キュウカンバ伯爵家のピクルス大佐ですわよ！

【第九幕】４ｔｈステージ「ビタミンＣ」

ヴィルクルたちのその後の物語の後編

　記号の羅列（Ｘ＼Ｙ）＋Ｚ＝（Ｘ＋Ｚ）＼（Ｙ＋Ｚ）を、老亀が右の前ヒレで指しながら話す。

「この法則のＸ、Ｙ、Ｚに、Ｌ、Ｌ、Ｌを当て嵌めて考えます」

　（Ｌ＼Ｌ）＋Ｌ＝（Ｌ＋Ｌ）＼（Ｌ＋Ｌ）

「（Ｌ＼Ｌ）はＶですから、イコールの左側は（Ｖ＋Ｌ）すなわちｌです」
「どういうことですの？」
「クロス交合の法則表を見れば、お分かりになります」

　＋｜Ｌ｜Ｍ｜Ｎ｜Ｖ｜Ｗ
　―｜―｜―｜―｜―｜―
　Ｌ｜？｜？｜ｎ｜ｌ｜？
　Ｍ｜？｜？｜ｎ｜ｍ｜？
　Ｎ｜ｎ｜ｎ｜ｎ｜ｎ｜ｎ
　Ｖ｜ｌ｜ｍ｜ｎ｜ｖ｜ｗ
　Ｗ｜？｜？｜ｎ｜ｗ｜？

「あ、ＶとLのクロス交合がｌになるという意味ですわね！」
「その通りです。そうしますと先の法則を、より単純な形に書き直せます」

　ｌ＝（Ｌ＋Ｌ）＼（Ｌ＋Ｌ）

「これのイコールの右側は同性間のスラッシュ・チャイルドです。それがｌになるという結果から逆にスラッシュ法則表を調べることにより、M＼M→ｌなのですから、（Ｌ＋Ｌ）が、実はｍのことなのだと分かります」

　＼｜Ｌ｜Ｍ｜Ｎ｜Ｖ｜Ｗ
　―｜―｜―｜―｜―｜―
　Ｌ｜ｖ｜ｗ｜ｌ｜ｍ｜ｎ
　Ｍ｜ｗ｜ｌ｜ｍ｜ｎ｜ｖ
　Ｎ｜ｌ｜ｍ｜ｎ｜ｖ｜ｗ
　Ｖ｜ｍ｜ｎ｜ｖ｜ｗ｜ｌ
　Ｗ｜ｎ｜ｖ｜ｗ｜ｌ｜ｍ

「すなわち（Ｌ＋Ｌ）→ｍです。同じようにして、Ｘ、Ｙ、ＺにＬ、Ｌ、Ｍを当て嵌めてみると、この通りです」

　ｍ＝（Ｌ＋Ｍ）＼（Ｌ＋Ｍ）

「これに対してもスラッシュ法則表から、Ｌ＋Ｍ→ｗであることが分かります。同様にして、Ｌ、Ｌ、Ｗを当て嵌めてＬ＋Ｗ→ｖが分かります。こうして順に、クエスチョンの性を一つ一つ解明することができるのです。そうしていつしかクロス法則表が完成します」

　疑問符を一つずつ解明しながら、老亀は表を仕上げた。

　＋｜Ｌ｜Ｍ｜Ｎ｜Ｖ｜Ｗ
　―｜―｜―｜―｜―｜―
　Ｌ｜ｍ｜ｗ｜ｎ｜ｌ｜ｖ
　Ｍ｜ｗ｜ｖ｜ｎ｜ｍ｜ｌ
　Ｎ｜ｎ｜ｎ｜ｎ｜ｎ｜ｎ
　Ｖ｜ｌ｜ｍ｜ｎ｜ｖ｜ｗ
　Ｗ｜ｖ｜ｌ｜ｎ｜ｗ｜ｍ

