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その頃の芸能界…
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スタジオで音合わせをしているのは、Summer In the Shineの大ヒットで人気バンドの仲間入りを果たしたbeach guysだ。
スタジオのドアが開いて一人の男が入ってきた。株式会社Doing社長兼音楽プロデューサーの神戸徹である。
「あ、社長!おはようございます!」
ヴォーカルの江波が元気に挨拶した。
「調子はどうだ?」
「バッチリです!」
「ところで江波、お前、次の曲、自分で書いてみる気はないか?」
唐突な質問である。江波は困ったように
「いやぁ、まだ俺、曲まで作る自信ないっす💦やっぱり、そこはプロの先生方にお願いして、俺らは歌うことに専念します。」
「そうか。わかった」
神戸は笑って出ていった。
スタジオを出たところにあるロビーのソファに腰をおろした神戸は何気なく、ブックスタンドにある本を手に取る。週刊womanである。
当時の業界は深刻な作詞家不足だった。作詞家がいないのではなく、才能のある作詞家が枯渇していたのだ。
「いっちょ、募集でもかけてみるか…」
女性作詞家募集!グランプリの方はbeach guysの次回アルバムでデビュー出来ます!
そんな内容の記事が神戸徹 の写真と共に掲載された。
藤堂綾香はもうすぐ高校を卒業する18才だ。学校帰りに寄った書店で何気なく、女性週刊誌を手に取り、パラパラとめくった。
「女性作詞家募集?この人社長?かっこいいやん!」
で、この人が私の作品みてくれて、グランプリなんかとっちゃった暁には、今をときめくbeach guysに歌書けるんだ。よしっ、応募しよ!
綾香は音符も読めなかったし、作詞の経験もなく、もちろん、作詞家になろうなんて全く思っていなかった。
ただ一度でも人気バンドの歌書いたりしたら、友達に自慢出来るなあという、全くもってミーハーな考えから、いくつかの散文詩を添えて応募した。
それから数か月後。グランプリの発表はあったが、それはもちろん、綾香ではなかった。でも…この程度の歌詞なら、私でも書けるんだけどなあ…と彼女が思ったのも事実である。
それから、数日後のことである。
綾香宛に株式会社Doingから封書が届いた。なんだろう?と思って開けてみたら、最終選考に残った方々に、弊社で作詩の勉強をしませんか?というものだった。
近いうちに、担当のディレクターが大阪に来るという話で、ぜひご参加下さいと場所と日時が添えられていた。
面白そうだったので行くことにした。
その反面、作詩の勉強とかいって、数十万とか数百万とか高い授業料とるんと違うん?そんなんやったら、即帰って来よう。と思いながら、現場に向かった。
芸能界というところは、たとえ、オーディションに受かっても、その後のレッスン代やその他諸々の経費が馬鹿高い。
大手プロダクションからデビューしても、デビューにかかる費用は、タレント本人の借金となる。出世払いというやつだ。
実際のところ、金持ちしかスターになれないのだ。高校生の綾香でも、そのくらいの知識はあった。実際バイト先で知り合ったアイドル志望の瞳ちゃんは、地元のタレントスクールに通っているが、毎月のレッスン代はそこそこ高い。それに言っちゃ悪いが、先生が今度某若手有名タレントと対談するの!とかいって騒いでるようなら、たいしたタレントスクールではない
( ̄▽ ̄;)
漠然とそんなことを考えながら歩いていると、現地到着。そこにいたのは様々な人たちだった。プロのラジオパーソナリティーであるという美しい女性、ちょっとくせのある見た目のぱっとしない地味な女性。10人はいなかっただろうか?
