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第二部 第一章
第一話「同盟発足」1
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〈アルトデステニア皇国〉が試練に直面したのは、皇国暦も二〇〇〇年が経過した頃だった。
第一の試練は第八代皇王の御代、次代の皇王となるべき〈皇剣〉の適合者が現れなかったこと。血縁ではなく、皇王の証である超兵器〈皇剣〉の継承を以て皇位を受け継ぐこの国で、それは、黒化の在り方さえも左右する非常事態だった。
皇王の在位期間は個人の資質で大きな差があるため、人々は不安を押し隠しながらもいずれ皇王を受け継ぐ誰かが現れるものと信じていた。
だが、その期待は裏切られた。
第八代皇王の崩御。皇国は第二の試練へと挑まなければならなくなった。
皇国貴族の中でも特に大きな力を持つ四人の龍公爵。そして政府の協議の結果、次代の継承者が現れるまでの暫定措置として皇子のひとりが皇王として指名された。
彼は〈皇剣〉の持ち主ではなかったが、決して無能ではなかった。優れた政治的才覚を示し、〈皇剣〉を持っていないこと以外、なんら欠けるところのない皇王だった。
だが、それでも皇国二〇〇〇年の積み重ね――〈皇剣〉の存在こそが皇王の正統性であったこれまでの歴史と、人々の意識を変えることはできなかった。
どれほど力を示しても認められることはない。
やがて、第九代皇王は精神の均衡を失い、これまでの政治方針をことごとく覆した。
政治的混乱が広がり、経済は破壊され、民心は荒んだ。
やがて彼は自らの支持者のみを重用するようになり、旧来の皇国をよしとする勢力を反逆者として弾圧する。
皇国はふたつに割れ、内乱状態に陥るのに時間は掛からなかった。
皇国正規軍が静観の立場を取ったことで国内の治安が崩壊するようなことにはならなかったものの。双方が国外勢力を招き入れて争い、やがて追い込まれた皇王は要塞都市である皇都イクシードに立て籠もる。
そのまましばしの月日が流れ、第九代皇王もまた命を落とした。
死の真相は不明。
この時期の皇都は第九代皇王の集めた私兵によって支配されており、治安維持と警察業務を行う衛視隊ですらまともに行動することはできなかった。
第九代皇王の遺体は粗雑に扱われ、結局その死の真相が明らかになることはなかった。
そして第三の試練。
有力貴族たる始原貴族が皇王に対抗するために招き入れた西方民主国家連合軍は、皇王の崩御によってその行動の大義を失ったが、本国の政治的判断によりそのまま皇都近郊に滞陣。
即時退却を求める皇国貴族との間で一触即発の状態となる。
皇都に皇王の支持貴族とその私兵を残したまま、そのすぐ外で連合軍と貴族軍が睨み合うという更なる混迷。皇国の分裂が現実味を帯び始めたこの頃、龍公爵のひとり、リンドブルム白龍公の領地にてひとりの青年が保護される。
それは、人々が待ち望んだ〈皇剣〉の継承者――〈白〉が再び歴史へと姿を見せた瞬間だった。
彼は白龍公の助力を得て聖都へと至り、残る三人の公爵を説き伏せて皇太子の位へと昇る。
アルトデステニア皇国皇太子レクティファール・ルイツ・ロルド・エルヴィッヒの名前が明確に皇国史に刻まれた瞬間だった。
そして、このあとの皇国史は彼を中心として描かれる。
レクティファールを旗頭とした四公爵軍の皇都急襲により、連合軍は無力化され、さらに皇都の軍勢は明確に反乱軍となって蹴散らされた。
連合軍と相対していた貴族軍は皇太子へと降り、皇国が経験した未曾有の危険は取り除かれたかに見えた。
だが、皇国の混乱を好機と見た北方の〈新生アルマダ帝国〉は、その国力が許す限りの大軍勢を皇国へと差し向ける。
皇国北方、パラティオン要塞を中心とした戦場で両国は激突。
