けてセブル1も叫ぶ。
「やめろっ、ダメだぁー」
にもかかわらずリルカは続ける。
「すむすぅ!」
次の瞬間、走っているリルカは全身素っ裸というあられもない姿。衣服が全部脱げてしまっているのだ。その状態で前進を続けている。
「うおおっ。おわわわぁ――――っ!」
「むおおっ。わおおおぉ――――っ!」
セブル十六年の生涯で始めて目にする女の子の丸裸。
白くてツルツルで、すべっすべの肌。走っても決して揺れることのない胸。可愛らしいおへそ。それらを四つの目玉に焼きつけた。
「おおっ!」
「厭あぁん」
魔鬼たちも感心。しばし休戦か。
「ええっ? ええぇぇぇーっ! わたし、何で裸なのぉぉ~~」
二人と二匹。いや、もはや四人といえよう――服を着ている四人の人間から、何も身に着けていない一人の人間に対する刺すような視線。
それでやっとリルカは今の自分の状態に気づいたのだ。急停止して直ちに上と下を腕で覆った。そして、そのまま後ずさりして衣服の落ちた場所へ戻る。
それにしても女の子の素っ裸は十六歳の少年には衝撃が強過ぎた。セブル0とセブル1は一人のセブルに戻ってしまい、哲刀も既に消えている。
(何だよぉ、こいつらは……)
しかし、少女魔鬼はセブルに考える余裕など与えてくれない。すぐさまハンマーを振り下ろしてきた。
こうして哲刀とハンマーによる、ほとんど同じような攻守が繰り返され、少女魔鬼のハンマーは合計で四回壊れた。
「現存在!」
この一言でまた新しいハンマーが現出する。戦いが振り出しに戻るのだ。
これで五度目となった攻守の途中、それまで眺めていただけの女性魔鬼が近寄ってきてセブルに蹴りを入れようとした。
身を翻したセブルは、逆に相手の両足を太腿の辺りで斬り飛ばしてやった。
がしかし、あの謎の煙がまた現れる。
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今回は、括弧の中にセブルの振るった哲刀の軌跡がはっきりと映り、そしてぼやけて消えて行く様子をしっかり見ることができた。
「はははは。現象学的魔術だ」
(こっちも魔術か……)
人間に取り憑いた魔鬼の中には高度な術を使って攻撃したり防御したりする者がいる――そんな話をセブルも聞いたことがあった。だが実際にそれを見るのは今が初めてのこと。
ここへきてセブルは焦りと疲れを感じ始めている。
(ここまで手こずるとはなあ……)
一方、二匹の魔鬼はあまり疲れた様子がない。
「フッゼル師匠。そろそろ片づけようってばぁ」
「まあそう焦るなミルティ。評定はこれからだぞ」
(師匠って、この魔鬼たち師弟なのか? それに評定って何のことだ?)
さすがにセブルも、魔鬼が他の魔鬼を弟子にするという珍妙な話はこれまでに聞いたことがない。
(どちらにしても、二匹相手ってのは結構きつい)
セブルはいったん後ろ跳びをして距離を取った。
そして唱える。
「我思考せむ、ゆゑ、我ら在らむ」
詠唱完了と同時にセブルが二人に分かれた。どちらも哲刀を握っている。
「ほほう、やるなあ」
「ぶっ飛びぃ~」
感心する魔鬼たち。
その一方、セブルの云いつけを守ってじっと戦いを観ているリルカ。こちらは感心というより、歓心そして驚愕だ。
「ええっ、えええぇぇ~。ううっわあ~、すっごいセブルが二人だよお。セブルとセブル、しっかりぃぃ~」
向かって左側が少女魔鬼versusセブル0。激しくぶつかる哲刀とハンマー。数回の金属音の後にボッキという音とダーザインという声。
右側は女性魔鬼versusセブル1。鮮やかな大刀筋にぼやけて消える括弧。
何度も繰り返される攻守は、双方互角であるかに見えていたが、次第に疲れを露わにし始めるセブル0とセブル1。
「ええっ、ああっ、あああぁ~どおしよお! このままだと、あのセブルも、その向こう側のセブルも、どっちもやられるよお」
二人のセブルが疲れているのは一目瞭然――それがよく判ったリルカは何を思ったか、いきなり走り出した。
「ようしっ、わたしも。こぎとぉ、えるごぉ!」
駆け足で向かってくるリルカは詠唱を始めていた。
それに気づいたセブル0が慌てて制止する。
「ああっ、リルカよせっ!」
続けてセブル1も叫ぶ。
「やめろっ、ダメだぁー」
にもかかわらずリルカは続ける。
「すむすぅ!」
次の瞬間、走っているリルカは全身素っ裸というあられもない姿。衣服が全部脱げてしまっているのだ。その状態で前進を続けている。
「うおおっ。おわわわぁ――――っ!」
「むおおっ。わおおおぉ――――っ!」
セブル十六年の生涯で始めて目にする女の子の丸裸。
白くてツルツルで、すべっすべの肌。走っても決して揺れることのない胸。可愛らしいおへそ。それらを四つの目玉に焼きつけた。
「おおっ!」
「厭あぁん」
魔鬼たちも感心。しばし休戦か。
「ええっ? ええぇぇぇーっ! わたし、何で裸なのぉぉ~~」
二人と二匹。いや、もはや四人といえよう――服を着ている四人の人間から、何も身に着けていない一人の人間に対する刺すような視線。
それでやっとリルカは今の自分の状態に気づいたのだ。急停止して直ちに上と下を腕で覆った。そして、そのまま後ずさりして衣服の落ちた場所へ戻る。
それにしても女の子の素っ裸は十六歳の少年には衝撃が強過ぎた。セブル0とセブル1は一人のセブルに戻ってしまい、哲刀も既に消えている。
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