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第二章

鈍いのろい呪い。13(第二章・終)

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 その夜。
 物の怪たちは母親の架純が苦手らしく寄ってこないおかげで、自宅だけは気が抜けた。
 なんだかんだでこれがなければ、とっくに衰弱して壊れていたかも知れない。
 さすがにキャンプ地であったことは話せなかったし、話したくなかった。心配をかけさせるだけだし、落ち着いてから思い返すに、情けなくもなったからだ。

 親父、かあさんに出会うまで、よく保ったなぁ。

 改めて感心するが、写真なども少なく、和泉の記憶の父親像は時間と共に薄れている。
 特に若い頃のものはない。あれから架純に聞いた話だと、ふたりが出会うまでは写真にいろいろ写り込むから気持ち悪くて撮りたくなかったそうだ。そりゃそうだろうと和泉も思う。和泉の場合は、泣きながらこっそり持ち帰った写真も架純に見られるときには消えていたから、変だなくらいにしか考えずに済んでいた。
 架純が寄せ付けない体質なのはなにかあるのか、訊いたことがある。
 父親の体質だけ受け継いでるのか、気になった。
 だが、ごくごく普通の出自で、そんな父親に出会ったのは本当に偶然だと笑っていた。

 和泉は母親の偶然に感謝しつつ、ぐっすり眠って英気を養えた。


 夢の中で、和泉は知らない誰かに声を掛けられた。
 姿はぼやけていてよくわからない。
 ただ、あいつを頼む、みたいなことを言われた気がした。



 そしてその頃。
 山にいた男、鬼さまと呼ばれている男は、山を下りてきていた。
 背中には大きなリュックサックを背負い、相変わらずのぼさぼさ頭だったが、鼻唄混じりで呑気そうな表情は、和泉に対するものとは別人だ。

「しっかしまさか、昔話が本当だったってなぁ、俺もびっくらこいたぜ」

 和泉の住むところよりも少し都会らしい街の高層マンションへと、鬼さまは入っていった。
 一時間ほどして再び出て来た男は、すっかり小綺麗になってスーツを着こなしていた。神も後ろでひとつに束ね、無精髭は剃られ、擦れ違えば、柔らかくもスパイシーでワイルドさを強調するような香りが漂ってくる。
 売れっ子ホストと言われたら納得するような出で立ちで、男は夜の街へと出かけて行った。



「和泉くんが、あたしの呪いを解ける唯一の人だとしても……和泉くん、札も式もなぁんにも知らないくらいでしたしねぇ。そういえば、背中に小鬼くっつけててもわかってなかったですよねぇ……ああなんだかとても不安になってきましたよぅ」

 酒寄は酒寄で、境内の石段に腰掛けて月見酒を呷っていた。

 ざわざわと鳴る葉擦れの音は、酒寄の心情そのもののようだった。


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