帝国の秘匿兵器によって要塞が甚大な被害を被ったものの、要塞司令官自ら率いる軍勢の奇襲で根拠地が奪取された帝国軍は撤退を余儀なくされる。
大軍勢であるが故にその退却は困難なものとなり、皇国軍の追撃もあって帝国軍は最終的にその戦力の四割を失ってしまう。
この損害によって皇国と帝国の戦争は小康状態となり、レクティファールによる本格的な治世がはじまった。
そして、第九代皇王の喪が明けた翌年。皇太子レクティファールは大々的な戴冠式を執り行い、内外に皇国の完全復活を示す。
このとき、これまで彼を支えてきた女性たちとの婚姻の儀も同時に行われ、このときの戴冠及び婚姻の儀は皇国史上最大の式典となった。
皇国の人々はその光景を語り継ぎ、未来に期待を抱きながら日々を営んでいく。
当たり前の日常が過ぎ去り、いくつかの慶事を挟みつつ、皇国は再び大きな転換点を迎えた。
◇ ◇ ◇
皇国暦二〇一二年。
〈グラッツラー伯国〉に建設された巨大な高層建築物の周囲に、様々な種族の人々が集まっていた。
それはこの日正式に発足する、アルマダ大陸の半数の国家が加盟する同盟機構の本部であり、人々はその発足式典を祝福するために集まった大陸諸国の民衆だった。
通称、アルマダ条約同盟。締結地の名を用いてキヴァン条約同盟とも呼ばれる反アルマダ帝国を目的とする軍事同盟。同盟を主導したのは、反帝国の最先鋒であるアルトデステニア皇国で、皇国と協調路線を取るアルストロメリア民主連邦がその組織作りに大きな貢献をしており、政治中枢は中原の小国であるグラッツラーに置かれるなど、決して皇国一国の強権による組織ではないことを示していた。
もっとも、それが建前であることは誰もがわかっている。
皇国なくしてこのような同盟はなく、その中立的振る舞いは各国の顔を立てているに過ぎない。
「では、同盟議会議長代理にご登壇頂きます」
本部大会議場の演壇に上がったのは、先代の皇国外務院総裁マルファスだった。
彼はこの同盟締結のために大陸中を駆け回り、この日、たった1日だけの議長代理を以て政治の世界から去ることになっていた。
それは、彼の主君たるレクティファールの求めによるもので、同時に彼自身の望みでもあった。
皇国が表向きに大きな権力を持つことは、敵対勢力による離反工作に利する。マルファスとレクティファールは同じ考えを持ち、皇国が同盟の一国として扱われるよう徹底的に工作を行った。
「こうしてこの場所で、諸国の皆さまと顔を会わせることができたことは、私の生涯でもっとも嬉しく、誇らしいことであります。我々は我々の価値観と歴史、そして自らを守るためにこの地に集いました」
マルファスは顔見知りとなった同盟議会の議員たちひとりひとりの顔を確かめながら、同盟設立宣言という自らの外交官としての最後の仕事を進める。
「我々の前には長い道があり、その途中には数え切れないほどの困難が待ち受けているでしょう。ですが、我々はひとりでその道を進むのではありません。ここにいる、仲間とともに進むのです」
同盟締結は本来、二年後の予定だった。
しかし、それが前倒しになったのは、帝国に君臨する帝王の健康状態が急激に悪化しているからだ。
彼は未だ明確な後継者を定めていない上、ほぼ同じ力を持つ複数の候補が存在している。
このままでは、確実に帝国国内に混乱が起き、それによって帝国陣営そのものが大きく揺らぐことが予想されていた。
当然、彼らと敵対する国々が無事でいられるはずもない。
無秩序な軍事的混乱が広まれば、大陸全土が大きな混乱のるつぼに引き摺りこまれてしまう。
それを防ぐためには、反帝国の国々が協調して事態に当たらなくてはならない。そのために作られたのが、この同盟だった。
「私はこの演説を以て、議長代理の任を退きます。しかし、皆さまの友であり、戦友であることは代わらぬ事実です。いずれ遠い未来、平穏が訪れた日に、今日のこの日、この演説の感想を聞くのを楽しみにしております」
