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8巻
8-3
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「夜明けも遅くなったものです。――ということは、この世界は地軸の傾いた惑星ということなのでしょうかね。四季もあるし」
普通に生活する分には大して意味のないことを呟きつつ、レクティファールはのそりと起き上がる。
長男のお下がりだという寝間着を脱ぎ、今度はアルフォードのお下がりだという普段着に着替える。
白の上着に褐色の細袴。両方共さして上等な布ではないが、丈夫で肌触りの良いものだった。物の価値が値段ではないことを、この家の財布を預かる者は知っているらしい。
「うん、私は良い養母に恵まれた」
ウィリィアを見ていれば、子育てにも長けた女性だと分かる。
夫のアルフォードも騎士としてはなかなかの人物で、白龍公カールがこの夫婦を自分の養父母として推した理由が分かった気がした。
「健全な環境なくして健全な精神なし」
そして、健全な精神なくして健全な為政なしということか。
レクティファールは小さく微笑み、姿見でそんな自分の姿を確認して今度は苦笑した。
「――さて、義母上の手伝いをしないと」
ただ、職員たちが登城する頃には皇城に戻らないとまずい。
まず宰相が無言で怒り狂い、次に皇王府総裁が笑顔で怒り狂う。それも、部下たちに気付かれぬよう心の奥底で。
唯ひとり、己が主君にのみ、その怒りが届くように腹を立てる。
「まあ、仕方のないことだけど……」
自分を中心とした現体制は、いまだ立ち上がったばかりの仔馬のようなもの。不安定で、いつ転ぶとも知れず、さらに傷付きやすい。
それを支えるために、レクティファールは老練な彼らを柱石としているのだ。
ただ声望があるだけでは組織は纏まらない。どれだけ組織を支える柱が太く頑丈でも、その柱を支える土台が脆弱ならば、組織は容易く崩れ落ちるものだ。
その点、レクティファールは大いに恵まれている。
国家を割ってしまうほど――つまりは諸刃の剣と言って良いくらいに愛国心を持つ者たちと、この国の歴史をその目で見つめ続けてきた妖精の長老がすぐ近くにいる。彼らは自らの欲を制御する術を心得ているし、何よりも主君を諫めることを一切躊躇わない。
レクティファールの国主としての技量が稚拙なことは確かだが、臣下たちの存在はそれを補って余りある。
「国とは民、国とは臣、国とは君」
国主としての学問を学ぶとき、一番初めに教えられるのはそんな言葉。
国を成り立たせる要素として、君主は民と臣に劣るという意味だ。
君主あっての国家と思っていると、いつか足元を掬われる。それを戒める言葉なのだろうとレクティファールは考えていた。
「どちらにせよ、私はひとりじゃ生きていけないわけで……」
困ったことに、こちらの世界の自分はただまんじりと生きていれば良いというものではない。
しかも、人ひとりでは大したことはできない。
元首とは国家を束ね、多くの国民を束ね、国家としての形を作り上げることをその役割としている。だが、元首単独で何ができるかと問われれば、多くの者は言葉に詰まり、それ以外のごく少数は殆ど何もできないと返すだろう。元首とてただの人、役割が特別なだけであり、できることが人より特別多いわけではないのだ。
「まあ、今更ひとりに戻ろうとは思いませんが、ね」
そう呟き、レクティファールは再び微笑んだ。
彼の目の前に立つ鏡の住人たる青年は何処か頼りなく、同時に何処か楽しげにしていた。
一家の食を預かる厨房に顔を出してみれば、そこには既にルイーズの姿があった。
飾り気のない前掛け姿で、鍋の灰汁を少し、また少しと掬っている。
「おはようございます」
「あらレクト殿、おはよう。早いのね」
「ええ、もう一眠りするときもありますが、家に戻ってまでそれもどうかと思いまして」
「寝ててもいいのに。いつもお仕事大変なんでしょう? ここにいるときぐらいのんびり過ごせばいいのよ」
「いつもは全部他人任せですからね。たまには自分でやらないと」
「そう、じゃあ――」
ルイーズは生真面目な息子に対し苦笑をしながら、食堂に行って食器を並べてくれるよう頼んだ。レクティファールは頷き、隅に置いてあった食器を収めた台車を押して厨房を出る。
「――ああ、あと、表の郵便受けから新聞も取ってきてくれるかしら~?」
「はい」
何とも、穏やかな朝だ。
レクティファールは食堂へと続く廊下で、朝日を見ながらそう思った。
