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13.拡散。
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結局あれから一日休んだだけで、将は登校した。
身体も具合も悪くないし、なにより家に居るのも落ち着かなくなっていた。
本棚の裏に、一目惚れしていた女の子の部屋に通じる階段がある。
ただし、その女の子は人間じゃないし、結構辛辣。
そう、なにが落ち着かないって、朝になって本棚の裏で、香奈が閉じたままの扉をがんがんノックしてきたのだ。か弱そうに見えていたのに、人間じゃないその腕力で扉というか壁を叩くのを放置していたら、そのうち本棚は倒れて壁には穴が空きそうだ。もっとも両親は気にしないだろうが。
「起きたの? ねぇ将くん、起きてるんなら返事してよ、お母様から面倒みてやってくれって頼まれちゃったんだから。付き合ってあげるんだから言うコトちゃんときくのよ。だから返事しなさいよ」
すごい勢いで捲し立てる。
無視していたらまたノック、いや破壊活動が再開されるだろう。
諦めて、はいはい、とおざなりに返事をすると、なにそのヤル気のない声っと、何様な勢いで返された。
「そもそもなんで、いや何を母さんが香奈ちゃんに頼むんだよ」
「将くんの調教……じゃない、飼育……でもなくて、ほら、まだ目覚めてもないんだから、そんなコト言える立場じゃないってわかりなさいよ」
「はぁあ~? ちゃんとした日本語も使えていないコドモはどっちだよっ」
「仕方ないじゃない、あたし日本人じゃないし。ていうか、あたしたちには人間の国籍とか関係ないし」
どんどん面倒になって、もういい、学校に行くっとなったのも無理はなかった。
しかし、残念なコトに学校も面倒な事態になっていた。
「おっはよ~う」
将を見つけていつものように大きな声で声を掛けてきた良太は、将がおはようと返す前に肩を抱き込み、校門を入ってすぐの自転車置き場にと引っ張って行った。
「な……なんだよ、どうしたのさ」
首を捻って良太を見遣ると、ひどく気まずそうに眉をひそめていた。
いつも脳天気に笑っているイメージだった良太の、その表情に、あれこれ想像を巡らせ───るまでもなかった。
「もしかして……なにかあった……?」
自転車置き場の隅にある大きな木の陰で足を止め、こそりと問いかける。
がばっと目を見開いて、本人がそれを言うぅっ?と押し殺してはいるが力の入った声で良太はひっそりと叫んだ。
そして取り出すスマートフォン。
「お前、晒されてるぞ」
見せられたのはとあるSNSにアップされた動画だった。
「いや、俺もまさかと思ったけどさ、将が喧嘩とか似合わないって言うか、見たコトなかったしさ。でもコレ、将だろ?」
それは黒服相手に突っ込んでいって、最後に壁に激突するまでが映されていた。
将には黒服の男の記憶はなかった。
「……なん……だ、コレ……」
「なんだって、お前だろ? メイクやCGじゃないだろ、俺が見間違えるはずがねえよ」
確かに、うっすらと喧嘩していたのは覚えていたが、動画で見た自分は、自分とは思えない動きをしていた。
だけど、確かに、これは自分らしい……。
どうして、こんなモノがあるんだ……?
なんで……?
混乱してきた将は、どうしよう?と良太に視線で訴えた。
「ちょ、そんな小動物みたいな目で俺を見るなよ、なんか罪悪感感じさせるだろうが」
ぐい、と両手で側頭部を挟んで将の顔の向きを前へと向けさせ、良太も眉を寄せた。
「なぁんか変だよな。こんなん上げてどうしたいんだろうな。まぁ、お前が喧嘩してるってのは珍しいっちゃ珍しいにせよ、こんな風に拡散されてるの、変じゃねえ?」
どうしたい……?
「なんかさぁ、心当たりないのかよ。こんなコトされて、運が悪いと退学、よくて停学とかなんか処分されかねないんじゃねえの?」
心当たり……?
