悪食な式神は呪われている。

桐谷雪矢

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第四章

らいぶ・らいふ。6

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 ステージにいたスタッフたちも、鬼さまのによって、式鬼へと変化へんげしていた。ただ、まだ観客の精気というご馳走にありつけていないからか、強さを感じない。
 その隙を縫って、舞台袖から姿を現したのは、木山だった。
 その手には、小型のカメラ。写真ではなく動画を録っているのはカメラの動かし方でわかる。

「き……木山?」
「生配信が途切れた後も、全部録画してあるからな。おかしなモノもなんとなくだがしっかり映り込んでいるのは確認済みだ。もちろん、不穏な鬼さまの発言も録れているぞ。ちなみに隠しカメラもいくつか置いてある。それらもデータは直接サーバに保存しているぞ」

 木山はカメラ片手に空いた手で親指をぐっと立ててみせた。

「ほほぉ? なんだ、お前の仲間にも機転が利く奴ぁいるんだなぁ? まあどうせすぐにこいつらの餌になるんだけどなぁ?」

 再び大笑いをはじめる鬼さまに、和泉は向き合った。
 ひとりじゃなくなった、それは僅かだけども、恐怖と不安を押さえてくれた。
 木山は近付いて撮影を続けることで、式鬼たちの襲撃から身を守っている。鬼さまには近寄らないようだ。
 にやにやと不気味とも思える不敵な笑みを浮かべる鬼さまを見上げて、睨んだ。

「こんなことするヤツのことを、さま付けで呼びたくねぇんだけど。あんたはオレのこと調べたって言ってたけど、オレはあんたの名前すら知らないし。せめて、名乗れよ」
「へぇえ? 名はだぞ? そう簡単に術師に教えるもんかよ……ああでもまぁいいかぁ。名字だけなら教えてやるぜぇ。俺は、鬼里きさとってぇんだ。鬼の里。鬼さまがイヤなら、そう呼びなぁ?」
「鬼里……」
「んで、アイツに呪いをかけたのが、俺の祖先なんだがなぁ……っと、あんまり俺ばっかに構ってっと、どんどこお客さんがやられちまうぞぉ?」

 言われて見た客席は、倒れている者、意識はあるが動けなくなっている者、多少霊感のようなものがあるのか必死で抵抗を試みる者、逃げ惑う者……ほとんどが、口からなにかが脱けているように見えた。口から抜けて行くなにかを留めようと無意識に喉を押さえている者が多い。そして、脱けたなにかを式鬼たちが吸い込んで大きくなっていく。
 徐々に倒れていく人たちが増えて静かになっていく客席と、力を得て咆哮する式鬼の声。

 そんな中で、奥の方になにか光が見えた。
 大きなものでは人間の倍以上の大きさになっている式鬼たちの、小さめのひとつが更に小さくなった。

「……な……に?」

 鬼里も動揺したのか、声を詰まらせる。
 ほどなくして光が虹のような輝きを放ち、完全に小さな式鬼がひとつ消えた。

「どうしたっ? おい、おまえら……っ」

 鬼里は振り返って、スタッフを務めていた式鬼たちに様子を見に行かせた。しかし、精気を吸っていない弱い式鬼たちだ。光に近寄れないのか、尻込みして客席の途中で立ち止まる。

「おまえらどうし……」

 更に叫んで命じようとした鬼里がぴくりと動きを止めた。

 光の源は、酒寄だった。

「な……なんなんだ、あいつ……っ」

 酒寄を指差し、怒りを含んだ声音で唸りながら和泉に向き直る鬼里。
 和泉はしばらくはぽかんと見つめていたが、ああ、と合点がいったと頷いた。

「あいつ……鬼とか食べるんだ、そういえば」
「鬼……を喰う?」
「んんと、そういう邪鬼とか?小鬼とか?食べてきたんだって言ってた……オレとはじめて会った時も、オレの背中に小鬼がくっついているのを取ってくれて、それを喰ってたんだ……そのあとも、でかい鬼も札で封じて丸めて喰ってた……」

 ぼんやりと記憶を辿る和泉に、鬼里は「ははん」と肩で笑った。

「そうかよ、それで奴は式神離れした術が使えていたのかよ。こりゃあ厄介なことになりやがった……っ」
「……厄介……?」
「さっきも言ったろうが。お前はあの式神に殺されるために生きてたんだぞってな」
「そうそれ。オレだけが酒寄の呪いを解けるとは聞いたけど……」
「……殺せば解けるんだよ。式神に戻るんだっての」

 和泉は鬼里と酒寄を交互に見遣って、呟いた。

「……解かないと……なんねぇのかな……」
「手は……ある……と言うか……いや、あった、になったかも知れん」

 鬼里は瞳に暗いものを宿して零した。
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