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13話 元勇者似非女神になる
しおりを挟むアレンとエリーナをスカウトするのは決定だ。薫子は二人を拝んだ。涙をグイッと拭ってからふうと息を吐く。
(よし。…………どうしよう?決めたは良いけどどんな風にスカウト?)
うーんと頭を悩ませる。薫子がこの世界に来た時、王城に召喚される前に女神に出会った。光り輝いていたのでその姿は殆ど見えなかったが本人が女神だと言っていたので女神なのだろう。その時に力を貰い魔王を倒して頂戴と簡単な説明を受けて、そうして薫子は王城の魔法陣の上に降り立った。
(そうだった。そうだった、ある意味私も女神にスカウトされた勢だわ)
薫子はハッとする。なら女神風に二人に声をかけてスキルを複製して与えればオッケーな気がする。簡単なお仕事である。
(二人に与える力はどうしよう。)
流石に最初から沢山のスキルを与えて人格が変わったら困る。今は善人でも今後悪の道に進む可能性は0ではない。
(まあアレンとエリーナなら大丈夫だとは思うけどね。念の為……。)
薫子が持つスキルは100近く有る。中にはまだ薫子も使ったことが無い物も沢山有る。
(聖女にはやっぱり『回復魔法』と『生成』かな。勇者は、どうしよう?)
今後勇者になるアレンにはこの世界で薫子の次に強くなって貰わないとならない。だが今はまだスキルを沢山与えるのは躊躇している。どうして行くべきが扱いが難しい。
(うーん。難しいなぁ)
頭を悩ませる。
『攻撃反転』スキル。これは攻撃を受けた時相手に跳ね返ると言う物だ。良いかもしれない。『自動リカバリー』回復魔法と似ているがこれは時間経過で体力や怪我が治ると言う物だ。役に立ちそうだ。
(とりあえず、即勇者じゃなくてまずは【勇者見習い】からかな)
薫子の思い描くシナリオはこうだ。
まずあの聖水くれるマンは女神の仮の姿。エリーナに聖女の才能がある事。人々を助ける使命が有ると言う事を伝える為にアレンに聖水を渡したと言う事にする。そして治った此処へと姿を表してそれを伝えて、更にはアレンには勇者の才能が眠っている、だから聖女の側で聖女を護りながら力に目覚める為の修行をするようにと、そう伝えて一定期間毎に新しいスキルを力に目覚めた事にして与えていくのだ。修行は適当に筋トレと剣でも振らせておけばいい。
(めっちゃ良いやんけ!!!!そしたらエリーナが助かったのも不自然じゃないし。エリーナに聖女の力を使わせる練習って言ってヒバリの妹を治させればいい!!!そしたら完璧やんけ!!!!ひゃっほう⤴☆)
自分の考えに薫子はテンションが上がる。これなら怪しまれずに二人もすぐに信じてくれるだろう。そして今後エリーナの聖女の力を狙う馬鹿共からはアレンが護ればオールオッケー。アレンの力も世間に知らしめられるしバッチグーだ。そして良いタイミングで分身で魔王(仮)を作り出してアレンに倒させる。これで勇者は完成だ。完全なるマッチポンプで有る。ヒバリの件を早くどうにかしたいがとりあえずは薫子が時間を全て買えば良いしお金は有る。焦らずに行こう。
(よっしゃ!!!そうと決まれば二人の前に姿を現すか。………とりあえず光っておけば女神っぽい?)
