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12話 夢から覚める
しおりを挟む「アンと、セックスをしたのね?そう、…………無理はしていないかしら?」
「無理なんて、してないです。アンはすごく優しいんです。……ふふ」
斎藤からアンノウンと何をしていたのかを聞かれて正直に答える。一応ぼかして伝えたが斎藤はセックスとハッキリ口にした。流石大人の女性だ。顔を真っ赤にした美姫とは違い、声にも照れがない。
「美姫が辛くないのなら私は何も言わないわ。………避妊はしてないわよね?どうする、ピルか避妊具を用意しましょうか?それとも子供を欲しい?」
言われて美姫はハッとする。全然その事を考えていなかったのだ。
(そうだよね。生でしてたらデキちゃうよね?………アンと子供出来るの?)
ふと疑問に思う。アンノウンは未知の生命体だ。排泄や食事等は美姫達とそう変わらないが子供を作れるのだろうか?そう考え込んでいると察したのか斎藤が声をかけてくる。
「アンノウンとは問題無く子作り出来るわよ?体を調べたから間違い無いわ。精液もこちらの男と殆ど同じ。……ただ、十月十日で産まれるのかその子供が魔法を使えたり、容姿がどうなるのかは今だに未知数。作るのならやっぱりもう少し後の方が良いわね。色々とまだ立て込んでいるし、貴女も卒業するまでは困るでしょ?やっぱりピルを用意するわね。その方が間違い無いわ。既に出来ていたら仕方ないけど、流石にそれは無いわよね?」
告げられて美姫はなるほどと思う。
「………アンとの子供かあ。」
(子供。産めるのなら産みたいけど、でも色々と怖い。こう言うのって産まれた子供を国に取られたりとかするんじゃないの?実験体に使われたりとか……)
そんな怖い想像で顔が青くなっていると隣で運転している斎藤は苦笑している。
「美姫、アンノウンが誰にも酷い事なんてさせないわよ。ハッキリ言ってこちらの人間が束になってもアンには勝てない。核兵器を使っても無理よ。………確かに貴女達の間に子が出来たら欲しがる者達も居ると思うわよ?でも絶対に無理よ。………検査のときにね。彼の精液を持ち出そうとした人が居たけど、すぐにアンにはバレたし魔法で阻止されたわ。」
「え?!」
驚いて斎藤をじっと見つめると困った様に笑っている。
「…………地球上で最強の生き物よ彼。その件が有ってからは彼を怒らせないと言う方向で話は纏まったわ。だから安心して。美姫を狙って来る者も居ないし子供が産まれてもきっと大丈夫。アンがさせないわよ」
(アン。……っ、でも不安だよ。だっていつまでも私を好きでいてくれる補償なんて無い、地球上で最強の生き物か。………凄いなぁ。)
アンノウンと自分との差をこうして突きつけられるとなんだか気分が少しだけ沈んだ。
◆◆◆◆◆◆
「本当にここで良いの?前まで送るわよ?」
そう言われて美姫は首を振る。流石に黒塗りの高級車で学校前まで送られるのは困る。周りから何を言われるかわからないし唯でさえ一週間以上休んでいたのだ。目立ちたくない。
「ううん。ここで大丈夫です。放課後も此処が良いです」
学校から少し離れたコンビニ前だ。此処からなら遅刻もしないし帰りも手間じゃない。
「そう?まあそうよね、騒がれるわよね。これで送って行ったら」
苦笑して斎藤は美姫を降ろしてくれた。
「それじゃ行ってらっしゃい。何かあればいつでも連絡してね」
そう告げて斎藤は走り去って行った。
車を見送って美姫はふうと息を吐く。久々の登校は少しだけ緊張する。学校には、事故に合ったと話は通っているようだ。だから大丈夫だとは思うがそれでも不安だ。
(大丈夫、大丈夫。誰も私の事なんか気にしてないし)
そんな風に自分に言い聞かせて学校へと足を向ける。通学路を歩いているとなんだか全部が夢だったように思える。それに美姫はブルリと震える。
(アン。私もアンの事言えないね。なんだか会いたくなって来ちゃった。寂しい…………)
学校に近づくと登校中の生徒達が増えた。何故か道行く生徒達から見られてる様な気がして美姫は俯いて早足で歩く。自意識過剰だとは思うが心臓がバクバクと煩い。
(気のせい……だよね。久々に登校だから、緊張してるだけだよ)
足早に教室に向かい扉を開くと教室内は騒がしかったのにシーンと静まり返った。ビクリと肩を揺らして美姫が席に向かうと生徒達の視線が美姫に集中していた。久々に登校して来た美姫を心配しているだとか、珍しがっているだとかそう言う視線じゃない。
(な、なに?………どうしてそんなに嫌な目で見るの?私何かした?)
じっとりとした嫌な視線。ほんの僅かな嫌悪感や怒りが込められている。美姫にはそれが何故なのか検討もつかない。だけどボソリと呟かれた言葉に心臓が潰れそうになった。
『……………なんであいつが生きてるの?』
男子の声。それから女子の声
『……………愛里ちゃんのお母さんは亡くなったのに、……………代わりにあいつが死ねば良かったのにね』
(ひっ……………)
愛里とはクラスで一番人気の美少女の事だ。そしてその愛里の母が死んだ、美姫が代わりに死ねば良かったのに。そう言う言葉で察してしまった。どういう訳か美姫があの現場に居たのを皆知っている。いや、知らない訳がないのだ。あの事件から学校に来なくなって無関係だと思う訳がない。それにもしかしたらあの場から上手く逃げられた生徒が居たのかもしれない。美姫が商店街に居たのを見ていたのならあの日美姫が魔物に襲われた現場にいたのに生き残ったと言う事を知っていてもおかしくは無い。
(あ、……愛里さんのお母さん。あの場に居て亡くなったの?………っ。)
それは凄く気の毒だ。そう思う。だけどどうしてそれで美姫が死ねと言われなければならないのか。美姫が彼らに何をしたって言うのか。悲しみが胸の中を満たす。
クラスの生徒達の意見は皆一致のようでコソコソと美姫が生きている事を非難しあっている。
(…………っ、酷い。……はあ、そうだよ。これが私の現実なんだ。何もして無いのに死ねばいいなんて言われる。私はそんな人間なんだ…………)
夢から目が覚めたそんな気分で美姫はじっと俯いて早く時間が経つのを願った。
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