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133話 双子
しおりを挟む「ロアンさん?……迎えに来てくれたんですか?」
ハルミはホッとした。きっと、アーノルドに頼まれて、ハルミを探しに来たんだ。そう思った。
(でも、誰だろ?隣の人……大きい)
逆光のせいで顔が良く見えないが、かなり大きな人だ。
「ロアン?まさか、コレがそうとか言わねえよな?おい、わざわざ、来てやったんだ。笑え無いジョークは止めろよな?」
男が口を開いた、その声はロアンそっくりだ。ハルミはロアンが喋ったのかと思ったが、口調が全然違う。凄く乱暴だ。
「……僕のお嬢様をコレ呼ばわりするなです。イアン」
(イアン?……前に言ってたお兄さん?私を探すのに、人手が必要で呼んだとか?)
そう思ったのだが、何か嫌な予感がする。
(僕のお嬢様?そう言った?ロアンさん?……何、なんか嫌な感じがする…………、僕の仕えてる屋敷のお嬢様って意味だよね?…………っ…)
ハルミが、じっとロアンを見ていると、ロアンは一歩ハルミに近づいて来る。逆光じゃなくなって、見えたロアンの顔に、ハルミは一歩後ずさった。ギラギラとした大きな瞳。ハルミはロアンの、あの瞳が少し苦手だ。怖い。
(何?怖い……、アーノルドさんに言われて、迎えに来てくれたんだよね?)
「あ、あの?ロアンさん?アーノルドさんに言われて、来たんですよね?……で、でも、私、今は会いたく無いんです。だから、グレンさんの所に、……詰所に連れて行ってくれませんか?」
ハルミが震える声でそう言うと、イアンと呼ばれた男が笑う。
「ハハハハ、詰所?行く訳ねーじゃん。おい、ロアン、こいつ拐えばいんだろ?……。お前の趣味はマジで理解できねーわ。おい、女、こっち来い。騒ぐんじゃねえぞ?」
「イアン、乱暴はするなです。ハルミお嬢様に少しでも傷をつけたら、報酬は払わないですよ?手も出すなです」
「はーーー、マジで、お前頭打った?……、コレ相手に勃たねえっつーの。頼まれても手なんて出さねえよ」
目の前で、交わされる会話を聞いて、ハルミは体が震えて、顔は青ざめる。
(え?拐う?誘拐って事?な、なんで?身代金目当て?)
さっきロアンは、ハルミに傷をつけるなと言った。なら、お金目当てで、危害は加えられないかも知れない。ハルミが大人しくしていたら、無事に帰れる?そこまで考えて、ハルミは自嘲する。そんな訳が無い。ロアンのあの目、ロアンの目的はハルミだ。
「ろ、ロアンさん?あの、……エッチが一回だけなのが不満でしたか?それなら私、精液摂取の相手としてロアンさんとも、たまにエッチしても良いか、アーノルドさんに掛け合ってみますから、……だから」
ハルミはロアンを説得しようと声を掛けるが、イアンに口を塞がれた。そのままぐいっと体を回転させられて、背後から体の動きを奪われる。
(!!!???いや!!いや!!離して!!!)
ハルミは必死に抵抗するが、イアンはビクともしない。
「んーーーーーー!!!!!んむーーー!!!」
「うっせーんだよ。大人しく拐われとけってーの。おい、ロアン、出来るだけ早く来いよ?ブスの子守なんざゴメンなんだよ。………これじゃ、ちっとも楽しめねえし。………おい、来る時に後尾けられるようなヘマもすんなよな。……ちっ、暴れんな!!クソ女!!!」
イアンがイライラした口調で怒鳴るとハルミの体は動かなくなった。何か魔法をかけられたようだ。指一つ動かせない。唸る声すら出せない。動くのは瞳だけだ。
(いや!!何で?どうして?お願い、やめて、ロアンさん!!!助けてぇ!!!)