『発光』スキルを自分に掛けて『透明化』と『気配遮断』スキルを解く。
ピカァァァァァ!!!!!!!(ちゅうううう)眩い光が辺りに満ちた。部屋の中は光で何も見えない。
「うわァァァァ!!!??何だっ!!!!エリーナ!!!無事かっ!!」
「きゃぁぁぁっ!!!!!眩しいわっ!!!!何っ!!!!」
ガタリとアレンが椅子から立ち上がる音とエリーナの悲鳴。
(あっ………。やらかした。ヤバいちょっと調節せな。話も出来無い……テヘペロ☆)
流石に全力で輝き過ぎた。いくら薫子が輝いている元勇者だからと言ってもここまで光る必要は無かった。うっかりである。
ピカァァァ……ァ………ァ………。
発光(弱)にすると部屋の中は若干明るいが物がどこに有るのかは見えるようになった。ローブ姿の薫子の顔だけが光で見えない。
普通に怖い。ホラーである。
「ぐっ………今度は何だっ?」
アレンは眩い光で一時的に失った視力をなんとか回復させてからじっと目を細めて薫子を見た。
「うわぁぁぁぁ!!!!化け物!!!!」
「アレン?!化け物ですって?!ど、どうすれば良いのっ!!!アレン?大丈夫なのっ?!」
ドタタッと腰を抜かしてアレンは倒れ込む。その音にエリーナはまだ回復し切れていない目元を抑えてオロオロしている。完全にやらかしである。
(ですよねー)
ガタガタと震えながらもアレンはなんとかエリーナを背に庇おうと必死だ。
(うーん。やっぱり良い人だ。)
「怯えなくとも良いのですよ。私は神です。………コホン。女神です」
言い直した薫子を怪訝な視線でアレンは見ている。
「女神………様だと?」
めちゃくちゃ不審な目で見られている。ですよねー
「女神様?」
エリーナはキョトンとしている。
「そうです。アレンよ。このローブ姿をよく見なさい。見覚えが有りますね?」
告げるとアレンはハッとした様な顔をした。それから震える声で言う。
「あ、……貴女は……いえ、貴女様はっ!!!あ………そのお姿はあの時聖水をくれた人だ……。………本当に女神?」
ポカンとしてからアレンは慌てて頭を床に擦りつけた。
「女神様っ!!!!申し訳ありません。とんだ失礼をっ!!!」
「え?女神様?…………っ」
エリーナもアレンと同じ様に床に頭を垂れる。二人から土下座された状態で薫子はほんの少し引く。だが今は女神なので態度には出さずに優しく声をかける。
「良いのです。驚かせてこちらこそ悪かったですね。………何故私が此処に現れたのか、それをちゃんと説明しますからお聞きなさい。頭はあげていいですよ」
「はい!!!女神様っ!!!」
女神?っぽく告げるとアレンは良いお返事だ。エリーナは戸惑っている。
「では、コホン。今回私が貴女の元を訪れたのは、そこのエリーナ。貴女には聖女の力が有るからなのですよ。そしてこの世界の困っている人々を救うと言う使命が有るのです」
そう告げるとエリーナは驚いた様に口元を抑えた。アレンもだ。
「え……?私に聖女の力が?」
「エリーナに聖女の力……使命……」
「ええ。そうなのです。だからこの女神である私はアレン。貴方に聖水を預けてそしてエリーナを治させたのです。」
告げるとエリーナはオロオロとしている。それからおずおずと手を上げた。
「あ、あの女神様?ですが私に力があったのなら、何故呪いを自分で治せなかったのですか?」
エリーナ正論である。賢い。だがちゃんと理由も考えてある。抜かりは無い
「………呪いを受けた事により貴女は覚醒したのです。ですが呪いに蝕まれたその身では力の行使が出来なかったのですよ。……それを使いこなす為には練習も必要なのです」
告げるとアレンは感極まった様にエリーナの肩を抱いた。
「エリーナ!!!!!やったな!!!君は困っている人を助けたいと常々そう言っていたじゃないかっ!!!!願いが叶ったんだ!!!!」
アレンは全く疑う事を知らない様だ。ウキウキとエリーナに話かけている。
(………本当お人好しだな。コイツチョロ過ぎて心配になるな。壺とか買わされるなよ?)
「ええ。………だけれど本当かしら?」
エリーナはまだ少し半信半疑だ。だがそれが普通の反応である。アレンチョロ過ぎぃ!!!!!
「本当だとも!!!だって聖水をくれた方だぞっ!!!それに見ろ!!!神々しく光っておられる」
さっき化け物って言ったよな?おん?