その中心にディレクターと名乗る、業界人特有のちょっと胡散臭くて、ちょっとかっこいい二人の男性がいた。彼らは岸田さんと柿本さんと言った。
彼らの話はこうだった。グランプリをとった女性も貴女方も実力の上では大差はない。ほんのちょっとの差で彼女に決まっただけだと。そこで我々としては、そんな才能のある貴女方を捨てるのは惜しいので、是非我々の元で勉強してほしいというのだ。
気になるのは参加費である。年間で事務手数料7900円だけ負担して欲しいとのこと。
十代の女の子にはけして安くない。
でも、まあ、タレントのファンクラブを二つ入るくらいの金額かなあ…
払えぬ金額ではなかったし、面白そうだったので、綾香はとりあえず、参加を決めた。
従来の作詞家教室は、売れなくなった作詞家が生計をたてるためにやってることが多く、月謝も数万円~とかなり高いです。でも、考えてみて下さい。売れなくなった作詞家から一体何が学べますか?貴女方が出会わないといけないのは、優れた音楽プロデューサーであり、才能のある作曲家だ。
それから、月に一回。担当ディレクターは大阪にやってきて、みんなで各々の作品を批評しあったり、ディスカッションしたりした。
昨今の業界は、曲先と言って曲が先に出来ていて、それに詞をつけていくのが主流だ。綾香達は beach guysの次回作のB面に入る曲のデモテープを聴いて、それに詩を乗せていくという課題を与えられた。良いものが出来れば、もちろん、採用はありだという。
ほんとにbeach guysのB面か?綾香は半信半疑で渡されたデモテープをみていた。
後日、発表されたbeach guysの曲のB面に確かにその曲が入っているのを確認して、初めて、綾香は自分がほんとに、Doingの作詞家の卵なんだと認識した。
そうやって、何度もディレクターと会ううちに、綾香は常々疑問に思っていることを、ある日、岸田Dに聞いてみた。
「ねえ、岸田さん?私たちって海のものか山のものかもわかりませんよね?どうしていつも、まるで、プロの作詞家の先生であるかのように扱うんですか?」
彼の答えはこうだった。
「以前、全く売れていないときに、秋田聡がうちの事務所によく出入りしていて、何か仕事ありませんか?ってきてたよ。もし、その時に僕たちが門前払いしていたら、売れたあとに絶対一緒に仕事してくれないよね?だから、無名の時から信頼関係を築く必要があるんだよ。君たちは今は普通の鶏でも、いつどこで金の卵を産む鶏に化けるかなんてわからないからね」
岸田Dの話はいつも面白かった。
「梅田琴美はああ見えても影で凄く努力して今のトップスターの座を勝ち取ったんだよ。ほんとあの子は苦労してるよね~」みたいなことをいうから
「中川春菜ちゃんは?」
と聞くと、春菜は…と苦い顔をするので、なんだか、あまり彼女のことは好きでないみたいだなと思ったり(笑)
肝心の作詩の腕は正直あまり上がらなかった。向いてないなと思いつつ、一年が過ぎた頃、綾香は岸田Dから引き抜きの話を 持ちかけられた。神戸はワンマンで正直僕たちは嫌気がさしている。ここにいたらbeach guysの詩しかかけないし、僕らは中島優希のディレクターや、その他の大きなプロダクションにもパイプがある。神戸の元を離れて僕たちと一緒に行きませんか?というものだった。
beach guysのアルバムで「夏のaddressはin the Sea」を書いた西川あさみって作詞家いるでしょう?彼女は才能のある作詞家だった。でも、デビューしてから、神戸がちっとも自分を売り込んでくれないから、業を煮やして、他のプロダクションに売り込みに行ったんだ。
それを知った神戸が激怒して、二度と彼女が業界で仕事が出来ないようにしたんだ。
彼女はそうとも知らずに、ずっと飼い殺しにされているよ。
芸能界で引き抜きはご法度
勝手に自分のとこの作詞家を引き抜いたら、それこそ、つぶされるのでは?
