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14話 元勇者と元魔王と師匠
しおりを挟む「うわぁ!!!!本当に転移したぞ!!!エリーナ!!!凄いな!!!」
アレンは一瞬で変わった景色に子供のようにはしゃいでいる。
「もう、アレンったら。ふふふ」
クスクスとエリーナはそんなアレンを見て笑っている。ラブラブカップルだ。
(………リア充め。だが許す)
二人の事情を知っている薫子は自分をそっちのけでイチャつかれていても今回は許す事にした。普通なら爆発させている所だ。物理的にな
「おほん!!!!………では参りますよエリーナ。アレンよ。付いてくるのです」
しゅたんと地面に降り立って薫子(猫)はスタスタと道を行く。今転移して来た此処は鬱蒼とした森の中だ。ここを暫く進むとヒバリの住んでいた村があるのだ。
「随分と……人里離れた所なのね」
「エリーナ、足元に気をつけて。手を……」
手を繋いで付いてくる二人を時折チラチラと振り返りながら薫子は思う。
(本当にラブラブだね。………私も早くヒバリとちゃんとラブラブしたいな♡)
その為にもヒバリの周囲を整えて行かねばと薫子は気合を入れた。
(ヒバリの妹のチホは家で留守番中か……。都合が良いな。よし)
『千里眼』で見た所ヒバリの両親はまだ仕事中で家を空けている。帰ってくるまでにサクッと体を治してさっさとおさらばだ。チホはと言うと布団に横になってゲホゲホと咳をしていた。すぐに命に別状は無いがやはり辛いだろうから早く治してあげたい。年の割に小柄な姿に薫子は少し胸が痛んだ。
(待っててね。未来の妹よ、今から聖女(養殖)を連れて行くからね)
チホはきっと喜ぶだろう。聖女の出て来る絵本が枕元に有った。ヒバリの記憶の中でもお気に入りの絵本だったようだ。
(なんかあれみたい。ドッキリ的な。好きな有名人にいきなり会わす的な……。なら折角だからもう少しいい感じに行くか?)
今のエリーナとアレンの格好はお世辞にも聖女にも勇者にも見えない。これでは夢も希望も無い。サンタが赤いジャージでやって来るような物だ。がっかりさせたくは無い。
(装備とかならこの間アホ程買ったし何個かはアレンにあげようかな。すまんなアレン。ヒバリのお下がりだけど許せ。)
試着はしたがほぼ新品なので問題はない筈だ。エリーナは自分用に買ったお高いワンピースドレスに着替えさせればオッケーだ。うん。沢山買っておいて良かった。備えあれば憂い無しだ。計画通り(嘘)
薫子はうんうんと頷いてからピタリと立ち止まる。折角なので着替えるついでに今二人にスキルも譲渡しようと思う。
「女神様?」
立ち止まった薫子に不思議そうにアレンは声をかけてくる。
「…………。聖女と勇者見習いがその様な格好では私の格も疑われると言う物です。服を着替えましょう」
告げるとエリーナはオロオロと戸惑っている。
「で、ですが上等な服など持っておりませんし、女神様のお言いつけ通り何も持って来てはいませんよ?」
「問題は有りません。私が魔法で着替えさせましょう。………そーれチンポッポコチン♡」
適当な魔法を唱えたフリをして『対象入れ替え』スキルを使い服や装備を入れ替えた。この間僅か0.5秒である。
「ち、チンポッポ……コチン?……うわぁ!!凄い!!服がいつの間にか変わっている!!!!これは、凄い上等な装備だ……。凄いなぁ」
呪文に動揺したアレンだったが自らの服と装備がお高い騎士服に変わっていて瞳を輝かせている。
「まあ!!!!凄く良い手触りのドレスだわ……。凄い……素敵……」
首元がレースになっており金糸で刺繍の入った白いドレスワンピースのスカートにそっと触れてエリーナはほうっと感嘆の吐息を漏らしている。どうやらお気に召したようだ。アレンは腰にいつの間にか下げられた装飾の豪華な剣を抜いてうっとりと眺めている。こちらもご満足頂けたようだ。匠の技である。
(よし、後はスキルだね。)
エリーナには『生成』と『回復魔法』と『浄化』を複製して譲渡した。アレンには『攻撃反転』と『自動リカバリー』とりあえずはこの2つのスキルだ。どうやら与えてもすぐに自覚は出来ないようだ。薫子はゲーム画面の様に目の前にスキルや持ち物などが表示されるがアレン達現地人はそうも行かないようで、スキルやレベル等はギルドに出向いて調べる必要が有るらしい。今『図書館』スキルで調べたから確かだ。
(ふーん。やっぱり私ってめちゃくちゃチートなんだ?)