つい数カ月前まで血煙舞う戦場にいたはずなのに、今はこうしてあの命のやり取りが性質の悪い夢だったのではないかとさえ思える生活を送っている。
城に戻れば、そこには新たな家族がいて、新たな仕事場がある。しかし、そんな日常はあの戦場では考えもしなかったし、考えられなかった。
だからレクティファールはこう考えもする。あの戦場で、こんな穏やかな日常を永遠に失った同胞が存在したことは覆しようもない事実で、今のこの日常は彼らが自分に遺した呪いなのではないかと。
微温く、甘い日常を教え込み、いつかまたあの戦場に引き摺り戻すことで、奪う。
散った戦友たちの死に責任を負うレクティファールには、似合いの復讐だ。
「あると分かっている罠でも、逃げられないからなぁ」
今の日常を捨てられない以上、レクティファールは分かっていて罠に掛かりに行くしかない。
その上で、罠を喰い破る。
「私って、そんなに能動的じゃないはずなんですけどね」
それでもやらねば、望む望まないに拘わらずこの腕の中に収まってしまった大切な者たちを失ってしまう。一度腕の中に入れたものを失うのは、諦めの良いレクティファールといえども納得し難いことだった。
「――ということで、ウィリィアさんは守りますとも」
いつの間にか辿り着いた食堂の扉に手を掛けつつ、彼は誰にともなく呟いた。
応える声は――彼の背後から。
「おう、そりゃ良かった」
レクティファールが振り返った先、アルフォードは鉄芯を仕込んだ大振りの木剣を肩に載せ、口の端を小さく引き上げる笑みを浮かべている。
「おはようございます。――これから修練ですか?」
「ああ、仕事が詰まってると朝と夜ぐらいしか自分の修練の時間が取れなくてな」
「なるほど」
近衛軍の訓練教官として忙しい日々を送っているアルフォード。だが、自身の鍛錬も怠るわけにはいかないから、自然と仕事前、仕事後に修練を行うようになったのだろう。もしかしたら、近衛軍に出向する前からの日課なのかもしれないが。
「お前もやるか?」
とんとん、と木剣で肩を叩くアルフォード。
その申し出に、レクティファールは頭を振った。
「義母上に頼まれた仕事があるので、また次の機会にお願いします」
「そうか……じゃあしょうがないな」
朝の爽やかな空気の中で義息と剣を振れると思っていたアルフォードは、残念そうに眉を寄せた。しかし、先約があるのならば仕方がない。
「じゃあ、俺は庭にいる。朝飯ができたら呼んでくれ」
「はい」
アルフォードは木剣を担ぎ、レクティファールの肩を叩いて去っていった。
それを見送ったレクティファールは気を取り直し、食堂の扉を開けるのだった。
ハルベルン家の朝食は、皇国貴族筆頭のリンドヴルム公爵家に属する騎士家としては質素なものだった。
そのため、朝食を作る手間はさして多くもなく、ルイーズはほとんどひとりで朝食を作り上げてしまった。レクティファールにできた手伝いといえば葉野菜をちぎり、高い位置に置いてあった皿を下ろした程度。いてもいなくてもさして違いはなかっただろう。
それでもルイーズは、レクティファールに礼を言い労った。その上で、彼にひとつ頼みごとをした。
「じゃあ、最後にもうひとつ頼んでもいいかしら」
「はい、何でしょう」
彼はこのとき気軽に答えたことを、後々まで悔やむことになる。
「ウィリィアを起こしてきてくれないかしら。あの娘ったら家にいるときは寝坊助さんなのよ」
この時点でのレクティファールは、このあと自分に降りかかる苦難を知らなかったし、知る術も持っていなかった。
そして、「お願いね」と自分を見送るルイーズが、何かを期待するような眼差しを向けていたことにも気付けなかった。
「ああそうだ、合図して返事がないようだったら部屋に入ってもいいわよ~~」
「はい、分かりました」
背後から聞こえるルイーズの声に答え、彼は義姉の部屋へと向かう。
昨夜思いきり筆立てをぶつけられたこともあり、義姉の部屋の位置は覚えている。彼は屋敷の中を迷うことなく進み、ウィリィアの部屋の前に到着した。
扉の向こうに、眠っているせいか希薄になったウィリィアの気配がある。
彼はその気配を確認し、扉を叩いた。
「義姉さん、朝です。朝食の準備ができますよ」
無言。
寝返りを打つ気配はあったが、起きる様子はない。
「――義姉さん、起きないと部屋に入ってしまいますよ。どうせ怒るんでしょう。だったら早く起きてくださいよ」
部屋に入れば、たとえルイーズの許しを得ていてもウィリィアは不機嫌になるだろう。不機嫌になったとき、八つ当たりの矛先は主にレクティファールへ向けられる。少なくとも、城に戻らない限りレクティファールはウィリィアの義弟に過ぎないのだ。