　老亀が淡々と説明を続ける。ピクルスは飽きてきているが、黙って最後までつき合うことにしている。

「それと、クロス交合にも巡回法則があります。Ｎ以外の同性によるクロス交合においては、四代目が必ずｖになるのです」

　（（Ｌ＋Ｌ）＋Ｌ）＋Ｌ→ｖ
　（（Ｍ＋Ｍ）＋Ｍ）＋Ｍ→ｖ
　（（Ｖ＋Ｖ）＋Ｖ）＋Ｖ→ｖ
　（（Ｗ＋Ｗ）＋Ｗ）＋Ｗ→ｖ

「とはいっても、四代目で初めてｖになるとは限りません。実際、ＶとＭは、二代目がｖですから」
「はぁ～～、わたくし、頭もお腹も、もうたっぷりですわ～」

　ピクルスは、二杯のミックス・マックス・マンゴー飲料と、交合理論のいくつかの法則を飲み干したのだ。

「そうですか。ではスタフィッシュのその後について、お話し致しましょう。是非とも楽にして、お聞き下さい」
「シュアー♪」

　老亀の語りは続いた。もう難解な理論もなく、ピクルスは、まったりとくつろぎながら、それでいてしっかりと耳を傾けた。
　純粋ネプチューンの長ウラノスガイアが死に、次の長クロノスレアも死に、その子であるスタフィッシュが、純粋ネプチューンの最後の長となり、同時に天帝ラアユーから永遠の命を授かった。その彼が、いうまでもなく現在のポセイドンだ。
　全知不死となったポセイドンは、漸く今日この日、遥か大昔の短かった若き日々に愛した最初で最後の妻の命を受け継いだ子孫であるピクルスの美貌に、懐かしいヴィルクルの面影を重ね見て、十分に十分を重ねた百分、心を満たしたうえで、故郷のフンフケルパー、現在では蓬泉ほうせんと呼ばれている、とても寂しく退屈な世界へ帰ったのである。そこから百個の時空間を見つめる管理神を務め続けなければならないのだ。この先も永遠に。

　老亀による長い話も、とりあえず一つの段落として区切られた。
　ピクルスは心地良い疲労感を覚えながら二つの表をもう一度良く眺める。
　そこから、イマジネイションが沸き上がるのを感じてくる。

「はっ☆！！　このスラッシュ法則表、ｎの並びがスラッシュの形！　クロス法則表の方はクロスの形をしていますわ。これも因果関係？」

　＼｜Ｌ｜Ｍ｜Ｎ｜Ｖ｜Ｗ
　―｜―｜―｜―｜―｜―
　Ｌ｜ｖ｜ｗ｜ｌ｜ｍ｜★
　Ｍ｜ｗ｜ｌ｜ｍ｜★｜ｖ
　Ｎ｜ｌ｜ｍ｜★｜ｖ｜ｗ
　Ｖ｜ｍ｜★｜ｖ｜ｗ｜ｌ
　Ｗ｜★｜ｖ｜ｗ｜ｌ｜ｍ

　＋｜Ｌ｜Ｍ｜Ｎ｜Ｖ｜Ｗ
　―｜―｜―｜―｜―｜―
　Ｌ｜ｍ｜ｗ｜★｜ｌ｜ｖ
　Ｍ｜ｗ｜ｖ｜★｜ｍ｜ｌ
　Ｎ｜★｜★｜★｜★｜★
　Ｖ｜ｌ｜ｍ｜★｜ｖ｜ｗ
　Ｗ｜ｖ｜ｌ｜★｜ｗ｜ｍ

「はい、まさにその通りです。法則表の裏に隠された法則を見破りなさるとは、さすがにございますピクルスお嬢様！」
「お嬢様？」
「あ、つい……」

　この時ピクルスは、もう一つを見破った。

「あなたジッゲン、ですのね？」
「は……はい、とうとうバレてしまいました。いやはや」

　ピクルスの第一執事をしているヴォルフガング‐ジッゲンバーグこそが、この年老いた海亀の正体である。それも深い因果関係による必然なのだ。

「でもどうして、そのような海亀ですの？」
「私の正体は海亀の化身なのですが、それを隠すために、あえて海亀の姿を借りているのです。大抵の者の思うところとして、見た目が海亀の者がまさか海亀の化身だとは、そうストレイトに結びつきませんでしょう」
「そうですわねえ、わたくしも、あなたは海亀そのもの。最初から、ずっとそのように思っていました。おほほほ」

　ピクルスは得意そうに笑う。さも愉快痛快といった感じだ。