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第一章
出会い。或いは「出遭い」2
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最初の一件以来、はじめてぐっすり眠れたような気がした。
すっきりして、さぁ学校……と玄関のドアを開けた瞬間。
「……やっぱり……」
かくりと頭を垂れた和泉の目の前には、相変わらずのおかしなモノたちが、いた。
神沢家は、神社の隣の町内会にある、こじんまりとした平屋の一軒家だ。自動車二台分程度の駐車場を兼ねた庭に、それを囲む木製フェンスがある。その向こう側に、なんか、いた。にじりにじりと入ろうとしてもがいている。
幸いだったのは、グロいタイプや怖いタイプがいないことだ。それこそ酒寄と出会うきっかけになった小鬼のようなのとか、いわゆる妖怪っぽいちんまいのが、わちゃわちゃといる感じで、恐怖に凍りつかずに済んだ。
そうはいっても、非常事態には違いない。こいつぁマズいか、と取り出したスマホにメッセージを打ち込んだ。
島井元紀宛だ。
───今日も休むわ。調子悪い。うまいコト言っといて。
閲覧したのを確認するとスマホをしまい、入れ替わりに折り畳んだ紙切れをそっと抜き出した。
お札らしく、なにやら筆書きの文字が並んでいる。ゆうべ、送ってくれた酒寄が、これを持っていなさいな、とくれたお札であった。
それを出してヤツらに突き出すと、一気にヤツらが引いていくのが見えた。後退るモノ、姿を消すモノ、散っていくモノ、それぞれだが、元々見えていたレベルに近くなっていた。
「すげぇな、酒寄。漫画とかにある祓い屋さんみたいなの、やればいいのに」
手にした札をまじまじと見つめてから、すっきりした前を見返す。また改めて札に目を向けた時。
「……なんだろ、コレ……見たコトある……わきゃねぇよな」
妙な感覚になぜだか胃がきゅんっとして、無意識に和泉は鳩尾をさすった。
母親は和泉より先にパートに出ている。帰りも基本的には和泉より遅い。
この中を通って行ったのか、と眉を寄せて目を眇め、そういえば、と思い出す。
『かあさんはな、強いんだぞ。悪いヤツは全部蹴散らしてしまうんだぞ』
『変なこと教えないでよ。おとうさんがおかしいんだから。見えるとか、そっちが普通じゃないんだよ』
「そういやぁ……親父がなに見てるのか、あの頃はわかんなかったんだよな。一子相伝? 遺産……? なんにしても、そうだとしたら、ヤな遺産だ」
学生鞄は玄関に置いて、札を握り締めると、和泉は神社へと駆け出した。
「おぉい、酒寄さぁん」
和泉の声は本人が思っているより通りがいい。声を潜めても比較的聞き取りやすいのだが、昼間でも静かな神社では、かなり響いた。
かさり、と葉擦れの音がした。
「酒寄さん……?」
そっと振り返ると、夕べと同じ姿で、懐に手を入れてふわりとした足取りで歩いて来る酒寄の姿があった。よくよく見れば、足元は素足だ。痛くないんだろうかと思ったが、人間と同じ感覚ではないのかも知れないと思い直し、ただ、手を軽く上げて振った。
「なんかもう、うちの周りまでびっしりなんだけどっ。くれたお札がなかったら、ずっと引き籠もりしなくちゃだったぞ」
言って握り締めた手を開いて札を見せるが、あまりに固く握り締めていたせいで、くしゃくしゃになっていた。墨で書かれた文字部分もところどころ破れていた。
「おやまぁ、それじゃあもう、御利益もなさそうですねぇ。あとで書き方とか教えてあげますねぇ」
「え? オレが書いても効果あるのか?」
ぽかんと口を開けて問うと、酒寄はにこやかに頷いた。
「たしかに、なにも力を持たない人が書いても、ちょっとしたおまじないにしかならないでしょうけど、和泉くんはすごく力がありそうですしぃ~、たぶん、かなぁり効能のあるお札が出来上がると思いますよぅ~」
