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14話 優越感
しおりを挟む「ミキ……?どうして泣いているんですか?感情がぐちゃぐちゃですね。……ミキ。大丈夫、泣かないで」
そう言って、優しく瞼にキスをしてくれるアンノウン。周囲の叫び声は酷くなる一方だ。だが今の美姫にそれを気にしている余裕は無い。ただボロボロと涙を流していた。
(アン……。アンノウン)
「ミキ。可哀想に、何か酷い目にあったんですね?心が悲しみに満ちている。だけど私に対してだけは喜びの感情を向けている。………なんて可愛らしい。私の愛する妻♡」
そう言ってスリスリと頬を擦り寄せてくれるアンノウンにミキは落ち着く。きっとアンノウンが悲しみを引き受けてくれたのだ。そうして落ち着くと周囲の音や声が聞こえてくる。
『はあ?何あれ?あり得ないんだけど?』
『ちょ!!!めっちゃイケメンがブスとなんであんなにいちゃついてんの?』
『うわー。これってドッキリ?カメラどこ?』
小さな声だ。ヒソヒソと囁きあって美姫を嘲笑している。
『あれモデル?芸能人?めっちゃかっこいい………』
『うわ。家族?でも似てなさすぎでしょ……妻とか言ってた?あのイケメン?聞き間違いだよね?』
『えー、何あれ?』
思わずぎゅっとまたアンノウンに抱きつく、とアンノウンも優しく抱き返してくれる。それにホッと息が漏れた。その時ぐぅー!!!と大きくお腹の音が鳴った。美姫のお腹だ。
一瞬周囲は静まりそれからクスクスと嫌な笑い声があちこちから聞こえてくる。
『うわ。やば……』
『でぶキャラ乙……バラエティ番組っしょ?』
『ねーカメラ何処だろ?』
『撮影スタッフとか、居ないね?』
『あれじゃね?ほら、ネットの有名な奴?』
ザワザワと広がる声の波。どうやらこれをテレビの撮影か、ネット配信のドッキリか、そう決めつけているようだ。誰も美姫がアンノウンの恋人だとは思わない。
(っ………そうだよね。だって私とアンじゃ全然釣り合って無い)
ぐうぐう鳴るお腹を抑えて、美姫は惨めな気分になる。それにアンノウンが迎えに来てくれたのは凄く嬉しいけどちょっと嫌だ。今も周りには沢山の女子生徒が居てアンノウンに熱い眼差しを向けている。もしアンノウンが他の女の子に興味を持ったらどうしよう。目が覚めてしまったらどうしよう。そんな風に思ってしまう。
(アン。…………そうなったら仕方ない事だけど。でも、嫌だよ)
きゅっと唇を噛むと、ちゅっとキスをされた。思わずポカンとアンノウンを見つめてしまう。周囲からは先程とは比にならない程の悲鳴が上がった。
「ミキ?私を放って、一人で考え事ですか?寂しいじゃないですか。……ふふ、お腹も空いているようですね?可愛い音がしたよ♡今日は外で、食事を食べて帰ろうか?」
そう言ってアンノウンは美姫を抱いたまま歩き出す。
それに合わせて周囲の人垣は割れた。皆が驚愕の表情で美姫とアンノウンを見ている。それに少しだけ優越感を感じてしまって、美姫は罪悪感から、きゅっとアンノウンの服を握った。
(私……、こんな状況で。喜んでる。嫌な女だ……。心だけは、綺麗で居ようって思ったのに……これじゃ、アンに嫌われちゃうよ)
美姫はシュンとした。するとアンノウンは大きな声で美姫に話しかける、わざと周りに聞かせるように。
「ああ♡ミキ♡………私の可愛い恋人。貴女は本当に可愛いですね♡こんなにも、悪意を向けられているのに、そうやって自分の心を恥じる。……もっと周りを責めても良いくらいなのに。それをしない♡……辺りに群がる醜い奴らとは大違いだ。本当に美姫は心も清らかで、容姿も可愛くて、美しくて私の理想その物な最高の恋人ですね。貴女の卒業が本当に待ち遠しい……、貴女と早く結婚したい。ねえミキ?今夜は食事を食べて帰ったらデザートにミキを食べたいです♡良いですか?」
そんな風に言うから美姫は真っ赤な顔で小さく頷いてから俯いてしまう。
(ア、アンってば何を……。っ……でも嬉しい……)
周囲からの視線は今や羨望の眼差しや嫉妬、妬み。そんな物ばかりだ。流石にドッキリでは無いと気づいたのか皆が美姫に羨ましげな視線を向けているのだ。中には睨みつけている者まで居る。
(…………っ……)
そんな人達に対して美姫は、また優越感を感じてしまう。だけど今度は罪悪感なんて、湧かなかった。だって、アンノウンが蕩けた瞳で美姫を見つめていたから。
(……………アンはきっと私を嫌わない。…ずっと好きで居てくれる………、アン。私、嬉しい)
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