異世界召喚されたけど定番のチートも逆ハーレムも番も溺愛もエロもありませんでした。 無ければ自分で作れば良いのでは? よし、私頑張ります!!

福富長寿

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129話 決別 Sideベル

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「…………アーノルド?」

思わず名を呼ぶと、アーノルドは眉間に皺を寄せた。

「…………今、彼が言ったとおりだぁ。それにサインをしてくれ、ベル。ハルミの面倒は、今後はこちらで見る、もう、君の援助は必要ないんだ」

(は?)

ベルはポカンと口を開けて、アーノルドとグレンと名乗った鬼人の青年。それから突きつけられた書類を交互に眺めた。全く意味がわからない。

「いや、悪いけど、全く意味がわからない。………大体貴方は、一体ハルミとなんの関わりがあって、ここに来たんですか?」

今度はアーノルドでは無く、グレンに尋ねるとグレンは怪訝そうな顔をした。

「アーノルド殿?………彼に事前に話はしていないのか?流石に、それは……」

どうやら目の前のグレンも困惑して居るようだ。視線をアーノルドに向けるとアーノルドは、はあとため息を吐いた。

「……………グレン、少し部屋を出ていてくれ。ベルと少し二人で話す。また声をかける、廊下で待っていてくれ」

「え?……それは構いませんけど……」

困った様な顔でグレンは病室を出て行った。見知らぬ青年が部屋を出た事で被っていた猫を脱ぎ捨てて、ベルはアーノルドに詰め寄る。勢い良く動いたので、足についた鎖がジャラリと音をたてた。

「アーノルド!!!!!何なんだ一体!!!!保護者変更?ハルミの面倒を見る?意味がわからない!!!!さっきの彼はなんだよ?なあ?!誰だよ!!!」

「……………詳しく話す必要性を感じないなぁ。ただ君が書類にサインすればそれで良い話だ」

そう言って視線をそらすアーノルドにベルは顔を顰めた。いきなり書類にサインしろ、事情の説明は無し。そんなの納得なんて出来っこない。それにアーノルドの様子がおかしい。

「おいっ!!!こっち見ろよ!!!何なんだよ?……………アーノルドっ!!!!」

「……………ベル。ハルミは拙者と結婚する、先程の彼もそうだ。だから、今後は拙者とグレンが夫としてハルミの面倒を見る。………保護者変更はその為だ」

ベルが怒鳴るように名を呼ぶと、アーノルドはこちらを見てそう言った。その言葉は耳に入って居る。だが、ベルにはその内容が理解不能だった。

(結婚?………ハルミと……アーノルドが?……さっきの男も?はあ?)

「…………アーノルド。冗談だとしても趣味が悪い。なんのドッキリだ?」

質の悪い冗談だと思い、そう告げるがアーノルドは苦い物を噛み潰したような顔をベルに向けた。

「ベル、拙者は冗談で、そんな事は言わない。…………君と揉めるのは本意では無い、………手短に言うが、ハルミは拙者を愛して拙者もハルミを愛してしまった。勿論君には申し訳無いと思っている。だがもとを正せば君が………入院などして側を離れたのが原因だ。…………君にも非がある」

そう言ってアーノルドは、またベルから視線を外した。





▷▷▷▷▷▷




アーノルドに告げられた言葉が脳内をぐるぐると周り、それから脳に染み込むように理解が追いつく。

(ハルミとアーノルドが愛しあっている?俺が入院したのが原因だと?アーノルドは何を言っているんだ?)

内容は理解出来たが、やはり意味不明だ。だって、そんな筈が無い。親友のアーノルドがベルを裏切るのも、ハルミがベルを裏切るのも有り得ない。

「はは…………何言ってるんだ?アーノルド?やっぱり質の悪いドッキリか?……だって、お前。俺がハルミを愛してるって知ってるだろ?………それにハルミに対して恋愛感情は無いって、お前言ってただろ?それに結婚?冗談じゃないならなんだよ?お前………一生結婚しないって言ってたよな?」

アーノルドはベルと酒を飲む度に一生結婚しないと話していた。子も作れない欠陥品だ、こんな男と結婚したい女等居ないし、したいとも思わない、そう自虐して、仕事に生きると話していた。そんな男が、いきなり結婚等と言い出したのだそれがドッキリじゃなくて何だ。

「……………状況は変わった、ベル。君と不毛な会話をこれ以上続ける気は拙者には無い。これにサインしろ。それから、君とハルミは、もう会わせない、今後は近づけないように、こちらで手を打たせて貰う」

(は?いやいやいや。ドッキリだろ?なんだよ、これ?え?)