マルファスが顔を上げると、ガイエンルツヴィテ軍楽隊が高らかに音を奏でる。
同時に演壇の後方に掲げられた同盟旗が露わになり、人々が立ち上がって拍手する。
「『アルマダ大陸諸国による共存のための条約同盟』の発足を、ここに宣言します!」
◇ ◇ ◇
同盟議会はこの日、新たな議長として西方流浪民出身の外交官ドワイト・ヘン・フィーチボルトを選出し、いくつかの重要議案を採決した。
ひとつ、同盟軍事規格の策定。
ひとつ、同盟軍司令部の設置。
ひとつ、同盟軍司令官の使命。
ひとつ、同盟参加国防衛計画の策定。
ひとつ、同盟参加国が負うべき義務の確認。
これらの議題の採決により、同盟は帝国に対する実効勢力としての力を得た。
当然、帝国はこれに反発した。
「大陸の秩序に対する叛乱勢力の合流は一切許されるものではない。即時の解散を命じる」
これまでと同様に大陸のすべての主権は自分たちにあるとする帝国側の言葉を受て新聞記者の質問に答えた同盟の報道官は、ただひと言、「論ずるに値しない」とのみ答え、皇国の軍事規格をほぼそのまま転用した同盟軍事規格の策定についての質問へと移った。
これは皇国が唯一強硬に主張した議案で、独自規格を持っていたアルストロメリア民主連邦など各国の反発を招いたが、現実として千年以上に渡る実戦性能証明に勝る論拠を示すことはできず、同時に皇国経済と深い関わりを持つ各国財界の援護もあって、ほぼ皇国の主張が認められる形となった。
これにより各国で規格の転用が行われ、この作業は数年に亘って続くことになる。
またこれと同時に皇国軍需産業と各国工業会の間で協定書が結ばれ、皇国の軍事技術は一気に同盟内に拡散していくことになる。
これは皇国内でも危険性が叫ばれるほどの諸刃の剣だったが、限られた時間で共通規格の軍需品を揃えるためには、他に選択肢がなかったのである。
ただ、この協定によって各地の経済が活性化し、同盟全体の経済の底上げになったのは間違いのない事実である。
皇国の歴史は、間違いなく新たな戦いへと向かっていた。
第一の試練は第八代皇王の御代、次代の皇王となるべき〈皇剣〉の適合者が現れなかったこと。血縁ではなく、皇王の証である超兵器〈皇剣〉の継承を以て皇位を受け継ぐこの国で、それは、黒化の在り方さえも左右する非常事態だった。
皇王の在位期間は個人の資質で大きな差があるため、人々は不安を押し隠しながらもいずれ皇王を受け継ぐ誰かが現れるものと信じていた。
だが、その期待は裏切られた。
第八代皇王の崩御。皇国は第二の試練へと挑まなければならなくなった。
皇国貴族の中でも特に大きな力を持つ四人の龍公爵。そして政府の協議の結果、次代の継承者が現れるまでの暫定措置として皇子のひとりが皇王として指名された。
彼は〈皇剣〉の持ち主ではなかったが、決して無能ではなかった。優れた政治的才覚を示し、〈皇剣〉を持っていないこと以外、なんら欠けるところのない皇王だった。
だが、それでも皇国二〇〇〇年の積み重ね――〈皇剣〉の存在こそが皇王の正統性であったこれまでの歴史と、人々の意識を変えることはできなかった。
どれほど力を示しても認められることはない。
やがて、第九代皇王は精神の均衡を失い、これまでの政治方針をことごとく覆した。
政治的混乱が広がり、経済は破壊され、民心は荒んだ。
やがて彼は自らの支持者のみを重用するようになり、旧来の皇国をよしとする勢力を反逆者として弾圧する。
皇国はふたつに割れ、内乱状態に陥るのに時間は掛からなかった。
皇国正規軍が静観の立場を取ったことで国内の治安が崩壊するようなことにはならなかったものの。双方が国外勢力を招き入れて争い、やがて追い込まれた皇王は要塞都市である皇都イクシードに立て籠もる。
そのまましばしの月日が流れ、第九代皇王もまた命を落とした。
死の真相は不明。
