魔法使いの生首が異世界への架け橋でした。

桐谷雪矢

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ポータルビレッジ。

11.魔法使いになるために

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 壁に手のひらを当てたオレは、オリーブとシルバーを強くイメージした。あのポータルビレッジの部屋にいるふたりを。
 今なら落ち着いて状況を考えられる気がした。

 壁に当てた手を中心に、迸るように魔方陣が広がる。それが揺らめいてやがてピントが合うようにきっちりした形になった。そういえばさっきはここまではっきりしないうちに、突入してしまったかも知れない。
 なにがどうしてこうなってるんだか、不思議でしかないんだけど、疑問を持ったらまた遭難してしまう。なるようににる、と信じるしかないんだ。大丈夫、行けるはず。

 オレは気を強く持って、魔方陣に溶け込むように入って行った。
 いや、入るというのとは違った。暖簾ひとつ潜ったくらいの感覚で、魔方陣のすぐ向こうがシルバーたちのいる部屋だったのだ。
 間に空間めいたモノはまったくなかった。

「お、ちゃんとこっちに来られたじゃねえか。上出来上出来」
「飲み込みが早すぎて、あんまり実験には使えないかも知れないな。つまらんのだ」

 言いたいコト言ってくれてるふたりだが、オレが不思議そうな顔でもしていたんだろう、すぐに首を傾げて「なにかあったのか?」と訊いてきた。

「んと……この壁で隔ててから、どれくらい時間経った?」
「どれくらいって……せいぜい数十秒だな」

 オリーブが両手を開いて示す。
 じゃあ、空間で不安になってた時間も、オレが親父と他の世界……軸で会って喋ってた時間も、なかったコトになってるのか?
 これ、話した方がいいんだろうか……それとも黙ったままの方がいいんだろうか。

 さらに考えていたオレに、オリーブが近寄ってきて耳打ちした。

「もしかして、遭難していたのだな? 体感時間がまったく違うのであるな?」
「……遭難……そうなんだと……」
「お前、誰がうまいコト言えと……っ」

 耳がいいシルバーには、耳打ちなんて無駄だったようで、しっかりツッコミされてしまった。

「あ、でも、ここに帰りたいって強く思ったら、帰れたし……結果オーライ?」
「そうではあるが、遭難していた時間や、漂流していた軸に流れている時間制度によっては、あの、目黒とか言った彼のように、遡ったり進んだりして肉体に影響を及ぼす可能性もあるのだよ。だからミーたちが見た目通りの年齢であるか性別であるかとか、そういうのは考えても無駄というものなのだよ」

 それは、うまく軸を渡り歩いていたら、年を取らずにいられるというコトじゃないのか?
 下手をすれば、一気に老衰してしまうかも知れないってコトなのか?
 うまい話には裏がある?

 顔を上げると、ゆっくりと頷くオリーブと、にやにやしているシルバーが目に入る。

「どうするよ、オリーブちゃんのとこで使いこなせるようになれば、白神んとこで爆発した後に戻れるかも知れないぜ?」
「すべての事件が起きる前には戻れないのか?」
「そいつぁ無理だ。お前の存在が破綻して、全部なかったコトになるな。お前の存在がすべて消える。いない世界だけになる。もう、魔法が使えないお前は、存在しないコトになってるんだ」
「えええええぇ~~?」
「運命なのである。諦めてミーたちの研究に寄与するのだよ」

 オレは理不尽な怒りを覚えて、握った拳を震わせた。
 やってられない。やってられないけど、いつどこで遭難しちゃうかわからない爆弾を抱えたまま不安な日々を生きるのはごめんだ。
 それに、移動魔法って、要するにあの国民的作品の「ドアを開けたら目的地」なわけで、元に戻った時にめちゃくちゃ便利すぎる気がする。

 ……あ。それいいかも。

 頭の中でオレはガッツポーズをしつつ、ふたりに向き直って頷いた。

「わかったよ、オレ、魔法使いになる」

 そう、親父もちゃっかり仕事にしてたんだ。自在に操れたら。
 巻き込まれてわちゃわちゃしてたけど、なんだかようやく目の前の霧が晴れて道が見えたようだ。

 まずはここに慣れるコト。そして遭難しないようになるコト。
 無駄ににこやかなオリーブと、なにか企んでいそうな笑みを口端に張り付けたシルバーが気になるけれど、気持ちがふっきれた気がした。

「じゃあ、いろいろ世話になるけど、よろしく」
『ようこそ、ポータルビレッジへ』

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