冷たい声でそう言うアーノルドをじっと見つめると、アーノルドは、ため息を吐いた。

「………本当に君にはすまないと思っている。だが、聞き分けてくれ。………そうじゃ無いと、こちらも強引な手を使わないとならなくなるんだ、先程のグレンは警察だ。意味はわかるだろ?なあ、ベル。………ハルミの幸せを考えて見てくれ?彼女を本気で愛しているのなら黙って身を引いてくれないか?君も子供じゃないんだ。わかるだろう?男と女が共に過ごせば愛も生まれる。理解してくれないかぁ?……君はたった2週間……。拙者とハルミは二ヶ月だ。…………もう、ハルミの中に君への気持ちは無い」

「いや、待てって……。なあ、アーノルド?俺がハルミの世話を頼んだ事への意趣返しか?………何もかもが、いきなり過ぎるし、だっておかしいだろ?……お前どうしたんだよ……?もしかしてハルミが拗ねてて、それで皆で俺にドッキリか?やめてくれよ。これは悪趣味過ぎだろ、後一月で退院なのに……何なんだよ………」

思わずアーノルドの腕を掴むと、ふり払われた。

アーノルドがベルを見る瞳に微かな憎しみに似た色が浮かんで居て、ベルはあ然と固まる。

「………ベル。やっと妾と子を作るそうだな?おめでとう」

いきなりアーノルドは全然関係の無い話を口にした。

「は……、ライアルさんから聞いたのか?…………今は、その話は関係ないだろ?」

アーノルドの意図が読めなくてベルは困惑する。何故かじっとりと手のひらは汗をかいていた。

「………君は良いなぁ。子が作れて………、魔力だって豊富だなぁ。きっと今後他に良い相手が見つかるだろう?だから、ハルミの事は諦めてくれないかぁ?」

ゾクリとする程に冷たい瞳をアーノルドはベルへと向けてくる。

「……………邪魔をするなら君だろうと容赦はしないぞぉ。………頼むから身を引いてくれベル。君ならきっと他に相手が見つかる。………だが、拙者にはハルミしか居ないんだ。運命の相手なんだ……。初めて愛して、愛されたんだ……」

(………………アーノルド、本気か?)

未だに悪い冗談じゃないかとベルは思う。だが、アーノルドの暗い瞳に冷や汗が止まらない。体も震えてくる。

「アーノルド?…………っ……なんだよ?その目……、っ……やめろよ………、笑えない冗談だ……」

「君も、しつこい男だなぁ?冗談では無い。拙者とハルミは結婚すると誓いあった。毎日唇を重ねて愛を囁きあっている。……先程のグレンとも重婚する事になっている、ベル。もう、君は必要ないんだ。…………確かに、君からハルミを横取りした様な結果になったのは悪いと思うが。だが、君達は恋人でも無かったのだし、たまたま事故で共に暮らす事になっただけだろう?それに無計画に精を放って魔力切れで死にかけて側に居てくれない男より、ずっと側に居た拙者が選ばれるのは仕方が無いだろう?…………あの時拙者が助けなければ君は死んでいた。……恩を感じているのなら、黙ってこれにサインしてくれ」

そう言って、もう一度突きつけられた書類を眺めてベルはアーノルドが本気なのだとやっと理解した。




▷▷▷▷▷▷




「は?おい、ふざけるなよ………。さっきから好き勝手言いやがって……」

湧き上がる怒りの余り酷く口調が乱れたが、そんな事を気にしている余裕は今のベルには無かった。ぐいっとアーノルドの胸ぐらを掴んで怒鳴りつける。

「お前っ……!!!!なんでだよ!!!!俺はお前を信用してハルミを預けたのにっ!!!!お前がハルミを抱いた事だって本当は嫌だった、だけど、それでもお前を信じてたから許せたが今回のこれは有り得ないだろ?!運命の相手だあ?いきなり来て勝手な事ばかり一方的に言いやがって!!!ハルミに会わせてくれよ!!!っ………百歩譲ってハルミの口から同じ事が聞けたら俺だって納得出来るけどさ、こんなのは、あんまりだろ?勝手すぎる………」

「…………ハルミには絶対に会わせない。………ハルミも君の事は忘れると言っていた。……今日共に来ないかと声をかけたがハルミは断った。………君に、もう二度と会いたくないそうだぞぉ?」

アーノルドの言葉に頭にカッと血が上る。思わず顔を殴りつけるとアーノルドは衝撃にふらついたがしっかりと立ってこちらを睨みつけていた。唇からは血が垂れている。

「……………好きにすれば良い。好きなだけ殴れ。それで君の気が済むならな」

(は?なんでだよ………アーノルド?……ハルミは……ハルミが俺を忘れるなんて嘘だ……。だって……花を受け取ってくれたんだろ?なんだよ、これ)

「…………っ……サインは絶対にしない!!!!俺はハルミの口から聞くまで信じない!!!!…なんで、なんで俺を裏切った?なあアーノルド……なんで………俺達親友だろ…、なのになんで……今ならまだ冗談で済む……なあ、嘘だって言ってくれよ!!!!」

そう詰め寄るとアーノルドは眉を顰めた。

「………………君を親友と思った事は無い。………確かに君の祖父のカールとは友だった。だから孫の君にも目を掛けてやっていただけだ。………勘違いするな……。今後、拙者も二度と君に会うつもりは無い。………これは冗談でも嘘でもない。ベル……、書類にサインしろ。それから、もう拙者の事もハルミの事も忘れてくれ……、君とは今日でお別れだぁ。」

そう言うアーノルドの言葉にベルは唖然とする。つい先程までは幸せだった。優しくて頼りになる親友を信じていた。心から感謝していた。なのに、今この一瞬で信頼も友情も全部が音を立てて崩れ去った。

「……………アーノルド、お前」

震える声で名を呼ぶとアーノルドは小さく笑った。

「…………………さよならだ。ベル」





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