166 / 261
高校1年生
9月17日「台風来るかな」
しおりを挟む 高遠さんの朝ごはんと言うレアな朝食は笹鰈の干物に浅蜊の味噌汁、蕎麦猪口で作った茶碗蒸しとお漬物。このお漬物はどこからやって来たのだろうかと思えばなんと青山さんのお店で作ったものだという。
フレンチにお漬物……
どんな組み合わせのメニューなのかと思ったけど単に賄いに出す奴らしい。
「綾人君から頂いた野菜で漬けたお漬物だからね。
安心して。お漬物だけは飯田と青山には作らせないからね」
きりっとした顔は多分京都育ちで品の良い料亭出自の二人ならではの塩分薄めのお漬物を思い出してのものだろう。
俺もびっくりしたけど浅漬けってここまで浅いんだと塩分を探す味覚の俺が異常なのかと鉄分チャージを心掛けたほどだったけど、やっぱり高遠さんが言うのだから二人の感覚がおうちの味を求めすぎているだけだと思う事にしておいた。
味蕾の多い飯田さんだけならわかるけど青山さんもとなるとそれが慣れ親しんだ味という事で、一般的にはもうちょっと塩分ほしいと主張したい具合。
俺としては高遠さんによく二人から漬物の主権を取り上げたと褒め称えたい。
最後に飯田さんの至福の一杯を淹れてもらえば爺さんも満足げな顔。
「我が家で飯田の味を楽しめるとは贅沢だな」
茶碗蒸しは飯田さんが作ったのは俺でも分かった。
卵が賞味期限近かったから急遽作った感じだろうが美味しいものは美味しい。
幸せはこんな近くにあった事にほっと溜息を落とせばそれが極上の評価。皆さん満足げな顔で食事が終わった。
「それでは私は一度家に帰って寝てきますので」
失礼しますと深々と頭を下げて初めてのお宅のキッチンを使って満足したのか足取り軽く去っていく後姿を見送った。
長い塀に沿って曲がって去って言った後姿を見送れば
「俺、高遠さんとレストランでしかあった事ないけど、かなり個性的な人ですね」
「ああ、うん。そうかもね。
料理以外はほんとダメな奴だから。兄貴と言葉が無くっても会話ができる数少ないやつだから俺は別に苦にもならないけどね」
他は大変だけどと遠回しに言う青山さんの言葉に頷く飯田さん。
そういえば飯田さんもお父さんとは言葉がいらない風だったなと初めてうちに来てくれた日の夜に囲炉裏を囲んだ時を思い出せばあんな感じなのだろうと想像がついたもののそんな渋い光景をお母さんがぶち壊していく所まで思い出して一人苦笑していれば、何を思い出したのか理解した飯田さんと何があったのか察した青山さんは二人でそっと顔を背けるのを浅野さんは不思議な顔をして頭をかしげていた。
「さて綾人君。高遠も満足して帰ったから少し込み入った話をしましょうか」
「はい……」
こっちが本番かと少しだけ緊張感漂う空気に俺は爺さんを交えての懇談会を始めるのだった。
場所は床の間のある部屋、ではなくなんと茶室。
「密会するにはぴったりの場所的な?」
「本来の茶室の使い方ですよ」
いつの時代の?とまでは聞かないものの青山さんはまるでそこに茶器があるのを知っているかのように準備を始めた。
炭に火をつけてお湯を沸かし、その間俺達は青山さんによって選ばれた茶碗を眺めたり、飯田さんが即行で作ってくれた和菓子を青山さんがさりげなく活けてくれたお花を眺めながら頂いたりと一瞬にして青山さんの流れで場を整えて作られた空間の中、神経が研ぎ澄まされていく感覚になっていく。
爺さんは何も言わず、黒豆と道明寺が沈むように固められた寒天を一口大に切ってためた後
「これを何竿か用意してもらいたい」
「構いませんが贈答用にするには地味ですよ?」
「なに、儂が食べる分だ」
それはどうかと思うも
「お気に召していただければいくつか作り置きをしておきます」
「そうかそうか、飯田とは違って息子は話が分かるな」
「店でお出しするものではないので」
「なるほど、頑固なのは遺伝と言うわけか」
店でしかあった事がないからかと言う結論を導き出した爺さんは青山さんが差し出した茶を受け取って、景色を眺めた後一口だけ口につける。
「結構なお手前、と言う処だが年寄りには濃いな」
すっと頭を下げたまま
「甘い菓子も年寄りには毒になりましょう」
思わず天井を仰いで怖いよ、宮下助けてーと心の中で全力でヘルプと叫んでみるも返答は一切ない。当然だが今はタイミングよくスマホが騒いでほしいと願わずにはいられなかった。
いや、むしろ宮下ならこの空気を察して絶対近づいてこないかと助けを求めた相手が悪かったかと反省をしている合間に飯田さんから茶碗が回ってきて、ラストの俺は残りを全部飲むという使命があった。
