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13話 最低な奴ら
しおりを挟む1時間目が始まる直前に愛里が数人の男子に囲まれて教室に入って来た。美姫の姿を視界に入れるとしくしくと泣き出して、周囲の生徒達から慰められていた。皆美姫を睨む。
(なんで?…………私何もして無いのに)
じっと俯いて耐えていると周囲は美姫に聞こえるように心無い言葉を口にする。
『愛里ちゃんかわいそー』
『あいつ良く学校来れたよな?俺なら無理。』
『…………まじ最低だよね』
彼らには彼らなりの正義や言い分が有るのだろう。だけどそれは幼稚な八つ当たりだ。共通の敵を作って理不尽な現実から目をそらしたい。逃避行動だ。それを美姫はわかっている。わかっているからじっと耐える。
(っ………、私のせいにしてそれで気分を晴らしたいだけなんだ。怒りのぶつける場所が無いから。なら、大人しく反応しなければすぐに終わる……。これまでと何も変わらない。………私は平気。)
そう思った。反応すると長引く。だから大人しく空気に徹して居ればその内周囲の関心は他所へ移る。高校に入ってからは陰口は有ったが直接的に何かをされた事は無い。だから大丈夫だ嵐が過ぎ去るのを待てばいいと美姫は思っていた。だけどそれは大間違いだった。
(え?)
回ってくるはずのプリントが自分には回って来ない。先生に言ったらすぐに貰えた。一度なら偶然かと思ったがそんな事が二度、三度と続いた。美姫は唖然とした。
(え?嘘でしょ?そんな事どうしてするの?)
一番後ろの席だからやりやすい嫌がらせを選んだのだろうか。美姫が手を上げてプリントを先生に貰いに行く際周囲からクスクスと笑いが聞こえた。
(っ………、違う。八つ当たりなんかじゃなくてただ楽しんでるんだ!!!!)
本心から愛里の味方になって八つ当たりしている生徒も居るだろうが、それに便乗して弱い美姫を虐めて楽しんでいる生徒が大半だ。きっと良い大義名分が出来たと思っているのだろう。
(…………。どうして?)
席に戻り美姫は俯いて震える。反応しては駄目だと思うのに、アンノウンから甘やかされてゆるく解けた心は簡単に傷ついてしまう。
ポタリと机の上に涙が落ちた。それを見た隣の席の生徒は不愉快そうに眉を顰めた。それにまた涙が流れた。
◆◆◆◆◆◆
お昼になり皆固まってお弁当を食べている。美姫は一人だ。一人で自作したお弁当を広げると少しだけホッとする。アンノウンにも同じ物を作った。お弁当を見てアンノウンはちゃんと食べてくれているかな?と考えると傷ついた心も少しは癒える。あと数時間我慢すればアンノウンに会える。そうしたら沢山甘えよう。そんな風に思ってお弁当に箸を伸ばすと横から強い衝撃が机に当たりガシャンと倒れてお弁当も床にぐちゃりと落ちた。
「え………?」
思わず小さく声を出すとクスクスと笑い声があちこちから響く。
「あ、ごめーん。ぶつかっちゃったわ。わざとじゃないんだってー。ごめんごめん」
クスクスと笑いながら男子生徒は告げてくる。そして落ちたお弁当を見て眉を顰めた。
「うわ。汚っ……。掃除しとけよー?」
クスクスと笑いながら席に戻って行った男子を迎えた女子生徒は笑顔で迎えている。
「やばー。やるじゃん。スカッとしたわー、でも酷くね?やりすぎー」
クスクスと笑う女生徒。
「まーね。いやいや、やりすぎとか無いから。だってアイツキモいし、うぜーし。やられて当然っしょ」
満更でも無さそうな様子で男子生徒はドヤ顔だ。
周囲の誰も彼らを咎めないで面白そうにこちらを見ていた。
例の愛里もチラリと美姫を見ただけで特に何も言わない。ほんのりと口角が上がっていたのできっと喜んでいるのだろう。
(っ………、掃除しなくちゃ)
ノロノロと立ち上がって机を元に戻してから落ちてしまったお弁当を拾い集める。
「落ちたあれ食うんじゃね?あの豚」
そう聞こえて来て美姫は体が震えた。羞恥からだ。
自身の体型を馬鹿にされた事、でも事実だから凄く惨めで恥ずかしい。
(だからって、酷い。………どうして?)
◆◆◆◆◆◆
グーッとお腹が鳴って美姫はお腹を抑えた。周囲から嫌な視線が向けられてふるふると震える。
(うぅ………。早く帰りたい……。お腹空いたし恥ずかしい……。アン、アンに会いたいよ……)
思うのはアンの事ばかりだ。
美姫のグーッグーッなるお腹に周囲はクスクスと笑いをこぼしたり気持ち悪そうにしている。前までの美姫なら耐えられた。だけど今の美姫には耐えられない。辛い。他人からの愛情を一度知ってしまったら悪意にも敏感になるみたいだ。
(うぅ。………これからずっとこれが続くの?やだよ)
またポロリと机に涙が落ちた。
なんとか放課後になり美姫はホッとした。ササッと帰り支度をして足早に学校の外へと向かう。早く帰りたい。早く早く。教室を出る時に後ろから聞こえた嫌な笑い声を振り切る様に美姫は走り出した。ふと校門が騒がしいのに気づいて美姫は嫌だなと思う。
人で溢れている。女子生徒が多い。何故か皆校門前で立ち止まっている。これではすぐには出られない。
(っ………裏門から出よう。遠回りだけど仕方無い、早く帰ってアンに会いたいよ)
くるりと方向転換すると後ろから女生徒の悲鳴があがってそして美姫は腕を掴まれた。
「え?」
驚いて振り向くとそこには今死ぬ程会いたかったアンが居た。
「ミキ、迎えに来たよ?………ミキ、大丈夫?」
「アン?」
スーツ姿では無くてお洒落なジャケットにジーンズ姿で色付きの眼鏡。まるでモデルの様な姿のアンノウン。校門が女生徒で賑わって居たのはきっとアンノウンが居たからだ。
「ミキ♡会いたくなって迎えに来てしまいました。さあ帰りましょう♡」
優しく抱きあげられて美姫は涙腺が崩壊した。
「アン……。アン、会いたかった。私も会いたかったよ」
ぎゅっと首元に抱きつくとアンノウンも優しく抱きしめ返してくれる。
周囲からは悲鳴があがっている。だけどそんなの気にしないで美姫はアンノウンにしがみついてボロボロと泣いた。
(アン!!!アンノウン……来てくれて嬉しい……。)
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