内心、綾香は思ったが、一度も会ったことのない神戸徹より、目の前にいる岸田Dと会えなくなるほうが嫌だった。
それに、私は作詩には向いてないみたいだし、芸能界に未練もない。
彼らはきっと、神戸徹につぶされるだろうと漠然と感じたが、ついていくことに不思議と迷いはなかった…
それから、しばらくした時だった。
Doingの新しいディレクターから電話があった。神戸徹が貴女に会いたいと言っています。近いうちに大阪に行くから時間を作ってください。というものだった。
時を同じくして書面も届いた。
弊社の元社員の岸田と柿本が作詞家の皆さんの引き抜きを画策しているようですが、消してついていかないでください。彼らは弊社とは無関係です。
さすがの綾香も混乱して、岸田Dに電話をかけた。
神戸さんが私に会いたいって言ってきたんですけど😱❕
僕らが作詞家に声かけているのに気づいたみたいです。絶対につぶしてやるともいわれました。今回、神戸が動いたのは、貴女のデビューの話でなく、作詞家をつなぎとめるためですよ。
神戸といても飼い殺しにされるだけです。
更新時期まで、あと、僅かだった。
綾香はDoingに残るつもりはなかったが、一度会いたかった神戸徹に会うことにした。天下の音楽プロデューサー 神戸徹が無名の19才に会いにきてくれるというのだ。こんな機会は二度とないだろう。
綾香の新しい担当ディレクターは佐藤さんと言った。細身で随分腰の低い人だ。
扉を開けると、そこには一年前に雑誌でみた本物の神戸徹がいた。
岸田Dに聞いていた通り、上から目線で横柄な人だった。
彼女の作品をパラパラとめくり、うん?このフレーズ面白いな。機会があったら使うことにしよう。そういって自分の手帳に書き留めた。
Summer In the Shineを初めとするbeach guysの大半の詩は朝霞知子という美人の作詞家が書いている。彼女は神戸の元妻だと岸田Dから聞いていた彼女は、わざとそしらぬ風で聞いてみた。
「朝霞知子さんはどういう経緯でbeach guysのメイン作詞家に採用されたんでしょうか?」
神戸はふっと笑って
「どうしてそんなことを聞く?」
とだけ言って答えなかった。
この業界、誰々の元妻とか、愛人とか、とにかく力のある人とコネのある人の勝ち。男性より女性、ブスより美人が有利。
デビューへの近道は、業界で力のある人の愛人になることです。女性にはその方法があるからいいよね。
悪びれもせず、そう言った岸田Dの言葉を思い出す。
面談が終わると、佐藤Dは申し訳なさそうにこういった。
「神戸はもともとバンドをやっていた事もあり、どちらかというとアーティスト肌なんでああいう態度でごめんね。
でも、神戸の手帳に作品のフレーズを書き込まれるなんて、凄いことなんだよ。」
(うん。それはわかる。
でも…やっぱり彼についていきたいとは思えないんだよなあ…私)
でも、嫌いじゃない。写真みたいにカッコ良かったし、横柄な態度も学習済みだからがっかりもしなかった
しばらくして、綾香は佐藤DにDoingを辞める事を伝えた。理由はあえて言わなかったが、おそらく神戸は気づいているだろう。
佐藤Dから綾香が辞めることを聞いた神戸はこう言った。
「藤堂綾香が辞める?岸田について行ったか…俺のところにいれば、いずれデビューさせてやったかもしれないのに…馬鹿な女だ。」
彼は、先日書き留めたフレーズに目を落とした。
(まあいい…代わりはいくらでもいるさ)と嘯いた。
fin.
スタジオのドアが開いて一人の男が入ってきた。株式会社Doing社長兼音楽プロデューサーの神戸徹である。
「あ、社長!おはようございます!」
ヴォーカルの江波が元気に挨拶した。
「調子はどうだ?」
「バッチリです!」
「ところで江波、お前、次の曲、自分で書いてみる気はないか?」
唐突な質問である。江波は困ったように
「いやぁ、まだ俺、曲まで作る自信ないっす💦やっぱり、そこはプロの先生方にお願いして、俺らは歌うことに専念します。」
「そうか。わかった」
神戸は笑って出ていった。
スタジオを出たところにあるロビーのソファに腰をおろした神戸は何気なく、ブックスタンドにある本を手に取る。週刊womanである。
当時の業界は深刻な作詞家不足だった。作詞家がいないのではなく、才能のある作詞家が枯渇していたのだ。
「いっちょ、募集でもかけてみるか…」
女性作詞家募集!グランプリの方はbeach guysの次回アルバムでデビュー出来ます!
そんな内容の記事が神戸徹 の写真と共に掲載された。
藤堂綾香はもうすぐ高校を卒業する18才だ。学校帰りに寄った書店で何気なく、女性週刊誌を手に取り、パラパラとめくった。
「女性作詞家募集?この人社長?かっこいいやん!」
で、この人が私の作品みてくれて、グランプリなんかとっちゃった暁には、今をときめくbeach guysに歌書けるんだ。よしっ、応募しよ!
