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【第十三幕】四級女官は王宮を守れるか?
王宮一の貧相女ピクルス
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即時にピクルスが対応方法を決めた。ここは元気良く返答すべきだと。
「シュアー!」
「ぱりやっ。ほほほ」
「わたくしはピクルス大佐……四級女官、十七歳ですわ。完熟西瓜パンをお好きなあなたも、やはり王宮女官ですの?」
「好みのパンはどうあれ、私が女官ということは、その通りよ。十七歳で王国初の快挙、準一級女官マルフィーユ‐ショコレット。どうかしら?」
「ブラボー!!」
笑顔で賞賛の辞を返したが、なにをか気に召さない準一級は眉間を歪めた。
クルクル髪を、空いている左手の指先で摘みつつ、目線はピクルスの黒いストレイトの髪に向いて、すぐさま胸へと移り変わる。
「あなた、ぺちゃんこですのね」
「シュアー・ソー・フラット。おほほほ♭」
「む、そこは自慢なさるところでは、なくってよ。貧相だもの。ほほほ」
ここへパインチッチが戻ってきた。
左手にアンニンビバレッジ社「ディープバイオレット悶絶炭酸【2000】」のペットボトルが一本、右手にティラミ製菓「酢蛸煎餅【徳用18枚入り】」の袋が二つ、しっかり握られている。
「ああらぁ、ご機嫌よう、パインチッチ一級女官さん」
「まあまあぁ、ショコレットも、お・や・つぅ~♪」
旋律とともに揺らされる一級の両の乳房には、ショコレットも圧倒される。
「……え、ええ。完熟西瓜パンを少々。パインチッチさんも、お決まりの組み合わせとは、随分お好きなようね。ほほほ」
「どう致しまして。これこそ、私のステイタスを保つ秘訣なの」
それからのショコレットは、ピクルスを空気ともみなさない態度で、パインチッチと世間話を続けた。パインチッチがピクルスに話題を振っても、悉くショコレットによって横弾きされる展開となった。
翌日には、ピクルスのステイタスが早くも王宮中に知れ渡っていた。悲しくも、不名誉な異名「王宮一の貧相女」を、意地悪な先輩女官たちから付与されたのである。
Ω Ω Ω
アルデンテ王国の王族たちが居住するスペースは、王宮敷地のほぼ中央に厳然としてそびえ立つネオ・アルデンテ城中である。完成してからまだ二年未満の真新しくも絢爛豪華、なおかつ四重の聖水翼賛強結界に守られていて、難侵攻・不陥落の超弩級、と大陸全土に名が知れ渡っている巨城だ。
特に、一級建築士ヤマイモ‐トロライナが設計した石造り六層九重の天守閣は、夜になるとライトアップされるので、季節ごとに異なる派手な電飾演出が、国の内外を問わず各種メディアが報道を競い合う格好の標的となる。
その城中へ今日の夕方、王宮へきて三日を過ごしたばかりのピクルスが、畏れ多くも初めて赴く運びとなった。しかも、当の本人が情報を耳に入れたのは、昨夕の食堂でのこと。ディナーに選んだ味噌煮鯖定食に向かって「頂きますわ。そいやっ!」とかけ声を発して箸を持ち上げた時だった。
クルクル髪の女官がトレーを運んできて、周辺に数多ある空席に心かけず、せせこましくもピクルスの隣席に腰かけた。二度目の対面となるショコレットが置いたトレーには、キジ丼とコーン・ポタージュと冷凍オレンジと焙じ茶が並んでいた。
ところが、この準一級女官、すぐには食べ始めようとせず、なにやら意味ありげな薄気味悪い笑みを浮かべた首を回し、言葉を発するための口を向けてきた。
『王宮一の貧相女さん、よろしくて?』
『シュアー』
『私、お伝えするのを、ついうっかり忘れていましてよ』
『なんのこと、ですの?』
『明日の夕刻、お城へ上がるのです。いよいよ、あなたも』
『お城へ!? こ、この、わたくしが?』
突発的な申し送りを受けて、ピクルスの両の目が海亀の卵くらいに丸くなった。
ショコレットの方は、にやにやと含み笑いを続けている。
『ええ、そうよ』
『そう……』
『――とはいいましても、すぐに職任を与えられるのでは、ありませんわ。まずは新入り女官として、どうしても避けては通れない、王族に対する着官報告、すなわち挨拶と口頭試問が、あなたを待っていてよ。ほほほ』
『まあ、そうなの!』
『驚いて? ええ、驚きますわよねえ?』
『シュア……』
『し・か・も、アルデンテ王を前にして、あなたは――』
ショコレットからの詳しい説明によると、挨拶は、単なる自己紹介の言葉を述べるだけでなく、最後にユニークな一芸を披露して場を盛り上げることが義務づけられているのだ。その前に行われる口頭試問役員が博識豊かな王女三姉妹ということもあり、万が一にも粗相があってはならない、と念を押されたのだった。
それで昨晩のピクルスは、緊張の高まりで、なかなか寝つけなかった。
「はっ*!」
唐突に迎えた目覚め。外からのチュンチュンという小鳥の鳴き声は聞こえるものの、部屋の中は暗い。
起床時刻はとうに過ぎてしまっている。朝に強い、晴れると、なおのこと強いピクルスでありながら。これは一体どうしたことか?