正直こう言うのはバアちゃんに付き合わされて何度かやってみたものの良さはいまだに良くわからない。
フレンチにお漬物……
どんな組み合わせのメニューなのかと思ったけど単に賄いに出す奴らしい。
「綾人君から頂いた野菜で漬けたお漬物だからね。
安心して。お漬物だけは飯田と青山には作らせないからね」
きりっとした顔は多分京都育ちで品の良い料亭出自の二人ならではの塩分薄めのお漬物を思い出してのものだろう。
俺もびっくりしたけど浅漬けってここまで浅いんだと塩分を探す味覚の俺が異常なのかと鉄分チャージを心掛けたほどだったけど、やっぱり高遠さんが言うのだから二人の感覚がおうちの味を求めすぎているだけだと思う事にしておいた。
味蕾の多い飯田さんだけならわかるけど青山さんもとなるとそれが慣れ親しんだ味という事で、一般的にはもうちょっと塩分ほしいと主張したい具合。
俺としては高遠さんによく二人から漬物の主権を取り上げたと褒め称えたい。
最後に飯田さんの至福の一杯を淹れてもらえば爺さんも満足げな顔。
「我が家で飯田の味を楽しめるとは贅沢だな」
茶碗蒸しは飯田さんが作ったのは俺でも分かった。
卵が賞味期限近かったから急遽作った感じだろうが美味しいものは美味しい。
幸せはこんな近くにあった事にほっと溜息を落とせばそれが極上の評価。皆さん満足げな顔で食事が終わった。
「それでは私は一度家に帰って寝てきますので」
失礼しますと深々と頭を下げて初めてのお宅のキッチンを使って満足したのか足取り軽く去っていく後姿を見送った。
長い塀に沿って曲がって去って言った後姿を見送れば
「俺、高遠さんとレストランでしかあった事ないけど、かなり個性的な人ですね」
「ああ、うん。そうかもね。
料理以外はほんとダメな奴だから。兄貴と言葉が無くっても会話ができる数少ないやつだから俺は別に苦にもならないけどね」
他は大変だけどと遠回しに言う青山さんの言葉に頷く飯田さん。
そういえば飯田さんもお父さんとは言葉がいらない風だったなと初めてうちに来てくれた日の夜に囲炉裏を囲んだ時を思い出せばあんな感じなのだろうと想像がついたもののそんな渋い光景をお母さんがぶち壊していく所まで思い出して一人苦笑していれば、何を思い出したのか理解した飯田さんと何があったのか察した青山さんは二人でそっと顔を背けるのを浅野さんは不思議な顔をして頭をかしげていた。
「さて綾人君。高遠も満足して帰ったから少し込み入った話をしましょうか」
「はい……」
こっちが本番かと少しだけ緊張感漂う空気に俺は爺さんを交えての懇談会を始めるのだった。
場所は床の間のある部屋、ではなくなんと茶室。
「密会するにはぴったりの場所的な?」
「本来の茶室の使い方ですよ」
いつの時代の?とまでは聞かないものの青山さんはまるでそこに茶器があるのを知っているかのように準備を始めた。
炭に火をつけてお湯を沸かし、その間俺達は青山さんによって選ばれた茶碗を眺めたり、飯田さんが即行で作ってくれた和菓子を青山さんがさりげなく活けてくれたお花を眺めながら頂いたりと一瞬にして青山さんの流れで場を整えて作られた空間の中、神経が研ぎ澄まされていく感覚になっていく。
爺さんは何も言わず、黒豆と道明寺が沈むように固められた寒天を一口大に切ってためた後
「これを何竿か用意してもらいたい」
「構いませんが贈答用にするには地味ですよ?」
「なに、儂が食べる分だ」
それはどうかと思うも
「お気に召していただければいくつか作り置きをしておきます」
「そうかそうか、飯田とは違って息子は話が分かるな」
「店でお出しするものではないので」
「なるほど、頑固なのは遺伝と言うわけか」
店でしかあった事がないからかと言う結論を導き出した爺さんは青山さんが差し出した茶を受け取って、景色を眺めた後一口だけ口につける。
「結構なお手前、と言う処だが年寄りには濃いな」
すっと頭を下げたまま
「甘い菓子も年寄りには毒になりましょう」
思わず天井を仰いで怖いよ、宮下助けてーと心の中で全力でヘルプと叫んでみるも返答は一切ない。当然だが今はタイミングよくスマホが騒いでほしいと願わずにはいられなかった。
いや、むしろ宮下ならこの空気を察して絶対近づいてこないかと助けを求めた相手が悪かったかと反省をしている合間に飯田さんから茶碗が回ってきて、ラストの俺は残りを全部飲むという使命があった。
正直こう言うのはバアちゃんに付き合わされて何度かやってみたものの良さはいまだに良くわからない。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる