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第四章

らいぶ・らいふ。2

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 ステージは大がかりな音響システムを揃え、鬼さまはその調整に余念がなかった。いくら周囲は田畑を抜けた先にある郊外の公園と墓地とはいえ、ロックコンサートでもやるのだろうかという機材が組まれているのを見ると、騒音の苦情が殺到しないか心配になるレベルだ。
 その割に、出力されている音は騒々しくもなければ、ずんずん響くような重低音でもない。
 しかし、試験的に流れている音で、鬼さまは満足したようで、おっけ~、と両手で大きく輪を作って示すと、鼻唄混じりにステージから下り、袖に設えられている控え室に入っていった。

 中にはいくつかモニタが置いてあり、墓地、駐車場、客席などが映し出されている。
 椅子に座って、じ、と見つめていた鬼さまは、口端をにぃと吊り上げた。

「気付いてくれんかったらどうしようかと思ってたぜ。神沢の。ツレが例のヤツか。なぁんか、歴史ってヤツを感じちまうねぇ、うん、しみじみしちまうけど、呪いを解放してやんねぇとなぁ?」

 鬼さまは、くっくと喉で笑った。

「あいつ、どこまで思い出してんだろうな。すげぇ仲良しさんになってっけど、呪い、解けるんかねぇ?」

 堪えきれないように、わはははは、と腹を抱えんばかりに笑い始めたが、スタッフを務めている式が、扉をノックした音で、ぴたりと真顔に戻る。ぴたぴたっと両手で頬を軽く叩いて、おしっ、と立ち上がった。

「さぁて、鬼さまの鬼ちゃんたちに、ごはんの時間だよ~ぅ」

 ふざけた口調で呟くと、胸のポケットから出した濃い色のサングラスをかけ、軽い足取りでステージへと躍り出た。


 そのころ和泉たちは、誘導員の指示に従って並んでいた。あんまり真っ正面だとどうしようと不安だったが、幸いステージに向かって右手側でさほど目立たなさそうだ。
 ステージの前の客席スペースは野外コンサートのように立ち見らしい。雨上がりなので多少ところどころの足場が緩い。和泉は真っ白い酒寄を心配したが、汚れが避けているのか、紙らしく重力が人間ほどかかっていないのか、きれいなものであった。

「来るには来たけど……どうしよ。動画サイトのノリとか詳しくねぇし、参考には見たけど……」

 期待に満ちあふれた表情でステージを見つめる周囲の客に聞こえないよう、ぽそぽそと酒寄の耳元で囁くと、おやまぁ、と酒寄は首を捻った。

「大丈夫でしょう~、こんなに人が多いところで、あたしたちを見つけたところですぐにはどうこう出来ませんよぅ。不安は悪い結果しか招きませんからねぇ~って、ずっと言ってますでしょう~?」

 そりゃそうなんだろうけど、と和泉は唇を尖らせて黙り込んだ。
 ぐるりと周りを見回せば、九割方は若い女性のようで、不安に加えて居心地が悪いのもあった。たまにいる男といえば、彼女に付き合わされているか、占い呪いマニアっぽく衣装からちょっと違うと思わせるタイプ、あとは関係者かも知れないスーツ姿、そんな感じだ。
 もう帰る、と言いたくなるのを我慢して、とりあえず今日の目的は鬼さまの正体なのだから、と自分に言い聞かせる。

 と、大きなドラのような音がした。
 続いて中華のような雅楽のような不思議な楽曲が、じわじわと音量を上げながら迫ってきた。
 重低音は足元からも直に響いてくる。
 リズムが速くなってくるに従って、周りの客は待ちきれないと言いたげに手拍子を始めた。
 はやく、はやく、と急かすように。
 異様な熱気に、和泉の不安と緊張も増していく。
 無意識のうちに呼吸も速くなり、足元からの重低音に心臓もばくばくしている気がした。

 ヤバい、なんだこれ、ロックだののコンサートだのライブだのじゃなくて、これ、まるで新興宗教かなにかみてぇじゃん……。

 とんでもないところに来ちまったんじゃあ……と酒寄に困惑の視線を向けかけたその時。

 たんっ、たたんっ。

 ひときわ大きな音がして、客席はぴたりと手拍子を止め、静まりかえった。
 和泉もびくっと肩を揺らして固まった。

「レデイース、あぁんど……ジェントルマンもいるかぁ~? ライブだけれども、いつものようにお願いはスマホからチャンネルの方へプリーズだぁ~。それじゃ、はじめよっかぁ~っ」

 マイクを通して聞こえるのは、確かに山で聞いた、そして動画でも耳にした、鬼さまの声だった。
 一斉に黄色い声を飛ばす女性客たち。
 その声に応えてステージに現れたのは、黒尽くめの衣装に身を包んだ鬼さまだった。
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