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2話 夢の中の騎士様
しおりを挟む「っ……あ、あの?」
震える声で美姫からも声をかけると青年はほんの僅かに驚いた様に目を見開いた。それからそっと美姫の頬を撫でた。先程化け物の血が飛んだ所だ。そっと壊れ物に触れる様に頬を撫でられて美姫の心臓は鼓動を早めて顔は赤く染まる。そんな状況では無いと分かっていても男性に免疫の無い美姫は現実離れした目の前の騎士の様な青年にドキドキが止まらなくなる。何故か青年も頬を染めてこちらを見つめている。
(っ………何?この状況?やっぱりこれは夢なのかな?じゃなきゃあり得ない)
うっとりとこちらを見つめる美貌の騎士様。その顔がゆっくりと近づいて来る。経験の無い美姫でも分かる。今からキスされるのだと。
(…………夢なら良いのかな。そうだよね、こんなの夢だよね……)
ぼんやりとそう思って美姫は瞳を閉じた。唇に触れた柔らかな感触を最後に美姫は気を失った。
◆◆◆◆◆◆
次に目が覚めたら病院のベッドの上でそれから黒スーツ姿の知らない大人が数人。国の偉い人達だと説明されるのを美姫はぼんやりとまだ良く働かない頭で聞いていた。話を聞く限り美姫は一週間眠っていたらしい。新聞や雑誌の切り抜き。それからTVのニュースを見せられて、意識を失う前の出来事が夢などでは無かったと思い知らされた。
各地で黒い雲が空を覆い。それから大きな揺れが起きて黒い化け物が現れた。《魔物》だと報道されていた。
「異次元のゲート。歪が開いて異なる世界の生き物がこちらの世界に現れたのです。」
真面目そうな大人の女の人がそんな事を大真面目に言う。本来なら笑うところなのだが美姫は笑えない。何故なら目の前で見たからだ。黒い化け物《魔物》が人を食らう所を。
「……っ。じゃあ本当に……人が沢山死んで……?あれは……夢じゃ……無い…………」
ぶるりと体が震えた。それからキョロキョロと辺りを見渡す。家族は誰も来ていなかった。美姫は親元から離れて一人暮らしをしているのだ。だが親にも連絡は行っている筈なのに父も母も妹も弟も、誰も側には居なかった。スーツの女性は気の毒そうに美姫を見ていた。それに美姫はきゅっと唇を噛んだ。
(別に、こんなの昔からだし。慣れっこだよ)
家族の誰とも美姫は全然似ていなかった。父も母も妹も弟も容姿は良い。だから父は母の浮気を疑い美姫に優しくなんてしてくれなかったし母も浮気を疑われたのは美姫のせいだと辛く当たっていた。中学2年の時に家を出て欲しいと言われた、生活費や一人で暮らすマンションは親が用意してくれたので美姫はそっちの方が自分も楽で良いと思い頷いた。だからもう5年近く一人暮らしだし家族とはもう2年近く会ってない。
「………あの、私どうして一週間も眠って居たんですか?」
尋ねると大人の人達は皆顔を顰めた。
「貴女には眠って貰っていたのよ。こちらの都合でね。…………意識を失う前に誰かと一緒に居たのは覚えているかしら?」
そう女性から尋ねられて美姫は頷く。あれが全て夢じゃなかったのだとしたら、あの場にはもう一人、騎士様が居た。
(……………どこからが現実でどこからが夢?)
美姫は考える。何故なら騎士様からキスをされたのだ。だがそんなまさかと思う。容姿の悪い美姫に誰が好き好んでキスなどする物か。それも初対面で。馬鹿馬鹿しいなと美姫は首を振る、きっと助けて貰ってそのまま気絶して都合の良い夢を見ていたんだ。人が沢山死んでるのにそんな夢を見る自分に呆れてしまう。
(っ…………うぅ……。)
思い出してカタカタと震える手を女性は優しく握って微笑んでくれる。
「………私は斎藤と言います。これから貴女達の担当になります。」
そう言う女性改め斎藤の言葉に美姫は引っかかる。貴女達と彼女は言った。貴女達とは?
「あの?担当?それに貴女達って?私は一人ですけど…?」
美姫が尋ねると困った様に微笑まれた。
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