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128話 親友 Sideベル
しおりを挟む「ふあ………。暇だ………」
ベッドにごろんと転がり、ベルは欠伸をする。入院してからは毎日が暇で退屈だ。魔力を使えないので、仕事をする訳にも行かず、時折見舞いに訪れるアーノルドに本を差し入れて貰っては居るが、それも飽きた。ここ数日アーノルドは顔を出していない。忙しい男だ。それも仕方が無い。
「はあ………。ハルミ、会いたい」
もう何度言ったか分からない言葉を口にして、ベルはため息を吐く。
ハルミと過ごした時間より入院期間が長くなり、気は焦るばかりだ。
「…………早くハルミに触れたい。……沢山抱きたい……っ…ぐ……」
ハルミの事を思い出すと、ペニスが勃起して貞操帯がギチギチと音をたてる。そして激痛が走った。日に日に勃起する回数が増えて来た。かなりキツイが、それだけ魔力が戻った証拠だ。
「はあ………。後少しの我慢だ……、アーノルドには、本当に世話になったな。退院したら、何か礼をしないといけないかな………」
昔からアーノルドには、何かと世話になっていたが、今回程有り難いと感じた事はない。今まで通りの軽い礼では気がすまない。
「良い友達を持ったな。俺は、………」
そうぼんやりと呟いて、ベルはアーノルドとの出会いを思い出していた。
◇◇◇◇◇◇
アーノルドと一番最初に出会ったのは、ベルが7歳の時。今から20年前だった。祖父の葬儀の際に祖父の知り合いだと父から紹介された。
「……………カールに良く似ているなぁ」
そう言って微笑まれて、頭を撫でられたのを良く覚えている。それから10年、一度も会わなかったが、次に会った時全く容姿が変わっておらず驚いて、そこでアーノルドがドラゴンハーフなのだと知ったのだ。
父の健康診断に来ていたアーノルドに、今度はベルから話しかけた。医者のアーノルドに悩みを聞いて欲しかったのだ。その頃のベルの自慰行為は多い時だと日に5度まで増えていた。どうしても自慰をやめられなくて悩んでいたのだ。
「あの……、覚えてますか?」
そう声をかけるとアーノルドは笑顔で頷いてくれた。
それから悩みを相談するとアーノルドは真剣に聞いてくれて、それから慰めるように肩を叩いてくれた。
「………君くらい魔力の多い者だと良く有る事だ。確かに世間的には余り良いとされない行いだが、実は君のような悩みを抱えている者は多いぞぉ?言わんだけでな………。まあ確かに、魔力の出し過ぎは良く無いが流石に魔力切れになる程に自慰行為を続けようとは思わんさ、そうなる前に体調を悪くする。………問題は無い。出したいのなら、出して良いぞぉ」
そう言って貰えてベルは心底ホッとした。それに、その後アーノルドは精密な魔力検査を勧めてくれて、もし興味が有るならと妾登録も勧めてくれたのだ。
「君は魔力の割に魔力操作はそれ程得意ではないようだなぁ?だから体内に古くなった魔力が溜まり、体はそれを出そうと自慰行為を行うのだろう。……なら検査結果が出た後、妾登録しておいてはどうだぁ?きっと沢山声が掛かるぞぉ」
そう言われてベルは胸がドキドキと高鳴った。その時のベルはお年頃。そういう事にも勿論興味があった。
「妾……。一応知ってますけど、でも俺、容姿がこんなんですし………」
「容姿はそこまで気にしなくてもいいさ。殆どの場合、相手は結婚しているだろうし関係ない。だが、中には未婚のまま申し込んで来る者も居るかもなぁ。そうすれば、もしかしたら君を婿に欲しいと言う声も掛かるかもしれんぞぉ」
結婚している人達ばかりと聞いて、しょんぼりとしたベルの肩をアーノルドは優しく叩いて、それから慰める様にそう言ってくれた。
「……………なら俺、登録しようかな」
◇◇◇◇◇◇
そうして魔力検査を受けて、妾登録をしたのは17歳の頃。20歳の時に父から話をされるまでベルはすっかりとその事を忘れてしまっていたのだ。
登録所の魔力量を見て、四人の女性の家から声が掛かった。それも全てが未婚女性。ベルの心は踊ったし、アーノルドに内心で感謝もした。だが、いざ会ってみれば散々な結果に終わった。マリア・ライアルに手酷く振られてベルは枕を濡らして、それからイライラのままにアーノルドの所に向かい八つ当たりまでしてしまった。
「容姿が関係無いなんて嘘じゃないか!!!!フラレた!!!!アーノルドのせいだ!!!」
そう言ってベルが本をぶつけると、アーノルドは困った様な顔で大きくため息を吐いた。
「全く関係ないとは言っては居ないだろう?…………フラレたのは気の毒だが、拙者に八つ当たりしても君の容姿が良くなるわけでも無い。馬鹿な事はやめるんだなぁ」
そう言われて、ベルはアーノルドにもう一度本をぶつけて家に帰り引き篭もった。
(クソクソクソ!!!なんだよ!!自分は顔が良いからってさ!!!!)