この時期の皇都は第九代皇王の集めた私兵によって支配されており、治安維持と警察業務を行う衛視隊ですらまともに行動することはできなかった。
第九代皇王の遺体は粗雑に扱われ、結局その死の真相が明らかになることはなかった。
そして第三の試練。
有力貴族たる始原貴族が皇王に対抗するために招き入れた西方民主国家連合軍は、皇王の崩御によってその行動の大義を失ったが、本国の政治的判断によりそのまま皇都近郊に滞陣。
即時退却を求める皇国貴族との間で一触即発の状態となる。
皇都に皇王の支持貴族とその私兵を残したまま、そのすぐ外で連合軍と貴族軍が睨み合うという更なる混迷。皇国の分裂が現実味を帯び始めたこの頃、龍公爵のひとり、リンドブルム白龍公の領地にてひとりの青年が保護される。
それは、人々が待ち望んだ〈皇剣〉の継承者――〈白〉が再び歴史へと姿を見せた瞬間だった。
彼は白龍公の助力を得て聖都へと至り、残る三人の公爵を説き伏せて皇太子の位へと昇る。
アルトデステニア皇国皇太子レクティファール・ルイツ・ロルド・エルヴィッヒの名前が明確に皇国史に刻まれた瞬間だった。
そして、このあとの皇国史は彼を中心として描かれる。
レクティファールを旗頭とした四公爵軍の皇都急襲により、連合軍は無力化され、さらに皇都の軍勢は明確に反乱軍となって蹴散らされた。
連合軍と相対していた貴族軍は皇太子へと降り、皇国が経験した未曾有の危険は取り除かれたかに見えた。
だが、皇国の混乱を好機と見た北方の〈新生アルマダ帝国〉は、その国力が許す限りの大軍勢を皇国へと差し向ける。
皇国北方、パラティオン要塞を中心とした戦場で両国は激突。
帝国の秘匿兵器によって要塞が甚大な被害を被ったものの、要塞司令官自ら率いる軍勢の奇襲で根拠地が奪取された帝国軍は撤退を余儀なくされる。
大軍勢であるが故にその退却は困難なものとなり、皇国軍の追撃もあって帝国軍は最終的にその戦力の四割を失ってしまう。
この損害によって皇国と帝国の戦争は小康状態となり、レクティファールによる本格的な治世がはじまった。
そして、第九代皇王の喪が明けた翌年。皇太子レクティファールは大々的な戴冠式を執り行い、内外に皇国の完全復活を示す。
このとき、これまで彼を支えてきた女性たちとの婚姻の儀も同時に行われ、このときの戴冠及び婚姻の儀は皇国史上最大の式典となった。
皇国の人々はその光景を語り継ぎ、未来に期待を抱きながら日々を営んでいく。
当たり前の日常が過ぎ去り、いくつかの慶事を挟みつつ、皇国は再び大きな転換点を迎えた。
◇ ◇ ◇
皇国暦二〇一二年。
〈グラッツラー伯国〉に建設された巨大な高層建築物の周囲に、様々な種族の人々が集まっていた。
それはこの日正式に発足する、アルマダ大陸の半数の国家が加盟する同盟機構の本部であり、人々はその発足式典を祝福するために集まった大陸諸国の民衆だった。
通称、アルマダ条約同盟。締結地の名を用いてキヴァン条約同盟とも呼ばれる反アルマダ帝国を目的とする軍事同盟。同盟を主導したのは、反帝国の最先鋒であるアルトデステニア皇国で、皇国と協調路線を取るアルストロメリア民主連邦がその組織作りに大きな貢献をしており、政治中枢は中原の小国であるグラッツラーに置かれるなど、決して皇国一国の強権による組織ではないことを示していた。
もっとも、それが建前であることは誰もがわかっている。
皇国なくしてこのような同盟はなく、その中立的振る舞いは各国の顔を立てているに過ぎない。
「では、同盟議会議長代理にご登壇頂きます」
本部大会議場の演壇に上がったのは、先代の皇国外務院総裁マルファスだった。
彼はこの同盟締結のために大陸中を駆け回り、この日、たった1日だけの議長代理を以て政治の世界から去ることになっていた。
それは、彼の主君たるレクティファールの求めによるもので、同時に彼自身の望みでもあった。
