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【第八幕】RPG『奪われた聖剣を取り戻せ!』
数千年の時間を越えて蘇ったムスクウリ王子
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ウムラジアン大陸のヴェッポン国に住んでいるピクルスは、キュウカンバ伯爵家のご令嬢だ。とてもお転婆な少女である。
半年前、ピクルスはヴェッポン国王からの特務を受けて、ヤポン神国で行われている伝統行事「恋愛模擬体験遊戯『神攻略戦』」に脇役として参加した。その遊戯の進行中に、彼女は蝶のような妖精の姿になった。そして、脚本とは直接関係はないものの、一緒に参加していたセントバーナード犬ザラメ軍曹が、ムスクウリの種になってしまったのである。
妖精ピクルスは、とても悲しんで大粒の涙をたくさん溢した。それを見ていたヤポン神国第六十六代の神ポンズヒコが「植木鉢に、マカロンちゃんの白砂を入れて、その種を蒔くのじゃ。さすればザラメが蘇るやも知れぬ。さあピクルス、急ぐのじゃ」と助言した。藁をもつかむ思いで、ピクルスはその通りにした。流れ落ちる涙が柄杓に溜められ、鉢に撒かれた。
それからピクルスは妖精から元の人間の姿に戻り『神攻略戦』はエンディングを迎えた。
後日、ムスクウリの種を蒔いてある鉢はヴェッポン国に持ち運ばれた。数日が過ぎて芽が出た。日に日に育って伸びるので、鉢だと狭いと判断して、苗を庭の花壇に植え替えた。もちろんのこと毎日欠かさず水を与えた。
半年が経って、とても大きなマスクメロンの果実が一つだけ生った。普通のメロンの十倍くらいのサイズだ。
キュウカンバ伯爵家には、ピクルスの他に父親のピスタッチオ、第一執事のジッゲンバーグ、第二執事のチョリソール、料理長も兼務しているメイドのクッペンがいる。合計五人でそのうち二人は老人だ。とても食べきれない大きさのメロンなので、ピクルスはメロン・パーティーを開催しようと考えた。
まず、友人のマロウリとメロウリがやってきた。二人はサラッド公爵家の双子兄妹だ。それから、彼らの父親でヴェッポン国自衛軍のラデイシュ中将を始め、その他にも大勢がパーティー会場に集まった。
参加予定者が全員揃ったところで、ピクルスは名刀オチタスピを使い、大きなメロンの果実を、スッパリと二つに斬った。一刀両断だ。
するとどうしたことなのか、中から男の子が出てきた。
「ザラメぇ!」
ピクルスは、てっきりザラメが生まれ変わったのだと思って叫んだ。
「とても待たせちゃったね、ピクルス大佐」
なんと、生まれてすぐの男の子がウムラジアン語でしゃべったのだ。しかも、名前だけでなく、ピクルスがヴェッポン国自衛軍の大佐という階級だということまでも知っていたのである。
これには、ピクルスも他のみんなも、たいへん驚いた。
「あなた、本当にザラメ軍曹ですの?」
ピクルスが尋ねた。ザラメという犬は、ヴェッポン国自衛軍の軍曹という階級を持っていたのだ。
男の子は笑顔で応える。
「それは、イエスでもありノーでもあるね。実はボク、ザラメ軍曹からムスクウリ王子に転生したんだよ。これからもよろしくね」
「シュアー!」
ピクルスも笑顔で返した。この「シュアー!」というのは、ヴェッポン国自衛軍の軍人が良く使う「もちろんです!」という意味の言葉なのである。
そしてもう一つ、さらに驚異的だったのは、その子の成長ぶりだ。たったの三日で、男の子は立派な青年になったのである。
ムスクウリ王子は、ウムラジアン王家を再興するために、数千年の時間を越えて現代のウムラジアン大陸に蘇ったのだ。