レクティファールは義姉の理不尽な折檻を予防すべく、必死に扉を叩いた。
「義姉さん、本当に入りますよ」
何度呼んでも、無言。
たまに呻き声とも喘ぎ声ともつかない声は聞こえるのだが、やはり起きる様子はない。
「――――」
彼は、覚悟を決めた。
義母の命に従い、決死の任務に赴くのだ。
「怒っても、謝りませんからね」
謝るべきなのは部屋に入った自分ではなく、起きなかった義姉である。
でもやっぱり、怒られたら謝ってしまうんだろうなぁ、と肩を落としつつ、彼は義姉の部屋の扉を開けた。
「おはよう、ございます」
妙にいい匂いのする部屋に入った途端、何故か囁き声になるレクティファール。義姉に怒られるという恐怖が、彼をイズモにいるという『忍者』にした。足音を立てず、呼吸を殺し、気配を消す。〈皇剣〉の機能を全域に亘って使用した、無駄に優秀な隠密の誕生である。
彼は、窓掛けが引かれたままの薄暗い部屋の中、そこに鎮座する寝台に向かって、無音で近付く。
そこには、掛け布団に包まって非常に安らかな寝息を立てている義姉上様がおられた。寒いのか、身体を丸めてレクティファールに背を向けている。枕も頭の下にはなく、既に用途を果たしていない。
「むにょむにょ……」
意味のない言葉がウィリィアの口から漏れた。
その気持ち良さそうな声に、一瞬だけ、レクティファールの眉間に青筋が浮かぶ。
彼は義姉の肩を掴み、揺らした。
「義姉さん、朝です。朝ごはんです。義姉さんは休みですが、私は仕事なんです」
あまりにも気持ち良さそうに寝ているウィリィアの姿に、全く罪悪感を覚えないといえば嘘になる。
だが、起きてもらわなければ困る。
「義姉さん、義姉上、ウィリィア」
様々な名で呼び掛け、肩を揺する。
掛け布団がずれてウィリィアの肩が露わになったが、レクティファールは冷静に、乱れた寝間着を直すのみで、特に何も感じなかった。
ついでに外れていた胸元のボタンも留め直す。
「起きてください、というか、さっさと起きなさい」
段々と強い口調に変化し始めたレクティファール。肩に触れる手にも、力が篭ってきた。
「ウィリィア、いい加減にしないと……」
「もにゃ……」
若干怒りの色が増したレクティファールの声に反応したのか、或いは偶然なのか、ウィリィアはごろんと寝返りを打って逆向きになる。
掛け布団は彼女の身体の下に巻き込まれ、危うくレクティファールの手も巻き添えを食うところだった。
「義姉さん、起きたんですか?」
「く――」
返答は、寝息である。
「――――」
どうしてくれようかこの義姉。
日頃あれだけ自分のことを厳しく躾ているというのに、自分は朝に弱いのか。
いや、実家に戻っているという安堵故に、気が緩んでいるのだろう。それは勘案すべきだ。
よく考えろ、この女性はいつも気を張って心身を追い詰めているではないか、家にいるときぐらい穏やかな日常というものを満喫させてあげた方が良いのではないか。
それこそが義弟としての優しさではないか。
「むにゃ……」
再度、気の抜けた声と共に寝返りを打つウィリィア。見下ろしてみれば、はだけた寝間着の裾からへそが覗いている。
その下には白い下着が見えているし、とても家族以外に見せられる姿ではない。
つまり、それだけこの女性が安心しているということ。ならば義弟たる自分がすべきは――
「――いや待て待て、どちらにしろ起こさなきゃならんじゃないか」
朝食抜きは健康にも良くないだろう。
しかも、ルイーズから義姉を起こしてくれと頼まれているのだから、その職務を放棄するわけにはいかない。
起こすことに罪悪感はあるが、君主たるもの、やらなければならないことはどれだけ恨みを買ってでもやらねばならないのだ。
彼は決意すると、行動に移った。
「義姉さん! 起きてください!」
先程よりも強い力で義姉の身体を起こし、両肩を掴んで揺さぶる。
ついでにウィリィアの耳元に口を寄せ、そこで声を発した。
「義姉さん!」
ウィリィアの顔が、不快そうに歪む。
どうやら少しずつ意識が覚醒し始めているらしい。
「朝です! 朝食の準備ができています!」
「むぅ~……」
唸り、身を捩るウィリィア。レクティファールの腕を解こうとしているらしい。
しかし、そうはさせまいとレクティファールがさらに力を込める。
そして耳元でもう一声。
「義姉さん! 起きなさい!」
「むむぅ~……!」
ようやくウィリィアの目が開いた。
「あ、起きましたか」
「――――」
レクティファールはウィリィアを支えたまま、問い掛けた。
寝台の上に座り込む形になったウィリィアは、寝惚けた顔で義弟を見上げる。
「れくと……?」
「ええ、そうです」