綾香は音符も読めなかったし、作詞の経験もなく、もちろん、作詞家になろうなんて全く思っていなかった。
ただ一度でも人気バンドの歌書いたりしたら、友達に自慢出来るなあという、全くもってミーハーな考えから、いくつかの散文詩を添えて応募した。
それから数か月後。グランプリの発表はあったが、それはもちろん、綾香ではなかった。でも…この程度の歌詞なら、私でも書けるんだけどなあ…と彼女が思ったのも事実である。
それから、数日後のことである。
綾香宛に株式会社Doingから封書が届いた。なんだろう?と思って開けてみたら、最終選考に残った方々に、弊社で作詩の勉強をしませんか?というものだった。
近いうちに、担当のディレクターが大阪に来るという話で、ぜひご参加下さいと場所と日時が添えられていた。
面白そうだったので行くことにした。
その反面、作詩の勉強とかいって、数十万とか数百万とか高い授業料とるんと違うん?そんなんやったら、即帰って来よう。と思いながら、現場に向かった。
芸能界というところは、たとえ、オーディションに受かっても、その後のレッスン代やその他諸々の経費が馬鹿高い。
大手プロダクションからデビューしても、デビューにかかる費用は、タレント本人の借金となる。出世払いというやつだ。
実際のところ、金持ちしかスターになれないのだ。高校生の綾香でも、そのくらいの知識はあった。実際バイト先で知り合ったアイドル志望の瞳ちゃんは、地元のタレントスクールに通っているが、毎月のレッスン代はそこそこ高い。それに言っちゃ悪いが、先生が今度某若手有名タレントと対談するの!とかいって騒いでるようなら、たいしたタレントスクールではない
( ̄▽ ̄;)
漠然とそんなことを考えながら歩いていると、現地到着。そこにいたのは様々な人たちだった。プロのラジオパーソナリティーであるという美しい女性、ちょっとくせのある見た目のぱっとしない地味な女性。10人はいなかっただろうか?
その中心にディレクターと名乗る、業界人特有のちょっと胡散臭くて、ちょっとかっこいい二人の男性がいた。彼らは岸田さんと柿本さんと言った。
彼らの話はこうだった。グランプリをとった女性も貴女方も実力の上では大差はない。ほんのちょっとの差で彼女に決まっただけだと。そこで我々としては、そんな才能のある貴女方を捨てるのは惜しいので、是非我々の元で勉強してほしいというのだ。
気になるのは参加費である。年間で事務手数料7900円だけ負担して欲しいとのこと。
十代の女の子にはけして安くない。
でも、まあ、タレントのファンクラブを二つ入るくらいの金額かなあ…
払えぬ金額ではなかったし、面白そうだったので、綾香はとりあえず、参加を決めた。
従来の作詞家教室は、売れなくなった作詞家が生計をたてるためにやってることが多く、月謝も数万円~とかなり高いです。でも、考えてみて下さい。売れなくなった作詞家から一体何が学べますか?貴女方が出会わないといけないのは、優れた音楽プロデューサーであり、才能のある作曲家だ。
それから、月に一回。担当ディレクターは大阪にやってきて、みんなで各々の作品を批評しあったり、ディスカッションしたりした。
昨今の業界は、曲先と言って曲が先に出来ていて、それに詞をつけていくのが主流だ。綾香達は beach guysの次回作のB面に入る曲のデモテープを聴いて、それに詩を乗せていくという課題を与えられた。良いものが出来れば、もちろん、採用はありだという。
ほんとにbeach guysのB面か?綾香は半信半疑で渡されたデモテープをみていた。
後日、発表されたbeach guysの曲のB面に確かにその曲が入っているのを確認して、初めて、綾香は自分がほんとに、Doingの作詞家の卵なんだと認識した。
そうやって、何度もディレクターと会ううちに、綾香は常々疑問に思っていることを、ある日、岸田Dに聞いてみた。
「ねえ、岸田さん?私たちって海のものか山のものかもわかりませんよね?どうしていつも、まるで、プロの作詞家の先生であるかのように扱うんですか?」
彼の答えはこうだった。
「以前、全く売れていないときに、秋田聡がうちの事務所によく出入りしていて、何か仕事ありませんか?ってきてたよ。もし、その時に僕たちが門前払いしていたら、売れたあとに絶対一緒に仕事してくれないよね?だから、無名の時から信頼関係を築く必要があるんだよ。君たちは今は普通の鶏でも、いつどこで金の卵を産む鶏に化けるかなんてわからないからね」
岸田Dの話はいつも面白かった。
「梅田琴美はああ見えても影で凄く努力して今のトップスターの座を勝ち取ったんだよ。ほんとあの子は苦労してるよね~」みたいなことをいうから
「中川春菜ちゃんは?」
と聞くと、春菜は…と苦い顔をするので、なんだか、あまり彼女のことは好きでないみたいだなと思ったり(笑)
肝心の作詩の腕は正直あまり上がらなかった。向いてないなと思いつつ、一年が過ぎた頃、綾香は岸田Dから引き抜きの話を 持ちかけられた。神戸はワンマンで正直僕たちは嫌気がさしている。ここにいたらbeach guysの詩しかかけないし、僕らは中島優希のディレクターや、その他の大きなプロダクションにもパイプがある。神戸の元を離れて僕たちと一緒に行きませんか?というものだった。
beach guysのアルバムで「夏のaddressはin the Sea」を書いた西川あさみって作詞家いるでしょう?彼女は才能のある作詞家だった。でも、デビューしてから、神戸がちっとも自分を売り込んでくれないから、業を煮やして、他のプロダクションに売り込みに行ったんだ。
それを知った神戸が激怒して、二度と彼女が業界で仕事が出来ないようにしたんだ。
彼女はそうとも知らずに、ずっと飼い殺しにされているよ。
芸能界で引き抜きはご法度
勝手に自分のとこの作詞家を引き抜いたら、それこそ、つぶされるのでは?