勇者と聖女っぽくなった二人を眺めて薫子はそう思った。
▶▶▶▶▶▶
「女神様?この家ですか?」
こじんまりとした小屋を二人と一匹は覗き込む。
「はい。そうですよ。……奥です」
スタスタと薫子が歩いて行くとアレンとエリーナは顔を見合わせてからコソコソと付いてくる。身なりは上等だがまるでコソ泥のようだ。
ここに来るまでに村人には会わなかった。もう日も沈みかけている。年寄りが多いので皆、家の中に居るのだろう。その中でも比較的若いヒバリの両親は近くの村、と言っても片道3時間以上掛かる村に野菜を売りに行っているようだ。カツカツな生活だ。
(家の中も、必要最低限しか物が無いな。だからヒバリは家族の為にあのクソ店長と契約したんだね。優しいなぁ………)
記憶を読んで知っていたがこうして実際にヒバリの生まれ育った家を見て薫子は少しだけ涙が出そうになる。隙間だらけのボロい家だ。本来なら四人で住むには狭すぎる。
(………………私が嫁いで来たらまずは家を建て直さないとな。此処に宮殿を建てよう)
そんな風に思いながら奥の部屋に行くとゲホゲホと咳き込む音が聞こえて来た。アレンとエリーナの体が強張る。
『大丈夫ですよ。さあ、エリーナよ行くのです。少女を病から救うのです』
小声で告げるとエリーナは頷く。その顔は緊張しているようで口元が引き結ばれている。
『エリーナよ。その様な怖い顔の聖女が何処に居ますか?さあ、笑顔です(圧)』
笑えと圧をかけるとエリーナはへらりと笑みを作ったが口元が引きつっている。余計に怖いわ
『エリーナ。頑張れよ!!!!』
アレンから声を掛けられたエリーナはニコッと自然に微笑んでそれからチホの元へと向かって行った。流石ベストカッポゥ♡
(よし、上手く行ったぞ)
エリーナにはスキルの使用法を教えてある。『回復魔法』スキルは心から治したいと願うだけで発動する。『生成』スキルは思い描いた物を生成するスキルだがエリーナには聖水を作り出すスキルだと嘘を教えている。だからエリーナは聖水しか作れないのだ。
(なんでも作れると余り良くないしね)
欲が出ないとも限らない。だから全てを教えることはやめておいたのだ。
程なくして、はしゃぐチホの声とエリーナの笑い声が聞こえて来た。どうやら上手く行ったようだ。
(良かった。………元気な声になってる)
咳き込む音は聞こえない。隣で涙ぐむアレンを見上げて薫子も胸が暖かくなる。将来の妹を救えた事も嬉しいが、病気の子供を救えたのが普通に嬉しい。
(やっぱり人助けも悪くないな。純粋な子供なら尚更だな)
ほっこりしているとヒョコリと目の前にチホの顔が現れた。
(うおっ!!!!!)
どうやら元気になって部屋を歩き回っていた様だ。後ろからエリーナも現れた。
「猫ちゃんだ!!!!わぁ可愛い!!!!!!!聖女様の猫ちゃんですかぁ?」
ガバリと抱きしめられてギチギチと締め付けられる。元勇者の薫子じゃなきゃ中身が出る、確実に。
(うぉぉぉぉ。私は痛くはないけど、力半端ねえ……。流石ヒバリの妹。)
ヒバリとの共通点にほっこりとする薫子だがアレンとエリーナは顔が真っ青だ。きっと女神が潰れると思っているのだろう。
「二人共私は大丈夫ですよ」
そう声を出すとチホはポカンとしてから大はしゃぎだ。
「あああああ!!!!しゃべったァァァァ!!!キィァァァァ!!!!!!キャァァァァ!!!!」
某CM並のはしゃぎっぷりで有る。ちょっと落ち着け。チホ元気になり過ぎである。
薫子(猫)をブンブン振り回して大暴れだ。流石ヒバリの妹だ。そして将来の我が妹。その意気やよし!!!!!だけど少し落ち着いて?頼むから。
「あ、あわわわわ」
アレンは口元に手を当ててあわあわしている。お前も落ち着け。
「あらあら。駄目よ、ほら猫さん痛い痛いよ?」
そう言ってエリーナが助けてくれた。流石エリーナさんだぜぇ!!!!