頷くレクティファール。
良かった、起きた、と思った。
しかし、彼の試練は終わらない。
喜色を浮かべるレクティファールに、ウィリィアは両手を伸ばす。
「――だっこ」
「はっ?」
素っ頓狂な声を発するレクティファール。
義姉が何を言っているのか、理解できなかった。
無言のまま自分を見下ろしている義弟に、ウィリィアは焦れたようにもう一度両手を差し出す。
「――ん!」
早く抱き上げろ愚弟。
そんな声が聞こえてきそうな態度である。
レクティファールも思わず手を伸ばしてしまうくらい、その声は不機嫌だった。
「むふぅ……」
ひょいと横抱きに抱えられたウィリィアは、満足そうな声を漏らして義弟の首に両手を回し、首元に顔を埋める。
対してレクティファールは、自分が無意識に義姉を持ち上げたことに驚いていた。
「あれ? なんで私……」
どうにもすっかり強気な姉に振り回される弟としての習慣が染み付いているらしい。
その事実に落ち込みながら、自分の腕の中で上機嫌に身体を揺らす義姉を困ったように見つめるレクティファールであった。
「あらまあ、随分ご機嫌ねぇこの娘は」
レクティファールに抱えられたウィリィアを見たルイーズの第一声が、それだった。
彼女の言う通りウィリィアの機嫌はすこぶる良く、安眠を妨げられたとは思えないほどだ。
今もレクティファールにしがみ付いたまま、鼻歌を歌っている。
「そうだレクト殿、折角だからこのままお風呂に連れて行ってあげてちょうだいな」
「何とっ!?」
「いつもはわたくしが、寝惚けているこの娘の手を引いて連れて行くんだけど……」
「だったら、下ろしますよ」
そう言って腰を落とすレクティファール。
だが、自分が下ろされようとしていることに気付いた姫様は、急速に不機嫌になった。
「――ぃや!」
「こ、この義姉……!」
力尽くで引き剥がそうとすると、いやいやと頭を振ってレクティファールから離れないウィリィア。寝惚けている割には、力が強い。
ルイーズは面白そうに義姉弟のやり取りを見ていたが、しばらくしてレクティファールが諦めると再び彼に頼んだ。
「ね、この娘のたまのお願い、聞いてあげて」
「――――」
そう言われると、反論できないレクティファールだった。
ウィリィアが日頃どれだけ苦労しているか知っているからこそ、渋々ながら頷いた。
「分かりました、では脱衣場まで」
「それでいいわ。そこから先は自分でできるから」
「はい……」
敗北感を背負い去っていくその肩に、上機嫌な娘の顔が載っている。
ルイーズは思わず噴き出しそうになり、慌てて口を隠した。
それでも隠し切れない笑みが、朝食の匂いを嗅ぎ付けて現れた夫の目に留まる。
アルフォードは妻の表情に首を傾げながら、食前のお茶を求めた。
「どうした、随分楽しそうだな」
「楽しいわよ、良い息子ができたんだもの」
「――まぁな、だが、あまり構うなよ」
年頃の異性の子どもは難しい。
最近、ウィリィアという年頃の娘と満足に会話ができていないアルフォードは、妻に釘を刺した。特に、レクティファールは特殊な立場にいる。下手に母親面をすれば、レクティファールではなくその周囲の者が良い顔をするまい。
アルフォードは、妻が権力の類を求めるような女ではないと知っている。ただ、それも近しい間柄だからこそだ。貴族筆頭であるカールもルイーズを良く知っているが、それ以外の者は彼女の性格など知りはしない。
「分かってるわよ。レクト殿はわたくしの息子だけれど、レクティファール殿下は雲上人。それくらいは弁えています」
「だったら……」
「でもね、あなた――」
ルイーズは夫を振り返り、先程の笑みとは違う、ひどく寂しげな微笑を浮かべながら言った。
「どちらもあの子なのよ。笑って怒って困って、わたくしたちと同じ心あるヒト」
「ヒトではない、この国を護り、亡ぼせる兵器だ」
アルフォードの、事実を事実として突き付ける冷たい声音にも、ルイーズは小さく首を振る。
「いいえ。この国を護り、亡ぼせる兵器だけれど、やっぱりヒトなのよ、あの子は」
アルフォードも、レクティファール個人に対しては愛情を持っている。しかし、そう接してしまうと国が回らなくなる。
「――――」
皇王は兵器かヒトか。それを議論する場は既に皇国に存在しない。
それは、皇王自身が自らを兵器として認めているからであり、今更それを議論しようという者はいないのだ。
兵器であるかヒトであるかではなく、彼らは皇王という兵器であり、同時にヒトである――国民は自らの主君をそう定義付けている。皇王がヒトでないという定義は、何処にも存在しないが故に。
だからこそ、アルフォードは妻の言葉に何の反論もできなかった。