ピクルスたち一同を前にして、ムスクウリは、自らに課せられた使命について熱く語った。
ウムラジアン王の座に就くためには「ウムラジアン聖剣」と呼ばれる武器を持っていなければならないのだ。ところが、その聖剣は大昔に魔王ギョーザーに奪われてしまったため、現在のウムラジアン大陸には存在しない。
ギョーザーは、ウムラジアン王家に縁のある者が聖剣を奪い返しにくるだろうと想定して、はるか遠方にあるアインデイアン大陸へと逃げた。その大陸は、一度はギョーザーによって支配された。ところが非常に強い寒波の影響で氷河期が訪れたため、ギョーザーは氷漬けになり、そのまま村人たちによって冷凍庫の中に封じ込められた。
それから数千年が経って、ギョーザーは、とあるゲーム制作会社のデザイナーに目をつけられて解凍された。RPG『奪われた聖剣を取り戻せ!』の惣菜キャラとして採用されることになったのだ。ゲーム内のギョーザーは、魔王とはいえ惣菜なので、いわゆるザコキャラである。それ故「ウムラジアン聖剣」など持ってはいない。その聖剣は、ラストボスとして世界に君臨している超魔王レバニイラの所持品なのだ。
こういう話を聞かさせて、ピクルスが正直な思いを投げかける。
「つまり、ウムラジアン聖剣を取り戻すには、その超魔王レバニイラという輩を倒せば良いのね?」
「それは、イエスでもありノーでもあるね。なぜならラストボスを登場させるためには、ザコキャラを大勢倒して、それから何匹かのミドルボスとも戦わないといけないんだよ。それがRPGの掟なのさ」
「それなら、ザコもミドルも片っ端からやってしまいましょう♪」
ピクルスは至って乗り気である。戦いと聞けば腕が鳴るのだ。
「善は急げというからね。今すぐに出立しようじゃないか」
「ラジャー!」
こうして、ピクルスとムスクウリは、大型戦闘機ブルーカルパッチョの乗り、RPG『奪われた聖剣を取り戻せ!』の開幕ステージがあるチャイ帝国に向けた飛び立ったのである。
半年前、ピクルスはヴェッポン国王からの特務を受けて、ヤポン神国で行われている伝統行事「恋愛模擬体験遊戯『神攻略戦』」に脇役として参加した。その遊戯の進行中に、彼女は蝶のような妖精の姿になった。そして、脚本とは直接関係はないものの、一緒に参加していたセントバーナード犬ザラメ軍曹が、ムスクウリの種になってしまったのである。
妖精ピクルスは、とても悲しんで大粒の涙をたくさん溢した。それを見ていたヤポン神国第六十六代の神ポンズヒコが「植木鉢に、マカロンちゃんの白砂を入れて、その種を蒔くのじゃ。さすればザラメが蘇るやも知れぬ。さあピクルス、急ぐのじゃ」と助言した。藁をもつかむ思いで、ピクルスはその通りにした。流れ落ちる涙が柄杓に溜められ、鉢に撒かれた。
それからピクルスは妖精から元の人間の姿に戻り『神攻略戦』はエンディングを迎えた。
後日、ムスクウリの種を蒔いてある鉢はヴェッポン国に持ち運ばれた。数日が過ぎて芽が出た。日に日に育って伸びるので、鉢だと狭いと判断して、苗を庭の花壇に植え替えた。もちろんのこと毎日欠かさず水を与えた。
半年が経って、とても大きなマスクメロンの果実が一つだけ生った。普通のメロンの十倍くらいのサイズだ。
キュウカンバ伯爵家には、ピクルスの他に父親のピスタッチオ、第一執事のジッゲンバーグ、第二執事のチョリソール、料理長も兼務しているメイドのクッペンがいる。合計五人でそのうち二人は老人だ。とても食べきれない大きさのメロンなので、ピクルスはメロン・パーティーを開催しようと考えた。