「……なんか、引っかかる気が……するんだけど……」
喉の処までなにかが出て来ているのに、出そうで出ない。
もどかしい。
視線を泳がせている将に、ぽりぽりと頭を掻きつつ良太は呟いた。
「将、今日はこのまま人通りが途絶えたら帰っちまえよ。お前のクラスのヤツに上手いコト頼んでおくよ。あとで連絡すっから。変に悪目立ちしたくないだろ?」
良太の提案に、こくこくとぎこちなく頷く。それを見届けてすくっと立ち上がり、ぐっと親指を立ててみせると、気をつけるんだぞ、と良太は校舎へと小走りで駆けていった。
同時に始業のチャイムが鳴った。
身体も具合も悪くないし、なにより家に居るのも落ち着かなくなっていた。
本棚の裏に、一目惚れしていた女の子の部屋に通じる階段がある。
ただし、その女の子は人間じゃないし、結構辛辣。
そう、なにが落ち着かないって、朝になって本棚の裏で、香奈が閉じたままの扉をがんがんノックしてきたのだ。か弱そうに見えていたのに、人間じゃないその腕力で扉というか壁を叩くのを放置していたら、そのうち本棚は倒れて壁には穴が空きそうだ。もっとも両親は気にしないだろうが。
「起きたの? ねぇ将くん、起きてるんなら返事してよ、お母様から面倒みてやってくれって頼まれちゃったんだから。付き合ってあげるんだから言うコトちゃんときくのよ。だから返事しなさいよ」
すごい勢いで捲し立てる。
無視していたらまたノック、いや破壊活動が再開されるだろう。
諦めて、はいはい、とおざなりに返事をすると、なにそのヤル気のない声っと、何様な勢いで返された。
「そもそもなんで、いや何を母さんが香奈ちゃんに頼むんだよ」
「将くんの調教……じゃない、飼育……でもなくて、ほら、まだ目覚めてもないんだから、そんなコト言える立場じゃないってわかりなさいよ」
「はぁあ~? ちゃんとした日本語も使えていないコドモはどっちだよっ」
「仕方ないじゃない、あたし日本人じゃないし。ていうか、あたしたちには人間の国籍とか関係ないし」
どんどん面倒になって、もういい、学校に行くっとなったのも無理はなかった。
しかし、残念なコトに学校も面倒な事態になっていた。
「おっはよ~う」
将を見つけていつものように大きな声で声を掛けてきた良太は、将がおはようと返す前に肩を抱き込み、校門を入ってすぐの自転車置き場にと引っ張って行った。
「な……なんだよ、どうしたのさ」
首を捻って良太を見遣ると、ひどく気まずそうに眉をひそめていた。
いつも脳天気に笑っているイメージだった良太の、その表情に、あれこれ想像を巡らせ───るまでもなかった。
「もしかして……なにかあった……?」
自転車置き場の隅にある大きな木の陰で足を止め、こそりと問いかける。
がばっと目を見開いて、本人がそれを言うぅっ?と押し殺してはいるが力の入った声で良太はひっそりと叫んだ。
そして取り出すスマートフォン。
「お前、晒されてるぞ」
見せられたのはとあるSNSにアップされた動画だった。
「いや、俺もまさかと思ったけどさ、将が喧嘩とか似合わないって言うか、見たコトなかったしさ。でもコレ、将だろ?」
それは黒服相手に突っ込んでいって、最後に壁に激突するまでが映されていた。
将には黒服の男の記憶はなかった。
「……なん……だ、コレ……」
「なんだって、お前だろ? メイクやCGじゃないだろ、俺が見間違えるはずがねえよ」
確かに、うっすらと喧嘩していたのは覚えていたが、動画で見た自分は、自分とは思えない動きをしていた。
だけど、確かに、これは自分らしい……。
どうして、こんなモノがあるんだ……?
なんで……?
混乱してきた将は、どうしよう?と良太に視線で訴えた。
「ちょ、そんな小動物みたいな目で俺を見るなよ、なんか罪悪感感じさせるだろうが」
ぐい、と両手で側頭部を挟んで将の顔の向きを前へと向けさせ、良太も眉を寄せた。
「なぁんか変だよな。こんなん上げてどうしたいんだろうな。まぁ、お前が喧嘩してるってのは珍しいっちゃ珍しいにせよ、こんな風に拡散されてるの、変じゃねえ?」
どうしたい……?
「なんかさぁ、心当たりないのかよ。こんなコトされて、運が悪いと退学、よくて停学とかなんか処分されかねないんじゃねえの?」
心当たり……?
「……なんか、引っかかる気が……するんだけど……」
喉の処までなにかが出て来ているのに、出そうで出ない。
もどかしい。
視線を泳がせている将に、ぽりぽりと頭を掻きつつ良太は呟いた。
「将、今日はこのまま人通りが途絶えたら帰っちまえよ。お前のクラスのヤツに上手いコト頼んでおくよ。あとで連絡すっから。変に悪目立ちしたくないだろ?」
良太の提案に、こくこくとぎこちなく頷く。それを見届けてすくっと立ち上がり、ぐっと親指を立ててみせると、気をつけるんだぞ、と良太は校舎へと小走りで駆けていった。
同時に始業のチャイムが鳴った。
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