皇国が表向きに大きな権力を持つことは、敵対勢力による離反工作に利する。マルファスとレクティファールは同じ考えを持ち、皇国が同盟の一国として扱われるよう徹底的に工作を行った。
「こうしてこの場所で、諸国の皆さまと顔を会わせることができたことは、私の生涯でもっとも嬉しく、誇らしいことであります。我々は我々の価値観と歴史、そして自らを守るためにこの地に集いました」
マルファスは顔見知りとなった同盟議会の議員たちひとりひとりの顔を確かめながら、同盟設立宣言という自らの外交官としての最後の仕事を進める。
「我々の前には長い道があり、その途中には数え切れないほどの困難が待ち受けているでしょう。ですが、我々はひとりでその道を進むのではありません。ここにいる、仲間とともに進むのです」
同盟締結は本来、二年後の予定だった。
しかし、それが前倒しになったのは、帝国に君臨する帝王の健康状態が急激に悪化しているからだ。
彼は未だ明確な後継者を定めていない上、ほぼ同じ力を持つ複数の候補が存在している。
このままでは、確実に帝国国内に混乱が起き、それによって帝国陣営そのものが大きく揺らぐことが予想されていた。
当然、彼らと敵対する国々が無事でいられるはずもない。
無秩序な軍事的混乱が広まれば、大陸全土が大きな混乱のるつぼに引き摺りこまれてしまう。
それを防ぐためには、反帝国の国々が協調して事態に当たらなくてはならない。そのために作られたのが、この同盟だった。
「私はこの演説を以て、議長代理の任を退きます。しかし、皆さまの友であり、戦友であることは代わらぬ事実です。いずれ遠い未来、平穏が訪れた日に、今日のこの日、この演説の感想を聞くのを楽しみにしております」
マルファスが顔を上げると、ガイエンルツヴィテ軍楽隊が高らかに音を奏でる。
同時に演壇の後方に掲げられた同盟旗が露わになり、人々が立ち上がって拍手する。
「『アルマダ大陸諸国による共存のための条約同盟』の発足を、ここに宣言します!」
◇ ◇ ◇
同盟議会はこの日、新たな議長として西方流浪民出身の外交官ドワイト・ヘン・フィーチボルトを選出し、いくつかの重要議案を採決した。
ひとつ、同盟軍事規格の策定。
ひとつ、同盟軍司令部の設置。
ひとつ、同盟軍司令官の使命。
ひとつ、同盟参加国防衛計画の策定。
ひとつ、同盟参加国が負うべき義務の確認。
これらの議題の採決により、同盟は帝国に対する実効勢力としての力を得た。
当然、帝国はこれに反発した。
「大陸の秩序に対する叛乱勢力の合流は一切許されるものではない。即時の解散を命じる」
これまでと同様に大陸のすべての主権は自分たちにあるとする帝国側の言葉を受て新聞記者の質問に答えた同盟の報道官は、ただひと言、「論ずるに値しない」とのみ答え、皇国の軍事規格をほぼそのまま転用した同盟軍事規格の策定についての質問へと移った。
これは皇国が唯一強硬に主張した議案で、独自規格を持っていたアルストロメリア民主連邦など各国の反発を招いたが、現実として千年以上に渡る実戦性能証明に勝る論拠を示すことはできず、同時に皇国経済と深い関わりを持つ各国財界の援護もあって、ほぼ皇国の主張が認められる形となった。
これにより各国で規格の転用が行われ、この作業は数年に亘って続くことになる。
またこれと同時に皇国軍需産業と各国工業会の間で協定書が結ばれ、皇国の軍事技術は一気に同盟内に拡散していくことになる。
これは皇国内でも危険性が叫ばれるほどの諸刃の剣だったが、限られた時間で共通規格の軍需品を揃えるためには、他に選択肢がなかったのである。
ただ、この協定によって各地の経済が活性化し、同盟全体の経済の底上げになったのは間違いのない事実である。
皇国の歴史は、間違いなく新たな戦いへと向かっていた。
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