まず、友人のマロウリとメロウリがやってきた。二人はサラッド公爵家の双子兄妹だ。それから、彼らの父親でヴェッポン国自衛軍のラデイシュ中将を始め、その他にも大勢がパーティー会場に集まった。
参加予定者が全員揃ったところで、ピクルスは名刀オチタスピを使い、大きなメロンの果実を、スッパリと二つに斬った。一刀両断だ。
するとどうしたことなのか、中から男の子が出てきた。
「ザラメぇ!」
ピクルスは、てっきりザラメが生まれ変わったのだと思って叫んだ。
「とても待たせちゃったね、ピクルス大佐」
なんと、生まれてすぐの男の子がウムラジアン語でしゃべったのだ。しかも、名前だけでなく、ピクルスがヴェッポン国自衛軍の大佐という階級だということまでも知っていたのである。
これには、ピクルスも他のみんなも、たいへん驚いた。
「あなた、本当にザラメ軍曹ですの?」
ピクルスが尋ねた。ザラメという犬は、ヴェッポン国自衛軍の軍曹という階級を持っていたのだ。
男の子は笑顔で応える。
「それは、イエスでもありノーでもあるね。実はボク、ザラメ軍曹からムスクウリ王子に転生したんだよ。これからもよろしくね」
「シュアー!」
ピクルスも笑顔で返した。この「シュアー!」というのは、ヴェッポン国自衛軍の軍人が良く使う「もちろんです!」という意味の言葉なのである。
そしてもう一つ、さらに驚異的だったのは、その子の成長ぶりだ。たったの三日で、男の子は立派な青年になったのである。
ムスクウリ王子は、ウムラジアン王家を再興するために、数千年の時間を越えて現代のウムラジアン大陸に蘇ったのだ。
ピクルスたち一同を前にして、ムスクウリは、自らに課せられた使命について熱く語った。
ウムラジアン王の座に就くためには「ウムラジアン聖剣」と呼ばれる武器を持っていなければならないのだ。ところが、その聖剣は大昔に魔王ギョーザーに奪われてしまったため、現在のウムラジアン大陸には存在しない。
ギョーザーは、ウムラジアン王家に縁のある者が聖剣を奪い返しにくるだろうと想定して、はるか遠方にあるアインデイアン大陸へと逃げた。その大陸は、一度はギョーザーによって支配された。ところが非常に強い寒波の影響で氷河期が訪れたため、ギョーザーは氷漬けになり、そのまま村人たちによって冷凍庫の中に封じ込められた。
それから数千年が経って、ギョーザーは、とあるゲーム制作会社のデザイナーに目をつけられて解凍された。RPG『奪われた聖剣を取り戻せ!』の惣菜キャラとして採用されることになったのだ。ゲーム内のギョーザーは、魔王とはいえ惣菜なので、いわゆるザコキャラである。それ故「ウムラジアン聖剣」など持ってはいない。その聖剣は、ラストボスとして世界に君臨している超魔王レバニイラの所持品なのだ。
こういう話を聞かさせて、ピクルスが正直な思いを投げかける。
「つまり、ウムラジアン聖剣を取り戻すには、その超魔王レバニイラという輩を倒せば良いのね?」
「それは、イエスでもありノーでもあるね。なぜならラストボスを登場させるためには、ザコキャラを大勢倒して、それから何匹かのミドルボスとも戦わないといけないんだよ。それがRPGの掟なのさ」
「それなら、ザコもミドルも片っ端からやってしまいましょう♪」
ピクルスは至って乗り気である。戦いと聞けば腕が鳴るのだ。
「善は急げというからね。今すぐに出立しようじゃないか」
「ラジャー!」
こうして、ピクルスとムスクウリは、大型戦闘機ブルーカルパッチョの乗り、RPG『奪われた聖剣を取り戻せ!』の開幕ステージがあるチャイ帝国に向けた飛び立ったのである。
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