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124話 一寸先は闇
しおりを挟む「紅葉の見舞いか?構わないが……。もう会わないほうが良いのではないかぁ?」
アーノルドは複雑そうな顔だ。
「いえ。前に、紅葉君には話さないって、そう言いましたけど。でも、やっぱり、ちゃんとお話しようと思って、……ちゃんと私を見て、それから紅葉君には決めて欲しいんです。その後の事を自分自身で」
告げるとアーノルドはキョトンとしている。ハルミの発言が意外だったようだ。
「どう言う心境の変化だぁ?……黙って別れるよりは良い事だと拙者も思うが、君は顔を見られるのを嫌がっていただろう?」
「確かに嫌です。ガッカリされるのが怖いです。でも、私は、もう嘘はつかないって決めたんです!!自分にも皆にも。それに、もし紅葉君に嫌われても、アーノルドさんが慰めてくれますよね?」
上目遣いでアーノルドを眺めるとアーノルドは苦笑した。
「それは勿論だ。………それに、紅葉が君を嫌う事は無いと思うぞぉ?こんなに可愛い君にガッカリなど誰がする?」
ちゅっとキスをされて、ハルミはアーノルドにぎゅっと抱きつく。
「…………わかった。拙者も来週末には色々と一度は落ち着く。その後に病院へ行こう。拙者の弟子にも会わせたい、その、………君との結婚を報告しようと思う」
「アーノルドさんのお弟子さん。………毒に詳しいお医者さんなんですよね?」
尋ねるとアーノルドはコクリと頷く。
「ああ。毒、と言うよりも薬学に精通している、…………拙者の同類だぁ」
(アーノルドさんの……同類?)
不思議そうなハルミの顔を見てアーノルドは教えてくれる。
「そいつもドラゴンハーフだ。昔に拙者に会いに来てな。色々と相談に乗ってやった。その結果拙者と同じ医学の道に進むと決めて、実際に良い医者になった。……きっと祝福してくれる、君を紹介したいんだ。…………知り合いに惚気けてみたい」
恥ずかしそうに、そうポツリと零すアーノルドにハルミはクスクスと笑った。
▷▷▷▷▷▷
「そうですか……。紅葉様とお話をする日が決まったのですね。それは良うございます」
ニコリとシュエルは微笑んでくれる。その顔は本当に嬉しそうだ。
「はい。シュエルさんのお陰です。私、ちゃんと紅葉君と向き合って来ます。………本当にありがとうございます。シュエルさん」
座るシュエルにぎゅっと抱きつくと、シュエルはハルミの頬に顔を擦り寄せた。
「ハルミ様。貴女様のお役に立てて本当に嬉しく思います♡良いお顔になられましたね。わたくしはぁ、貴女様のその笑顔が一等好きです。愛おしい………」
「シュエルさん………。私もシュエルさんの、その優しい笑顔が大好きです」
微笑むシュエルにキスをすると、シュエルはうっとりと瞳を閉じた。その後はどちらからとも無く舌を絡めてお互いの唾液を啜り合う。そうしている内におちんぽを固くしたシュエルがハルミを求めて来て、二人の体は重なり合う。
(………ん、シュエルさん。ずっと此処に居てください。居なくならないで………)
シュエルの上で腰を振りながらハルミはそう思う。あれから一向に聖女召喚の噂は聞こえて来ない。こうしている間にもシュエルの病は進行していっている。緩やかに死へと向かって行っているのだ。
▷▷▷▷▷▷
「こんなに柔らかくて血行も良いのに。動かないんですね………」
エッチの後、マッサージを行ってシュエルの腕を持上げて曲げたり伸ばしたりするが指先も腕もピクリとも動かない。来た当初より大分具合は良さそうなのにだ。やっぱりマッサージに意味は無いのかと、少ししょんぼりとしてしまう。
「ハルミ様。………確かに体は動きません。ですが痛みも冷えも、それに痺れも無くなりました。体が軽いので御座います」
シュエルはそう言ってニコニコと微笑んでいる。
「…………痺れたりもしてたんですか?」
同じ姿勢が長く続くから、それも仕方ないのかも知れない。横になるか座るかしか今のシュエルは出来無い。それも人に体勢を変えて貰わないと無理だ。
「ええ。痺れや、痛み。酷く辛かったですが、今は毎日のマッサージのお陰でそれも無くなりました。それに貴女様の手に触れてもらえるのがとても心地よいです」
嬉しそうな顔のシュエルにハルミまで嬉しくなってくる。やっぱり毎日続けてよかったなと思いながらハルミは手を動かした。
▷▷▷▷▷▷
また穏やかに日々が過ぎて行く。紅葉が入院してから2週間と少し。目が治る前にお見舞いに行き、紅葉とは、きちんと話をするのだ。
(…………お見舞いは3日後か。あっという間だったな。紅葉君……)
シュエルとアーノルドは、また病院での検査に行ってしまった。すぐに帰って来るとは言われたが寂しい。ハルミは一人で窓辺に座って外を眺める。時折紅葉とお揃いのミサンガも眺めた。そしてチラリと机の上を見る。そこには花びらの栞が置かれていた。最近はこれを見ても心は痛まない。シュエルやアーノルドやグレンがハルミの心を甘く癒やしてくれたお陰だ。
(ベル。………元気かな?)