「――好きにしろ、程々にな」
「ええ、好きにします」
答えるルイーズの顔には、明るい笑みが戻っていた。
普通に生活する分には大して意味のないことを呟きつつ、レクティファールはのそりと起き上がる。
長男のお下がりだという寝間着を脱ぎ、今度はアルフォードのお下がりだという普段着に着替える。
白の上着に褐色の細袴。両方共さして上等な布ではないが、丈夫で肌触りの良いものだった。物の価値が値段ではないことを、この家の財布を預かる者は知っているらしい。
「うん、私は良い養母に恵まれた」
ウィリィアを見ていれば、子育てにも長けた女性だと分かる。
夫のアルフォードも騎士としてはなかなかの人物で、白龍公カールがこの夫婦を自分の養父母として推した理由が分かった気がした。
「健全な環境なくして健全な精神なし」
そして、健全な精神なくして健全な為政なしということか。
レクティファールは小さく微笑み、姿見でそんな自分の姿を確認して今度は苦笑した。
「――さて、義母上の手伝いをしないと」
ただ、職員たちが登城する頃には皇城に戻らないとまずい。
まず宰相が無言で怒り狂い、次に皇王府総裁が笑顔で怒り狂う。それも、部下たちに気付かれぬよう心の奥底で。
唯ひとり、己が主君にのみ、その怒りが届くように腹を立てる。
「まあ、仕方のないことだけど……」
自分を中心とした現体制は、いまだ立ち上がったばかりの仔馬のようなもの。不安定で、いつ転ぶとも知れず、さらに傷付きやすい。
それを支えるために、レクティファールは老練な彼らを柱石としているのだ。
ただ声望があるだけでは組織は纏まらない。どれだけ組織を支える柱が太く頑丈でも、その柱を支える土台が脆弱ならば、組織は容易く崩れ落ちるものだ。
その点、レクティファールは大いに恵まれている。
国家を割ってしまうほど――つまりは諸刃の剣と言って良いくらいに愛国心を持つ者たちと、この国の歴史をその目で見つめ続けてきた妖精の長老がすぐ近くにいる。彼らは自らの欲を制御する術を心得ているし、何よりも主君を諫めることを一切躊躇わない。
レクティファールの国主としての技量が稚拙なことは確かだが、臣下たちの存在はそれを補って余りある。
「国とは民、国とは臣、国とは君」
国主としての学問を学ぶとき、一番初めに教えられるのはそんな言葉。
国を成り立たせる要素として、君主は民と臣に劣るという意味だ。
君主あっての国家と思っていると、いつか足元を掬われる。それを戒める言葉なのだろうとレクティファールは考えていた。
「どちらにせよ、私はひとりじゃ生きていけないわけで……」
困ったことに、こちらの世界の自分はただまんじりと生きていれば良いというものではない。
しかも、人ひとりでは大したことはできない。
元首とは国家を束ね、多くの国民を束ね、国家としての形を作り上げることをその役割としている。だが、元首単独で何ができるかと問われれば、多くの者は言葉に詰まり、それ以外のごく少数は殆ど何もできないと返すだろう。元首とてただの人、役割が特別なだけであり、できることが人より特別多いわけではないのだ。
「まあ、今更ひとりに戻ろうとは思いませんが、ね」
そう呟き、レクティファールは再び微笑んだ。
彼の目の前に立つ鏡の住人たる青年は何処か頼りなく、同時に何処か楽しげにしていた。
一家の食を預かる厨房に顔を出してみれば、そこには既にルイーズの姿があった。
飾り気のない前掛け姿で、鍋の灰汁を少し、また少しと掬っている。
「おはようございます」
「あらレクト殿、おはよう。早いのね」
「ええ、もう一眠りするときもありますが、家に戻ってまでそれもどうかと思いまして」
「寝ててもいいのに。いつもお仕事大変なんでしょう? ここにいるときぐらいのんびり過ごせばいいのよ」
「いつもは全部他人任せですからね。たまには自分でやらないと」
「そう、じゃあ――」
ルイーズは生真面目な息子に対し苦笑をしながら、食堂に行って食器を並べてくれるよう頼んだ。レクティファールは頷き、隅に置いてあった食器を収めた台車を押して厨房を出る。
「――ああ、あと、表の郵便受けから新聞も取ってきてくれるかしら~?」
「はい」
何とも、穏やかな朝だ。
レクティファールは食堂へと続く廊下で、朝日を見ながらそう思った。
つい数カ月前まで血煙舞う戦場にいたはずなのに、今はこうしてあの命のやり取りが性質の悪い夢だったのではないかとさえ思える生活を送っている。
城に戻れば、そこには新たな家族がいて、新たな仕事場がある。しかし、そんな日常はあの戦場では考えもしなかったし、考えられなかった。
