さとうと編集。

cancan

文字の大きさ
上 下
15 / 15

009 『お茶漬け』in AKIBA!!!(完)

しおりを挟む
「あ――ッ!!!!!! お茶漬け食べたい!!!」

 私は叫んでいた。

 「道の真ん中で叫ぶのをやめてください」

 当たり前のことを当たり前に話す青木。
 青木の話はたいてい面白みがない。
 ここが大阪だったら彼は府の条例で定められている『道端でつまらない話をしたら罰金』条例に引っかかり千円を払わせられていたことだろう。
 
 これは知らない人もいると思うので簡単に説明させてもらう。
 路上喫煙が条例で禁止されている街と考えてもらえばわかりやすい。

 あれと同じで、路上で歩きながらつまらない話をしていると仕事をリタイヤした比較的高齢な監視員が来てお金を徴収していくのだ。
 油断できない街。それが大阪。

 でもここは秋葉原だ。
 青木はつまらない話をしても罰金を払わずにすんだ。

 「青木。お茶漬け屋さんに行きましょう」
 「え……」
 彼はそんな店見たことねーよという表情で私を見つめる。

 この近辺で確かにお茶漬け専門店など見た覚えはない。
 「どうしても食べたいんです」
 「……なんでまた。昼ご飯にいきなりお茶漬けをセレクトするセンスがちょっと女子高生の思考から逸脱しているというか何というか」

 「青木の考えている学生像は雑誌やニュース、つまり社会に捏造された幻影だということですよ。みんなタピオカ大好きで、SNSで踊りくるっているというのは間違いなのでは?」
 「いやそんなことは思っていませんけど……お茶漬けは少し違うのではないかと」

 「昨日の夜、漫画で見て食べたくなったんです」
 「うわー、ミーハー」
 「ミーハー?」

 「にわかってことですよ。なんていうかな流行とかに感化されやすい人間」
 「それは否めないですけどね。まあ、お茶漬けですからミーハーでいいんじゃないですか。この料理は気軽に食べた方がいいです」

 青木は「そうですね」といってスマホをいじっている。
 お茶漬けを食べられる店を検索しているのだろう。

 「あ! 青木。あの店は?」
 偶然見つけた看板にお茶漬けと描いてある。

 「あれって居酒屋じゃないですか? 昼からお酒を呑むとかロクな大人になりませんよ」
 「いや私JKなんで! お酒呑めないんで!」
 「確かに……最近はうるさいですからね。僕もJKにお酒とか呑ませたら社会的な地位が危ぶまれます」
 それも面白いなと思ったが、よくよく考えたら青木に元々社会的地位など存在していなかったので問題を起こす意味がないことに天月さとうは気がついた。

 「お茶漬けだけさらっとたべて帰りましょう」
 「まあ……それなら」

 私も今日は制服も着てないし。
 何かいわれることもないと思う。

 その店の外観は昔ながらといった感じだ。
 きっと一軒家の一階部分を店舗として使いながら、二階部分を住居として使用しているのだと思われる。
 街の片隅でこじんまりと経営している。
 そんな感じであった。
 
 カウンター席が六席、小上がりのテーブルが三個。
 昼間だが店には客がいる。
 こういった飲み屋は夜から営業するものだろうが、ランチもやっているのだろう。
 夜の営業だけでは食べていけないのかもしれない。

 私たちは間違っても広いとはいえないテーブル席を選んだ。
 青木は部屋の隅に置いてあった座布団を手にとり私に渡す。

 「昭和な感じですね」
 「ええ、まあ」
 おざなりな返事。
 青木の目線の先にはカウンターで呑んでいるお客が三人。
 
 「どうかしました?」
 「あそこで呑んでいるの大手出版社のお偉いさんですよ」
 
 「へー、昼間からお酒とはいいご身分ですね」
 「まあ確かに役職的にはいいご身分ですね」
 この界隈は出版社も多いのだろう。
 同業者と鉢合わせすることもあるのかもしれない。

 私はメニューを見ていた。
 いきなりお茶漬けを頼んでいいものなのかどうか……
 かるく間に何か小鉢とかを挟んだ方がいいのか。
 こういう店に来たことがあまりないので勝手がわからない。
 
 「うーん……」
 「え? お茶漬けを食べに着たんじゃないんですか」
 「食べますよ。食べます。ただお茶漬けをいきなり注文していいのか迷っていて」

 「いやいや、いいに決まってるでしょ。じゃあ店員呼びますよ」
 「えー」

 青木が手をあげる。
 注文を取りにきたのは女性店員だった。

 「えーっと、お茶漬け二つ」
 勝手に注文を入れる青木。

 「明太子か鮭、あと梅から選んでもらえますけど?」
 「私メンタイコ!」
 「僕はシャケで」

 「わかりました」
 取った注文を小さいバインダーで挟まれた紙に書いている。

 「では本題です」
 「なんですか?」

 お茶漬けを待っている中。
 重々しい雰囲気になる。

 「まあ……たいした話では無いのですけれども……」
 「はい」

 「実は『さとうと編集』の打ち切りが残念ながら決定しました」
 「え――っ!?」
 私は驚く。

 心の中で全然たいした話では無くないのではないかと疑問に思っていたが、それが私の口から言葉になることはなかった。

 「不人気ということで……」
 「……」

 ショックで言葉が出ない。

 「でも我々の闘いはこれからです」
 「……」

 「さとう先生の次回作に期待しましょう」

 どこかで聞いたことがあるようなテンプレのセリフ。
 まさか自分が巻き込まれることになろうとは――

 「……」
 「……」
 「…………」

 「……」


 「はーい。お茶漬けになりまーす」

 お茶漬けを運んできた店員の声だけが明るく響く。

 その時の私に受け入れられる現実はお茶漬けがきた。
 それだけだった――
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