そんな風に思い出しても前程には辛くは無い。
(写真とか、撮っておけば良かったなぁ。……………そうしたら私も、こっそり枕に入れておくのに)
そう考えて頭を振る。それはアーノルドやグレンに対して失礼だ。来月にはグレンの実家にも挨拶に行く。契も交わした。だからもう、ハルミは二人のモノだ。
(いつかは顔も忘れちゃうのかな……)
そんな風にぼうっと窓の外を眺めていて、ハルミは固まった。心臓がバクバクと嫌な音を立てて冷や汗が流れ出す。
(え?なんで、あの人がここに居るの?)
窓から見える屋敷の門の所にキラキラとした金髪の女性。マリアと、その父親の姿が有った。対応しているのはロアンだ。
(っ………………)
いくらベルの事を諦めたと言ってもマリアに対して嫌な気持ちが湧き上がってくる。嫉妬だ。
(どうして?どうして?なんで此処に来るの?)
じっと眺めているとロアンに案内されて屋敷の中へと入って来る。
(っ………アーノルドさんに用事なの?)
マリアの父親とアーノルドは面識があった筈だ。ベルの入院先で会った時に先生と呼んで談笑していた。もしかしたらグレンの父親の様に、あの男もアーノルドの患者なのかも知れない。それでも嫌だ。どうしてあの女がこの屋敷に入って来るの?嫌だ。此処は今のハルミにとって唯一安らげる場所だ。そんな所にまで、あの女が踏み込んで来る事が許せない。
(……………やだ。)
ぎゅっと手を握りしめてそう思う。それからそっと息を吐いて、吸って、整えてから廊下の様子を伺う。どうやら客間に案内されて居るようだ。ロアンだけが部屋から出て来てキッチンの方へと向かって行った。お茶の用意をするのだろう。
駄目だと分かっているのにハルミはそっと周囲を伺ってから扉に耳を押し当てた。
(っ………、何しに来たの?)
何か会話が聞こえないかと耳を澄ます。
『いやー。アーノルド先生が留守とはタイミングが悪かったな!!!』
『ですけど。すぐにお戻りになるそうですから、良かったわね。お父様……』
初めて聞くマリアの声にハルミの心臓はぎゅっと潰されそうだった。美女は声まで美しいのか。と思った。
(……………綺麗な声。あはは……。私とは月とスッポンだわ。)
『そうだな!!!ははは。きっと先生は喜んでくれるぞ!!』
『………そうなら嬉しいわ』
『喜ぶに決まってる!!!可愛いマリア。お前と結婚したい男は沢山居るんだからな!!!そんなお前から求められて首を振らん男は居ないさ。大丈夫だぞ、パパがちゃんと話をつけてやるからな』
『まあ、お父様ったらっ………』
クスクスとマリアは笑っている。二人の会話を聞いてハルミは唖然とした。
(え?結婚?誰と誰が?どうしてアーノルドさんが喜ぶの?………え?)
二人の会話の意味がわからない。
(ベルとの結婚の仲人とか頼みに来たの……?え?でも、なんかおかしくない会話……?)
『お前は中々恋人を作らんから心配していたが、先生を好いていたとはなぁ!!!本来ならドラゴンハーフ等反対する所だが、ベル君から子種を貰える今ならパパも大賛成だ!!!彼は医者として成功しているし、男から見ても良い男だ。パパも家族になるのが楽しみだよ。きっと先生も二つ返事で了承してくれるさ。美しい妻と子供が手に入るんだ。ドラゴンハーフの彼なら、喉から手が出るほどに欲しいだろうさ』
『…………うふふ。そうね。お父様、本当にきちんとお話してね?女の私から結婚したいと言ったなんて、はしたないもの。内緒よ?』
『わかってるさ!!!パパからのお願いだと話すよ。大丈夫、アーノルド先生とは長い付き合いだし、パパからのお願いだ。彼が断る事なんてあり得ないさ』
(は?)
意味不明な会話。だが、わかった事は有る。この親子はアーノルドに結婚を申し込みに来たのだ。
(え………?なんで……?だって……マリアさんってベルの恋人で、ベルと結婚するんでしょ?)
ベルから子種を貰うと、そう聞こえた。
(子供は………ベルと作るって事だよね?え?でもアーノルドさんと結婚?……え…?だってアーノルドさんがマリアさんはベルの妾だって…………)
考え込んでいると後ろから足音がした。ハッとして振り向くと不思議そうな顔のロアンが立っていた。その手には紅茶の乗ったお盆がある。
「ハルミお嬢様?そんな所で何をなされてるのですか?……ああ、気になりましたですか?アーノルド様にお客様です。帰って来られるのをお待ちになると仰ったので、客間に通したのですよ。……ご心配はいりませんですよ?すみません。お客様を客間にご案内した後、お嬢様にもお伝えするべきでしたですね」
ニコリとそう言うロアン。
「ねえ。ロアンさん。…………妾ってなんですか?」
ハルミはロアンに問いかけた。するとロアンはキョトンとしてから口を開く。
「妾ですか?お嬢様は知らないのですか?……子が出来にくい夫婦や、子を欲しがる家の女性に子種を提供する相手の事ですよ。主に提供される側の女性に対して使いますが。欲しがる相手、提供する相手双方ともに妾と言いますです。お嬢様?何故、今それを?」
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