悪食な式神は呪われている。

桐谷雪矢

文字の大きさ
上 下
28 / 38
第四章

らいぶ・らいふ。1

しおりを挟む
 誰もが予想し望んだ通りに、好天に恵まれた当日。
 会場になっている公園の近くを巡回しているバスに、和泉と酒寄は揺られていた。
 自転車で来られる場所なのだが、酒寄が自転車に乗れないことが発覚し、だったら、とバスになったのだ。
 バスの中は、同じく公園の鬼さまゲリラライブ目当ての若い女の子が多かった。「事前にこんだけわかってたら、ゲリラじゃないよね~」ときゃらきゃらと笑っているのが聞こえて、心の中で和泉は深く頷いていた。
 その和泉はグレーのTシャツにポケットの多い多機能ベストを着ている。ポケットごとに札など詰め込んだおかげで、手ぶらで身軽だ。足元は靴底が厚めのスポーツシューズを選んである。
 そして酒寄の方は、白いシャツに白いジーンズという真っ白な出で立ちで、妙に浮いていた。

「もうちょい色つきにすれば良かったのに……途中では変えられねぇの?」
「白が落ち着くんですねぇ。地の色だからですかねぇ」

 のんびりと返す酒寄は足元のスニーカーも白だ。公園みたいなところではすぐに土の色がついてしまいそうだが、気にしてはいまい。実際、公園の地面は雨上がりでところどころに緩いところがあり、ぬめっているので、立ち入ってすぐにスニーカーは歴戦の勇士のような色合いになってしまうのだが、それは後の話である。

「それよりぃ、こういうのは気持ち……精神的に強い方が有利なんですよぅ。本来の和泉くんは、怖がりさんですからぁ、びくついたらやられますからねぇ?」

 ゆっくり、言葉に力を込め、人差し指を口元に添えて戒める。和泉も、わかってる、と目に力を入れて頷いた。
 窓の外は住宅街を抜けて田畑が見え隠れし始めた。ここを過ぎれば会場となっている公園だ。酒寄は相変わらずのペースで、バスの移動が珍しく楽しいらしく、目を煌めかせて外を見ている。そして和泉は何度も深呼吸を繰り返し、どうにかなるどうにかなる、とぶつぶつ呟いていた。

 とにかく、鬼さまの正体を知りたい。
 どうしてオレにああいう態度を取ったのか。
 もしかして、酒寄に呪いをかけた側の関係筋じゃないんだろうか。
 だったら、解き方も知っているんじゃないか。
 でも、山での態度からするに、知っていても教えてくれるか怪しいし、それどころか危害を加えてきたら……。

 楽しそうな乗客たちと、深刻な顔つきの和泉にマイペースの酒寄を乗せたバスは、墓地との共有駐車場前で止まった。
 下りるときにイヤでも目に入った「市営墓地はこちら」の看板。
 目から光が消えていく和泉の背を、ぽんぽんと酒寄は押した。

 会場になっている公園のステージへと向かう若い女の子たちに紛れても、どことなく違和感が漂うふたり連れは、彼女たちの格好の餌でもあった。それなりのルックスは持ち合わせている和泉と、少し浮世離れしている感のある酒寄という組み合わせである。いったいどんな関係?とある種の期待を持って見つめられたり、或いは、鬼さまの関係者かしらんと憧れを含んだ視線を送られたりで、微妙に居心地がよろしくなかった。

「な、なぁ、酒寄……ちょっとばかり、考えなしすぎたかな……」
「なにがですかぁ、もしかしてさっきの看板でびびっちゃったんですかぁ?」
「ちっ、ちげぇしっ、てか、酒寄、お前鈍感すぎ……」

 はぁ、とため息を漏らす和泉だったが、おかげで少しリラックス出来たことには気がついていない。
 と、そこへ、ステージになっている方から、大音量の音楽が聞こえてきた。
 嬌声を上げたり、どよめいたりしつつ、女の子たちは足早になった。