だからレクティファールはこう考えもする。あの戦場で、こんな穏やかな日常を永遠に失った同胞が存在したことは覆しようもない事実で、今のこの日常は彼らが自分に遺した呪いなのではないかと。
微温く、甘い日常を教え込み、いつかまたあの戦場に引き摺り戻すことで、奪う。
散った戦友たちの死に責任を負うレクティファールには、似合いの復讐だ。
「あると分かっている罠でも、逃げられないからなぁ」
今の日常を捨てられない以上、レクティファールは分かっていて罠に掛かりに行くしかない。
その上で、罠を喰い破る。
「私って、そんなに能動的じゃないはずなんですけどね」
それでもやらねば、望む望まないに拘わらずこの腕の中に収まってしまった大切な者たちを失ってしまう。一度腕の中に入れたものを失うのは、諦めの良いレクティファールといえども納得し難いことだった。
「――ということで、ウィリィアさんは守りますとも」
いつの間にか辿り着いた食堂の扉に手を掛けつつ、彼は誰にともなく呟いた。
応える声は――彼の背後から。
「おう、そりゃ良かった」
レクティファールが振り返った先、アルフォードは鉄芯を仕込んだ大振りの木剣を肩に載せ、口の端を小さく引き上げる笑みを浮かべている。
「おはようございます。――これから修練ですか?」
「ああ、仕事が詰まってると朝と夜ぐらいしか自分の修練の時間が取れなくてな」
「なるほど」
近衛軍の訓練教官として忙しい日々を送っているアルフォード。だが、自身の鍛錬も怠るわけにはいかないから、自然と仕事前、仕事後に修練を行うようになったのだろう。もしかしたら、近衛軍に出向する前からの日課なのかもしれないが。
「お前もやるか?」
とんとん、と木剣で肩を叩くアルフォード。
その申し出に、レクティファールは頭を振った。
「義母上に頼まれた仕事があるので、また次の機会にお願いします」
「そうか……じゃあしょうがないな」
朝の爽やかな空気の中で義息と剣を振れると思っていたアルフォードは、残念そうに眉を寄せた。しかし、先約があるのならば仕方がない。
「じゃあ、俺は庭にいる。朝飯ができたら呼んでくれ」
「はい」
アルフォードは木剣を担ぎ、レクティファールの肩を叩いて去っていった。
それを見送ったレクティファールは気を取り直し、食堂の扉を開けるのだった。
ハルベルン家の朝食は、皇国貴族筆頭のリンドヴルム公爵家に属する騎士家としては質素なものだった。
そのため、朝食を作る手間はさして多くもなく、ルイーズはほとんどひとりで朝食を作り上げてしまった。レクティファールにできた手伝いといえば葉野菜をちぎり、高い位置に置いてあった皿を下ろした程度。いてもいなくてもさして違いはなかっただろう。
それでもルイーズは、レクティファールに礼を言い労った。その上で、彼にひとつ頼みごとをした。
「じゃあ、最後にもうひとつ頼んでもいいかしら」
「はい、何でしょう」
彼はこのとき気軽に答えたことを、後々まで悔やむことになる。
「ウィリィアを起こしてきてくれないかしら。あの娘ったら家にいるときは寝坊助さんなのよ」
この時点でのレクティファールは、このあと自分に降りかかる苦難を知らなかったし、知る術も持っていなかった。
そして、「お願いね」と自分を見送るルイーズが、何かを期待するような眼差しを向けていたことにも気付けなかった。
「ああそうだ、合図して返事がないようだったら部屋に入ってもいいわよ~~」
「はい、分かりました」
背後から聞こえるルイーズの声に答え、彼は義姉の部屋へと向かう。
昨夜思いきり筆立てをぶつけられたこともあり、義姉の部屋の位置は覚えている。彼は屋敷の中を迷うことなく進み、ウィリィアの部屋の前に到着した。
扉の向こうに、眠っているせいか希薄になったウィリィアの気配がある。
彼はその気配を確認し、扉を叩いた。
「義姉さん、朝です。朝食の準備ができますよ」
無言。
寝返りを打つ気配はあったが、起きる様子はない。
「――義姉さん、起きないと部屋に入ってしまいますよ。どうせ怒るんでしょう。だったら早く起きてくださいよ」
部屋に入れば、たとえルイーズの許しを得ていてもウィリィアは不機嫌になるだろう。不機嫌になったとき、八つ当たりの矛先は主にレクティファールへ向けられる。少なくとも、城に戻らない限りレクティファールはウィリィアの義弟に過ぎないのだ。
レクティファールは義姉の理不尽な折檻を予防すべく、必死に扉を叩いた。
「義姉さん、本当に入りますよ」
何度呼んでも、無言。
たまに呻き声とも喘ぎ声ともつかない声は聞こえるのだが、やはり起きる様子はない。
「――――」
彼は、覚悟を決めた。
