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第三章

昔むかし今。4

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 木山は島井とメッセージツールでぽちぽちとやり取りしていた。

───いずみんには悪いが、俺は明日、行けないかも知れんと伝えてくれ。法事とやらから抜けられそうにない。
───え? 木山の方が情報通で俺より役に立ちそうだと思ってたのに。俺、行っても騒ぎが大きくなったら足手まといになりそう……。
───法事が早く終われば行けるかもなのだが……まあいい、では俺から連絡しておこう。

 連絡し終わって、木山は腕組みをして背もたれに身を預けた。
 幅が広い特製デスクは一面にモニタが並び、周りは本棚が取り囲んでいる。空いているスペースにはフィギュアが、面にはポスターが余すところなく並ぶ、オタクらしい部屋であった。

「あんまりオカルトとか信じていないつもりだったんだが……あんなの見てしまうと、あながち妄想とは片付けられなくなったな。それにしても、なんだこの鬼さまってのは……」

 ポップな祓い屋のようでもあるが、専門誌などにも寄稿しているし、その筋では知らないヤツはいないレベルの有名人ではないか……我々が無知すぎたのか? いや、おそらくいずみんは近付きたくないジャンルだっただろうから、いちばん近いが遠ざけていただろう。俺とか島井は……うむ、興味がなかったな。そもそも占いとかまじないとかは女の方が好きだったりするしな。

 しばし考えて、机に置いてあったチラシを手に取る。
 木山は木山でネットから何から漁って情報を入手していた。
 鬼さまと言われる人物について、先日の山について、今度のゲリラライブと称したイベントについて、そして、この土地そのものについて。

 この公園、裏手は墓地で、おまけに火葬場の跡地に作られているが、教えて良いのか迷う情報であるな。鬼さまはいずみんのことを知った上で、土地も見て選んだイベントだとすると……島井はやはり留守番と万が一の通報係が良いかな。うむ。

 木山は足元のバッグを掴んで立ち上がった。

 ゲリラライブまで、あと二日。

 ざわざわざわと木々がざわめく。


 デザイナーズマンションというのだろうか。
 あまり真っ直ぐな辺のない凸凹した外観で、エントランスも鉄板やコンクリートを中心にした造り、共有部分もごつい鉄骨がところどころ剥き出しだ。実際、入居者は独身男性ばかりで、クリエイターやらアーティストといった肩書きを持っている住人がほとんどだ。そういったタイプが好むマンションの角部屋が、鬼さまの住処だった。
 大きく張りだしたベランダはちょっとした四阿あずまやくらいは置けそうだ。板張りの床のその中央に、直にぺたりと胡座をかいて、鬼さまは電話をしていた。バスローブを羽織っただけのラフな姿も、最上階の八階ではそれを見聞きできるものはいない。

「ああ、そうだ……でな、ライブでちいと騒ぎが起きるかも知れねぇんで、そん時は特殊効果だっつうてうまく誘導したってくれや。そうそう、こないだ見かけた面白ぇガキ……んあ? まぁだわかんねぇけどよ、そう、じゃ、頼むわ」

 鬼さまは通話を切ると、そのまま流行りのソーシャルネットに繋いだ。

───ライブは明後日だ、みんな、充電はたっぷりで来いよ。悩める子羊ちゃんたち。生で直接、まじなってあ・げ・る。誰でも大歓迎、だぜ。

 語尾の最後に絵文字でたくさんハートマークを散らして書き込みを終える。

「どうせあの様子じゃあ、なぁんも聞かされてねぇし、知らねぇんだろうなぁ。うちじゃ延々と恨み辛みばっかり言い伝えられてたってぇのに」

 はぁ~あ、と大きく欠伸と伸びをして、鬼さまは部屋へと戻ると、シャツにジーンズというカジュアルな出で立ちに着替え、下見下見、と呟きながら出かけて行った。
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