「……っ、や、おだててもなにも出ねぇしっ」
ぶんぶんっと頭を振ると、とりあえずっ、と和泉は社を指差す。
「座ろうぜ」
すっきりして、さぁ学校……と玄関のドアを開けた瞬間。
「……やっぱり……」
かくりと頭を垂れた和泉の目の前には、相変わらずのおかしなモノたちが、いた。
神沢家は、神社の隣の町内会にある、こじんまりとした平屋の一軒家だ。自動車二台分程度の駐車場を兼ねた庭に、それを囲む木製フェンスがある。その向こう側に、なんか、いた。にじりにじりと入ろうとしてもがいている。
幸いだったのは、グロいタイプや怖いタイプがいないことだ。それこそ酒寄と出会うきっかけになった小鬼のようなのとか、いわゆる妖怪っぽいちんまいのが、わちゃわちゃといる感じで、恐怖に凍りつかずに済んだ。
そうはいっても、非常事態には違いない。こいつぁマズいか、と取り出したスマホにメッセージを打ち込んだ。
島井元紀宛だ。
───今日も休むわ。調子悪い。うまいコト言っといて。
閲覧したのを確認するとスマホをしまい、入れ替わりに折り畳んだ紙切れをそっと抜き出した。
お札らしく、なにやら筆書きの文字が並んでいる。ゆうべ、送ってくれた酒寄が、これを持っていなさいな、とくれたお札であった。
それを出してヤツらに突き出すと、一気にヤツらが引いていくのが見えた。後退るモノ、姿を消すモノ、散っていくモノ、それぞれだが、元々見えていたレベルに近くなっていた。
「すげぇな、酒寄。漫画とかにある祓い屋さんみたいなの、やればいいのに」
手にした札をまじまじと見つめてから、すっきりした前を見返す。また改めて札に目を向けた時。
「……なんだろ、コレ……見たコトある……わきゃねぇよな」
妙な感覚になぜだか胃がきゅんっとして、無意識に和泉は鳩尾をさすった。
母親は和泉より先にパートに出ている。帰りも基本的には和泉より遅い。
この中を通って行ったのか、と眉を寄せて目を眇め、そういえば、と思い出す。
『かあさんはな、強いんだぞ。悪いヤツは全部蹴散らしてしまうんだぞ』
『変なこと教えないでよ。おとうさんがおかしいんだから。見えるとか、そっちが普通じゃないんだよ』
「そういやぁ……親父がなに見てるのか、あの頃はわかんなかったんだよな。一子相伝? 遺産……? なんにしても、そうだとしたら、ヤな遺産だ」
学生鞄は玄関に置いて、札を握り締めると、和泉は神社へと駆け出した。
「おぉい、酒寄さぁん」
和泉の声は本人が思っているより通りがいい。声を潜めても比較的聞き取りやすいのだが、昼間でも静かな神社では、かなり響いた。
かさり、と葉擦れの音がした。
「酒寄さん……?」
そっと振り返ると、夕べと同じ姿で、懐に手を入れてふわりとした足取りで歩いて来る酒寄の姿があった。よくよく見れば、足元は素足だ。痛くないんだろうかと思ったが、人間と同じ感覚ではないのかも知れないと思い直し、ただ、手を軽く上げて振った。
「なんかもう、うちの周りまでびっしりなんだけどっ。くれたお札がなかったら、ずっと引き籠もりしなくちゃだったぞ」
言って握り締めた手を開いて札を見せるが、あまりに固く握り締めていたせいで、くしゃくしゃになっていた。墨で書かれた文字部分もところどころ破れていた。
「おやまぁ、それじゃあもう、御利益もなさそうですねぇ。あとで書き方とか教えてあげますねぇ」
「え? オレが書いても効果あるのか?」
ぽかんと口を開けて問うと、酒寄はにこやかに頷いた。
「たしかに、なにも力を持たない人が書いても、ちょっとしたおまじないにしかならないでしょうけど、和泉くんはすごく力がありそうですしぃ~、たぶん、かなぁり効能のあるお札が出来上がると思いますよぅ~」
「……っ、や、おだててもなにも出ねぇしっ」
ぶんぶんっと頭を振ると、とりあえずっ、と和泉は社を指差す。
「座ろうぜ」
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