背徳のマスカレイド 最終章

捕縛の縄師

　翔はその強面の外見とは裏腹に、若い男にはありがちな乱暴さが全くなく、さすが、場数を踏んでいる…と思わせるほど繊細なタッチで、美麗の肌に指を滑らせた。

彼のその指先に、美麗の身体はすぐに馴染んでいった。美麗のよく通る艶やかな声が部屋全体に響き渡り、翔は彼女の感度の良さに驚きを隠せなかった。

(全く…！まるで男の本能を鷲掴みにするような女だな…)

百戦錬磨であった翔でさえ、美麗の身体に夢中になるのは時間がかからなかった…

冬季は、どちらかというと非常に直接的な写真を一糸まとわぬ姿で撮りたがったが、翔は正反対だった。

着衣緊縛が基本で、彼の撮る写真はまるで写真集のように美しかった。

その日は初めてだったこともあり、美麗は黒のレースのランジェリーの上から縄を受けた。

首から下の写真だったが、彼女が充分に美しいことはみてとれる出来栄えだった。

その後も彼は後ろ姿や顔が映らない角度での写真を何枚か撮った。

美麗はいつも思うのだが、顔のない女は美しいと…

そういう点でも、美麗と翔は美的感覚は似ていたのかも知れなかった…

また、彼のかける縄は、いわゆるSM緊縛ではなく、警察官に直接習ったという捕縛術だった。この世界で捕縛の縄をかける人はおそらく、彼以外にはいなかったであろう。

どんな縄かというと、犯人を拘束する為の縄なので、決して自力ではとけない縄である。

密室での緊縛というのは、余程相手を選ばなければ、取り返しのつかない惨事を招くこともある。

まず、技術が未熟な人。場合によっては大きな怪我を負いかねない。

続いて、精神が未熟な自称S

M女はどんな風に扱ってもいいと勘違いしていたり、相手にも社会生活があるという事がわからない危険な相手である。

その点でも、美麗はパートナーに恵まれていたと言える。

冬李も、翔もなかなかの腕前であり、尚且つ無理なことはさせなかったからだ。

 技術面、愛情面、経済面では申し分なかった翔だが、歳の割には子供っぽく、その当時、お金と時間が十二分にあった彼は、毎週のように、美麗との外泊デートを希望した。

 主婦が毎週外泊するのは、どう考えてもおかしいし、おそらく美麗の夫でなければ、とっくに結婚生活は破綻していただろうと思われた。

それともう1つ、やっかいだったのは、翔は着衣緊縛の他に、女の心を壊すという、精神的DV気質を持ち合わせていたのだ…その事が後に美麗を疲弊させる事となる…

翔は美麗にありとあらゆる贅沢をさせながら、その一方で、彼女の心を少しずつ壊していったのである…