「シュアー!」
「ぱりやっ。ほほほ」
「わたくしはピクルス大佐……四級女官、十七歳ですわ。完熟西瓜パンをお好きなあなたも、やはり王宮女官ですの?」
「好みのパンはどうあれ、私が女官ということは、その通りよ。十七歳で王国初の快挙、準一級女官マルフィーユ‐ショコレット。どうかしら?」
「ブラボー!!」
笑顔で賞賛の辞を返したが、なにをか気に召さない準一級は眉間を歪めた。
クルクル髪を、空いている左手の指先で摘みつつ、目線はピクルスの黒いストレイトの髪に向いて、すぐさま胸へと移り変わる。
「あなた、ぺちゃんこですのね」
「シュアー・ソー・フラット。おほほほ♭」
「む、そこは自慢なさるところでは、なくってよ。貧相だもの。ほほほ」
ここへパインチッチが戻ってきた。
左手にアンニンビバレッジ社「ディープバイオレット悶絶炭酸【2000】」のペットボトルが一本、右手にティラミ製菓「酢蛸煎餅【徳用18枚入り】」の袋が二つ、しっかり握られている。
「ああらぁ、ご機嫌よう、パインチッチ一級女官さん」
「まあまあぁ、ショコレットも、お・や・つぅ~♪」
旋律とともに揺らされる一級の両の乳房には、ショコレットも圧倒される。
「……え、ええ。完熟西瓜パンを少々。パインチッチさんも、お決まりの組み合わせとは、随分お好きなようね。ほほほ」
「どう致しまして。これこそ、私のステイタスを保つ秘訣なの」
それからのショコレットは、ピクルスを空気ともみなさない態度で、パインチッチと世間話を続けた。パインチッチがピクルスに話題を振っても、悉くショコレットによって横弾きされる展開となった。
翌日には、ピクルスのステイタスが早くも王宮中に知れ渡っていた。悲しくも、不名誉な異名「王宮一の貧相女」を、意地悪な先輩女官たちから付与されたのである。
Ω Ω Ω
アルデンテ王国の王族たちが居住するスペースは、王宮敷地のほぼ中央に厳然としてそびえ立つネオ・アルデンテ城中である。完成してからまだ二年未満の真新しくも絢爛豪華、なおかつ四重の聖水翼賛強結界に守られていて、難侵攻・不陥落の超弩級、と大陸全土に名が知れ渡っている巨城だ。
特に、一級建築士ヤマイモ‐トロライナが設計した石造り六層九重の天守閣は、夜になるとライトアップされるので、季節ごとに異なる派手な電飾演出が、国の内外を問わず各種メディアが報道を競い合う格好の標的となる。
その城中へ今日の夕方、王宮へきて三日を過ごしたばかりのピクルスが、畏れ多くも初めて赴く運びとなった。しかも、当の本人が情報を耳に入れたのは、昨夕の食堂でのこと。ディナーに選んだ味噌煮鯖定食に向かって「頂きますわ。そいやっ!」とかけ声を発して箸を持ち上げた時だった。
クルクル髪の女官がトレーを運んできて、周辺に数多ある空席に心かけず、せせこましくもピクルスの隣席に腰かけた。二度目の対面となるショコレットが置いたトレーには、キジ丼とコーン・ポタージュと冷凍オレンジと焙じ茶が並んでいた。
ところが、この準一級女官、すぐには食べ始めようとせず、なにやら意味ありげな薄気味悪い笑みを浮かべた首を回し、言葉を発するための口を向けてきた。
『王宮一の貧相女さん、よろしくて?』
『シュアー』
『私、お伝えするのを、ついうっかり忘れていましてよ』
『なんのこと、ですの?』
『明日の夕刻、お城へ上がるのです。いよいよ、あなたも』
『お城へ!? こ、この、わたくしが?』
突発的な申し送りを受けて、ピクルスの両の目が海亀の卵くらいに丸くなった。
ショコレットの方は、にやにやと含み笑いを続けている。
『ええ、そうよ』
『そう……』
『――とはいいましても、すぐに職任を与えられるのでは、ありませんわ。まずは新入り女官として、どうしても避けては通れない、王族に対する着官報告、すなわち挨拶と口頭試問が、あなたを待っていてよ。ほほほ』
『まあ、そうなの!』
『驚いて? ええ、驚きますわよねえ?』
『シュア……』
『し・か・も、アルデンテ王を前にして、あなたは――』
ショコレットからの詳しい説明によると、挨拶は、単なる自己紹介の言葉を述べるだけでなく、最後にユニークな一芸を披露して場を盛り上げることが義務づけられているのだ。その前に行われる口頭試問役員が博識豊かな王女三姉妹ということもあり、万が一にも粗相があってはならない、と念を押されたのだった。
それで昨晩のピクルスは、緊張の高まりで、なかなか寝つけなかった。
「はっ*!」
唐突に迎えた目覚め。外からのチュンチュンという小鳥の鳴き声は聞こえるものの、部屋の中は暗い。
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