▶▶▶▶▶▶
チホの元からアレン達の自宅に転移で戻って来るとアレンは興奮した様に部屋の中を歩き回っていた。
「ああ!!!凄い!!!今だに信じられない!!!奇跡だ!!!エリーナ!!君はやったんだ!!!少女を救ったんだ!!!」
そう言ってアレンは祈るように手を合わせて感動に身を震わせている。
「ええ。本当に……。助けたいと心から願ったら暖かな光が体から湧き出してあの子を包み込んで、そして元気になったわ。何故だかわかるの。私にはあの子が健康になった事がわかるのよ!!!本当に聖女の力が覚醒したのね!!!!」
エリーナもポロポロ涙を流して感動している。それを眺めて薫子はうむうむと頷く。
(…………めちゃくちゃ上手く行った。よっしゃ!!!)
『千里眼』でチホの様子を覗くと大ハッスルして壁に穴を開けていたがまあそれは元気になった証拠という事だ。そっと見なかった事にした。その後帰って来た両親は壁の穴に驚いてそれから元気になったチホを見て涙を流して喜んでいた。チホは聖女様が来たんだよ!!!と興奮して話してまた大はしゃぎで壁に穴を開けていたが、それは見なかった事にした。
(両親も聖女の奇跡だと思ってるし、これで勇者の私が疑われる事はなくなったな。………後はエリーナとアレンが今後頑張るだけだね)
エリーナにはこれから沢山の人を救いなさいと伝えて有る。知名度アップの為だ。アレンにもエリーナを護りながら修行しておけと言ってある。我ながら完璧だ。
そう自画自賛しているとアレンが薫子に声を掛けてきた。
「女神様。…………ところで修行とは何をすればよろしいのですか?」
「……………素振りと筋トレです。」
「………………素振りと筋トレ?」
どうやらこの答えはお気に召さなかったのかアレンの眉間にしわが寄っている。
「あの。修行と言えば師匠とかそう言う人は居ないんですか?女神様が見てくださるとか……。そんな感じの」
なにやらフワッとした事をアレンは言い出した。
《………素振りと筋トレで本当に強くなれるのか?物語では、強い師匠とかと修行したり、滝に打たれたり。ドラゴンと戦ったりなんか色々と有るだろ?………筋トレと素振り?地味だな。……………俺は本当に勇者なのか?》
どうやらアレンは昔から勇者に憧れていた事からそう言う本を沢山読んでいたみたいだ。地味な修行に不服そうだ。
(まあ。確かに、アレン的には納得行かないのかな?でもなぁ、師匠って言っても、私はヒバリとのイチャイチャとエッチで忙しいしなぁ。分身体もアレンに修行つけられる程の自我持たせたら絶対にヒバリの所に来るだろうし。うーん。面倒くさい)
修行なんかしなくても、適当にスキル譲渡して行けばアレンは強くなるのだがアレンはそれを知らない。確かに筋トレと素振りだけで強くなると言われても納得は出来ないのかなと薫子も思う。
(でも、師匠役なぁ。知り合いも居ないしな。…………それにそこそこ強い奴でしょ?うーん。………………あ)
そこまで考えてピコーんと閃いた。
(いるじゃん。師匠役に適任な奴!!!!更にはその後の計画にも使える奴が!!!!…………まだ生きてるかな?)
すぐ様『サーチ』を掛けるとすぐに目的の相手が見つかった。それは薫子が一年前にぶっ飛ばした相手
魔王【ベルゼブブ・マナト】である。
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