そう思ったが突っ込まないでおこう。女神は突っ込んだりしない。
「だけど………。アレン。貴方前にも騙されて壺を買って来たじゃない」
「買っとるんかいっ!!!!!」
「「?!」」
ズビシッと突っ込んでしまう。
いかんいかん。エリーナからの疑いの視線が強くなった。
「コホン。…………信じられないのは当然。疑ったからと言って貴方達を罰したりはしませんよ。論より証拠です。実際に力を使えば信じれますね?エリーナ」
告げるとエリーナは戸惑いながらもコクリと頷いた。
(よっしゃ。これでヒバリの村に転移して、スキルをエリーナに与えて妹を治させよう。おっと、その前に)
「それから、アレン。貴方には勇者の力が眠っています。………今はまだ覚醒の時では有りませんが聖女を護りながら力が目覚めていくでしょう。」
告げるとアレンはポカンと口を開けた。そしてブルブルと震えている
「お、俺が……勇者?……め、女神様っ!!それは真ですか?」
「ええ。真ですよ。………今はまだ勇者見習いですが。きっと今後修行を続ければ力が目覚めます。……アレンよ。勇者として人々を助けてくれますね?」
尋ねるとアレンはボロボロ涙を流して頷いている。ちょろ過ぎぃ。
《あ……。あ、本当に?俺が勇者?……子供の頃に夢に見た勇者?っ……人々を助けられる?っ……嬉しい》
(本当。お人好し………。でも、良かった。これなら私も安心して後を任せられるよ)
《アレン。……良かったわね。貴方子供の頃に勇者になりたいって言ってたものね。うふふ》
エリーナも嬉しそうだ。まだ多少の疑いはある様だが心からアレンの事を祝福している。本当にナイスカップルだ。
(ヒバリといちゃいちゃしたくなってきたな。)
▶▶▶▶▶▶
「では、今から病に苦しんでいる少女の所へ行きましょう。」
告げるとアレンとエリーナはコクリと頷いた。
「あの、どちらまで?この近くですか?支度をするので少しお待ち頂けますか?………もう夕暮れですから遠いのなら泊まりの用意をしないと」
そう言うエリーナを手で制す。
「確かに遠いですが、泊まりの必要も何も持って行く必要も有りませんよ。……転移してサッと治してまた転移で戻りますからね」
告げるとアレンは目をキラキラと輝かせている。
「転移?!……………凄い。やはり女神様だ。絶対に女神様だ……。」
(すまんな。本当は女神じゃないんだわ)
チラリと視線を向けて感動するアレンに内心で謝る。その後ろに大きな壺が鎮座してるのに気づいて薫子は遠い目になった。
(……………アレンって偽物の聖水も掴まされてたし。ちょっとその辺が心配だなぁ)
記憶を読んだら壺も呪いを解くのに必要とかなんとか言って買わされたようだ。
(…………にしてもこの姿で行くのもちょっとなあ。)
『透明化』を使うと二人からも見えなくなってしまう。なのでどうしようかと考えて『身体変化』を使う事にする。今は分身体なので肉体を変形させる事になんの抵抗も無い。流石に本体をいじるのはちょっと怖い。
ぐねっと薫子の体は歪む。それを見たエリーナが悲鳴を上げたが、気にせず続ける。
グネグネと体が蠢いてそして数秒後そこには黒い子猫が現れていた。薫子である。
(うん。我ながら可愛い。)
世界最強の子猫の誕生で有る。
「この姿は仮の姿です。これで私も付いていって指示を出しますね」
薫子が告げるとエリーナの瞳が輝いた。
「まあ!!!!なんて可愛らしいのかしら!!!」
そっと抱きあげられて少し驚くが美女に抱かれるのは悪くない。
エリーナは肩までの緩やかな金髪ボブで優しそうな顔の美人だ。胸もそこそこデカイ。Dは有るだろう。柔らかい。ぐふふ
(良い乳しとるのぉ……ぐふふ)
「エリーナ!!!!女神様に不敬だろう?!」
エリーナの行動に驚いたアレンはオロオロとしている。
「良いのです。この方が怪しまれません。女神は心が広いので良いのですよ。許します」
告げるとアレンはホッと息を吐いていた。
「さあ。では転移しますよ」
告げて転移魔法を展開すると床一面に魔法陣が浮かび上がる。
そして数秒後にはアレン達が居た部屋には誰も居なくなっていた。
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