何とかロアンに止める様にと目で訴える。だけどロアンは、うっとりとした顔で、ハルミの頬をねっとりと撫でた。
「ようやく、助けて差し上げられますです。もう大丈夫です、ハルミお嬢様♡僕が沢山愛して差し上げますですからね。さあ、少し眠ってくださいです、……、次に会う時は、たっぷりと可愛がってあげますからね?………それまでは、不本意では有りますが、イアンの所でお過ごしくださいです」
ロアンは小瓶を取り出すと、その中身を自分の口に含んで、それからハルミに口付けた。甘い液体が口内を満たして、喉を流れ落ちていく。飲みたく無いのに抵抗は出来なかった。
(いや……、や……ロア……やめ……)
薄れいく意識の中で、ハルミは後悔した。感情的になって屋敷を飛び出さなければ良かったと思う。だが全ては、もう遅い。
「おい?……こいつ珍しいモンしてんな?………貰うぜ?結構な値段で売れそうだな、こりゃよぉ。へへへ」
「構わないです。お嬢様には全然似合って無いですし、……指輪は、僕が新しい物を贈りますです♡」
(いや………やめて………それだけは………や……………………ベル)
▶▶▶▶▶▶
コンコンと言うノックの音に、シュエルはどうぞと声を掛けた。部屋の主は、返事を出来ない状態だ。だから、シュエルが代わりに返事をする。
「アーノルド殿の様子はどうですか?」
すぐに扉が開いて、グレンが入って来た。グレンは窓際に座るシュエルに近寄ると、そう声を掛ける。それにシュエルは苦笑した。
「…………見ての通りですよ。一日中、ただ、天井を見つめていらっしゃいます。………お心が壊れてしまわれたのです。生きている人形………。まるで、わたくしと同じ病の様で御座いますね」
「…………貴方は、随分と落ち着いているんだな?………それもそうか。貴方とハルミ殿は、奴隷と主人。厳密には、侍従関係ですら無かったのだからな」
イライラと苛立ちをぶつける様に、そう言うグレンに、シュエルは困った様な笑みを向けた。すると、グレンはバツの悪そうな顔をした。
「…………グレン様。そのご様子ですと、何か、良くないお話に来られたのでしょうか?ご主人様の代わりにわたくしがぁ、お伺い致します」
机の上に、指輪とピアスが小さな箱に入れられて置かれていた。それは、ハルミが身に着けていた物だった。闇市で売られているのを、グレンの部下が見つけたのだ。
「俺の部下が見つけました。2ヶ月前に、持ち込まれた品だと言う事しか分かりませんが、間違い無く、ハルミ殿の物です。…………警察の捜査は打ち切られる事になりました。……ハルミ殿が行方不明になってから、一月後に大柄な男によって、この品は持ち込まれたそうだよ。……場所が場所ですから、男の身元の特定も不可能。あれから、3ヶ月が経ちました。もう、ハルミ殿は生きていないと言うのが、上の見解です。…………今日は、それをお伝えに来ました。この後はベル殿の所へも、同じ話をしに行く事になっている………はぁ」
顔を顰めてそう言うグレン。シュエルの胸は、ぎゅうっと締め付けられた。
「グレン様も、………もう、ハルミ様がお亡くなりに」
シュエルが最後まで言い切る前に、グレンは声を荒げた。
「そんな訳が無いだろう!!!俺はまだ、諦めてない!!!必ず、ハルミ殿は生きている。……俺と結婚してくれると言ってくれたんだ。……俺の子を産んでくれると言ったんだ!!!……だから、必ず生きてますよ。……っ……捜査は打ち切りですが、俺は個人的に、探し続けます。……ベル殿も同じ事を言うでしょうよ。………遺体をこの目で見るまでは、俺は諦めないよ」
「…………グレン様。……そうで御座いますね。愚問でした。……グレン様、でしたら、どうか、わたくしにも、そのお手伝いをさせてくださいませんか?あのお話を、……お受けしようと思います」
シュエルの言葉に、グレンは嫌そうな顔をした。
「…………良いのか?そうなると貴方は、あの聖女の奴隷になる。………例え、ハルミ殿が見つかって、此処へ戻って来たとしても、貴方はハルミ殿と、二度と会う事は出来なくなるかも知れない。それでも、良いのか?」
グレンの心配そうな顔を見て、シュエルは苦笑した。
「ええ。構いません。わたくしはぁ、例え二度とハルミ様に会えなくなったとしても、それでも、何もしないで、このまま死に行くよりは…………」
「…………そうか。………分かった。では、その様に連絡しておこう。近日中には迎えが来る筈だ。…………先程は貴方に八つ当たりをしてしまい、済まなかった。俺は、……すぐに余計な事を言ってしまう。……こんな事ではハルミ殿に、また怒られてしまうな」
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