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125話 嘘つき
しおりを挟む(なんで………?アーノルドさん)
門の前に立っていると馬車が近づいてくる。それをハルミは、ぼんやり眺めた。ロアンから妾についての説明を受けてから、フラフラと門の前にやって来てアーノルドの帰りを待っていた。頭が上手く回らない。だって、ロアンの言う妾とマリア達との話を合わせて考えたら、アーノルドの言っていた事とも、ハルミが考えていた事とも全然違うのだ。
(ベル……。結婚は?だって……。アーノルドさん、ベルは結婚するって言ったもん)
『……………………君も拙者と結婚する。……ベルも………子供を作る。……いつかは結婚も……するだろう。だから、もう会う必要はないだろう?君には拙者もグレンも居る。…………………会って欲しく無い。……君だって……拙者に、もし好きな相手が過去に居たとして、会うと言えばいい気はしないだろう?』
そうアーノルドはハルミに言った。マリアとの事もアーノルドは否定しなかった。
(……………本当にそうだった?)
記憶の中のアーノルドとの会話を必死に思い出す、その度にドクドクと心臓が嫌な音を立てる。
『拙者が…………言った。………ベルに……恋人…………?…………ハルミ君は……っ………………。いや、そうか済まなかった……………ハルミ、落ち着け………聞け……聞くんだ………君は何か勘違いを………』
あの時アーノルドは何を言おうとしていた?…………。そこまで思い出して、ハルミはハッとする。トントンと肩を叩かれた。
「ハルミ?ここまでお出迎えとは珍しいなぁ。寂しかったのかぁ?」
ニコニコとしたアーノルドがすぐ横に立っていた。馬車はいつの間にか門の前に停止して、アーノルドだけ先に降りてきたようだチラリと見るとシュエルが使用人さんに降ろしてもらっている。
「アーノルドさん………」
震える声で名を呼ぶとアーノルドは心配そうにハルミの頬を撫でている。
「どうした?ハルミ?……もしかしてロアンに何かされたのか?」
アーノルドの口からは、またロアンの名が出て来た。だが今回はハルミの口から否定の言葉は出ない。ロアンに何かされた訳ではないが、ある意味では無関係では無い。ロアンから聞かされた妾の意味は、もしかしたら全部出鱈目なのかもしれない。そんな思いからハルミは口を開く。
「アーノルドさん。………妾ってなんですか?」
ロアンに尋ねたように尋ねるとアーノルドの表情は凍りついた。
「は…………。ハルミ?どうした?いきなりなんだ?妾は妾だ。……そのままの意味だろう?…………ほら屋敷に戻ろう?はは……どうしたんだ、いきなり」
すぐに取り繕うように笑みを作りアーノルドはハルミの肩を抱いた。そこへタイミング良くロアンが駆けて来た。
「アーノルド様。お客様がお見えになってますです。ライアル殿がご息女様とご一緒に客間でお待ちですよ」
そうロアンが告げると肩に置かれたアーノルドの手にギュッと力が篭もった。少し痛いくらいだ。
「っ………アーノルドさん。肩痛いです。……………………マリアさんが来られてますよ。私も同席しても良いですか?」
そう尋ねるとアーノルドは顔を真っ青にしていた。
▷▷▷▷▷▷
アーノルドのその表情に、ハルミは泣きたくなった。何も無いなら、こんな表情をする訳が無い。それなら、アーノルドはハルミに何か隠し事をしている。嘘をついている。それが何なのか、ハルミはもう薄々気づいている。
(っ……………アーノルドさん。どうして?)