「やだっ、もう始まっちゃう? 早くない?」
「え~? 始まるまでまだ余裕のはずだよ?」
「あれ、ただのリハーサルじゃないの?」

 どうやら、いつも動画のイントロで流れている音楽のようだ。確かになんとなく聞き覚えがあった。
 足早にステージに向かう女の子たちに反して、和泉の歩みは遅くなり、ぞくりと背を震わせて足を止めた。

 なんだよ、この威圧感。
 音だけじゃなくて……なんか、殴りつけてくる感じ……。

 和泉は助けを求めるように酒寄を見た。

「和泉くん。だいじょうぶですよぅ。あたしがついてますからねぇ」

 そういう酒寄の目は、もう笑っていなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

おにぎり屋さんの裏稼業 〜お祓い請け賜わります〜

瀬崎由美
キャラ文芸
高校2年生の八神美琴は、幼い頃に両親を亡くしてからは祖母の真知子と、親戚のツバキと一緒に暮らしている。 大学通りにある屋敷の片隅で営んでいるオニギリ屋さん『おにひめ』は、気まぐれの営業ながらも学生達に人気のお店だ。でも、真知子の本業は人ならざるものを対処するお祓い屋。霊やあやかしにまつわる相談に訪れて来る人が後を絶たない。 そんなある日、祓いの仕事から戻って来た真知子が家の中で倒れてしまう。加齢による力の限界を感じた祖母から、美琴は祓いの力の継承を受ける。と、美琴はこれまで視えなかったモノが視えるようになり……。 第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

神の居る島〜逃げた女子大生は見えないものを信じない〜

(旧32)光延ミトジ
キャラ文芸
月島一風(つきしまいちか)、ニ十歳、女子大生。 一か月ほど前から彼女のバイト先である喫茶店に、目を惹く男が足を運んでくるようになった。四十代半ばほどだと思われる彼は、大人の男性が読むファッション雑誌の“イケオジ”特集から抜け出してきたような風貌だ。そんな彼を意識しつつあった、ある日……。 「一風ちゃん、運命って信じる?」 彼はそう言って急激に距離をつめてきた。 男の名前は神々廻慈郎(ししばじろう)。彼は何故か、一風が捨てたはずの過去を知っていた。 「君は神の居る島で生まれ育ったんだろう?」 彼女の故郷、環音螺島(かんねらじま)、別名――神の居る島。 島民は、神を崇めている。怪異を恐れている。呪いを信じている。あやかしと共に在ると謳っている。島に住む人間は、目に見えない、フィクションのような世界に生きていた。 なんて不気味なのだろう。そんな島に生まれ、十五年も生きていたことが、一風はおぞましくて仕方がない。馬鹿げた祭事も、小学校で覚えさせられた祝詞も、環音螺島で身についた全てのものが、気持ち悪かった。 だから彼女は、過去を捨てて島を出た。そんな一風に、『探偵』を名乗った神々廻がある取引を持ち掛ける。 「閉鎖的な島に足を踏み入れるには、中の人間に招き入れてもらうのが一番なんだよ。僕をつれて行ってくれない? 渋くて格好いい、年上の婚約者として」 断ろうとした一風だが、続いた言葉に固まる。 「一緒に行ってくれるなら、君のお父さんの死の真相、教えてあげるよ」 ――二十歳の夏、月島一風は神の居る島に戻ることにした。 (第6回キャラ文芸大賞で奨励賞をいただきました。応援してくださった方、ありがとうございました!)

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】陰陽師は神様のお気に入り

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
キャラ文芸
 平安の夜を騒がせる幽霊騒ぎ。陰陽師である真桜は、騒ぎの元凶を見極めようと夜の見回りに出る。式神を連れての夜歩きの果て、彼の目の前に現れたのは―――美人過ぎる神様だった。  非常識で自分勝手な神様と繰り広げる騒動が、次第に都を巻き込んでいく。 ※注意:キスシーン(触れる程度)あります。 【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう ※「エブリスタ10/11新作セレクション」掲載作品

処理中です...