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127話 自業自得
しおりを挟む「ハルミ様?……大丈夫ですか?」
部屋に戻ると、暗い顔のシュエルがそう声を掛けてくる。今度はこれに、ちゃんと返事を返す。
「………はい。大丈夫ですよ。なんでも無いです。ごめんなさい、シュエルさん、さっきは無視して………」
ハルミがそう返すとシュエルの顔は、より一層暗い表情になった。
「……………なんでもお話してくださると約束してくださったばかりなのに……、また、お一人で抱えて苦しむので御座いますか?そんなにわたくしはぁ、頼りないでしょうか?」
(っ………シュエルさん………)
アーノルドの嘘の事を、今シュエルに話すかどうか、正直悩む。これは話してどうにかなる問題じゃない。確かに吐き出せば多少はスッキリするかも知れないが、まだアーノルドともキチンと話を出来ていない今、余りアーノルドを悪くは言いたくない。現時点で、アーノルドとシュエルが険悪になるのも嫌だ。まだハルミの中では、何か理由があるんじゃないかと言う気持ちも有る、こんなになってもアーノルドを信じたい。だって辛い時、いつも支えてくれた。
(………っ…でも、どうしよう。シュエルさん……、心配してくれてるのに……。でも、アーノルドさんとは今すぐに話したくない………、少し頭を冷やしたい……。じゃないと、嫌な態度をとってしまうかもしれないし………そうなったら、本当に全部駄目になっちゃう……)
折角前向きになれたのにいつも、こうなる。一難去ってもまた一難、どうして上手く行かないのかと、ハルミはグッと唇を噛む。
「…………シュエルさん。頼りないとかじゃないです。ただ…今はちょっと私も、まだ良くわからなくて……。だから、明日ちゃんと話します………。ごめんなさい」
そう告げると、シュエルは一度ふうと息を吐く。それから微笑んだ。
「いいえ。わたくしこそ……急かすような真似をして申し訳御座いません。話してくださると言うのなら、わたくしはぁ、お待ちします。……例え貴女様が何を仰られてもわたくしは、貴女様の味方で御座いますよ」
(シュエルさん…………)
そっと近寄り、シュエルの膝に頭を乗せると気分が落ち着く。
(……………シュエルさんも大事。紅葉君とも……話をしなくちゃいけない。でもベルが好き……、やっと諦められると思ったのに。私はどうしたいの?またわからなくなっちゃったよ………何で今なの?)
ベルに会いたい。好きだと伝えたい。だけど今のハルミには、大切な物が増え過ぎた。アーノルドとグレンとも契を交わした今、軽率な行動は出来ない。それに会えばきっとベルに好きだと言って縋って困らせてしまう。
(ベルもアーノルドさんもグレンさんもシュエルさんも、紅葉君も……皆と一緒に居たい。だけど、そんなの欲張りすぎだ……。それに、ベルは私を好きになんてなってくれない………)
「ハルミ様…………。わたくしはぁ、何があってもお側に居ますよ………」
優しいシュエルの声を聞きながらハルミは瞳を閉じた。
▷▷▷▷▷▷
ライアル親子を追い出して、アーノルドは部屋で一人震えていた。
まさかこんな風にバレるとは思わなかった。最悪だ。
(ハルミ………、ハルミ……嫌だ。拙者の顔を見たくない?嫌いになったのかぁ?明日話すとは何を話す?何故、今責めてくれない?……ベルの元に行くのか?………君も拙者を置いて行くのか)
髪をグシャグシャに掻きむしり、その場に蹲る。罰が下った。友を裏切り、愛した女を騙した罰が。
(何故……。何故なんだ……、長く孤独な人生だ、…………そんな中で、やっと見つけた、たった一人の大切な女性なんだ。それを求めて何故悪い?………たった一つの願いさえ叶わないと言うのか。………明日、話なんて、したくない……。ハルミ……。君はベルを選ぶんだろう……なあ?…そうなんだろう?)