じっと見つめるとアーノルドは首を振る。
「ハ、……ハルミはシュエルと部屋に戻っていろ。………拙者の客人だ。君には関係の無い用事だ…………。だから同席の必要は無い」
そう言うアーノルドに、今度はハルミが首を横に振る。
「いいえ。私は貴女の妻になるんですよね?なら、紹介してください。ね?アーノルドさん………」
「いや、…………だが、それはまだ先の話だ。………今は、まだ君を紹介するタイミングでは無い」
瞳を泳がせてそう言うアーノルドにハルミは小さくため息を吐いた。
「………、わかりました。それならシュエルさんとお部屋に戻ります。アーノルドさん…………、また後で」
そう告げてハルミはアーノルドに背を向けてシュエルの所へ向かう。チラリと振り返るとアーノルドは真っ青な顔で震えながらロアンと共に早足で屋敷に入って行った。
▷▷▷▷▷▷
「ハルミ様?………ハルミ様?一体どうされたのですか?」
じっと扉を見つめるハルミをシュエルは心配そうに呼ぶ。だけど今のハルミはその呼び掛けに答える気分にはなら無い。シュエルと話す気にも、なら無い。ただ胸が苦しい。
「……………………ごめんなさい。シュエルさん、私、少し用事が有るので」
シュエルの方を一度も見ずにハルミは部屋を出た。向かうのは勿論客間だ。
(………………もう。何もかも分からない。頭の中ぐちゃぐちゃだよ……。やっぱり、ちゃんと聞かないと……。マリアさんにベルの事を聞こう。もしかしたら私の勘違いかも知れないし………、だってアーノルドさんが私に嘘つくなんて………有り得ない)
そんな有り得ない希望を胸に抱きハルミはそっと客間の扉に耳を押し付ける。
『何故だ?アーノルド先生?うちの娘が気に入らないのか?!君はこんなに美しい、うちのマリアを気に入らんと言うのかね?何が不満だね?!』
『いえ。ご息女様を気に入らないと言う訳では………。ただ拙者は既に婚約者が居ますので。ですので、そのお話はお受けできませんなぁ。近い内に結婚する予定なのです。それに、急に来られては迷惑だ。…………お帰り願えないだろうか?今すぐに』
声を荒げるマリアの父親と冷たい声のアーノルドの声が聞こえる。それからすすり泣くマリアの、か細い声。
(っ………こんなの……聞くまでも無い。だけど………)
それでもハルミはちゃんと確かめなければならない。だから、スーハーと深呼吸をしてから、ドアノブに手を掛けた。
ガチャリと扉を開くと3人の視線がハルミに向いた。ハラハラと涙を流すマリア。顔を赤くして怒鳴る寸前と言う顔のマリアの父親。そして目を見開いたアーノルドだ。
「なんだ?ノックもなしで……使用人か?」
マリアの父親はムッとした顔だ。
「ハルミッ!!!!」
「…………。マリアさん、貴女は、ベルと結婚するんじゃないんですか?」
そうハルミがマリアに尋ねるとアーノルドがぐいっとハルミの腕を掴んだ。
「ハルミっ!!!部屋に戻れ!!今すぐに」
ハルミの腕を引張り真っ青な顔で声を荒げるアーノルドにハルミはチラリと視線を向けるが、すぐにマリアに戻す。マリアは眉をピクリと動かして、ポロポロと溢れる涙をハンカチで拭いながら、答えた。
「私が………ベル・シュタインと結婚?馬鹿言わないでちょうだい。………貴女、使用人か何か知らないけれど、今このタイミングで言うなんて笑えない冗談にも程があるわ。……確かに妾だけれど、あんなブ男と結婚だなんて酷い侮辱だわ……。アーノルド様、………酷い…、酷いです………」
そう言ってマリアは、またハラハラと涙を流す。
「先生っ!!!何なんだ!!その失礼な使用人はっ!!早くつまみだしてくれっ!!!!」
マリアの父親は真っ赤な顔でハルミに怒鳴り散らしている。部屋の中は騒がしい、そんな中で、アーノルドは真っ青な顔でハルミを見つめている。
「…………………………嘘つき」
ハルミが小さくそう告げるとアーノルドの肩はブルブルと震えていた。
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