義母の命に従い、決死の任務に赴くのだ。
「怒っても、謝りませんからね」
謝るべきなのは部屋に入った自分ではなく、起きなかった義姉である。
でもやっぱり、怒られたら謝ってしまうんだろうなぁ、と肩を落としつつ、彼は義姉の部屋の扉を開けた。
「おはよう、ございます」
妙にいい匂いのする部屋に入った途端、何故か囁き声になるレクティファール。義姉に怒られるという恐怖が、彼をイズモにいるという『忍者』にした。足音を立てず、呼吸を殺し、気配を消す。〈皇剣〉の機能を全域に亘って使用した、無駄に優秀な隠密の誕生である。
彼は、窓掛けが引かれたままの薄暗い部屋の中、そこに鎮座する寝台に向かって、無音で近付く。
そこには、掛け布団に包まって非常に安らかな寝息を立てている義姉上様がおられた。寒いのか、身体を丸めてレクティファールに背を向けている。枕も頭の下にはなく、既に用途を果たしていない。
「むにょむにょ……」
意味のない言葉がウィリィアの口から漏れた。
その気持ち良さそうな声に、一瞬だけ、レクティファールの眉間に青筋が浮かぶ。
彼は義姉の肩を掴み、揺らした。
「義姉さん、朝です。朝ごはんです。義姉さんは休みですが、私は仕事なんです」
あまりにも気持ち良さそうに寝ているウィリィアの姿に、全く罪悪感を覚えないといえば嘘になる。
だが、起きてもらわなければ困る。
「義姉さん、義姉上、ウィリィア」
様々な名で呼び掛け、肩を揺する。
掛け布団がずれてウィリィアの肩が露わになったが、レクティファールは冷静に、乱れた寝間着を直すのみで、特に何も感じなかった。
ついでに外れていた胸元のボタンも留め直す。
「起きてください、というか、さっさと起きなさい」
段々と強い口調に変化し始めたレクティファール。肩に触れる手にも、力が篭ってきた。
「ウィリィア、いい加減にしないと……」
「もにゃ……」
若干怒りの色が増したレクティファールの声に反応したのか、或いは偶然なのか、ウィリィアはごろんと寝返りを打って逆向きになる。
掛け布団は彼女の身体の下に巻き込まれ、危うくレクティファールの手も巻き添えを食うところだった。
「義姉さん、起きたんですか?」
「く――」
返答は、寝息である。
「――――」
どうしてくれようかこの義姉。
日頃あれだけ自分のことを厳しく躾ているというのに、自分は朝に弱いのか。
いや、実家に戻っているという安堵故に、気が緩んでいるのだろう。それは勘案すべきだ。
よく考えろ、この女性はいつも気を張って心身を追い詰めているではないか、家にいるときぐらい穏やかな日常というものを満喫させてあげた方が良いのではないか。
それこそが義弟としての優しさではないか。
「むにゃ……」
再度、気の抜けた声と共に寝返りを打つウィリィア。見下ろしてみれば、はだけた寝間着の裾からへそが覗いている。
その下には白い下着が見えているし、とても家族以外に見せられる姿ではない。
つまり、それだけこの女性が安心しているということ。ならば義弟たる自分がすべきは――
「――いや待て待て、どちらにしろ起こさなきゃならんじゃないか」
朝食抜きは健康にも良くないだろう。
しかも、ルイーズから義姉を起こしてくれと頼まれているのだから、その職務を放棄するわけにはいかない。
起こすことに罪悪感はあるが、君主たるもの、やらなければならないことはどれだけ恨みを買ってでもやらねばならないのだ。
彼は決意すると、行動に移った。
「義姉さん! 起きてください!」
先程よりも強い力で義姉の身体を起こし、両肩を掴んで揺さぶる。
ついでにウィリィアの耳元に口を寄せ、そこで声を発した。
「義姉さん!」
ウィリィアの顔が、不快そうに歪む。
どうやら少しずつ意識が覚醒し始めているらしい。
「朝です! 朝食の準備ができています!」
「むぅ~……」
唸り、身を捩るウィリィア。レクティファールの腕を解こうとしているらしい。
しかし、そうはさせまいとレクティファールがさらに力を込める。
そして耳元でもう一声。
「義姉さん! 起きなさい!」
「むむぅ~……!」
ようやくウィリィアの目が開いた。
「あ、起きましたか」
「――――」
レクティファールはウィリィアを支えたまま、問い掛けた。
寝台の上に座り込む形になったウィリィアは、寝惚けた顔で義弟を見上げる。
「れくと……?」
「ええ、そうです」
頷くレクティファール。
良かった、起きた、と思った。
しかし、彼の試練は終わらない。
喜色を浮かべるレクティファールに、ウィリィアは両手を伸ばす。
「――だっこ」
「はっ?」
素っ頓狂な声を発するレクティファール。