何故ベルなのか、子が作れるからか?そう考えて、ドンドン気分が悪くなる。
(やはり拙者が欠陥品だから、ハルミ、君も拙者を選ばない…。そうなんだろう?……ベル、君は狡い……。たまたまハルミと先に出会っただけで愛されて……………。くっ………拙者が先に出会っていれば、きっとハルミは……、ベル。君が……居なければ……)
悪い考えがどんどん湧いて、そして嫉妬心が心を蝕む。一度幸せを知ってしまった。愛される事、愛する事を知ってしまった。それを失うのが、こんなに恐ろしい事を知ってしまった。
(ハルミ……。君を失うくらいなら、何処かに閉じ込めてしまおうか………)
そんな考えが浮かんで、アーノルドは頭を机に思い切りぶつけた。凄い音がしてポタポタと赤い雫が落ち、カーペットにしみていく。
(痛いな………)
額が深く切れている、だけど、今はそこよりも胸が痛い。
(君を愛していると言っておいて、君を苦しめるような事を考える………。こんな男だから選ばれない……。だから罰が下る。………一度痛い目を見て、絶望して、それなのに何故拙者は、またこんな事を考える………。ハルミにはベルの様な優しい男が相応しい………)
そう頭では思うのに、心はハルミを失いたくない。泣いて縋って2番でも3番でも良いから側に置いて欲しいと頼みたい。だが、先日アーノルドは既にベルと酷く揉めて、決別した。ベルを裏切って、ハルミを騙して、それが全くの他人からバレて、それで許しを乞うて二人がアーノルドを受け入れてくれるとは、到底思えない。もしアーノルドが自分から罪を告白して居れば、また違った未来があったかも知れない。だけど、それは自身で壊した。
(ハルミ。君は………ベルが拙者を捨てろと言えば従うんだろう?会うなと言えば、そうするんだろう?君は自分が一番好きな男の嫌がる事はしないんだもんなぁ?……………っ……ハルミ……)
ハルミは優しい。愛情には愛情で返す。人から酷い扱いを受けても黙って耐える。もしかしたら、ハルミだけならアーノルドを許してくれるかも知れない。だけどベルは違う。それ程に酷い裏切りをした。アーノルドはベルに酷い言葉を浴びせた。
ベルはアーノルドを許さないだろう。
(全部自業自得だなぁ……。は、…明日には、全て失うのか…………)
明日が来るのが恐ろしい。
アーノルドは床に蹲り、子供のように泣きじゃくった。
▷▷▷▷▷▷
窓の外から、シュエルの膝で眠るハルミを眺めてロアンは大きな瞳に憎しみを浮かべていた。
「あの………奴隷……、僕のハルミお嬢様にベタベタと……。また臭い臭いがつくだろうが………」
ギリギリと歯を鳴らして睨みつけるが、シュエルは気づかない。膝で眠るハルミを愛おしそうに眺めるその眼を、潰してやりたいとロアンは思う。
(…………アーノルド様も、あの奴隷も、………邪魔ですね……。子を作れない欠陥品と、体が動かない役立たずの廃棄品の癖に、何故ハルミお嬢様はアイツらにばかり、………。腹が立ちますです。僕なら絶対に泣かせたりしないのに………)
ここの所、いつもいつもハルミは泣いてばかりだ。
(僕の前で泣いてくださる……。きっと僕に助けて欲しいのです……。そうですよね?ハルミお嬢様………嗚呼♡)
ハルミの泣き顔を思い出すと、股間がムクムクと大きくなる。撫でた髪の柔らかな感触を思い出すと堪らない。
一度、はあと息を吐い、てロアンは思案する。
(………僕一人では、出来る事にも限界がありますですね。………クソ兄貴を頼るのは嫌ですが、仕方ないのです……。ハルミお嬢様をお助けする為です………。……待って居てくださいね、ハルミお嬢様。必ず僕が貴女を幸せにして差し上げますです♡)
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