KEFY
2019.02.10 KEFY

2人のやりとりと、ところどころに挟まる小ネタが面白くて好きです。
 これからも更新頑張ってください!

cancan
2019.02.10 cancan

KEFYさん

感想ありがとうございます。
『やりとり』『小ネタ』そこを言っていただけると、とてもうれしいですね!
更新がんばりたいと思います!!!!

解除

あなたにおすすめの小説

もしもしお時間いいですか?

ベアりんぐ
ライト文芸
 日常の中に漠然とした不安を抱えていた中学1年の智樹は、誰か知らない人との繋がりを求めて、深夜に知らない番号へと電話をしていた……そんな中、繋がった同い年の少女ハルと毎日通話をしていると、ハルがある提案をした……。  2人の繋がりの中にある感情を、1人の視点から紡いでいく物語の果てに、一体彼らは何をみるのか。彼らの想いはどこへ向かっていくのか。彼の数年間を、見えないレールに乗せて——。 ※こちらカクヨム、小説家になろう、Nola、PageMekuでも掲載しています。

優等生の裏の顔クラスの優等生がヤンデレオタク女子だった件

石原唯人
ライト文芸
「秘密にしてくれるならいい思い、させてあげるよ?」 隣の席の優等生・出宮紗英が“オタク女子”だと偶然知ってしまった岡田康平は、彼女に口封じをされる形で推し活に付き合うことになる。 紗英と過ごす秘密の放課後。初めは推し活に付き合うだけだったのに、気づけば二人は一緒に帰るようになり、休日も一緒に出掛けるようになっていた。 「ねえ、もっと凄いことしようよ」 そうして積み重ねた時間が徐々に紗英の裏側を知るきっかけとなり、不純な秘密を守るための関係が、いつしか淡く甘い恋へと発展する。 表と裏。二つのカオを持つ彼女との刺激的な秘密のラブコメディ。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

離婚した彼女は死ぬことにした

まとば 蒼
恋愛
2日に1回更新(希望)です。 ----------------- 事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。 もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。 今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、 「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」 返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。 それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。 神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。 大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。 ----------------- とあるコンテストに応募するためにひっそり書いていた作品ですが、最近ダレてきたので公開してみることにしました。 まだまだ荒くて調整が必要な話ですが、どんなに些細な内容でも反応を頂けると大変励みになります。 書きながら色々修正していくので、読み返したら若干展開が変わってたりするかもしれません。 作風が好みじゃない場合は回れ右をして自衛をお願いいたします。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています

オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。 ◇◇◇◇◇◇◇ 「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。 14回恋愛大賞奨励賞受賞しました! これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。 ありがとうございました! ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。 この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)

心の落とし物

緋色刹那
ライト文芸
・完結済み(2024/10/12)。また書きたくなったら、番外編として投稿するかも ・第4回、第5回ライト文芸大賞にて奨励賞をいただきました!!✌︎('ω'✌︎ )✌︎('ω'✌︎ ) 〈本作の楽しみ方〉  本作は読む喫茶店です。順に読んでもいいし、興味を持ったタイトルや季節から読んでもオッケーです。  知らない人、知らない設定が出てきて不安になるかもしれませんが、喫茶店の常連さんのようなものなので、雰囲気を楽しんでください(一応説明↓)。 〈あらすじ〉  〈心の落とし物〉はありませんか?  どこかに失くした物、ずっと探している人、過去の後悔、忘れていた夢。  あなたは忘れているつもりでも、心があなたの代わりに探し続けているかもしれません……。  喫茶店LAMP(ランプ)の店長、添野由良(そえのゆら)は、人の未練が具現化した幻〈心の落とし物(こころのおとしもの)〉と、それを探す生き霊〈探し人(さがしびと)〉に気づきやすい体質。  ある夏の日、由良は店の前を何度も通る男性に目を止め、声をかける。男性は数年前に移転した古本屋を探していて……。  懐かしくも切ない、過去の未練に魅せられる。 〈主人公と作中用語〉 ・添野由良(そえのゆら)  洋燈町にある喫茶店LAMP(ランプ)の店長。〈心の落とし物〉や〈探し人〉に気づきやすい体質。 ・〈心の落とし物(こころのおとしもの)〉  人の未練が具現化した幻。あるいは、未練そのもの。 ・〈探し人(さがしびと)〉  〈心の落とし物〉を探す生き霊で、落とし主。当人に代わって、〈心の落とし物〉を探している。 ・〈未練溜まり(みれんだまり)〉  忘れられた〈心の落とし物〉が行き着く場所。 ・〈分け御霊(わけみたま)〉  生者の後悔や未練が物に宿り、具現化した者。込められた念が強ければ強いほど、人のように自由意志を持つ。いわゆる付喪神に近い。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。