義姉が何を言っているのか、理解できなかった。
無言のまま自分を見下ろしている義弟に、ウィリィアは焦れたようにもう一度両手を差し出す。
「――ん!」
早く抱き上げろ愚弟。
そんな声が聞こえてきそうな態度である。
レクティファールも思わず手を伸ばしてしまうくらい、その声は不機嫌だった。
「むふぅ……」
ひょいと横抱きに抱えられたウィリィアは、満足そうな声を漏らして義弟の首に両手を回し、首元に顔を埋める。
対してレクティファールは、自分が無意識に義姉を持ち上げたことに驚いていた。
「あれ? なんで私……」
どうにもすっかり強気な姉に振り回される弟としての習慣が染み付いているらしい。
その事実に落ち込みながら、自分の腕の中で上機嫌に身体を揺らす義姉を困ったように見つめるレクティファールであった。
「あらまあ、随分ご機嫌ねぇこの娘は」
レクティファールに抱えられたウィリィアを見たルイーズの第一声が、それだった。
彼女の言う通りウィリィアの機嫌はすこぶる良く、安眠を妨げられたとは思えないほどだ。
今もレクティファールにしがみ付いたまま、鼻歌を歌っている。
「そうだレクト殿、折角だからこのままお風呂に連れて行ってあげてちょうだいな」
「何とっ!?」
「いつもはわたくしが、寝惚けているこの娘の手を引いて連れて行くんだけど……」
「だったら、下ろしますよ」
そう言って腰を落とすレクティファール。
だが、自分が下ろされようとしていることに気付いた姫様は、急速に不機嫌になった。
「――ぃや!」
「こ、この義姉……!」
力尽くで引き剥がそうとすると、いやいやと頭を振ってレクティファールから離れないウィリィア。寝惚けている割には、力が強い。
ルイーズは面白そうに義姉弟のやり取りを見ていたが、しばらくしてレクティファールが諦めると再び彼に頼んだ。
「ね、この娘のたまのお願い、聞いてあげて」
「――――」
そう言われると、反論できないレクティファールだった。
ウィリィアが日頃どれだけ苦労しているか知っているからこそ、渋々ながら頷いた。
「分かりました、では脱衣場まで」
「それでいいわ。そこから先は自分でできるから」
「はい……」
敗北感を背負い去っていくその肩に、上機嫌な娘の顔が載っている。
ルイーズは思わず噴き出しそうになり、慌てて口を隠した。
それでも隠し切れない笑みが、朝食の匂いを嗅ぎ付けて現れた夫の目に留まる。
アルフォードは妻の表情に首を傾げながら、食前のお茶を求めた。
「どうした、随分楽しそうだな」
「楽しいわよ、良い息子ができたんだもの」
「――まぁな、だが、あまり構うなよ」
年頃の異性の子どもは難しい。
最近、ウィリィアという年頃の娘と満足に会話ができていないアルフォードは、妻に釘を刺した。特に、レクティファールは特殊な立場にいる。下手に母親面をすれば、レクティファールではなくその周囲の者が良い顔をするまい。
アルフォードは、妻が権力の類を求めるような女ではないと知っている。ただ、それも近しい間柄だからこそだ。貴族筆頭であるカールもルイーズを良く知っているが、それ以外の者は彼女の性格など知りはしない。
「分かってるわよ。レクト殿はわたくしの息子だけれど、レクティファール殿下は雲上人。それくらいは弁えています」
「だったら……」
「でもね、あなた――」
ルイーズは夫を振り返り、先程の笑みとは違う、ひどく寂しげな微笑を浮かべながら言った。
「どちらもあの子なのよ。笑って怒って困って、わたくしたちと同じ心あるヒト」
「ヒトではない、この国を護り、亡ぼせる兵器だ」
アルフォードの、事実を事実として突き付ける冷たい声音にも、ルイーズは小さく首を振る。
「いいえ。この国を護り、亡ぼせる兵器だけれど、やっぱりヒトなのよ、あの子は」
アルフォードも、レクティファール個人に対しては愛情を持っている。しかし、そう接してしまうと国が回らなくなる。
「――――」
皇王は兵器かヒトか。それを議論する場は既に皇国に存在しない。
それは、皇王自身が自らを兵器として認めているからであり、今更それを議論しようという者はいないのだ。
兵器であるかヒトであるかではなく、彼らは皇王という兵器であり、同時にヒトである――国民は自らの主君をそう定義付けている。皇王がヒトでないという定義は、何処にも存在しないが故に。
だからこそ、アルフォードは妻の言葉に何の反論もできなかった。
「――好きにしろ、程々にな」
「ええ、好きにします」
答えるルイーズの顔には、明るい笑みが戻っていた。
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