内心、綾香は思ったが、一度も会ったことのない神戸徹より、目の前にいる岸田Dと会えなくなるほうが嫌だった。
それに、私は作詩には向いてないみたいだし、芸能界に未練もない。
彼らはきっと、神戸徹につぶされるだろうと漠然と感じたが、ついていくことに不思議と迷いはなかった…
それから、しばらくした時だった。
Doingの新しいディレクターから電話があった。神戸徹が貴女に会いたいと言っています。近いうちに大阪に行くから時間を作ってください。というものだった。
時を同じくして書面も届いた。
弊社の元社員の岸田と柿本が作詞家の皆さんの引き抜きを画策しているようですが、消してついていかないでください。彼らは弊社とは無関係です。
さすがの綾香も混乱して、岸田Dに電話をかけた。
神戸さんが私に会いたいって言ってきたんですけど😱❕
僕らが作詞家に声かけているのに気づいたみたいです。絶対につぶしてやるともいわれました。今回、神戸が動いたのは、貴女のデビューの話でなく、作詞家をつなぎとめるためですよ。
神戸といても飼い殺しにされるだけです。
更新時期まで、あと、僅かだった。
綾香はDoingに残るつもりはなかったが、一度会いたかった神戸徹に会うことにした。天下の音楽プロデューサー 神戸徹が無名の19才に会いにきてくれるというのだ。こんな機会は二度とないだろう。
綾香の新しい担当ディレクターは佐藤さんと言った。細身で随分腰の低い人だ。
扉を開けると、そこには一年前に雑誌でみた本物の神戸徹がいた。
岸田Dに聞いていた通り、上から目線で横柄な人だった。
彼女の作品をパラパラとめくり、うん?このフレーズ面白いな。機会があったら使うことにしよう。そういって自分の手帳に書き留めた。
Summer In the Shineを初めとするbeach guysの大半の詩は朝霞知子という美人の作詞家が書いている。彼女は神戸の元妻だと岸田Dから聞いていた彼女は、わざとそしらぬ風で聞いてみた。
「朝霞知子さんはどういう経緯でbeach guysのメイン作詞家に採用されたんでしょうか?」
神戸はふっと笑って
「どうしてそんなことを聞く?」
とだけ言って答えなかった。
この業界、誰々の元妻とか、愛人とか、とにかく力のある人とコネのある人の勝ち。男性より女性、ブスより美人が有利。
デビューへの近道は、業界で力のある人の愛人になることです。女性にはその方法があるからいいよね。
悪びれもせず、そう言った岸田Dの言葉を思い出す。
面談が終わると、佐藤Dは申し訳なさそうにこういった。
「神戸はもともとバンドをやっていた事もあり、どちらかというとアーティスト肌なんでああいう態度でごめんね。
でも、神戸の手帳に作品のフレーズを書き込まれるなんて、凄いことなんだよ。」
(うん。それはわかる。
でも…やっぱり彼についていきたいとは思えないんだよなあ…私)
でも、嫌いじゃない。写真みたいにカッコ良かったし、横柄な態度も学習済みだからがっかりもしなかった
しばらくして、綾香は佐藤DにDoingを辞める事を伝えた。理由はあえて言わなかったが、おそらく神戸は気づいているだろう。
佐藤Dから綾香が辞めることを聞いた神戸はこう言った。
「藤堂綾香が辞める?岸田について行ったか…俺のところにいれば、いずれデビューさせてやったかもしれないのに…馬鹿な女だ。」
彼は、先日書き留めたフレーズに目を落とした。
(まあいい…代わりはいくらでもいるさ)と嘯いた。
fin.
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