半年殆ど部屋から出ないで過ごしているとアーノルドが訪ねて来た。
「………ベル。あー。その、何故部屋から出ない?皆心配しているぞぉ?マリア・ライアルだけでは無く、他の妾からも逃げ回っている様だし……。何がそんなに不満だ?元々妾とは別に恋人でも何でもない。君のそれはただの我儘だぞ?」
そう諭されるように言われてベルは更に腹が立った。
「アーノルドには、わからないんだよ!!!俺は不細工だし、………彼女だって出来ないし、なのに………子種だけとか……無理だ……。くそ………お前みたいにモテる男に俺の気持ちなんてわかんないんだよ……」
そう告げるとアーノルドは複雑そうな顔だ。
「……………拙者はモテない。それに子も作れない。ドラゴンハーフがどう言う生き物か君も知らん筈がないだろう?………ベル、君は実に勿体無い事をしているぞぉ?………確かに容姿は悪いが、それでも今後君を好いてくれる女性も現れるかもしれんだろう?引きこもっていては、その機会すら逃すぞ?」
「…………っ……。機会なんて無い。どうせ誰も俺を好きになんてならない……」
ベルがそう告げて俯くと、アーノルドは小さくため息を吐く。
「………まあ。そこは拙者もこれ以上無責任な事は言えないからなぁ。だが、実家にこうして引きこもっているのは頂けないぞぉ、人に会いたくないにしても実家は出たらどうだ?………君は手先が器用だったなぁ?仕事を紹介してやる。………その、悪かったベル。拙者は時に失言する。拙者の心無い言葉に君が深く傷付いたのは、……本当に申し訳無いと思っている」
そう言って頭を下げられて、ベルはそっと顔を上げた。
「…………いや、俺こそごめん。八つ当たりした……、アーノルドは悪くない。……仕事って?」
「………付与術師の仕事だ。君は魔術師の勉強をしていただろう?それの延長線の簡単な仕事だ。………人にそう会わずに出来る、……とりあえず実家を出ろベル。そうすれば、多少は気分も変わるかもしれんぞぉ」
そう言ってアーノルドはベルが家を出るのをサポートしてくれて、仕事も最初の内は何人か客を紹介してくれた。仕事も順調に軌道に乗り、時々失言するアーノルドと喧嘩も有ったが、なんだかんだと付き合いは長くなり、ベルはアーノルドを親友だと感じている。きっとアーノルドもそうだと思う。結局人里から離れた所に一人暮らしで殆ど引きこもっているのは変わらなかったが、なんだかんだと顔を出して外に連れ出してくれた。本当に感謝している。
(………もし、あの時アーノルドが俺を連れ出してくれなかったら、きっとハルミとも出会えなかった。……………本当に感謝しかないな)
あのまま実家に寄生して引き篭もっていたら、ベルはあの日あの召喚魔法を試す事も無かっただろうし、今程裕福でも無かった。そう考えればハルミと出会えたのも、これからのハルミとの明るい未来も全てアーノルドのお陰だ。
(……………今度は俺も何かアーノルドに恩返しをしたいな。………何をすればアーノルドは喜んでくれるだろうか?)
そんな風に考えているとコンコンとノックの音がした。
「シュタインさん、お見舞いの方がいらしてますよ。スピネルさんです」
看護師の声に扉に早足で向かう。なんと凄いタイミングだろう。丁度アーノルドの事を考えていた時に来るなんてと少し嬉しくなる
「アーノルド来てくれたのか!!!………誰ですか?」
返事を返し扉に向かうとアーノルドが見知らぬ鬼人の青年と立っていた。
「ベル………。話がある。ハルミの事だ。…………彼も一緒で構わないか?無関係では無いんだ」
「え?ハルミの……。それは構わないけど………。一体彼は誰ですか?……無関係じゃないって?」
怪訝な視線を鬼人の青年に向ける。イケメンだ。ほんの少しモヤモヤする。彼は奴隷じゃない、なら一体ハルミとどんな関係が有るというのだろう。それにアーノルドの様子も少しおかしい。
嫌な予感を感じながらもベルが尋ねると、鬼人の青年は口を開いた。
「いきなり訪ねて来て申し訳有りません。ベル・シュタイン殿。俺はグレン・カーチスと申します。………今日は保護者変更の件で貴殿と話をしに来ました。…………貴殿には、これにサインを書いて頂きたい」
そう言って目の前に差し出された書類をベルはポカンと眺めた。
(は?)
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